余録

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余録:フェニックスの帰還

 ギリシャの伝説によるとフェニックス(不死鳥)は500年生きた後に香木の枝で巣をつくる。美しい葬送の歌を自ら歌った後に羽ばたきによって香木に火を放ち、炎に包まれて灰になる。だが、その灰の中から再びよみがえるというのだ▲「羽毛は金色と赤で、形はワシ」というのは歴史家のヘロドトスだ。彼はフェニックスが500年ごとに現れ、没薬(もつやく)という樹脂で作った卵状のカプセルに親鳥の遺骸(いがい)を入れて神殿に運ぶというエジプトの伝承を記している▲古代人は500年という周期を宇宙の循環のサイクルだと考えたようだ。そんな壮大な時空を往還する「不死鳥」が現代によみがえったような心浮き立つ話である。小惑星探査機・はやぶさが7年ぶりに地球に戻ってくる▲03年5月に打ち上げられた後、重要機器の故障や通信途絶、エンジントラブルなどに何度も見舞われ、そのたび帰還を絶望視されながら、不死鳥のように再起したはやぶさだった。その間小惑星イトカワの探査に挑み、予定を3年延長した総旅程は実に60億キロとなる▲はやぶさは明日深夜には大気圏に突入し、本体は燃え尽きるという。だがイトカワで採取した岩石が入っている可能性のあるカプセルはオーストラリア南部のウーメラ砂漠に落下して回収される予定だ。こちらも何やらフェニックスの死と再生を思わせる結末である▲ここはカプセル内の試料回収の成功を祈りたいが、ネットでは艱難(かんなん)辛苦の末の地球帰還に感激しての「はやぶさ君」人気が盛り上がっている。スポ根マンガは昔のこと、今やメカ(機械)のど根性が人に勇気を与えてくれるメカ根物語の時代か。

毎日新聞 2010年6月12日 0時09分

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