菅直人首相(63)は11日、衆参両院の本会議で就任後初の所信表明演説を行った。財政再建のため「税制の抜本改革着手は不可避」として、与野党による消費税率引き上げ協議を視野に「財政健全化検討会議」設置などを提唱し、与党から評価の声が上がった。一方、最後に「私を信頼して」と述べたことに関して自民党の小泉進次郎衆院議員(29)が「またトラスト・ミーかと思った」と、鳩山由紀夫前首相(63)の“迷言”を引き合いに出して痛烈に皮肉った。
「私の政治活動は、今をさかのぼること30年あまり、参議院議員選挙に立候補した市川房枝先生の応援から始まりました」。菅首相は「ボランティア青年」として「ジープで全国横断」したことなど、自身の原点に触れながら演説した。
山口・宇部のサラリーマンの家庭に生まれたこと、大学を出て特許事務所で働いたこと…。アルバムをめくるような内容は、これまで続いた世襲議員の首相との違いを強調する狙いもありそうだ。
ほかに「財政健全化検討会議」設置を提唱。新たな年金制度の基本原則を示し、党派を超えた議論開始も呼びかけた。「政治とカネ」などを巡る混乱を陳謝し「挫折を乗り越え、信頼回復する」と訴えた。
与党からは「草の根の暮らしを守ろうという政治姿勢が明確に表れていた。菅さんらしい」(民主党・枝野幸男幹事長)などと評価する声が上がった。しかし「政治とカネ」の問題に加え、米軍普天間飛行場移設問題にもほとんど触れなかった。
理念先行で「最低でも県外」を繰り返し、退陣に追い込まれた鳩山前首相を教訓に「日米合意をふまえ」などと最小限の言及。沖縄については「負担軽減に尽力する覚悟」などと意欲は強調したが、具体策には一切触れなかった。
政府が策定中の新成長戦略の説明に時間を費やし、さながら参院選をにらんだ政策アピールの場になったこの日の演説。与党の中でも田中真紀子衆院文科委員長(66)は「きれいごとは誰だって言える。実行しないとダメ」と辛口コメントだ。
菅首相は演説の最後に「私の提案するビジョンをご理解いただき、ぜひとも私を信頼していただきたいと思います」と語った。これには進次郎氏が「またトラスト・ミーかと思いました」と痛烈な皮肉。鳩山前首相が、普天間問題を巡って米オバマ大統領に伝え、事態を混迷させる引き金になった言葉を引き合いに「本当に信頼されるリーダーなら、信頼してくれとは言わない」とした。
新党改革の舛添要一代表(61)も「鳩山政権の反省、国民への謝罪が不十分だ」と指摘。たちあがれ日本の与謝野馨共同代表(71)は、菅内閣の高い支持率について「魚市場でも魚の初セリは値段が高い」と、おさかな呼ばわりだった。