不慮の死に友人沈痛 牛づくりに情熱阿久井さん

(2010年6月7日付)

 口蹄疫との戦いが長期化する中、牛づくりに打ち込んできた一人のベテラン農家が不慮の死を遂げた。都城市庄内町の肉用牛繁殖農家阿久井秀樹さん(56)。2日深夜、急性心不全のため自宅で一人息を引き取った。友人らは「防疫作業などで疲労や心労が重なったのだろう。無念だったろうな」と悲しみに暮れ、「同じ悲劇が起きないよう精神面、肉体面に気を配ってほしい」とほかの畜産農家を思いやる。

 阿久井さんは父親の跡を継ぎ、牛づくりに没頭。現在は約60頭を飼育する。今年1月のJA都城郡市和牛共進会で優等1席を獲得するなど、優秀な牛を数多く生産しており関係者の評価は高い。

 和牛生産に対する情熱は、周りの農家からも一目置かれていた。近くの肉用牛繁殖農家満永輝実さん(61)は「畜産に関する知識は豊富で周りから非常に頼りにされていて、仲間の農家の世話も快く引き受けていた」と人柄をしのぶ。

 近くに住む親友の荒川内福一さん(59)によると、阿久井さんは、県内で口蹄疫が発生した直後から、毎日、防疫に細心の注意を払ってきたという。牛への並々ならぬ愛情が懸命の消毒作業に駆り立てていたようだった。

 3日朝、荒川内さんは一人暮らしの阿久井さん宅を訪問。名前を呼んだが返事がなく、部屋へ上がると、布団の中で眠るように亡くなっていた。医師は死因を急性心不全と診断。荒川内さんらは「疲労や心労が重なったのが原因だろう」と悔しがる。

 阿久井さんは作業着姿のまま横たわっていた。「子牛の出産に備え、いつでも牛舎に行ける格好で眠りに就いていたのではないか」と荒川内さんは考える。

 死後、子牛は無事生まれ、残ったほかの牛とともに知り合いの農家が世話をしている。しかし、あるじを失った牛舎はどこか寂しげで、牛たちは静かに餌をはむばかりだ。同市内に住む姉の坂下滝子さん(62)は「これまでの弟の努力を無駄にせず、できる限り残った牛を養ってあげたい」と涙ながらに語った。

【写真】口蹄疫ウイルスとの戦いの中、不慮の死を遂げた阿久井秀樹さん。今年1月のJA都城郡市和牛共進会で優等1席になった「えみの5の1」と=都城市・都城地域家畜市場