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復帰後も過重基地 憲法で見た「普天間」2010年5月3日  このエントリーを含むはてなブックマーク Yahoo!ブックマークに登録 twitterに投稿する

 米軍普天間飛行場の移設先決定が大詰めを迎えている。昨年の衆院選で「県外・国外」を訴え、政権交代を果たした鳩山政権は、名護市辺野古へのくい打ち桟橋方式による滑走路建設などで決着を図る考えだ。憲法施行から3日で63年を迎えたが、全国の米軍専用基地の74%が集中する沖縄は1972年の本土復帰後も過重な基地負担を強いられ、「明らかに不公平、差別に近い」(仲井真弘多知事)状況。「平和的生存権」「法の下の平等」などの憲法の精神からは、かけ離れた実態が続く。憲法の視点から普天間返還・移設問題を再検証した。(与那嶺松一郎、内間健友)
【平和的生存権】「命の危機」現実問題
 「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有する」。憲法前文で明記されている「平和的生存権」だ。
 2004年、普天間飛行場から飛び立った米軍ヘリが沖縄国際大学に墜落。奇跡的に死傷者は出なかったが、市街地の真ん中に位置する基地が、周辺住民の命を日常的に脅かしている実態をあらためて示した。
 憲法学者の高良鉄美琉大教授は1950年代前半の朝鮮戦争の際、在沖基地への夜間攻撃を想定した米軍が、住宅地に灯火管制を指示したことを挙げ、基地を抱える沖縄は現在でも攻撃目標となる可能性を指摘。ヘリ墜落などの事件事故を合わせて、「抽象論ではなく、沖縄では平和に生きる権利が具体的に脅かされている」と強調する。
 政府が「沖縄の負担軽減につながる」と説明する県内移設を、「平和的生存権の侵害が県内の別の所に移るだけであり、問題解決にはならない」と批判する。
 普天間では米軍機の離着陸の安全確保のために土地利用を禁止すべき区域が、飛行場外にはみ出し、小学校や公民館などに重なることも明らかになっている。
 高良教授は「健康で文化的な最低限度の生活」をうたう憲法25条や、関連する「環境権」などの観点からも問題があると指摘する。

【法の下の平等】裁判所、判断を回避
 県民大会で仲井真知事は基地の状況を「差別」と従来にない強い表現で批判した。米軍基地が集中する状況を専門家は憲法の「法の下の平等」に反すると指摘するが、司法は「不平等」との判断は避けている。
 1995年、米軍用地特措法と土地収用法に基づく土地調書などの代理署名事務を大田昌秀知事(当時)が拒否。知事は基地重圧の苦悩を訴えたが、高裁、最高裁ともに「著しく公益を害する」とし代理署名を命じた。高良教授は「基地集中は明らかなのに、不平等が認められないのは理解できなかった」と振り返る。

【民主主義】県外移設の民意を軽視
 4・25県民大会は県内移設に反対する県民要求のうねりを示したが、新政権の発足以来、政府と沖縄との間では「民意」をめぐる認識に深い溝が横たわっている。民主主義国家として、憲法前文でうたった「国民主権」の原則。ところが、1月の名護市長選挙の結果について平野博文官房長官が「斟酌(しんしゃく)しなければならない理由はない」と住民自治の軽視ともとれる発言するなど、歴史的な政権交代に寄せた県民の期待は、不信と反動を招きつつある。
 昨年の衆院選前に、鳩山由紀夫首相は「最低でも県外」と繰り返し、沖縄のすべての選挙区で現行案反対を訴えた候補者が勝利した。今年に入ってからは、名護市で「海にも陸にも新たな基地は造らせない」と明言する市長が誕生。県議会でも、県内移設を容認してきた県政与党の方針転換があり、国外・県外を求める意見書が全会一致で可決された。
 それにもかかわらず、政府内には5月末決着に向け、現行案を修正した県内移設で決着を図る姿勢が見られる。三宅俊司弁護士は「国民は政権に対し、基本的には(選挙で)約束した範囲内で権限を与えている。選挙の公約の範囲を超えれば、絶対権力者と同じだ」と総選挙での主張を公然と翻す対応を批判した。

【9条と安保】軍事的一体化進む
 日本国憲法を特徴付けるのが、平和主義を掲げた9条の存在だ。しかし、9条が戦争の放棄・不保持を規定する一方で、改定50年を迎える日米安全保障条約は米軍の国内駐留を認めてきた。国土の0・6%にすぎない沖縄に米軍専用施設の74%を押し込め、世界の紛争地へ在沖海兵隊が出兵していく日米安保の実態は、憲法の理念と大きく乖離(かいり)している。さらに「日米同盟」の名の下に自衛隊が米軍の世界戦略に組み込まれ、憲法をなし崩しにした軍事的一体化が進む。
 普天間飛行場の移設問題をめぐり、鳩山政権の閣僚らが盛んに主張する在沖海兵隊の「抑止力」だが、実際の部隊展開はイラク戦争の前線での戦闘行動など、日米安保の適用範囲である極東の枠を逸脱。海兵隊の沖縄駐留の必要性や根拠が明確でないまま、米軍統治時代からの基地の占有が続く。
 復帰運動では「核抜き・本土並み」をスローガンに掲げたものの、有事の際の核持ち込みを認める「密約」の存在など、平和憲法の適用を求めた県民の望みは裏切られた形だ。
 さらに、2001年の米中枢同時テロ以降は、米国が主導する「テロとの戦い」に自衛隊の協力が求められていく。憲法論議も深まらないまま、自衛隊によるインド洋での給油活動やイラク派遣が実施された。
 06年の在日米軍再編の最終報告では、名護市辺野古へのV字形滑走路建設のほか、キャンプ・ハンセンの陸上自衛隊の共同使用、嘉手納基地を使った日米共同訓練も盛り込まれた。自衛隊が米軍の役割を補完するほか、将来的には紛争地での合同運用を見据えるなど、9条見直しに向けた既成事実化を危ぶむ声が上がる。


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