きょうの社説 2010年6月12日

◎菅首相の所信表明 危険な増税先行のシナリオ
 増税しても医療や介護などの成長分野に政府支出を集中すれば、経済成長を促し、社会 保障も充実する。菅直人首相が所信表明で述べた「経済・財政・社会保障の一体的実現」とは、たぶんこんな光景を指すのだろう。

 経済成長の理想像のようにも思えるが、よく見れば「一体的」と言いながら、実は「増 税」先行のシナリオであることに気付く。菅首相が与野党による「財政健全化検討会議」の設置を提唱した狙いは、一にも二にも消費税の引き上げにあるのは明らかだ。

 消費税の引き上げは、当然のことながら消費を冷やし、景気を悪化させる。1997年 の橋本政権時代、3%から5%への消費税引き上げと年金制度改正で約9兆円の国民負担増が発生した結果、回復基調にあった景気は一挙に冷え込み、増えるはずの税収は、むしろ減ってしまった。日本経済が今日に至るデフレ不況に突入したきっかけともいわれる。

 増税をして景気を悪化させてしまったら、医療や介護などの成長分野に支出する余力な ど生じるはずがない。そもそも経済成長と増税が両立するはずがないのであって、菅首相の言う「経済・財政・社会保障の一体的実現」は机上の空論に等しい。

 民主党は野党時代、政権交代すれば、予算の組み替えなどでマニフェスト実現に必要な 財源は確保できると言い続けてきた。しかし、現実はどうだったか。財政再建を言い出す前に、まず自らの不明をわび、ばらまき型の政策を見直すのが先ではないか。

 財政問題を改善する目的で、今後3年間の歳出の大枠を示す「中期財政フレーム」や財 政健全化の道筋を示す「財政運営戦略」の策定など、中長期の財政再建目標は必要だろう。だが、強い経済があってこそ、強い財政、強い社会保障が実現できるのであって、優先順位を間違えてはいけない。

 景気回復に有効なのは、増税ではなく減税である。特に法人税率の引き下げは、設備投 資を増加させ、景気浮揚効果が期待できる。国民の所得、雇用、税収を増やし、国内総生産(GDP)を押し上げる最も確実な方法である。

◎政務調査費 自ら使途ただす努力を
 石川県議会が公開した政務調査費の執行状況で、2009年度の返納額が交付額の1割 弱に当たる計1377万円に上り、前年度の29万円から大幅に増えたことが分かった。収支報告書に領収書などの添付を義務づけた結果、目的外支出を疑われるようなケースを極力避けたとの指摘があり、2008年度分から領収書添付を義務づけた富山県議会でも同様の傾向が出ている。

 全国的に市民オンブズマンから政調費の返還を求められるケースが相次ぎ、石川県内で も金沢、小松市議会で訴訟があった。返納額の急増は、議員がそうした動きに過敏になっている側面もあるとみられるが、領収書添付が使途の適正化にプラスに作用していることは間違いないだろう。

 政調費をめぐっては、外部から違法支出の指摘を受け、議会が渋々腰を上げるような状 況が続いてきた。だが、議員は議会活動を通じて税金を厳格にチェックする役割を担っている。自分たちが受け取る税金(政調費)の使途を自らただすのは当然である。積極的に公開すれば、痛くもない腹を探られずに済むだろう。自浄能力を発揮し、今後も住民の信頼を得る努力を続けてほしい。

 石川県議会の政調費は議員1人当たり月額30万円で、一定額を会派に回すケースもあ る。条例改正で2009年度分から領収書や支出証拠書類の写しを提出することが義務づけられた。同年度に交付された政調費は1億6560万円で、交付を受けた44議員のうち21人、4会派が返納したという。

 こうした返納傾向が今後も続くようなら、現行の交付額の妥当性についても議論が生じ るかもしれない。領収書の添付を通し、あいまいな使途基準が明確になり、一定の物差しが定着していけば、それに照らして判断すればいい。

 他の議会でも、収支報告書の領収書添付や公開の動きが広がっている。だが、政調費の 趣旨が議会の活性化であるなら、収支の透明化は本質的な問題とは言えないだろう。批判をかわすだけでなく、政調費改革も議員活動の充実につなげてこそ本来の意味がある。