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社説

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7.11参院選へ―否定のパワーを前向きに

 参院選が24日公示、7月11日投開票で行われることが確実になった。政権交代後、初めての国政選挙である。

 総選挙と異なり、有権者にとっては「政権選択」の直接の機会ではない。とはいえ、今回の選挙が持つ意味は極めて複合的であり、とても重い。

 さしあたり第一に、民主党政権9カ月の中間評価をする機会である。

 第二に、発足したばかりの菅直人政権を信任するかどうかの判断を示す機会である。

 第三に「政権交代」そのものについて、果たしてよかったのか悪かったのか現時点での審判を下す機会である。

■参加をあきらめない

 この間の激しい政治的変動をもたらしたのは、有権者が行使した巨大な「否定」のパワーだったといえる。

 昨年、永久与党とも言われた自民党を政権から放逐したのは、「古い政治」の継続を拒む一票の集積だった。

 先日の鳩山由紀夫前首相、小沢一郎前幹事長のダブル辞任を促したのも、民主党にも受け継がれ残存していた「古さ」の一掃を望む民意の高まりにほかならない。

 ただ、否定のパワーは破壊をもたらすが、必ずしも新たな建設につながるとは限らない。いま菅政権に吹く世論の追い風も、いつやむとも限らない。

 菅氏はきのうの初の所信表明演説で、1976年に発表した自身の論文にいみじくも言及した。題して「否定論理からは何も生まれない」。

 おりしもロッキード事件を受けた政界の混乱が国民の政治不信を募らせ、政党や政治家は「唾棄(だき)」すべきもの、「軽蔑(けいべつ)」すべきものという市民感情が広がっていた。

 そんな状況の下で若き菅氏は総選挙への初出馬を決意し、先の論文の中で「あきらめないで参加民主主義をめざす」と訴えたのだった。

 当時と現在はむろん同じではない。しかし、否定した後のその先こそが大切であるという一点で共通している。

 菅氏はきのうの演説で「歴史的な政権交代の原点に立ち返って、挫折を乗り越え、国民の信頼を回復する」と誓った。同じことは野党に転落した自民党にも、他の各党にも言えるだろう。

 破壊から建設へ。有権者のパワーが前向きに発揮される参院選にしたい。

■連立や国会の姿問う

 菅政権にはまだ何も実績はない。

 高い支持率は、内閣や党役員人事で鮮明にした「脱小沢」への好感であり、期待値にすぎない。

 本当に「機能する政府」を回復できるのか、菅首相が掲げる「強い経済、強い財政、強い社会保障」を具体的にどう実現するのか、普天間問題で傷ついた日米関係の立て直しと沖縄の負担軽減をどう両立させるのか。有権者には聞きたいことがいっぱいある。

 国会での論戦を最小限に切りあげて、支持率が下がらないうちに、さっさと参院選をやってしまおうという姿勢はあまりに後ろ向きだ。

 菅首相には投票までの短い期間に、有権者の判断材料として自らの理念政策をより具体的に示す責任がある。

 自民党も党再生に向けた明確なビジョンを示さなければならない。

 2大政党が軸とはいえ、中小規模の各政党も参院選で存在感を競い合う。とりわけ今回は連立政権のあり方はどうあるべきかが問われることになる。

 民主党は郵政改革法案をめぐる紛糾を経て、国民新党との連立維持に合意した。普天間問題では社民党と袂(たもと)を分かった。選挙結果次第では「第3極」を標榜(ひょうぼう)する新党との連立が浮上するかも知れない。参院での議席不足は自民党政権も苦しんだ重い足かせである。

 連立を組む大義や条件は何か。そもそも衆参の「ねじれ」を解消しなければ政権は立ちゆかないのか。日本の政党政治がまだまだ不慣れな領域だ。

 それは、「強すぎる参院」をどうするか、二院制は現状のままでいいのかという問いにも直結する難題である。

■「脱お任せ」定着へ

 今回の参院選では、政権公約(マニフェスト)選挙の進化も試される。

 過去数回の国政選挙で、各党が政策の数値目標や財源を明示して支持を競うマニフェスト選挙はほぼ定着した。

 今回の大きな特徴は、野党が政権を奪取し、その公約の履行状況を問われる初めての機会だという点である。

 民主党の「ばらまき」型マニフェストが財源不足で破綻(はたん)したことから、「マニフェストは詐欺のにおいがする。我々はこの言葉は使わない」(渡辺喜美・みんなの党代表)といった否定的な見方も出ている。

 しかし、民主党の公約に問題はあっても、有権者の判断の物差しとしてマニフェストの持つ意義は変わらない。

 財源が細り、「あれかこれか」の選択が不可欠な時代である。有権者に特定の政党への「丸投げ」や「お任せ」を望むなら大きな間違いだ。

 マニフェストは本来、衆院議員の任期4年間に実現する国民への約束だが、現実に合わせた修正や優先順位の変更はありうる。中間評価の選挙としての参院選はそれを有権者に説明し、判断を仰ぐ絶好の機会である。

 民主党は修正すべき点は大胆に修正する。民主党のマニフェストを厳しく批判してきた自民党には、政権を担った経験を踏まえ、手本となるような「野党のマニフェスト」を掲げて、骨太の政策論争を挑んでほしい。

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