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[19370] 虚無と賢者
Name: 銀◆ec2f4512 ID:00f8fcb3
Date: 2010/06/08 04:12
はじめまして、銀といいます。
こちらでSSを公開させていただきます。



これはゼロの使い魔の二次創作です。

召喚されるのはドラゴンクエストⅢの賢者(クリア後)です。

ゼロの使い魔及びドラゴンクエストの設定、魔法に独自の解釈があります。



以上にご注意の上ご覧ください。

感想等お気軽に書き込みください。



[19370] 第一話 召喚
Name: 銀◆ec2f4512 ID:00f8fcb3
Date: 2010/06/08 04:18
そこは街道から少し離れたところにある草原で一人の青年が寝転がっていた。

年のころは二十くらいで旅人の服と言われている丈夫な服を着ており、傍らには手荷物らしきものを置いているその姿は典型的な旅人の姿だった。

大きな欠伸を一つしてつぶやく。

「平和だ」

時刻は昼を少し過ぎたところでさわやかな風が草木を揺らし、遠くでは鳥の鳴く声が聴こえくる。

確かにとても平和な風景だ。

だが少し前まで、この地下世界アレフガルドではとてもこんな平和な光景はとても望めなかった。

世界は闇に閉ざされこのような人気の無いところに一人でいるのは自殺行為も同じだった。

「苦労した甲斐があるというものかな」

そうつぶやくとその青年こと賢者セランはまた一つ大きな欠伸をした。



世界を征服しようとする魔王バラモスを退治するために勇者と一緒にアリアハン旅立ったのはもう数年前にもなる。

苦労の末バラモスを倒したがその背後には大魔王ゾーマがいた。

だがくじけることなく、地下世界に向かいさまざまな試練を乗り越えついに大魔王ゾーマも打ち倒したのは一ヶ月前のことだ

それまでは世界中を凶暴な魔物が徘徊し、多くの人々が絶望していたが世界はその恐怖から開放され魔物の脅威はなくなり闇に閉ざされていたこのアレフガルドにも光が戻った。

世界は救われたのだ。



「さて、これからどうしますかね」

ここ数日セランがずっと考えていることだった。

仲間たちと共に大魔王を倒し世界を平和にするという、つらい事もあったし危険な事だらけの旅だった。

だがそれ以上に充実し使命に燃えやりがいがあった。

世界を救うという目的の為、己の全てを賭けるに値した旅だった。

その目的が達成された今、目的を見失ってしまったのだ。

「平和すぎて何をすればいいんだか」

贅沢な悩みだと自分でも思う。



今のセランは賢者のトレードマークともいえるサークレットやローブを身につけていない。

たびびとのふくとかわのぼうししか身に着けておらず、どこから見ても『ここは○○の村だよ』としか言わない村人Aにしか見えない。

自分の賢者としての役目は終わったと思っているからだ。

ゾーマは倒れるときに言っていた。

『光あるかぎりまた闇もある。ふたたび何者かが闇から現れよう』

勇者は気にしていたようだが少なくとも自分の生あるうちはこの平和が続くだろう。

そしてその苦難はその時に生きている者たちが切り開いていくべきだとセランは考えている。



別れた仲間たちの事も思い出す。

勇者はゾーマの残した言葉が気になったのだろう、後世に残せるものを探すために旅を続けるようだ。

武道家は「拳の道を極める」と言い更なる修行に出た。今頃どこかで山ごもりでもしているのだろう。

女戦士はあろうことかいつの間にか勇者といい仲になっていたようで勇者についていった。

勇者からは一緒に行かないかと誘われたが二人の仲を邪魔するようで気がひけたので断った。

皆何かあったときはすぐに駆けつけると約束をして四人の旅は終わったのだ。

「ちょっと狙っていたのに……」

女戦士のビキニアーマー姿を思い出し「未練だ……」とつぶやく。

そしてまたこれからどうするかという悩みに戻る。



「……歩きながら考えますか」

このまま寝転がっていても仕方ないと、荷物を持ち歩き出す。

目的地は決めてない。まさに足の向くままだ。

幸い金には当分どころか人生を数回くりかえしても大丈夫なくらい余裕はある。

このままどこかの町か村にでもついたらそこでしばらく暮らしてみてもいい。

そんな事を考えながら歩き続けた



だが彼にそんな平穏な暮らしはまだ許されないようだ。

歩きながらまた欠伸をしたのがまずかったのだろう。

目の前に大きな鏡のようなものがあると気づいたときにはすでに足がその鏡に入っていた。

「へ?」

思わず間の抜けた声をだす。

旅の扉を通り抜けたときに似た浮遊感が全身を襲った。



次の瞬間には見たことも無い場所に放り出されていた。

そして

「あんた誰?」

目にも鮮やかな髪をした少女が話しかけてきた。






これが世界を救った『賢者』と、これから世界を変えていく『虚無』の出会いだった。






「あんた誰?」

ルイズは不機嫌そうに目の前にいる男に聞いた。

実際ルイズは不機嫌だった。

春の使い魔召喚の儀式、すごい幻獣を召喚して今までゼロと馬鹿にしていたクラスメートを見返してやろうとしていたのだ。

だが何度も失敗しようやく成功したかと思えば現れたのはどこかの平民らしき旅人だ。

これが不機嫌にならずどうしろというのだ。

「誰って……名前はセランというが」

その平民は間の抜けた顔(ルイズ主観)で答えた。



「おいルイズ!どこから連れてきたんだよその平民!」

「サモン・サーヴァントができないから実家から使用人でも連れてきたんじゃないのか」

周りの生徒がからかう声をかける。

「ちょっと間違っただけよ!」

ルイズが怒鳴るが周りの笑い声はやまない。

今度はそれらを無視する。

「あんたメイジ?」

「メイジ?何ですそれは?」

格好からして平民とは思ったが、せめてメイジならと一縷の望みにかけて聞いてみた。

それがメイジも知らないとは……ルイズは軽く絶望しかけた。



セランはセランで混乱していた。

いきなり見も知らぬ場所に来た。これは理解できる。

おそらくあの鏡のようなものは旅の扉と同じようなものなのだろう。

一瞬で別の場所に移動するというのはセランにとって珍しいことではない。

だが驚くべきことはそんな事ではない。

上を見上げてセランは愕然とする。そこには青空が広がり、太陽が輝いていた。

「空だ……太陽もある……」

先ほどまでいたのは地下世界アレフガルド。光はあるが太陽も無ければこんな青空もない。

ゾーマを倒した際に上の世界と下の世界を繋げていたギアガの大穴が閉じ、行き来ができなくなり二度と見ることがないと思っていた青空と日の光。

まさかまた見ることができるとは思わなかった。



「ここはどこです?アレフガルドではないのですか?」

「そこどこよ?ここはトリスティン王国のトリスティン魔法学院よ」

「トリスティン王国?」

魔王を倒す旅で世界中のほとんどに行ったがはじめて聞く国名だ。

そして魔法学院ということは魔法を専門に教えている学校ということだろうがだがそんなのはきいたことがない。

「トリスティンを知らないなんて、どこまで田舎者よ」

頭痛がしてきたかのようにルイズは額に指を当てながら言う。

「他にもいくつか聞きたいことがあります、アリアハンを知っていますか?」

ここが上の世界ならば、とセランは自分の出身国を聞いてみる。

「アリアハン? 何よそれ、地名?」

「それではエジンベア、イシス、ロマリア、ポルトガ、サマンオサ。これらの国は?」

「ロマリアは当然知ってるわよ。でも他の国は初めて聞く名前よ」

ロマリアを知っていて他の国を知らないということは無いはず。これはただの同名という可能性が高い。

「……最後です。魔王バラモス、大魔王ゾーマを知っていますか?」

「聞いた事も無いわよ。何かのおとぎ話?」

もはやうんざりしかのような態度でルイズは答える。

側にいるコルベールにも聞いてみる。

「私も聞いたことがありませんね」

これで確定的だ。

バラモスやゾーマは長年世界を征服しようとして全世界の敵だったのだ。

これは五歳の子供でも知っていることだ。

そして最後の確認とばかりにある魔法をとなえた。

「ルーラ!」

高速移動呪文のルーラ。イメージするのはアリアハンの城。ここが上の世界ならどこからだって飛べるはず。

しかし

「飛べないか……」

魔法は発動しなかった。

念のためアレフガルドの町にもとべるかどうか試したがやはり無駄だった。

そこで大きくため息をついた。

「また異世界か……」



何か叫んだかと思うと難しい顔で考え事を始めたセランに構わずルイズはコルベールにくってかかった。

「ミスタ・コルベール!召喚のやり直しを要求します!」

「残念だがそれはできないミス・ヴァリエール」

コルベールは首を振る。

「春の使い魔召喚の儀式は召喚で現れた使い魔によって属性を固定し今後は専門課程にすすむ大事な儀式だ。そして一度召喚した使い魔の変更はできない。君も知っているはずだ」

「でも平民を、人間を使い魔にするなんて聞いたことがありません!」

「確かに人間の使い魔というのは前例が無い。しかし春の使い魔召喚の儀式は神聖なものでそのルールは何よりも優先される」

「そんなあ」

ルイズが情けない声をだす。

「とにかくコントラクト・サーヴァントをしなさい。さもなくば君は留年ということになってしまう」

「……わかりました」

ルイズはしぶしぶとまだ難しい顔で考え事をしているセランに近づいていった。

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔と成せ」

朗々と流れるような呪文を唱える。

「光栄に思いなさい。貴族にこんな事してもらえるなんて一生に一回も無いのだからね」

「うん?何のこと……!?」

セランの方がルイズより頭一つ分背が高い。

その為ルイズはセランの首根っこを掴み強引に顔を引き寄せる。

そしてルイズの柔らかい唇がセランの唇に押し当てられるた。

セランはなすがままだった。敵意の無い行動だったので反応が遅れたのだ。

「……随分積極的ですね。けど男女交際はもう少し手順を踏んだ方がいいと思いますが」

「何が交際よ!これは契約よ!」

ルイズは顔を真っ赤にして怒鳴った。

「契約とは何のことです?」

「すぐ解るわよ」

さらに質問しようとしたセランだが突然全身を熱が襲う。ただ耐え切れないほどではない。

「これは!?私に何を!呪いか!?」

「違うわよ!使い魔のルーンが刻まれているだけだからすぐおさまるわ」

その言葉通りすぐに熱は収まった。そしてセランの左手にはルーンが刻まれていた。

「ふむ、コントラクト・サーヴァントは一度で成功しましたね。おやこれは珍しいルーンですね」

ルーンを覗き込みながらコルベールが言う。

「おっと時間がかかりすぎてしまいましたね。皆さんすぐに教室に戻ってください」



「一体何なんだ……」

セランは混乱したままだった。

もし自分を呼び出したのが魔王の残党だというのならまだこちらとしても対応がしやすい。

だが周りにいるのは人間、それに自分に好意的というわけではないにしろ悪人というわけでもなさそうだ。

そして自分にかけられた何らかの魔法。

どれも対応に困る事態だ。

そこで更に驚くことがおこった。

周りにいた生徒たちが何やら呪文を唱えたかと思うと一斉に空を飛び始めたのだ。

(飛行魔法!?魔物には魔力で飛ぶものもいたが……いやルーラを応用すればあるいは可能かもしれないか)

ルイズは飛んでいった生徒たちをじっと見ているセランに話しかける。

「人が空を飛ぶのが珍しいの?」

「ええ、珍しいですね……なるほど、要するにメイジとは魔法使いのことでしたか」

「まったく、何でこんなメイジも知らないような奴を使い魔にしなきゃいけないのよ」

ぶつぶつと文句を言っていたルイズだがやがてあきらめたかのように大きくため息をつく。

「さあ行くわよ。ついてきなさい」

他の生徒達が飛んでいった石造りの大きな建物に歩き始めた。

「……仕方ありませんね」

まだまだ聞きたいことがあるし自分の身体に何をされたのかも気になる。

ここは彼女についていくしかないようだった。



「貴女は飛ばないのですか」

歩きながらのセランの何気ない質問にルイズは立ち止まると

「うるわいわね!黙ってついてきなさい!」

更に不機嫌になり怒鳴る。

(飛べない私に気を使ってるのかな?)

セランは好意的に解釈した。

(やれやれ、これからどうなるのかな)

セランは久しぶりに見る青空を見上げ今日何度目になるかわからないため息をついた。





だがさっきまでの目標を失い、ぽっかりと穴があいたかのような喪失感。それが消えていることにはまだ気づかなかった。



[19370] 第二話 異世界
Name: 銀◆ec2f4512 ID:c1e59c7d
Date: 2010/06/10 15:19
「異世界?」

「ええ、私はこのハルケギニアでしたっけ?とにかくこの世界の人間ではなく、別の世界から来たようです」

「……そんな話を信じろって言うの?」

「信じるも何も事実ですので」

セランはお茶を飲みながらすました顔で言った。

すっかり日も落ちた夜、ルイズとセランは寮にあるルイズの部屋で椅子に座りテーブルを挟んで向かい合っていた。

部屋の調度品はセランの目から見てもかなり格調の高いもので、どうやら文化的には大きな差は無い世界のようだと判断した。

「異世界でも紅茶は変わらないようですね。いやこちらのほうが少し風味が強いかな?」

ちなみにこの紅茶はルイズの部屋にあったものをセランが勝手に入れたものだった。

「事実と言われても納得できるわけ無いでしょ!何か証拠があるの?」

「証拠と言われても中々難しいですけど……とりあえず私のいたところでは月が一つでしたがね」

窓からのぞく夜空に浮かぶのは二つの月。当然前の世界では見れなかった光景だ。

「いい?サモン・サーヴァントはハルケギニアの生き物を呼び出して使い魔にするのよ。異世界から召喚なんてできるはずがないわ!」

「しかし今まで人間が召喚されたことはなかったのでしょう?なら何らかの不確定要素が、もしくは事故という可能性もあるのでは?」

「う……」

ルイズは言葉に詰まる。

「世の中に『絶対』なんて無いんです。固定観念を捨て、柔軟な思考を持たないと良い魔法使いにはなれませんよ?」

「それは……ってメイジも知らなかったあんたに魔法の事をどうこう言われたくないわよ!」

「まぁ異世界の事はとりあえず置いておきましょう。先に二つほど聞きたいことがあります。まずこれについてなのですが」

そう言ってセランは左手の甲をルイズに見せる。

「これは何ですか?」

「……それは使い魔のルーンよ。コントラクト・サーヴァントをおこなった使い魔に現れるの。まぁ私の使い魔という印みたいなものね」

「ああ、あれが契約の儀式だったのですか」

昼間の事を思い出す。

「随分と大胆な契約方法があるものですね」

「もともと動物や幻獣を対象としてるのよ!人間相手なんて想定してないわ!」

ルイズも契約のことを思い出したのか顔を赤くしている。

思えば大事なファーストキスをこんな男に、しかもあんな大勢の前で……仕方のなかった事とはいえ腹が立ってくる。

「それでこれにはどんな効果があるんですか」

「使い魔のルーンは使い魔に特別な力を与える場合があるわ。例えば猫を使い魔にしたとき、その猫が喋れるようになったりするの」

「なるほど、ではこれによって私の身体に害はおこらないんですね」

「ないわよ!メイジにとって使い魔は大事なパートナーになるんだから!」

嘘は言っていないようだ。とりあえず最大の懸念が解消されてセランは内心ほっとした。

ルイズは「その大事なパートナーが何でこんなのに……」とぶつぶつ言っている。

「では次の質問です。私が元の世界に戻れる方法はあるんですか?」

ルイズはしばらく考え「無理ね」と答えた。

「あんたが別の世界から来たというのが本当なら無いわ。さっきも言ったけどサモン・サーヴァントはハルケギニアの生き物を呼び出すの。だから普通なら時間をかければ歩いてでも帰れるけど異世界に戻す方法なんて聞いたことが無いもの」

「そうですか……もう戻れないのですか」

セランはそれまでのどこか気の抜けた表情ではなく真面目な顔になり何かを考える。

「……ま、それなら仕方ありませんね。それでは使い魔ですか?とりあえずやってみましょう」

真面目だったのはほんの一瞬でセランはまたのんびりとした雰囲気に戻る。

「わたしが言うのもなんだけど随分と軽いのね」

「もう契約はしてしまったのでしょう?ならしかたありませんよ」

セランは意味が解ってるのか解ってないのか、相変わらず軽い調子で使い魔を了承した。



ルイズはほっとしていた。

とにかく使い魔の事を納得させたのだ。平民でも掃除や洗濯といった雑用くらいならできるはず。

あとはどうやって従順にさせていくか……と考えていたら

「ただし私からも条件があります」

いきなり反抗された。

「条件?使い魔の分際で何言ってるのよ!」

「もし条件をのんでいただけないというのでしたら……そうですね、ここから逃亡でもしましょうか」

「な!?」

ルイズは絶句した。

「あ、勿論その際には先ほどのコルベール氏や他の生徒の方々に『あのような主人には耐えられない。いくらなんでも酷すぎる』という感じで事実三割、誇張七割くらいであること無いこと言ってからの逃亡です」

絶句したルイズに構わずセランはすました顔で言い続ける。

「使い魔に逃げられたメイジ。この世界のメイジにまだ詳しくありませんが不名誉なことなのでは?」

「ぐぬぬぬ」

今度は歯噛みをするルイズ。

使い魔に逃げられるメイジなんて前代未聞で不名誉どころの話ではない。もしルイズが他からそんな話を聞いたらメイジ失格だと思うだろう。

それをこの男はやると言っているのだ。

これが実家に知られたらえらいことだ。上の姉、そして母親。この世で最も恐ろしい人物上位二人に知られたらと思うと震えが来る。

「それにあの時の会話を聞くに契約を解除して再度召喚というのは難しいのでしょう?」

「……使い魔を再召喚できるのはその使い魔が死んだときだけよ」

「おやおや、では私としてもそう簡単に死ぬつもりはありませんので再召喚はできませんね」

「見知らぬ土地なんでしょう?そこで逃げてどうするつもりよ!」

「これでも多少生活力はあるつもりですので。見知らぬ土地でも生きていく自信は十分あります」

こともなげに言うセランをしばらくにらんでいたがルイズは諦めたかのように大きくため息をつく。

「仕方ないわね。その条件ってのを言いなさい」

「そうですね……まだ決めかねてますのでそれは追々。ああ、そんなに無茶なことを言うつもりはありませんからご安心ください。それに条件が決まるまでもちゃんと使い魔はやります。あ、条件とは別に衣食住の保障はお願いしますね、そこら辺は主人としての義務でしょうから」

「わかったわよ!……まったく何でこんな奴召喚しちゃったのかしら」

ルイズはテーブルに両肘をつけ頭をかかえる。

セランはそんなルイズにかまわずお茶のおかわりを淹れていた。

「それにしてもここが異世界って言うならなんでそんなに落ち着いていられるのよ」

もう少し戸惑ってもいいだろうに、そのふてぶてしいとも言える態度にルイズはあきれていた。

「慣れ、ですかね。今まで色々ありましたからこれぐらいじゃあまり動じませんよ」

異世界に来るのは初めてではありませんし、そして取り残されるのもね。と心の中で付け加えた。



何よりも余裕があるのはそれほど元の世界に戻りたいと思ってはいないからだろう。

そもそもアレフガルド自体自分の生まれた世界ではないのだ。

上の世界に戻る方法は無く、これから残りの人生をアレフガルドですごそうと決意した直後に召喚されたのだ。

アレフガルドがハルケギニアに変わっただけとも言える。

そしてアレフガルドとハルケギニアを比べた場合、太陽と青空があるだけでもこちらのほうが親しみやすい。

それにたとえどんな世界でも自分の力で問題なく生きていけるという自信があった。

なのでどうしても元の世界に戻りたいと思っているわけではないのだ

ただ一つ気がかりなのは仲間たちのこと。

だがそれもどうしても自分の力が必要な事態に、つまりまた世界の危機が起こる可能性がほとんどない以上それほど心配はしてなかった。



「色々ね……あんたその異世界じゃ何やってたの?」

「一応前の世界で私は賢者ということでした」

「賢者ぁ?」

ルイズが胡散臭そうな声をあげる。

ハルケギニアにも賢者と言われている者はいる。

だがそれは大いなる知識を持ち、長い年月をかけて認められ、周りから尊敬の念を込めていわれる呼称のようなものだ。

それを自分から賢者と名乗るなんて怪しい事この上ない。

「それで?賢者のあんたはどうすごしてたの?」

「賢者の私は世界を征服しようとする魔王を倒す旅を仲間たちとしていました。その旅は数年におよび苦労をしましたけど一ヶ月前ついに大魔王ゾーマを倒し世界に平和を取り戻しました。その後は特にあても無く放浪していましたね」

「……ますます胡散臭くなったわね」

まったく信じてないという感じでルイズが言う。

「まあその反応はこちらとしても理解できます」

魔王による世界征服なんて経験してなければ信じられるものでもないだろう。

「はあ……もういいわ。あんたが世界を救った英雄だろうがなんだろうが使い魔には関係ないし」

ルイズはもはやこの事は会話しても無駄だと思ったようだ。

「ええ、私も前の世界での事は今はあまり関係ないと思っています」

「ただしそのことを他の人に言いふらすんじゃないわよ!ヴァリエールの使い魔は平民なだけじゃなく妄想癖があるなんて噂されたらたまったものじゃないわ!」

「ええわかりました。でも私がこのハルケギニアの常識や習慣に慣れてないのは事実です。そこら辺はどうしましょう?」

「そうね……じゃあロバ・アル・カリイエから召喚されたということにしておきましょう」

「ロバ・アル・カリイエ?」

「東の方にある土地よ。行き来が無いから何があるか解らない場所なの」

ジパングのようなものかなとセランは思った。

「それでは対外的には私はロバ・アル・カリイエから召喚されてきたということにしておきますね」

そうしてちょうだいとルイズは力なくテーブルに突っ伏した。怒鳴り続けて疲れたようだ。



「さて、それで使い魔ですけど具体的には何をするんですか?」

「そうね、まず使い魔は主人の目となり耳となる能力が与えられるわ。つまり使い魔の見たものをわたしも見ることができるようになるのだけど……」

「できないようですね」

「まぁ人間だから期待してなかったわ。他には主人が望むものを探してくるのよ。例えば秘薬の材料とか」

「やくそうぐらいなら前の世界でも自生しているのをよく採っていましたね。ただこの世界にも同じ植物があるかどうかは解りませんが」

「別にそれも期待してないわ。そして一番大事なのは主人を守ることよ。でもあんたじゃそんな事できやしないだろうからこれも期待してないわよ」

雑用でもいいからできることをしてもらうわ。とルイズは言おうとしたのだが

「いえ、それなら問題なくできますよ。ルイズを守る、得意分野ですね」

こともなげにセランは言った。

「何言ってるのよ!ドラゴンみたいな強い幻獣ならともかく人間で平民のあんたに守ってもらうつもりはないわ!」

「ドラゴンだったら数え切れないくらい倒しましたよ。まぁその時は四人でしたから、一人だとちょっと時間がかかるでしょうけど」

また妄想かとルイズは額に手を当てる。

ドラゴンを倒すだなんてスクエアのメイジだってそうそうできることではない。

「魔法も使えないあんたがドラゴンを倒すだなんてできるわけないでしょ!」

「使えますよ」

「え?」

「私はメイジじゃ無い、とは言いましたが魔法が使えないと言った覚えはありません。むしろ魔法は得意です」

「え?え?」

「論より証拠ですね」

セランは手を少し上げ手のひらを上にしもっとも基本の攻撃魔法である炎の魔法を威力を抑えて唱える。

「メラ」

すると手のひらの上に人の頭ほどの大きさの火の玉があらわれる。

「あ、あんた……メイジだったの?」

ルイズがその火の玉を見てぽかんと口をあける。

「だからメイジじゃなくて賢者ですって。私の世界では魔法を使えるようになるには色々な職業につかなければならないのです。賢者とはその中の一つで結構希少なんですよ」

「じゃあ賢者というのは火の系統魔法を使える職業ってこと?」

「いえ私はその系統魔法というのを知りません。どうやら魔法の成り立ち自体が違うようですね」

自分たちの魔法には飛行魔法や使い魔を呼び出す魔法はない。逆に言うなら自分はこの世界にはない無い魔法も使えるということだろう。

「ね、ねぇ他にどんな魔法が使えるの?」

ただの平民かと思い落ち込んでいたルイズだが魔法が、それも自分たちの知らない魔法が使えると知り俄然興奮してきた。

「そうですね、私の使える魔法の多くは戦闘に関するものです。敵にダメージを与えたり敵を弱らせたりというのが主になります」

「物騒な魔法が多いのね」

「そもそも魔法というもの自体が魔物との戦いの為にあるようなものでしたから」

魔王により魔物の活動が活発となり、人が襲われることが多かった。それに対抗する為に攻撃魔法など戦いに使用される魔法が発達したのだ。

「勿論他の魔法もあります。傷を治したりする治癒魔法や、私は使えませんが魔法の道具を作ったりするものもあります。ちなみに私がもっとも得意としているのはイオ系といわれる爆発呪文ですね」

爆発と聞いてルイズが固まる。

「爆……発?」

「ええ、かなり使い勝手がいいんですよ?敵が複数でも全体にダメージ与えられますから。ああ、ちょっと比較したいのでこの世界の魔法も見せてくれませんか?とりあえず飛行魔法があるのは見ましたが、他のなら何でもいいですよ」

今度こそルイズは黙ってしまった。

「ルイズ?」

「……今日はもう遅いから寝るわ」

「はい?……ああ、そうですね。続きは明日にしますか」

確かにかなり長いこと喋っていた様だ。

「じゃあ……って何をしているんです?」

服を脱ぎだしたルイズを見てセランは眉をひそめる。

「寝るから着替えるんじゃない」

「異性の前で平気で着替えるのはどうかと思いますが」

「別に使い魔に見られたって何とも無いわよ。あ、これ洗っておいて」

ルイズは脱ぎ捨てた下着をセランに放り投げる。

「やれやれ……それで、私はどこで寝ればいいですかね?」

ルイズは黙って床を指差した。

「まぁそうなるでしょうね」

床で寝る事に抵抗は無い。野宿が多いセランにとって雨風をしのげる屋根と壁があるだけでも十分だった。

毛布ぐらいはあげるかと着替え終わったルイズがセランを見るといつの間にか寝袋を用意していた。

「ちょっと!その寝袋どこからだしたのよ?」

「ああ、ここからですよ」

セランは腰にぶら下げたふくろを指差す。その大きさはあきらかに寝袋が入るような大きさではない。

「これはいわゆるマジックアイテムでして、このふくろの中には大きさや重さや数に関係なく様々な物を入れておくことができます」

旅の最中はそれは世話になったものだ。

「そ、それは中々すごいわね……」

ハルケギニアではそんなマジックアイテム聞いた事がなかった。

「ね、ねぇ、それ……」

「ちなみにこれは私専用です。他の人には使えませんので」

使い魔のものは主人のものとジャイアニズムを発揮しようとしたルイズの言葉を封じる。

「おやどうしましたか?」

「な、何でもないわ!寝るわよ!」

ルイズは明かりを消し毛布を頭から被る。

「はい、おやすみなさい」

ルイズの態度に笑みをうかべながらセランも寝袋にもぐりこんだ。



二人が眠りにつき、しばらくたつとベッドからルイズの規則正しい寝息が聞えてくる。

するとセランはむくりと起きだした。

窓から差し込む月明かりで部屋は思いのほか明るい。

その明かりを頼りにセランはそっとベッドに近づきルイズが完全に寝ているのを確認する。

起きているときは生意気だったり強がっているけど、寝顔は年相応であどけない。

その寝顔にセランは少し頬をゆるませる。

その後に決してルイズに見せなかった鋭く厳しい顔つきになり冷静に現状を、自分を分析しはじめる。そして気になっていた違和感を改めて自覚した。

自分の違和感、それはどうもルイズに従順に、好意的になっていることだ。

最初のうちは混乱していたということで説明がつくが、この寮についてからはそれが強くなってきているのが自覚できた。

本来なら彼女に怒りを覚えてもいい状況だがどうもそんな気にはなれないのだ。

ただ好意といっても男女間のそれではなく、どちらかといえば手のかかる生意気な妹という感じだが。

「原因があるとすればこれでしょうね」

左手のルーン文字を見る。

使い魔との契約という特性上、おそらくルイズが説明した以外にも主人に対して好意を持つというような作用もあるのだろう。

そして一つ試してみる。

「シャナク」

唱えるのは破魔の呪文。

呪われた品等を解除するときに使われる魔法だが、こういった魔法の契約の解除にも効果があった。

すると抵抗を感じる。以前呪われた装備を解いた時に似た感触だが、抵抗の強さは比べ物にならないくらい強い。

抵抗の感触を確かめると呪文を中断する。

「呪いではないが、それに近い特性があるということか」

ただ強い抵抗ではあったが決して解けないというわけでもなさそうだ。

だがそれは相当大変だろうし、無理に解く必要は現段階では無いと判断する。

現状ではルイズの使い魔というのはこの異世界でセランの身元を保証する唯一のものと言っていい。

もしルイズの使い魔でなくなれば完全な異邦者ということになる。

社会の異邦者に対する扱いは時として酷いものだ。

この世界の国家や組織がどれほどの規模かはまだわからないが敵対するのは好ましいとはいえない。

ルイズはこの世界ではかなり身分の高い貴族の令嬢のようだし、元の世界に戻る方法を探すにしろ何かをするにしろそういった身元はあったほうがいい。

異世界の魔法にも興味はあるし、できる事なら学びたいとも思う。

それにはこの魔法学院は、ルイズの使い魔という立場は悪くないだろう。

ルイズに対する好意も問題は無いだろう。

生意気でプライドが高いが基本的には悪い娘ではない。

それにいざとなれば解除も不可能ではないのだから。

「しばらくは使い魔生活もよさそうですね」

そう結論付けるとセランは寝袋に入り、今度こそ眠りについた。


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