室伏「すっきりしない部分もある」…北京銅取り消し

スポーツ仲裁裁判所の裁定などについて答える室伏広治

　グレー判定に質問状提出も―。スポーツ仲裁裁判所は１０日、０８年北京五輪男子ハンマー投げで２、３位になりながら、国際オリンピック委員会（ＩＯＣ）のドーピング違反で失格となったベラルーシの２選手による提訴を認める裁定を下したと発表。検査の手続きに不備があったことが判明したためで、両選手は資格を回復し、５位だった室伏広治（３５）＝ミズノ＝の繰り上がり銅メダルはなくなった。この裁定を受け、日本オリンピック委員会（ＪＯＣ）の竹田恒和会長（６２）は１１日、「残念な結果。裁定の中身を精査したい」と、ＩＯＣへ質問状を提出する可能性を示唆した。

　前代未聞の“グレーゾーン裁定”に、日本スポーツ界のトップも、簡単には首を縦に振れなかった。ＪＯＣの竹田会長は「（ドーピング違反は）認められたと聞いている。フェアプレーで戦った室伏君にメダルをあげたい気持ちもある。状況を把握して対処していきたい」とＩＯＣに対し、質問状を送る可能性を示唆した。

　北京五輪から１年９か月。２選手の主張が認められたことも異例だが、ドーピング違反が撤回されなかったことも異例だ。裁定では、検査手順で機械を使用しなければならないのに検査官が手で触れた点、Ａ、Ｂの両検体の検査官が同一人物だった点に触れ、「明らかに国際基準を満たしていなかった」と、手続きの不備によりメダルを認定するとした。だが、「今回の裁定をもって選手が無実だと解釈すべきではない」と異常数値を示したテストステロンの使用については結論づけなかった。

　ＩＯＣ関係者も「裁定は残念。内容を分析してあらゆる選択肢を検討したい」と、失望感を表明した。「（ＣＡＳの裁定が）覆った例はないと思う」と沢木啓祐・日本陸連専務理事（６６）がいうように、今回の裁定は最終決定となることが濃厚だ。

　“被害者”となった室伏はこの日、故・青木半治氏のお別れの会に出席。「すっきりしない部分もある」と釈然としない様子。男子ハンマー投げは０４年アテネ五輪でもドーピング違反で１位選手が失格し、室伏が金メダルとなった。２大会連続のドーピング禍を受け、クリーンな戦いを訴えてきただけに、悔しさも募る。それでも「周囲の目もドーピング検査に集まる。さらに厳しくなることは、僕の競技生活にとって追い風」と室伏。集大成ととらえるロンドン五輪へ前向きな姿勢を見せたことが救いだった。

　◆スポーツ仲裁裁判所（Ｃｏｕｒｔ　ｏｆ　Ａｒｂｉｔｒａｔｉｏｎ　ｆｏｒ　Ｓｐｏｒｔ）　国際オリンピック委員会が、スポーツで起きたトラブルをスポーツ界で解決することを目的に、１９８４年に設立。本部はスイス・ローザンヌ。通常ではＣＡＳの裁定が最終決定となる。日本選手の仲裁事例としては、シドニー五輪で代表漏れし、選手基準が不明瞭（ふめいりょう）であることを提訴した競泳女子自由形の千葉すず（認められず）や、Ｊリーグから科されたドーピング違反の処分取り消しを求め、認められた元日本代表ＦＷ我那覇和樹の例がある。

　◆室伏　広治（むろふし・こうじ）１９７４年１０月８日、静岡・沼津市生まれ。３５歳。ミズノ所属。ハンマー投げでアジア大会５連覇を達成した父・重信氏の英才教育を受け、中京大３年の９５年から日本選手権では大会史上最多の連覇記録「１６」を継続中。五輪は３度出場し、００年シドニー９位、０４年アテネ金メダル、０８年北京は５位。１８７センチ、９９キロ。妹の由佳もハンマー投げ、円盤投げの第一人者。