相川俊英の地方自治“腰砕け”通信記
【第4回】 2010年6月9日
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相川俊英

危機感欠如がもたらした口蹄疫の爆発的拡大
行政は後手に回った防疫活動の虚しさを知れ

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 宮崎県を直撃した口蹄疫禍は発生当初、これほど深刻な事態になるとは思われていなかった。東国原知事は4月20日に緊急会見を開き、都農町の農場から感染の疑いのある牛が出たことを明らかにした。そして、農場の牛全頭の殺処分や半径10キロ以内の家畜の移動制限などの対策を発表した。

 10年前に口蹄疫の拡大を早期に阻止したことや鳥インフルエンザ対策の経験などから、県は感染の封じ込めに自信を示した。今年1月に韓国で口蹄疫が発生しており、県は緊急の家畜防疫会議を開催したばかりであった。東国原知事も会見で「感染の疑いのある牛は、市場に出回らない。仮に食べても人体には影響ない」と語るなど、むしろ、風評被害を懸念していた。

 口蹄疫発生の二ュースに、Aさんは危機感を募らせた。自宅は都農町と接しており、しかも、感染牛の出た農場とは1本の道でつながっている。畜産関係の車が頻繁に往来する県道である。感染力の強い口蹄疫の恐ろしさも理解していた。地元JAが韓国での発生を受け、口蹄疫に関するパンフレットを作成していた。Aさんは春先にそれを手に入れ、何度も読み返していた。口蹄疫の症状や防疫方法などを頭に叩き込んでいた。

 そんなAさんにとって、国や県や町の防疫体制は、どうにも心もとないものに見えてならなかった。確かに家畜の移動や搬出を制限する区域が設定され、両区域に通じる国道10号線などで消毒ポイントが設けられた。しかし、わずか4ヵ所(当初)で、車の往来に何ら変化が見られない。感染の拡大防止に初動態勢が極めて重要なのは、言うまでもない。思い余ってAさんは川南町と都農町に電話を入れ、「道に消石灰を撒いて下さい」と、防疫態勢の強化を訴えた。東国原知事が緊急会見した翌々日の早朝のことだ。

防疫体制の強化訴えたが
反応は典型的なお役所仕事

 反応は最悪だった。「検討します」「担当者に伝えます」という典型的なお役所対応で、それっきりだ。業を煮やしたAさんは「自分でやるしかない」と決意した。自分の牛を守り、地域の牛や豚を守るためだ。自費で消石灰を調達し、たった一人で県道に散布した。

 撒いたのは、道路の片側を約50メ―トルほどである。すると、道を管理する県の担当者が血相変えてやって来た。「困ります!滑って交通事故が起りかねない。よそでも同じことやられたら、大変だ」と。Aさんは、地域全体の危機との意識の乏しさにがっくりきたという。感染の発覚が数件にすぎなかった4月下旬の出来事だ。

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相川俊英

1956年群馬県生まれ。放送記者を経て、1992年にフリージャーナリストに。地方自治体の取材で全国を歩き回る。97年から「週刊ダイヤモンド」委嘱記者となり、99年からテレビの報道番組「サンデープロジェクト」の特集担当レポーター。主な著書に「長野オリンピック騒動記」など。


相川俊英の地方自治“腰砕け”通信記

国政の混乱が極まるなか、事態打開の切り札として期待される「地方分権」。だが、肝心の地方自治の最前線は、ボイコット市長や勘違い知事の暴走、貴族化する議員など、お寒いエピソードのオンパレードだ。これでは地方発日本再生も夢のまた夢。ベテラン・ジャーナリストが警鐘を鳴らす!

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