特集

参院選とうほく2010

流転政治 迫る'10参院選(1)失望/公約修正、募る虚無感

内閣支持率は菅内閣の発足でV字回復を見せたが、いくつもの政策課題を積み残した政治に有権者は厳しい視線を送る

 わずか3日間の首相交代劇を見て、「またか」と思った。
 「新政権もぶれるのだろう。昨年夏のような期待感はもうない」
 気仙沼市のトラック運転手熊谷和弘さん(39)は、昨年8月の衆院選で民主党を支持した。マニフェスト(政権公約)にあった「高速道路の無料化」に引かれた。
 缶詰資材などを東北各地に運ぶ。行きは高速道路を使うが、帰りは荷主から高速料金が支払われない。会社に負担をかけまいと、ひたすら一般道を走る。
 地元の宮城6区には民主党候補がおらず、比例代表で民主党に1票を投じた。「民主政権になれば運転時間が短くなって体が楽になる。家族と過ごす時間も増える」という単純な思いだった。
 4月、高速道路無料化の公約に反して前原誠司国土交通相が上限料金制を打ち出し、小沢一郎民主党幹事長が見直しを要求した。今国会では結局、高速道路料金のことは何も決まらなかった。
 「この9カ月、暮らしは良くならなかった。菅内閣に期待したいが、マニフェスト違反を続ければ国民は背を向ける」
 鳩山政権は政治とカネで揺れ続け、米軍普天間飛行場の移設問題で自滅した。菅直人首相の誕生による支持率回復で民主党は浮き立つが、有権者の心には政治への失望がおびただしく残る。

<「有言不実行」>
 仙台市宮城野区の会社員福田理恵さん(24)は結婚1年目で会社員の夫(38)と2人暮らし。衆院選では夫婦で民主党に票を投じた。
 菅内閣が発足した8日。長妻昭厚生労働相は記者会見で、2011年度以降の子ども手当について「満額支給は難しい」と語った。一人当たり月額2万6000円の支給を断念する内容だ。
 いまは経済的に余裕があるが、家族が増えたときのことが心配だ。
 菅直人首相は11日の所信表明演説で、「政治的リーダーシップ」を連発して、「わたしを信頼して」とも語った。
 福田さんは「国民は昨年夏から振り回され続けた。高い理想に対し有言不実行ばかりが目立てば、政治への不信が募り興味も薄れてしまう」とくぎを刺す。

<自民を見限る>
 福島市老人クラブ連合会の事務局長本田忠吉さん(73)は介護相談員を務める。自身も実母の介護を経験し、介護疲れで追い詰められた人の相談を受けることがある。
 「民主党なら高齢者施策に手厚く取り組み、介護施設も増やしてくれる」と、長年支持してきた自民党を見限った。
 厚労省の昨年12月の調査では、特別養護老人ホームに入所を希望する東北の待機者は約4万1000人。宮城、福島両県は1万人を超える。
 民主党政権の第2幕は早々と開いた。1年ごとに「表紙」が変わった自民党政権時代の既視感からか、有権者の心理はさまよう。
 本田さんは「中身は変わっていない。自民党政権と同じで、劇的に政策が進むことは期待できない」と言う。


 参院選の日程が24日公示、7月11日投票で固まった。迷走を続けた鳩山政権は浮足だった党内から退陣を突き付けられ、菅政権が発足した。政権交代の夏から9カ月。政治は混迷の夏を迎えた。


2010年06月12日土曜日

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