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クローズアップ2010:宮崎口蹄疫 封じ込め失敗か 消毒徹底「物流を制限」

 宮崎県で感染が続く家畜伝染病の口蹄疫(こうていえき)は、国内最大級の畜産地帯である都城市でも感染の疑われる牛が確認され、農家など関係者に衝撃を与えた。10日には宮崎市などでも感染疑いの家畜が確認され、感染を県央部に封じ込めようと国や県が進めてきた対策は失敗した可能性が高い。都城市は、豚と和牛の飼育頭数全国一の鹿児島県に隣接し、関係者は拡大防止対策に追われている。

 都城市では、口蹄疫発生農家から半径1キロ圏内の地域に外部から進入できないよう、市道などの道路が封鎖された。住民は自主的に消毒作業を行い、「自己防衛」に追われた。

 トラクターから路上に消毒液をまいていた同市高崎町の畜産業、田ノ上義秋さん(42)は「まさか都城で感染が出るとは。行政の対応が後手後手に回っているのではないか」と唇を震わせる。同じく消毒作業をしていた同市高崎町の四位(しい)勝己さん(62)は「これ以上広まったら壊滅的ダメージになる」と危機感を募らせた。

 同市にあるJA系列の食肉処理場「ミヤチク高崎工場」も、移動制限区域(発生農家から半径10キロ以内)に入り、稼働を停止した。市内だけで県全体の牛肉出荷の約3割を占めており、同工場の黒木政敏・営業本部長は「6月中に牛140頭、豚2万2000頭の処理を予定していた。被害が最小限にとどまってほしい」と祈った。長峯誠・都城市長は「膨大な量が出荷できなくなる。県産ブランド『宮崎牛』の損失は大きい」と声を震わせた。

 都城市と県境を接する鹿児島県も、迫る脅威に厳戒態勢をとる。同県に拡大すると、全国的に有名な黒豚をはじめ食肉の供給に大きな影響が出る。

 鹿児島県曽於(そお)市の曽於中央家畜市場は、年間に競り落とされる子牛の頭数が2万4000頭と全国最多。曽於市中心部から都城市中心部までは車で20分足らずと近く、都城市の大型商業施設の駐車場には鹿児島ナンバーの車がずらりと並ぶ。曽於市の担当者は「都城は同じ生活圏。人、車の交流が多く非常に深刻」と警戒感を強める。

 伊藤祐一郎・鹿児島県知事は10日「準非常事態」を宣言。記者団に「両県の物流、移動をある程度制限せざるを得ない状況」との認識を示し、県境の一般道路を封鎖し、幹線道路で車両消毒を徹底させる意向だ。【中尾祐児、小原擁、福岡静哉】

 ◇感染ルートは車?

 農林水産省と宮崎県は、県央部から感染を拡大させないよう対策を進めてきた。移動制限区域と、搬出制限区域(発生農家から半径10~20キロ)を設定。移動制限区域では、感染疑いのない家畜にワクチンを接種して感染拡大を遅らせたうえで殺処分を進める。搬出制限区域では、出荷を促進して家畜を減らし、家畜を通じた感染拡大を防ぐ「緩衝地帯」を作るとしてきた。

 また、主要道路などに消毒ポイントを多数設置し、通行車両の消毒を続けている。県西部のえびの市の制限区域が解除された6月4日ごろからは、新たな感染疑い例の発生が減少傾向にあり、ワクチン接種の効果が表れたとみられていた。都城市での疑い例確認はその直後だった。

 なぜ、感染は拡大したのか。向本雅郁・大阪府立大准教授(獣医感染症学)は「距離から見て、人や車がウイルスを運んだ可能性が高いだろう。ワクチン接種すると感染しても症状が出にくく、そういう牛に人が接触し、知らないうちにウイルスを運んでしまうこともある」と話す。

 明石博臣・東京大教授(動物ウイルス学)も、感染ルートは車とみる。明石教授は「最新の農水省・家畜衛生週報には、移動制限区域内でワクチン接種後、消毒が徹底されなくなったとのエピソードが紹介されている。事実なら、今回の拡大と関連があるかもしれない。基本的な消毒を再度徹底することが必要だ」と指摘する。

 県央部では今も、感染疑いで殺処分対象なのに未処分の家畜が約3万頭もおり、ウイルスを発散している。緩衝地帯を作るための出荷も進んでいない。

 佐々木隆博・農林水産政務官は10日、「『特別措置法ができて消毒に気の緩みが出たのではないか』とは言われていたが……」と語った。【佐藤浩、奥野敦史、藤野基文】

 ◇写真判定で殺処分

 都城市での感染拡大は防げるのか。

 山田正彦農相は「まだ1件目。ここで迅速な対応ができれば、えびの市のように清浄化することは十分可能だ」と語る。

 農水省は9日、都道府県に対し、口蹄疫の症状がある家畜を確認した場合、遺伝子検査を待たずに写真で感染疑いと判断できれば、24時間以内に殺処分することを求める通知を出した。殺処分までの時間を1日程度短縮できるからだ。

 都城市では既に、この措置を実施した。県が農水省と協議し、検査結果が出る前に発生農場の牛208頭をすべて殺処分した。

 一方、ワクチン接種の予定はない。山田農相は「えびの市は接種せずに封じ込めができた。えびの市の例もあるし、都城市も頑張ってほしい」と話す。

 6月4日施行の口蹄疫対策特別措置法は、まん延防止のため感染疑いがない家畜でも強制的に殺処分できることを盛り込んだ。感染が拡大した場合は、都城市でも選択肢となる可能性がある。【佐藤浩】

毎日新聞 2010年6月11日 東京朝刊

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