普天間飛行場移設

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在日米軍再編:普天間移設 在沖縄海兵隊8000人の移転先 「反基地」傾くグアム

 <追跡>

 在日米軍再編で、在沖縄海兵隊約8000人の移転が予定される米領グアムは今、地元知事が4年後の移転期限の延長を求めるなど急速に「反基地」へ傾いている。米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設先として、「県外・国外移設派」はグアムに受け入れを期待するが、当初は知事らが受け入れに前向きだった現行計画は実施さえ危ぶまれる。リゾートの島からはオキナワと似た構図が浮かび上がる。(3面に「転換期の安保2010」)

 ◇拡張、重い負担

 エメラルドグリーンのサンゴ礁の海は太陽の光が差すと黄緑に色彩を変えていく。沖縄から南東約2200キロのグアムは沖縄本島の約半分の小さな島だ。観光客がマリンスポーツを楽しむはるか遠くに米海軍の艦船が停泊しているのが見える。時折、軍用機がごう音を響かせながら上空を飛んでいった。

 島の中心部ハガニア。3月23日、オバマ米大統領の顧問(環境政策担当)を務めるホワイトハウスのナンシー・サトリー環境諮問委員長が地元議会を訪れ、議員らの意見を聞いた。協議は非公開だったが、毎日新聞が入手した議事録によると、さながらサトリー氏への糾弾集会となった。

 ベン議員「島民は新たな土地接収には断固闘う。基地拡張は我々の生活を今後300年変えてしまう」

 エスパルドン議員「基地拡張に伴うインフラ整備に米政府は何の支援もしていない」

 レスピシオ議員「連邦政府とグアムの歴史的に不平等な関係を今こそ正すときだ」

 激しいけんまくの議員に、サトリー氏は「基地拡張がグアムの人々にとっても利益となるよう最大限努力する。皆さんの声はすべてワシントンに持ち帰ります」と答えるのみ。具体的な約束はなく、官僚的対応が参加者を落胆させた。

 基地問題担当のグサーツ議員は「失望した。パートナーシップというなら大統領は責任を果たすべきだ」と語った。

 きっかけは昨年11月に米軍が出した暫定環境影響評価だ。「寝耳に水」(クルズ副議長)の新規の土地借用や大規模な海底しゅんせつ計画があった。米環境保護局(EPA)は今年2月、この暫定評価に対し、「環境保護の観点から不十分」と烙印(らくいん)を押し「計画通りに実施すべきでない」との意見書を軍に送った。島に衝撃が走った。

 米軍によると、土地借用は、移転する海兵隊の射撃場確保などのため。しゅんせつは原子力空母を入港させる目的だ。

 工事関係者を含め、島の人口はピーク時に今の1・5倍の26万人に急増する。それなのに水供給や下水処理施設計画などを軍は十分に策定していない。

 EPAは意見書で「島全体で水が不足し、(汚水による疫病など)公衆衛生を含めた甚大な影響が出る」。海底しゅんせつ計画も「28ヘクタールもの貴重なサンゴ礁に受け入れがたい影響を与える」と指摘した。

 ◇インフラ整備費3700億円 「日本が払うか」

 グアム政府は基地拡張に伴う汚水処理・発電施設整備や、道路や橋の補修に計39億ドル(約3700億円)が必要になると試算。島の予算の8倍だ。

 グアム政府のシンセキ基地拡張局長は「連邦政府は資金負担を確約せず、島が破綻(はたん)する」と言い、こう問いかけた。「日本政府が払ってくれるのだろうか」

 北部にアンダーセン空軍基地、中西部にアプラ港海軍基地を抱えるグアムは面積の3割が米軍用地だ。01年以降のアフガニスタン戦争とイラク戦争で戦死した島出身者は17人に上る。

 カマチョ知事は2月15日の年次教書演説で「人口1人当たりで、米国のどの州よりも人命と土地をささげてきた」と強調した。

 さらに求められる「犠牲」。グアム議会は2月11日、基地拡張計画の修正を求める決議を採択。カマチョ知事も4日後の教書演説で「基地拡張を14年より後に延期すべきだ」と宣言した。日本の社民党は普天間飛行場のグアムへの全面移設を提案した。だが、グアム議会や知事は現行の移転計画にすら厳しい感情を抱いている。

 オバマ大統領は3月末に予定していたグアムや豪州への外遊を延期した。

 グアム観光相を務めるクルズ議会副議長は言う。「正直、来なくてよかったと思った。ワシントンの人間はバーチャルでしか考えていないのではないか。島で何が破壊されようとしているのかを見てほしかったが、人々と語り合う予定すらなかったからだ」【グアム・ハガニアで隅俊之、外信部・杉尾直哉】

毎日新聞 2010年4月3日 東京朝刊

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