スポーツ仲裁裁判所(CAS)は10日、08年北京五輪陸上男子ハンマー投げで2、3位になりながら、国際オリンピック委員会(IOC)がドーピング違反で失格とした2位のワジム・デビャトフスキー(33)と3位のイワン・チホン(33)=ともにベラルーシ=による提訴を認める異例の裁定を下した。2人は資格を回復し、5位の室伏広治(35)=ミズノ=の繰り上がりによる銅メダルは消滅した。
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北京五輪から約2年、提訴からも約1年半が経過した末の裁定は、異例の結果となった。IOCは08年12月の理事会で、筋肉増強効果のあるテストステロンが検出されたとして、2人を失格とし、メダルはく奪を決定。もっとも、CASが、北京の検査所での検査手続きに不備があったとし、違反と断定するには根拠が不十分と判断。両選手の提訴を認める裁定を下したことで、ドーピング失格処分が覆った。
CASによると、競技後のドーピング検査で検出されたテストステロンは体内では生成されず、外因性のものだった。だが、それを証明する過程で、機器の取り扱いに不自然な点があったことが判明したという。北京の検査所のずさんな態勢が、限りなく黒に近い両選手に逃げ道を与えた。
08年にCASに提訴した選手側は、英国の敏腕弁護士を雇ってこれらの不備を突いた。「疑わしきは罰せず」はドーピング違反の処分でも大原則。CASは、最も尊重されるべき選手の権利に目をつぶれなかった。
ドーピング違反の処分が提訴で覆ることは珍しい。CASは極めて複雑なケースと強調し「今回の裁定をもって選手が無実だと解釈されるべきではなく、2選手がテストステロンを摂取しなかったと結論づけたわけではない」とあえて指摘。検査結果を無効としたのは、あくまでも定められた手順が守られていなかったからだと説明した。