嶋田淑之の「この人に逢いたい!」:公務員の“高給取り”をどうとらえるか?――人事コンサルタント、前田卓三さん(前編) (5/5)
バスの運転手の年収1300万円をどうとらえるか?
ここで前田さんは、興味深い事例を1つ挙げてくれた。
「以前、大阪市のバスのベテラン運転手さんの年収が1300万円であることが報じられて大きな話題になりましたよね。年功賃金でその金額になっているという、典型的な人基準です。
仕事基準で考えれば、当然、是正されてしかるべきなのですが、そういう私の意見に対する反論もあったんです。それは、『たくさんの人の命を預かる大事な仕事なのだから、決して高過ぎる給与ではない』という反論です。
しかし、バスの運転手というポジションは、その『責任の大きさ』『仕事の難しさ』『影響の大きさ』という点において、市場(顧客)や納税者から見て、年収1300万円こそが最も適正な金額だと言えますか?
その金額は、あくまで年功という人基準に基づくものであって、仕事を通じた創出価値とは無関係なのです。しかも、バスの運転手さんに限らず、市のさまざまな部門で、そういう事態が生じているから問題なのです。
仮にそれを容認した場合、では市の財政はそれでやっていけるのでしょうか? ずっと、それでやっていけるというのなら、まだ良いですよ……、でも、結局は財政難に陥って、十把一絡げの給与一律カットをしている自治体が非常に多いのです。
日本全国の300万人弱の地方公務員の平均年収をご存じですか? 退職金部分や手当ても含めると、ざっと1000万円です。全員の平均がですよ。どんなに控え目に見ても、「3割はオーバーペイになっている」と私は思っています。それを是正するだけでも、税金の無駄はずいぶんと減るのではないでしょうか?
つまり、ざっくり言って30兆円(1000万円×300万人)の3割、9兆円がオーバーペイになっている可能性が高いということです。日本全国で言うと、民間も入れた総給与額は260兆円(2008年度)ですから、低く見てその2割がオーバーペイとしても52兆円(2009年度の税収は36兆9000億円)という莫大な額が、価値とは関係のないところに払われている可能性があるのです。このお金があれば日本の失業率をゼロにすることができますし、消費税を上げる必要もないのです。
お金の問題だけではありません。今のような人基準のままでは、本当に価値の高い仕事をしている人はいつまでたっても報われません。ちゃんとやった人がきちんと報われる社会にして、日本を元気にしたいじゃないですか」
ところが、そんな前田さんの思いと逆行する内容の報道が全国を駆けめぐった。それは6月8日早朝、TBS「みのもんたの朝ズバッ!」でのこと。日経HRの調査結果を紹介していたのだが、全国の親が子どもに望む就職先として、第1位の「三菱商事」に続いて、何と「地方公務員」が第2位に入ったのだ。
「まさに人基準の最たるところに入ることが人生の幸せにつながるという発想ですね。これまでの日本とまったく変わらない、いや、ますます日本人が衰退への道を歩んでいることを実感させられ、背筋がぞっとする思いでした」
さて、日本社会をめぐる事態の深刻さとともに、仕事基準の概要が、おぼろげながら見えてきたようだ。
そこで後編では、理解をよりいっそう深めるために、事例を中心にして検討を加えていきたい。具体的には、前田さんがどういう経緯から、この理論を構築するに至ったのか、そして、実際にこの仕事基準を導入することで、どんな組織に何が起きたのかをご紹介したい。そして、今後、前田さんがこの手法を軸に日本を再生してゆくに当たって、克服しなければいけない課題についても考察していく。
嶋田淑之(しまだ ひでゆき)
1956年福岡県生まれ、東京大学文学部卒。大手電機メーカー、経営コンサルティング会社勤務を経て、現在は自由が丘産能短大・講師、文筆家、戦略経営協会・理事・事務局長。企業の「経営革新」、ビジネスパーソンの「自己革新」を主要なテーマに、戦略経営の視点から、フジサンケイビジネスアイ、毎日コミュニケーションズなどに連載記事を執筆中。主要著書として、「Google なぜグーグルは創業6年で世界企業になったのか」、「43の図表でわかる戦略経営」、「ヤマハ発動機の経営革新」などがある。趣味は、クラシック音楽、美術、スキー、ハワイぶらぶら旅など。
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