相川俊英の地方自治“腰砕け”通信記
【第4回】 2010年6月9日
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相川俊英

危機感欠如がもたらした口蹄疫の爆発的拡大
行政は後手に回った防疫活動の虚しさを知れ

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 殺処分した牛や豚を埋める土地はどこでもよいという訳ではない。環境への影響を考慮し、地下水が出ないことや民家や道路から離れていること。さらに周囲の同意が欠かせない。また、埋却地は3年間の使用禁止が規定されている。こうしたことから、町が仲介役になって選定が進められた(口蹄疫対策特別措置法の成立により、2012年3月末までの時限措置として国の責任となった)。

 埋却地の選定に川南町は手間取った。要因のひとつに湧水や地下水が豊富という地域性があった。また、異臭や農作物への影響を懸念する住民の反対も加わった。殺処分が進まず、感染が広がるという悪循環である。川南町の蓑原敏朗・副町長は「町は県と協力して可能な限りのことをやったと思うが、結果責任ですので、反省しなければならない。最初に発生した時は3、4件で収まると思っていたのですが……」と、うな垂れる。

 畜産が主産業の川南町のダメージはとてつもなく、大きい。町内で飼育される豚は13万から14万頭で、牛は1万頭にのぼる。それら全てが殺処分されることになった。牛や豚の所有者には国の損失補填があるものの、農場従業員や飼料店、獣医や薬品業者など、畜産関連で生計を営む人たちへの救済は用意されていない。

感染源の解明をはじめ
今後なすべきことは山積している

 被害が広がる一方の宮崎の口蹄疫問題。今はなによりも終息に向けて力を合わせる時だが、その後になすべきことは山積みだ。まずは感染源の解明だ。ウイルスの侵入経路である。そして、感染拡大を阻止できなかった原因究明であり、口蹄疫禍の検証である。そのうえで、農家が数頭の家畜を飼育していた時代に制定された家畜伝染病予防法の見直しも不可避ではないか。

 「感染源を明確化しないと、同じような事態が今後も起りうる」

 舛田獣医師はこう警鐘を鳴らし、こんな提言を明らかにした。ひとつは家畜伝染病予防法を改正し、畜産業者に埋却用の土地の確保を義務付けること。2点目は、宮崎県などの畜産県の家畜保健衛生所に、口蹄疫の検査機能を持たせるというものだ。

 現在は農水省の動物衛生研究所のみで検査をしており、家畜の異変が生じた場合、その都度に検体を送って調べてもらっている。それが地元で検査できるようになれば、感染の確認が迅速にできるようになるという。

 今回の口蹄疫の拡大は、行政の危機意識の欠如がもたらしたものといえる。後手に回った防疫活動ほど虚しいものはない。いち早く危機を察知して初動態勢を万全なものとしなければ、地域の資産や資源を守ることはできない。行政トップの責任は大きい。求められるのは、宣伝力ではなく、危機管理能力ではないか。口蹄疫対策特別措置法は6月4日に施行されたが、予算規模は1000億円にのぼる。血税の投入である。

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相川俊英

1956年群馬県生まれ。放送記者を経て、1992年にフリージャーナリストに。地方自治体の取材で全国を歩き回る。97年から「週刊ダイヤモンド」委嘱記者となり、99年からテレビの報道番組「サンデープロジェクト」の特集担当レポーター。主な著書に「長野オリンピック騒動記」など。


相川俊英の地方自治“腰砕け”通信記

国政の混乱が極まるなか、事態打開の切り札として期待される「地方分権」。だが、肝心の地方自治の最前線は、ボイコット市長や勘違い知事の暴走、貴族化する議員など、お寒いエピソードのオンパレードだ。これでは地方発日本再生も夢のまた夢。ベテラン・ジャーナリストが警鐘を鳴らす!

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