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きょうの社説 2010年6月11日
◎子ども手当 見直すなら一から設計を
石川、富山県で子ども手当の支給が本格的に始まるなか、長妻昭厚生労働相が2011
年度からの満額支給を事実上断念する考えを明らかにした。受給者からは制度の継続を不安視する声が漏れており、今後の見通しが立たない状況では、子ども手当の意義も十分に生かされない。半額の月額1万3千円に据え置いたまま、予定通り、所得税などの15歳以下の扶養控 除が廃止されれば、年収によっては税負担で手当が大きく目減りし、子育ての経済的支援という本来の目的が損なわれる。満額を前提にした税体系の見直しは避けられないだろう。 石川、富山県内では手当支給に合わせ、給食費や保育費の滞納分支払いを働きかける自 治体もある。法律では差し押さえなどを禁じたため強制徴収はできないが、自治体が子ども手当で穴埋めしたいと思うのは当然だろう。滞納と相殺できる仕組みづくりも今後の課題である。子どものために使うことを徹底させるなら、給食費などを無料化する選択肢もある。 民主党が満額支給を断念するのであれば、この際、制度を一から設計し直してはどうか 。支給段階で浮上した課題も反映させ、安定した仕組みに作りかえる必要がある。昨年の衆院選で掲げた目玉政策を修正する以上、国民に説明を尽くし、少なくとも参院選で一定の方向性を示してほしい。 子ども手当では、子どもを母国に残す在住外国人も対象になっているが、外国にいる子 どもに支給することも大きな疑問符がついている。参院選に支給を間に合わせるため、従来の児童手当に接ぎ木して制度設計を急いだことで、多くの課題が積み残された。そのしわ寄せは自治体の事務作業にも及び、子ども手当を機に国と地方が少子化対策推進でスクラムを組む形になっていないのは極めて残念なことである。 満額支給を見送れば、政府の子育て支援策が後退する印象を与えかねない。少子化担当 相を、民主党政調会長で公務員改革も担う玄葉光一郎氏に兼務させたことも政府の強い意思が伝わらない一因だろう。菅新政権は直接給付の在り方を含めた子育て支援の全体像を新たに打ち出す必要がある。
◎事務所費疑惑 「クリーン」の看板が泣く
「クリーンな政治」を掲げる新政権に早くも「政治とカネ」の問題が浮上した。荒井聡
国家戦略担当相の事務所費疑惑は、かつて実態がないと思われる場所を後援会の「主たる事務所」として届け出て、事務所経費を計上していた赤城徳彦、太田誠一両農相(当時)らのケースとそっくりである。当時、民主党代表代行だった菅直人首相は、赤城農相に対して「きちんと領収書をそろえて説明すべき。それができないなら辞めるべきだ」と迫った。立場が代わったら、途端に素知らぬ顔では「クリーン」の看板が泣く。鳩山由紀夫前首相と小沢一郎前幹事長のツートップの辞任は、いずれも「政治とカネ」 が一因だった。それにもかからわず、2人は説明はおろか、辞任会見すら開こうとしなかった。「政治とカネ」の問題に関して、民主党はむしろ自民党以上に自浄作用を欠き、だれも責任を取らない無責任体質がはびこっているように見える。 菅政権が「脱小沢」を標ぼうし、クリーンさをアピールするなら、荒井氏の事務所費疑 惑や鳩山、小沢両氏の「政治とカネ」の問題、さらに北海道教職員組合の違法献金事件をめぐる小林千代美衆院議員の問題などについて、本人が詳細に語る場を設ける必要がある。そうでなければ、首相交代の「ご祝儀相場」は、長続きしないのではないか。 事務所費をめぐっては、06年から08年にかけて、自公政権の閣僚に立て続けに問題 が発覚し、民主党など当時の野党が「裏金の温床」などと厳しく批判した。これによって、佐田玄一郎行政改革担当相が辞任、松岡利勝農相が自殺、赤城農相が事実上更迭され、太田農相も辞任に追い込まれた。当時の鳩山民主党幹事長は、本人の辞任はもとより、安倍晋三首相や福田康夫首相の「任命責任」を追及していたのではなかったか。 自民党は、荒井氏だけでなく、蓮舫行政刷新担当相と川端達夫文部科学相にも事務所費 を不正処理した疑いがあるとして質問主意書を衆院に提出した。政府与党はこの問題をうやむやにせず、説明責任を果たす必要がある。
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