1カ月前、鳩山由紀夫首相は米軍普天間飛行場の移設問題で「辺野古の海に立てば、埋め立てられることは自然に対する冒涜(ぼうとく)だと大変感じる。現行案を受け入れられるという話があってはならない」と述べた。
名護市辺野古移設の現行案を修正して最終決着を模索する政府内の動きを強く否定したものだった。
就任後2度目の来県で鳩山首相はその考えを百八十度変えた。
仲井真弘多知事との会談で、首相は「普天間の代替地は辺野古の付近にお願いせざるを得ないとの結論に至った」と述べた。自らが再三批判してきた自民政権時代の現行計画への事実上の回帰だ。
◆首相に「三つの軽さ」
普天間の「県外・国外」移設を求める県民の期待と信頼を裏切る行為だ。辺野古移設について知事は「極めて厳しい」と述べ、名護市の稲嶺進市長も「到底受け入れられない。実現可能性はゼロに近い」と怒りをあらわにした。民意の代弁者として当然の姿勢である。
これに対し、鳩山首相の姿勢には三つの軽さを感じる。一つは「言葉の軽さ」だ。昨年の衆院選で「最低でも県外」と述べ県外・国外移設への県民の期待値を上げたのは首相自身だ。「自然に対する冒涜」と語った現行案への回帰は自己否定に等しい。県民から「うそつき」と批判される「言葉の軽さ」を恥じているのだろうか。
二つ目は「政治主導」や外交方針に関する「信念の軽さ」である。
首相は知事との会談で県内移設による決着について「昨今の朝鮮半島の情勢からしても、東アジアの安全保障環境は、まだ不確実性が残っている。海兵隊を含めた、在日米軍全体の抑止力を低下させてはならない」と説明した。
在沖海兵隊の抑止力に対し、防衛問題の専門家からも疑義が指摘される中、首相が官僚の説明をうのみにし「抑止力」を持ち出すのは不見識だ。「政治主導」の看板をかなぐり捨てるつもりなのか。
鳩山首相は昨秋、シンガポールで行ったアジア政策講演で自らの「東アジア共同体」構想により、過去の戦争で被害を与えた諸国との「和解」達成を目指す姿勢を示した。アジアの平和と繁栄に果たす米国のプレゼンス(存在)の重要性を指摘した上で米国も参加するソマリア沖の海賊対策での協力を例に挙げ、「アジア太平洋地域の海を『友愛の海』にしよう」とも呼び掛けた。
日米同盟を基軸としつつアジアへの関与を高める首相の姿勢は、国際協調による安全保障環境の改善への意欲を示したもので、方向性は評価できる。
だが、知事との会談では東アジアの安保環境の「不確実性」を指摘し「抑止力を低下させてはならない」とした。「友愛の海」を目指す首相の信念はどこへ行ったのか。軍事力を頼みに平和と繁栄を語るなら軍部や軍人の発想と変わらない。
◆民意に立脚した同盟を
三つ目は、民主主義や人権への「認識の軽さ」だ。昨年の衆院選で普天間の辺野古沿岸移設を主張した自民候補者が全員落選。県議会は普天間の「国外・県外」移設を決議し、名護市長選では辺野古移設拒否の稲嶺進氏が当選した。
各種世論調査では一貫して普天間の「県内移設反対」が多数を示している。先月の4・25県民大会でも「県外・国外」移設の民意を明確に国内外に発信した。
この期に及んでもなお「民意」を踏みにじるのか。県内移設の押し付けに対し「沖縄差別」と感じる県民が増えている。首相は、県民の“マグマ”が爆発寸前であることに十分留意すべきだ。
鳩山首相は「できる限り県外だという言葉を守れなかったこと、結論に至るまで県民に混乱を招いたことを心からおわび申し上げたい」と謝罪した。その上で普天間移設と連動した負担軽減策として、県内の米軍訓練の一部移転・分散について、全国知事会で協力を要請すると説明した。
訓練移転は、負担軽減で一時的な効果はあっても根本解決にはつながらない。訓練移転で本来なら負担が軽減されるはずの嘉手納基地でも外来機の飛来が増え負担が増加した。県民は訓練移転が弥縫(びほう)策にすぎないことを見抜いている。
成算のない辺野古案の追求は、「日米同盟」への反発を高めるだけで、愚策以外の何ものでもない。首相は今からでも国外移設や撤去で対米交渉をやり直すべきだ。県民、国民は民意に立脚した「対等な日米関係」こそ求めている。
次の記事:>> 今日の記事一覧
今月の記事一覧
最近の人気記事
Photo History
琉球新報掲載写真でつづるオキナワの歴史
しんぽう囲碁サロン
世界中の囲碁ファン会員と対局
ライブカメラ
琉球新報泉崎ビルに設置したライブカメラ
りゅうちゃん商店
ウェブサイトからも購入可能に!
ちょBit
新報パーソナルアド
ウイークリー1
沖縄県内・県外就職・求人情報ニュースサイト
琉球新報の本
琉球新報の本がネットでも購入できます
週刊レキオ
生活情報満載の副読紙。毎週木曜お届け
新報カルチャーセンター
130講座 学ぶ楽しさがいっぱい
新報ローカルブログ
ミニコミ紙連動のローカル情報
〒900-8525 沖縄県那覇市天久905
紙面・記事へのお問い合わせは、読者相談室までどうぞ。
電話098(865)5656 (土日祝日をのぞく平日午前10時〜午後4時)
©The Ryukyu Shimpo
本ウェブサイト内に掲載の記事・写真の無断転用は一切禁じます。すべての著作権は琉球新報社または情報提供者にあります。