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[19413] ショートストーリー (いろいろ)
Name: 波瑠◆b3f8a5e0 ID:bc400a60
Date: 2010/06/10 16:14
 
 ジャンル問わず、オリジナルの短編を書いています。
 
・誰でも楽しめるように工夫するつもりです。読んでみてください。

・あらすじが分かりにくいものもあるかもしれませんが、どうぞお許しを。

・要望、意見、感想などがありましたら感想掲示板に書き込んでください。

                         以上、作者より



[19413] ショートストーリー SF
Name: 波瑠◆b3f8a5e0 ID:bc400a60
Date: 2010/06/10 16:30
 
 コンピュータ

 コンピュータを起動させる音に続いて、電子音が鳴り止むことなく僕の耳に突き刺さってくる。額の汗を、長い間使って真っ黒の手でぬぐう。
 すると突然、僕の手はドライバーを持ったまま停止してしまった。
 動けよ、こら。
 そう叱り付けると、どうやら動いてくれそうな素振りを見せた。だが、なかなか思うように動かない。まあ、こんな現象は今、世界中のどんな場所でも起こりうることなので、さほど驚きもしないが。
 僕は、今取り掛かっているコンピュータの修理に専念することにした。CPUを高性能の物に換え、金属質の表面をそっとやわらかい布で磨く。今作っている製品は、中身はもちろんのこと外見にも気を使わなければいけないような代物なので、僕の神経がすり減らない日はなかなかやって来ない。
 金属の上から、すべすべしたゴムを貼り付ける。なるほど、最近売っているパーツは、僕が使っている旧型製品の物よりグッと質が良くなっているようだ。
 これ、使ってみたいな。
 突然そう思い立った僕は、たった今自らの手で組み立てたばかりの新型コンピュータを手に工場から抜け出した。たくさんのベルトコンベアーの間で無数の作業員が仕事をしていたが、僕を見て何か言う奴など一人もいなかった。まあこんなことは今、この種の工場であればどこででも起こりうることなのだ。だから皆、気にも留めていないのだろう。
              ☆ ☆ ☆
 外には、見渡す限り廃墟が広がっている。
 僕はそれらの建物の間をコソコソと歩きながら、草がうっそうと生い茂っている一軒のボロアパートの前にたどり着いた。他の建物も見ていられるような物ではないが、このアパートはその中でも特にひどい。壁には無数のヒビが入り、爆撃による跡は全く修理されていない。これは大家にその気が無いのでどうしようもないことなのだが、さすがに気になるので僕は相談してみようと大家の部屋へ向かった。
 案の定彼はテレビにかじりついているところだった。
「大家さん」
 僕は呼びかけてみたが彼は聞く耳を持たない。馬の耳に念仏、とはこのことだ。
 仕方ないのであきらめよう、と部屋を出ようとした時。
 僕の目は、彼の手の方へ吸い寄せられた。そこにあったのはまさに、僕がたった今盗んできた製品と同種の、いやその中でも発売されたばかりの新型だった。
「気付いたかい」
 大家は僕の視線に気付いて自慢げににやりと笑った。
「これはなあ、今日発売の新製品なんだよ。いやあ、使い心地が良いねえ。俺ももう歳だが、こういうことでは若いもんに負けたくないんでね。おまえさんは、今日は早引けかい」
 いつ会っても、頭にくるじいさんだ。こういう物には惜しげもなく金を使い、アパートの修理なんて眼中になし、か。
 とはいえ彼の持っている物が新製品であることに変わりはない。僕はうらやましくなって見つめてみたが、みっともないと考え直して部屋を出た。
 ギシギシときしみ、今にも床が抜けそうな自分の部屋に着いた。一階にあって、階段を上らなくて済むには済むが、それ以外にはいい所など全く思い浮かばない部屋だ。
 僕はふところに隠しておいた新型コンピュータを取り出した。大家の物よりは古いが、一世代違うだけなのでたいして差は無いだろう。
              ☆ ☆ ☆
 僕は、なかなか動かなくなってしまった古いコンピュータを、ひじの先からガチャリと外した。そして、新しい義手型コンピュータをはめ込む。肌色のつるりとしたゴム、よく動きそうな指。
 果たして本当にそうかと、僕は半信半疑で動かしてみた。肩の神経から回路がつながれ、まるで本当の手のように動かすことができる。工場から盗んできたものだからといって、引け目を感じることはひとつも無い。市販の物と同じ、いやそれ以上の製品だと僕は感じた。
 反対の手も同じようにつないでから、僕はテレビのスイッチを入れた。リモコンの操作をするのもらくらくだ。口笛を吹きたくなって顔を上げると、僕の部屋の汚い壁一面に飾られた物が目に入った。 
 
 それは、新旧、大小さまざまなたくさんの義手型コンピュータだった。だがこんな光景は、いまや世界中のどんな部屋でも見ることができる。
 彼の部屋のテレビからは、こんなニュースが聞こえてきた。
「またもや、世界中で不足している義手型コンピュータを盗むという事件が発生しました。このような事件は今、世界中で問題となっており、ここ日本も例外ではなかったようです・・・」
 彼の住むアパートの近くでは最近、工場から義手型コンピュータが盗まれるという事件が多発しているという。そんなつまらないことを、ニュースのリポーターはえんえんと話し続けるばかりだった。

 感染後、突然両手が麻痺するという正体不明のウイルスは、今なお、その傷跡を世界に残しているようだった。

                           <おわり>



[19413] ショートストーリー ミステリー風
Name: 波瑠◆b3f8a5e0 ID:bc400a60
Date: 2010/06/10 16:23
 デパートの店員

 大丸デパートの月間最優秀店員に選ばれたこともある彼女は、髪の毛がペッタリと湿ってきたのを感じた。
「雨が降りそうね」
 そうつぶやいて、サッと事務室へ移動する。部屋から出てきた時、彼女は両手に大きな傘袋入れを抱えていた。
 客たちは不審に思って彼女を見る。雨が降ってもいないのに、傘袋のたくさん入った箱を持って店内を移動する女性店員。
 なぜ、傘袋を持って歩いているのだろう?
 彼女の細い腕のどこに、両手にひとつずつの傘袋入れを持つ力があるのだろう?
 そんな疑問を持つ客には目もくれずに、彼女は最新式のエレベーターに乗ってデパートの一階を目指す。エレベーターの中でもやはり好奇の目で見られたが、彼女にとってそんなことはどうでもいいように見えた。
「ついたわ」
 そうひとりでつぶやいた時にはすでに、彼女が働く大丸デパートの外で雨が降り始めていた。
 彼女は大きな傘袋入れをデパートの入り口にすえつけてから、特に得意がるわけでもなくその場を後にした。
               ☆ ☆ ☆
 彼女の名前は、佐藤けいこといった。
 大丸デパートに勤務してから丸五年。二十代後半に突入した彼女はいつも、同僚の憧れである。テキパキと仕事をこなし、誰がミスをしても黙って処理するスーパー店員。他の社員の半分の給料で働くと言ったらしい、なんていううわさも聞こえてくる。けいこは同性からも異性からも上司からも好かれる、人気者のデパート店員だ。
 でも、彼女はたいくつだった。そのたいくつさを解消するために彼女が始めたことはなんとも刺激的で楽しくはあったが、それでも満足できなかった。そろそろ他のことを始めようかと、彼女は悩んでいる。
 順風満帆に見えるけいこの人生にこんな落とし穴があることは、彼女自身にとっても予想外だった。
「ごくろうさん」
 ポンと肩を叩かれ、けいこはくるりと後ろを向く。声の主は上司の島田だった。
「雨が降るなんて、よく分かったじゃないか。さすがは最優秀店員、これからもがんばってもらわんとな」
 彼は悪い人ではないが、けいこはいまいち好きになれない。彼女はこんなふうに、仕事中に突然話しかけられるのが苦手なのだ。
「はい」 
とだけ短く答えて、けいこはすぐに次の仕事場へ向かった。
 梅雨時でじめじめしているこの季節、気温が少しでも上がればお客様が不快な思いをするだろう。
 そう考えた彼女は、アイスクリームやシャーベットの在庫を確認しに倉庫に入った。
              ☆ ☆ ☆
 早速仕事にかかると思いきや、けいこは携帯電話を取り出して何やら話し始めた。
「あのう、もう私、こんなことしたくないんです」
 どうやら、電話の相手に何かを相談しているらしい。でも、何について話しているかはよく分からなかった。彼女のただでさえ小さな声は、仕事をさぼっているという罪悪感にかき消されていく。
 しかし、『こんなことしたくない』というのは何のことなのだろう?
 まさか、デパートの店員をやめたいなんていうことはあるまい。それとも、その仕事の退屈さに負けて転職しようというのだろうか。
 
 その答えは、彼女自身にしか分からないのだった。
              ☆ ☆ ☆ 
 その晩、仕事を終えた彼女はいつもどおり電車に乗り、何駅か先の住宅街にあるマンションへ向かった。
 がちゃり、とかぎを開ける。部屋にはけいこ一人きりで、帰ってくるのは夜遅くなので生活感というものはあまり無い。しかし、それは彼女が極度の潔癖症であることも表していた。
 けいこはやかんに火をかけ、キッチンタイマーをセットしてからベッドに倒れこんだ。
 ああ、やることがあったんだわ。
 そう思い出して、いつもどおりパンパンにふくらんだかばんから書類を山ほど出す。売り上げ表、新製品のアイデア、顧客アンケートなどなど・・・・・・。
 それらの書類を目でザッと追ってから、けいこはため息をついた。あまり気が進まないが、今までの給料の倍になるというのだから仕方がない。
 携帯電話を取り出して、大丸デパートのライバル社である丸甲デパートの番号をプッシュする。彼女の指には迷いが無い。
 電話を終えると、けいこは書類をていねいにかばんにしまいこみ、たくさんの疲労感とともに眠りについた。

 デパートの店員であり、なかなか仕事をやめられない産業スパイでもある彼女の苦労は、これからも続くのであった。

                           <おわり>

 



[19413] ショートストーリー ちょっとファンタジー
Name: 波瑠◆b3f8a5e0 ID:bc400a60
Date: 2010/06/11 17:59

 泳ぐ

 泳ぐという動きは、いささか疲れるものである。
 そう思いながらも自分から泳ごうとしてしまう私が、おかしいのか。

 1、2、3、4、5・・・・・・。
 リズムよくカウントして、私はひたすら腕を動かす。
 息が苦しい。足がもつれる。それでも私は泳ぎ続ける。
 6回目のターンだ。ようやくゴールに近づいたような気がして、私の腕は回転を速めた。ぐんぐん進む。全身が、水という優しい膜に包まれていくようだった。
「鈴木ー、タイム縮んでるぞ。ほら、あと一息!」
 コーチの声が、私を現実世界に引き戻した。そうだ、タイムを縮めなければ。
「ゴールっ!」
               ☆ ☆ ☆ 
 水から出るのは、何分ぶりだろう。大きく深呼吸をできることが幸せに感じられるのは、泳いだあとくらいだ。
 私は、なかなかいいタイムを出した。大会の基準はクリアしているが、それでも優勝することは難しい。スポーツって、そういうところが厳しいな、って思う。
 私が泳いでいる時、私の意識は別の世界へ飛んでいってしまうことがよくある。もう、タイム縮めるとかそんなことは頭から消え去って、泳ぐ喜びしか感じられなくなってしまう。これは良いことなのか悪いことなのか、コーチに言ったら
「そんなことだから、おまえは大会で優勝できないんだ!」
なんて言われて怒られちゃったけど。
 でも、私は悪いことじゃないと思う。何事も楽しくなきゃできないわけだし、自分で言うのもなんだけど、水泳が好きって気持ちの表れだと感じてるから。『好きこそものの上手なれ』って言うじゃん。
「おい、何ボーッとしてる!」
 厳しいコーチの声が飛んだ。私は首をすくめる。
「次、個人メドレー3本!」
 私はこれ以上小言を言われまいと、あわててプールに飛び込んだ。
               ☆ ☆ ☆
 鼻にツンと突き刺さるような感じがして、塩素の匂いが広がる。体はゆっくりと浮かび上がった。
 まずは、バタフライ。私は蝶なんだと思い込む。前へ、前へと羽ばたこうとするのだ。そうすると、自然に顔が水面に出て空気に触れる。
 次は背泳ぎ。人魚のように足を動かして―――。
 次に、平泳ぎ。これはカエルだ。大きなプールが、まるでガラスのような水面をした池に思えてくる。ひんやりとした水の感触が心地よかった。
 と突然、私の体が水中に引きずり込まれた。
 ガボガボッと、鼻や口に波が押し寄せてくる。驚いてしまって、体がうまく動かない。
「しーっ」
 突然聞こえてきた幼児の声に、私の心臓はでんぐりがえりをしそうになった。
「ボクね、水泳選手になるの!いつか、オリンピックに出るの!」
 息が苦しいけれど、声の主は私の足をガッシリとつかんで離さない。
 うれしそうな声。ああ、この子はもしかして・・・・・・
「でも、教えてくれる人がいないの」
 水中で、悲しそうにつぶやく男の子。
 プールの底は、どこへ行ってしまったのか見当たらない。深い深い水の世界のその先は、闇に包まれて無限に続いているように思えた。
 そろそろもぐっているのも限界になって、私は上へ上へと泳ごうとした。でも、男の子はなかなか逃がしてくれない。

 助けて・・・。
 たすけて・・・。

 私の声と、男の子の声が重なった。
              ☆ ☆ ☆
 1、2、3、4、5・・・・・・。
 私は、泳ぐ。泳いで泳いで、泳ぎ続けている。
「今日の練習は、これで終わり」
 この言葉を聞くまでの時間、どれだけ長い間、私は水中にいたのだろう。
「そうだ、鈴木。最近調子がいいみたいだが、どうしたんだ?この前はあんな浅い所でおぼれて、コーチはびっくりしたぞ」
 私はそれには答えずに、迷わずロッカーへ向かった。
 
 担当のコーチの責任か?
 自業自得だったのだろうか?
 たまたま、悪い偶然が重なっただけだったのか?

 その答えは、男の子にしか分からないだろう。いや、あの子にすら、分からなかったのかもしれない。
 
 どんなことがあっても、私は泳ぐ。

                          <おわり> 


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