2010年6月11日
熱演、という言葉がよく似合う。演技はひたむきだが、抑制をきかせて陰影深い。
1990年代、TPT(シアタープロジェクト・東京)でデビッド・ルボーの演出の下で舞台を踏み、演技派俳優として頭角を現した。テレビドラマや映画にも活躍の場を広げている。
今回は舞台に立ち返り、新版の不条理劇に挑む。
「演劇学校に通い始めたばかりの生徒みたい。人に見せる以前に自分たちで楽しみ、いろんなやり方を試している段階」
今回の舞台は、現代アメリカを代表する劇作家エドワード・オルビーが、デビュー作「動物園物語」(58年)に半世紀近くの時を経て“前景”を書き加えたもの。もとは、中産階級の安寧に強烈なくさびを打ち込んだ一幕劇で、妻子ある男が公園で見知らぬ男にからまれ、劇的なラストを迎える。ここに、男が公園に行く直前の妻との不穏な会話を前景として織り込み、第1幕「ホームライフ」、第2幕「動物園物語」からなる「アット・ホーム・アット・ザ・ズー」として再構成した。
「主人公は安全かつ平和でいたいと願う、誰でもなりうる男。『ホームライフ』では、彼ら夫婦が急に言葉で遊び出す。現代ならば、平和な家庭で、人を殺すテレビゲームを虚無を感じながら続けるようなもの」
そうした状況を提示して、あとは観客に解釈してもらうのだという。「腹の中を表現してしまう方が楽で、役者として安心できる。だが、そこをどうやって溜(た)めていけるか、です」
演出の千葉哲也と「小さな劇場で2年に1回くらいのペースで何かやりたい」と話していて企画が立ち上がった。
「動物園でいったい何があったのか? 不条理でわからないんだけど、イメージはわかる。主人公が日常のおりに入っていて、出られない感じを受けた」
公開中の映画「孤高のメス」では、人の命を救うために闘う外科医を演じている。「映画はリアルな演技が、テレビは瞬発力が求められる」。映像の仕事が増えても「年に2回は舞台に立ちたい」。
「舞台は、けいこにひと月もの時間をかけてつくる。その過程が重要。演出家や相手役から学ぶものは多い。何か一つ見つけるだけで喜びがあり、次へのエネルギーがみなぎる」(文・小山内伸 写真・鈴木好之)
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つつみ・しんいち 1964年、兵庫県出身。舞台「キル」「ピアノ」、ドラマ「やまとなでしこ」、映画「ALWAYS 三丁目の夕日」などに出演。「アット・ホーム〜」は17日〜7月19日、東京・三軒茶屋のシアタートラムで。