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ツカサネット新聞がサービス休止

林田力2009/11/09
 市民メディア・ツカサネット新聞が2009年11月末日でサービスの提供を一時休止すると発表した。ツカサインターネット事業の改善とサービス向上のためのシステムの変更・改良にと伴う一時休止で、サービスの再開日時は未定とする。2009年4月にはオーマイライフ(旧オーマイニュース)が閉鎖されており、市民メディアを取り巻く厳しい状況を再確認した。

 ツカサネット新聞は不動産業を主体とするツカサ都心開発株式会社が運営する点で市民メディアとしてユニークな存在である。JanJanやオーマイニュースには既存のマスメディアに対抗する市民メディアとして、良きにつけ悪しきにつけマスメディアを意識する傾向があった。

 特にオーマイニュースでは編集部が既存マスメディアと同じ体質であると批判された。また、編集部が市民記者にマスメディアのジャーナリストに対することと同じレベルを求め、市民記者と軋轢を生むこともあった。この点で不動産業者が運営するツカサネット新聞にはマスメディアの向こうを張ろうという気負いはなく、自然体の市民メディアであった。そのツカサネット新聞のユニークな点を3点ほど指摘する。

 第一に編集の不存在である。掲載可否は編集部が判断するが、掲載される記事には、ほとんど編集が入らない。これは市民記者の間口を広げる上では有益である。自分の文章を自分の子どものように考え、修正されることを侮辱のように感じる人がいることは事実である。市民記者に記事の修正依頼をしたところ、二度と投稿しなくなったという話もある。
 これに対し、マスメディアでは原稿を否定されて全面的に書き直しさせられることは日常茶飯事であり、それで鍛えられたと考える人もいる。そのようなマスメディア経験者にとって、修正を嫌がる一部市民記者の反応はナイーブと受け止められる。ここにマスメディア出身者からなる市民メディア編集部と市民記者の軋轢が生まれる。このような不毛な軋轢はツカサネット新聞では抑制される。

 第二に取材に基づく記事よりも評論や論考が多いことである。取材しないということはジャーナリズムでは考えられないが、市民メディアには一定の合理性がある。取材にコストをかけることは無償または些少の報酬で記事を書く市民記者にとって割に合わないためである。ツカサネット新聞で唯一と言えるほど取材中心の分野は飲食店のグルメレポートであった。

 第三にエンターテインメント系記事である。ツカサネット新聞では上述のグルメレポートや芸能記事が多かった。私も他の市民メディアでは自身が経験した新築マンション購入トラブルを中心にしていたが、ツカサネット新聞では視聴したドラマやアニメ番組のレビュー記事も発表している。
 これらツカサネット新聞の特徴が市民記者の需要に応える面がある。実際、JanJanが新たに導入したオムニバス記事も、これらの特徴と重なる部分がある。この点でツカサネット新聞には市民メディアとして先進性があった。これは運営者が不動産業者というマスメディアの常識から自由であったことが大きい。

 一方でツカサネット新聞にも限界はあった。市民メディアの意義はマスメディアが取り上げないような組織(役所や企業)の不正によって個人が被った理不尽な被害を発表できる点にある。この点ではツカサネット新聞の評価は厳しくなる。バッシングされている政治家は声高に批判できても、マスメディアが取り上げない企業告発記事は掲載しないというのでは情けない。結局のところ、ツカサネット新聞は市民メディアの本流ではなく、あくまでユニークな市民メディアと位置付けられる。

 市民メディアの世界に独特の足跡を残したツカサネット新聞の消滅は寂しいものがある。雑誌の世界では復刊の見込みがなくても廃刊ではなく、休刊と称することがある。ツカサネット新聞の一時休止は、そのようなマスメディアの常識とは異なる意味であることを期待する。
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