関係者には周知の事実だが、マスコミの不勉強のために報道されない事実がある。

口蹄疫ワクチンが存在するのに、接種されず、殺処分ばかりやっているのは、非関税障壁を維持したい畜産業界と、それに結託した(自民党時代の)農林水産行政のせいである。もちろん、赤松農林水産大臣とも、民主党政権とも関係がない。
さて、ここで皆さんにうれしいニュースをお知らせいたします。それは6月9日の北海道での終息宣言から3ケ月が経過したわけですが、その間新たな発生がなく、また今回の発生時には蔓延防止のためのワクチンを使いませんでした。そこで、畜産局衛生課は国際獣疫事務局(OIE)に対して日本における口蹄疫清浄化復帰を宣言し、日本時間の昨晩(9月26日)OIEの口蹄疫委員会からもその認定をかちとることができたとのことです。発生以来半年といった短期間での清浄化が達成できました。これは世界的にみても快挙であり、オリンピックならさしずめ金メダルといえるでしょう。わが家畜衛生関係者にとって誇るべき防疫活動の結果を皆さんに報告し、喜びを分かち合いたいと思います。
平成12年9月27日
家畜衛生試験場長 寺門誠致

10年前の文章である。「ワクチンを使いませんでした」という言葉に着目してもらいたい。素人には何のことだかわからないだろう。大抵の伝染病と同じように、口蹄疫もまた、ワクチンを使った方が、安いコストで蔓延を防げることは明白だからだ。

「清浄化」という言葉もある。これも、素人にはよくわからない言葉である。単に口蹄疫が発生していないという意味ではない。「新たな発生がない上、ワクチン接種すらしていない」という意味を含むのである。
 
なぜ、ワクチン接種の有無が問題になるのか。「清浄国」なら、「清浄国」に対して食肉を輸出できるばかりか、「汚染国」からの食肉輸入を禁止できるからである。

輸出入の差額から考えれば、明らかに、後者の目的が主である。ところが、報道では「和牛の輸出ができなくなる」という話ばかりだ。
 
結局、一連の口蹄疫騒動は、非関税障壁を維持するために、ワクチンをあえて使わなかった畜産業者と農林水産行政当局とが、自分で招き寄せた災害なのだ。
 
私は、口蹄疫という病気による被害よりも、この非関税障壁が撤廃されることによる、食肉価格の値下がりの損害の方が大きいんじゃないかと思う。

しかし、食肉価格の値下がりは、生産者にとっては損失となるが、消費者にとっては利益となる。日本が、口蹄疫「汚染国」になったことは、必ずしも悪いことではない。

(補足) 豚コレラも、ほぼ同じ状況である。
(補足2) 口蹄疫ワクチンが使用できない理由は、有効性が低いからではなく、畜産業保護のためである。

ウイルス感染の場合、有効なワクチンがあれば流行を阻止するためにはそれを使用 するのが常識ですが、口蹄疫の 場合には簡単にはあてはまりません。OIEが口蹄疫清浄国とみなす条件としてワクチ ンを使用していない国で病気が 発生していないこととなっています。口蹄疫の監視は抗体調査に依存しています。も しもワクチン接種したウシがい ると、感染による抗体か、ワクチンによる抗体か、区別ができなくなります。発生が 疑われる場合でも、これはワク チンによる抗体だと言い逃れされることにもなります。  
 今回のような限局した発生であればワクチンを使用せずに、発生のあった農場の動 物をすべて殺処分することが清 浄国の立場を保つのに必要なわけです。もしも発生地域の周辺でワクチン接種を行っ たとすると、ワクチンを接種さ れたウシがすべていなくなったのち、3ヶ月間病気の発生がないことという条件にな ります。一度ワクチンを使用す ると、清浄国にもどるには大変な手間と期間が必要となります。有効なワクチンが あっても、畜産の保護という観点 からワクチンの使用は簡単には実施できません。
霊長類フォーラム:人獣共通感染症(第96回)4/19/00