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2009年度「水産白書」

 〈目には青葉山ほととぎす初鰹(はつがつお) 素堂〉。初物を食べると寿命が延びるとされ、中でも初夏に旬を迎える初ガツオはその昔、江戸っ子に珍重された。「女房子供を質に出してでも食え」とさえ言われ、高値を呼んだとか▼旬は食材が最もおいしい時季を指す。京都の夏の旬といえば、ハモが思い浮かぶ。梅雨が明けたころのハモは脂が乗って美味。ハモ祭りともいう祇園祭に、巧みに骨切りしたハモ料理は欠かせない▼年間を通して出回るアジも、まさに今が旬。〈夕河岸の鯵(あじ)売る声や雨あがり 荷風〉の句のように夏の季語となる。イワシやサバと並ぶ大衆魚の代表格だったのに「食卓の主役」の座を昨今、サケに明け渡したそうだ▼先ごろ発表された2009年度「水産白書」は、日本人の生活様式の変化などに伴い、この半世紀で人気の魚が大きく様変わりしたと指摘する。1965年の鮮魚の1人当たり購入量1位はアジ、次いでイカ、サバと続く▼それが09年にはサケが首位を奪取、イカは2位を維持し、マグロが3位入りした。冷凍技術の進歩に加え、切り身や刺し身の形で売られ下ごしらえが要らない魚が食卓に上る傾向がうかがえる▼とはいえ、全体としては魚離れに歯止めがかからない。確かに魚は調理が少し面倒そうだし、小骨もあって食べにくい。ついつい敬遠しがちだが、やはり旬の味にこだわってきた日本の食文化を大切にしたい。

[京都新聞 2010年05月28日掲載]

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