香山リカのココロの万華鏡

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香山リカのココロの万華鏡:年度末こそ「忙中、閑あり」 /東京

 いよいよ年度末。会社勤め、役所勤めの人たちは、ますます仕事に追われているのだろう。

 診察室を訪れる人の中にも、「3月いっぱいは忙しくてもう来れないので、次回は4月に」と言ったあとで、「年度末なので気を抜けなくて」とつけ加える人が少なくない。

 「気を抜けない」。常に緊張して、力を抜かずに、全力で目の前の仕事に集中し続けてる、といった意味なのだろう。想像するだけで気持ちが重くなってくる言葉だ。

 かつては「忙中、閑あり」などと言って、忙しいあいだにもちょっと気持ちやからだを休める時間を取るのがあたりまえで、かつカッコいい、といった考え方があった。デキる人ほど余裕がある、といったタイトルで趣味の特集などを組んでいた雑誌も多かったように思う。

 ところが、いまは少し違う。〓余裕のあるフリ〓などをしてもしようがない、時はカネなり、とにかく常にアンテナを張りめぐらせて情報を集めチャンスを逃さず、〓結果を出す〓ために前進また前進……。

 そんなパワフルな姿勢を見せておかないと、あっというまに〓あいつはダメ〓という目で見られてしまうのだ。

 とはいえ、人間は機械ではないのだから、常に「気を抜かない」などと言ってがんばり続けることはできない。いや、機械だってしばらく稼働させたら、熱を冷ますなどの休憩タイムが必要だろう。まして私たち人間は、本来は8時間働いたらその倍の時間は、ゆっくりしたり楽しんだりしなければ身がもたないはずなのだ。

 年度末、今こそ不眠不休で気を抜かずにがんばろう、と思っている人もいるだろうが、逆に「年度末だからこそ」と会社の窓から外をながめ、春の空や花を楽しむ心のゆとりを大切にしたいもの。

 何も仕事中に何時間もぼーっとしなさい、というわけではなくて、1時間に5分とか2時間に15分とか、そのくらいでもかまわない。あるいは、通勤の電車の中くらい、経済新聞や英語のテキストを開かずに、ぼんやりと頭の中で俳句や詩を作ってみたり、というのもいいかもしれない。

 忙中、閑あり、これぞデキる仕事人間の条件だ。再びこんなフレーズが雑誌などで輝く日がこないかな、と願っている。

〔都内版〕

毎日新聞 2010年3月23日 地方版

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