金言

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金言:対中観が変わる韓国=西川恵

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 最近、友人のフランス人外交官と韓国の釜山に行った。といっても空路直行したのではなく、博多から高速船で3時間かけて釜山に渡り、帰途も高速船で対馬に立ち寄って博多に戻る数日の旅である。

 このような行程を組んだのは、玄界灘を挟んで福岡と釜山の人の往来を含めた活発な経済交流を肌で実感したかったからだ。

 博多から釜山への高速船は土曜日は4便。午前中の2便は満員で、席が確保できた午後の便も乗船率80%。日韓の若者が多く、九州でサイクリングをしてきたという韓国の若者もいた。

 ちなみに帰途の釜山-対馬は当初予約がとれなかったが、希望者が多かったせいか1便増発された。金融危機で一時より減ったとはいえ、活発な人の往来は福岡・釜山経済圏の活況を物語っていた。

 釜山に着いた夜、旅行のもう一つの目的である知り合いの東西大学副総長、張済国(チャンジェグック)氏と食事を共にしながら懇談した。同氏は日韓関係など地域情勢に詳しく、北朝鮮による韓国哨戒艦沈没事件後の韓国の人々の認識の変化を説明してくれた。

 「この事件で中国がとった態度は、韓国人の対中観を大きく転換させた」と同氏は語る。北朝鮮に対する非難に慎重姿勢を崩さない中国。「韓国にとって輸出入ともに最大の貿易相手国の中国は、これまで最大のチャンスだった。しかし今回、政治的には決して中国はチャンスとは言えないと分かった」

 「もう一つ分かったことは、韓国は自分の運命を自分で決められないということだ。現在の状況は、日中に挟まれて無力だった19世紀末の朝鮮に似ている。中国は南北統一を妨げるため、北朝鮮に崩壊の兆しが出たら現在の政権を引きずり降ろし、親中のかいらい政権を作ることもあり得ると韓国の人は考えるようになっている」

 以上を踏まえ、韓国は経済関係でよしとするのでなく、中国と定期的な政治対話を持つべきだと同氏は語る。

 帰途、フランスの友人と対馬の北端の丘から釜山を遠望した。と、島内を自転車でツーリングしている韓国の若者の一団が通りかかり、「おれたちの町が見える」と叫んだ。わずか50キロ先だ。

 しかし距離の近さと対照的に、彼我の安全保障意識の差は大きい。北朝鮮と戦争状態にある厳しい現実を知る韓国の人々と、「海兵隊が抑止力として沖縄に存在しなければならないとは思っていなかった」と語った日本の前首相。一国平和主義は指呼の間にある隣国の状況にも想像力が及ばない。(専門編集委員)

毎日新聞 2010年6月11日 東京朝刊

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