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[19327] ゆうき100%(ほのぼのらぶこめ)
Name: まるせい◆cd5b2656 ID:76a86ac6
Date: 2010/06/09 22:16
高校生の主人公「安藤大輔」は、ひょんなことからインターネットゲーム「三国志」で知り合った「橘 祐喜」とオフで会うことになる。

ゲーム内のやり取りで中2の男の子だと思っていた大輔だったが、待ち合わせ場所に現れたのは可愛らしい女の子だった。


※更新履歴

6月8日にゆうき100%その2を開始しました。



[19327] その1
Name: まるせい◆cd5b2656 ID:76a86ac6
Date: 2010/06/08 23:02
「アンダーさん居ます?」

突然メッセンジャーが立ち上がりログが表示された。

「居るよ?どうしたの?」

相手を確認するまでも無い。

現在はまってるゲーム「三国志」の仲間の祐喜だ。

こいつとの付き合いは今から3ヶ月前にさかのぼる。


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俺こと安藤大輔は悩んでいた。

高校の入学式からすでに2週間が経過してしまっていた。

親の転勤により引っ越してきた大輔は、学校に知り合いがいなかった。

新しく友人を作ろうにも回りは同じ中学の出身者同士がグループを作っており入り込めないでいた。

(まずい。このまま友人ができなければ残りの高校生活を孤独に過ごす事になる。なんとかしないと・・。)

そんなことを考えていると、気が付けば授業も終わり放課後になっていた。

部活にも入っていない大輔は他に寄るべき場所もなく早々に帰宅の準備を始めた。

そんなとき近くの席の会話がふと聞こえてきた。

「今回の仕様変更で早速レアカード引き当てたぜ」

同級生の二人が楽しそうに会話をしている。確か最初のSHRの自己紹介でゲームが好きだと話していた田中とかいったか?

「本当かよ。くそっ・・ついてるな~。俺も強い武将ほしいぜ」

(レアカード?武将?なんの話だろう)

帰宅の準備をするのをすっかり忘れ、ついつい聞き耳を立ててしまう。

どうやら彼らはインターネットゲームで「三国志」をやっているみたいだ。

ゲーム内のレアアイテムを手に入れた事を自慢していたらしい。

そこで気が付いた。

もしかしたら「三国志」をプレイすることにより彼らと仲良く会話をすることができるようになるかもしれない。



思い立ったら直ぐ行動ということで自転車にのり早々に帰宅した俺はパソコンを立ち上げ彼らの熱中しているゲームを検索した。

「三国志」というタイトルからしてかなりの数があるだろうと思っていたが、幸いなことに直ぐに見つけることができた。

そうとう人気があるらしく検索のトップに表示されゲームシステムなどの説明wikiなどもあった。

さっそくゲームに登録してチュートリアルを開始する。

たれ目の爺さんがゲームのやりかたについて色々説明してくれる。

このゲームはどうやら資源を蓄え領地を確保し他のプレイヤーと協力・敵対をして天下統一を目差すようだ。

学校で田中が言っていたレアカードとは「三国志」に登場する人物をカードにしたものらしく、人物により能力やスキルに違いがある。

当然レア度が高いカードのほうがカードとしての価値が高くて強い。

チュートリアルを終了させたあとプレゼントでカードを一枚もらえるらしく早速ブショーダスなるものを引いてみる。

メッセージが表示され一枚のカードを獲得した。

お知らせ「アンダーさんはSR関羽を獲得しました」

思わず画面を凝視してしまった。

いきなり手に入れたカードがもっとも入手難易度が高いSRだったからだ。

チュートリアルによるとカードの種類は4種類有りURとSRとRとCらしい。

右にいくほどレア度が低く弱いカードらしい。

ビギナーズラックとはいえいきなりレアを引き当てたので幸先が良いなと思いつつ次に所属する同盟先を選択する。

このゲームは個人で攻略するのは不可能。

どうしても回りの人間と協力してプレイする必要がある。

ゲームを操作して同盟リストを表示してなんとなく気になった同盟先をクリックしてみる。

「のんびり~♪」という同盟が気になり同盟説明を見てみる。

※基本まったりメインでやりたいと思います。同盟員募集!一緒に仲良くゲームできる人歓迎します。

対人がメインになるとはいえゲームであまりギスギスしたくないと思っていたので早速加入してみることに。

プロフィールにチャット部屋のアドレスがあったのでさっそく訪問してみる。



「こんにちは~」

誰も居ないかと思ったが直ぐに返事がきた。

「はじめまして。のんびりの盟主の橘祐喜です」

「あっ。どうもはじめましてアンダーです。同盟プロフ拝見してきました。宜しければ同盟に加入させて頂きたいのですが」

緊張した為一気に言い切ってしまった。

もっと話をして打ち解けてから話すべきだったか・・。

「加入希望ですね。是非よろしくお願いします。」

あっさりと加入が認められたので緊張が溶けた。

せっかくなのでもう少し会話を続けてみる。

「有難うございます。他の同盟員の人は居ないのですか?」

「他の人は社会人が多いので夜頃にいつも着ますよ~」

どうやら社会人がメインの同盟らしい。

高校生の自分と会話が合うだろうかと急に不安になってきた。

「盟主様はお仕事されているんですか?」

「僕は学生ですよ。あと盟主様と呼ばれるとくすぐったいので祐喜って呼んでください。」

学生と聞いて安心した。社会人の団体に一人だけ学生という状況は考えたくなかったからだ。

「学生なんですか。俺は今高校1年生です。祐喜は高校生?」

まだ相手との距離感が微妙にわからず前半は敬語で後半はタメ口という良くわからないことに。

「今中学2年生です。僕のほうが年下なので敬語ではなくて普通に話してもらえると嬉しいです。」

そこからはお互いに学生ということもあり学校の事や好きな漫画の話などで盛り上がり気が付けば夕飯の時間になってしまった。

「それでは晩御飯の時間になったので落ちますね」

「おう、お疲れ。またな。」

友達作りの為に始めたゲームだったが思っていたより楽しかった。

気が付けば学校で友人が出来なかったらどうしようという不安は無くなっていた。


その日は新しいおもちゃを手に入れた子供のようにドキドキしてなかなか眠りにつくことができなかった。




[19327] その2
Name: まるせい◆cd5b2656 ID:76a86ac6
Date: 2010/06/06 17:27
あれから3ヶ月。

ゲーム自体は1ヶ月前に終了しており今は2ゲーム目がスタートしている。

最初のチャットいらい不思議とウマが合ったみたいで2ゲーム目も同じ同盟でプレイしている。

「聞いてます?アンダーさん」

知り合った経緯を思い出していると祐喜からのメッセージがどんどん流れていく。

当初はチャットルームを使っていたのだが、学校の話とかプライベートで話す事が多くなったのでメッセンジャーを導入した。

ログを確認すると今週末に新しい仕様の変更が来ると書いてあった。

「もちろん聞いてるよ。新しい仕様楽しみだな。どんな変更が来るんだ?」

「やっぱり聞いてませんでしたね。2ゲーム目ということで新しいレアがでるってログに書いてるのに。」

ログをスクロールしてみると見落としてたみたいだがチャント書かれている。

「イヤ。ちょっと考え事しててさ。」

「僕が話し掛けてるのにいったい何考えてたんですか?」

「祐喜と知り合ってもう3ヶ月になるんだな~って思ってね。」

「毎日話してるからあっという間に3ヶ月も経ってましたね。」

「ゲームの話もいいけどよ。お前期末試験最中じゃなかったけ?大丈夫なのか?」

俺はすでに試験休みに入っているが中学は日程が少し違うみたいでまだ試験中と祐喜が言っていた事を思い出す。

「せっかく気分転換しにきたのに思い出させないで下さいよ。」

「中間テストのときもそんな事言ってゲームしてたじゃないか。」

「大丈夫ですよ。こう見えても僕やればできる子なんです。」

心のなかで(だけどやらない子なんだよな)と突っ込みをいれる。

あんまり苛めても可哀想なので話題を変えることに。

「そういえば7月末のゲームショウに三国志のブースもでるらしいな」

「そうみたいですよね。何でも招待券がないと一般公開での入場だからすごく混み合うらしいですよ。」

「そうなのか。招待券ってどうやって手に入れるんだろな?」

「確か、関係者がチケット配ってるらしいですよ。学生じゃあ関係者の知り合いなんて居ないし入手できなさそうですね。」

「そうだな~。関係者なんて簡単に知り合えるもんでもないしな。素直に一般で入場するか。」

その後は新しいカードはどんなのだろう?とかゲームの話をしていたら遅くなったのでお開きにした。

入手できないと思っていた招待券がひょんな事から手に入るとはこの時の俺は考えてもなかった。

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二日後。

試験休みが終わり夏休みを目前にした短縮授業の為登校した。

席につくと田中がこちらに向かってやってきた。

「おはよう。試験休みなにしてた?」

「三国志やってごろごろしてたよ。」

「新しい仕様が来るみたいだな。まだやってたんだ。」

もともと友達を作る目的ではじめた三国志は目論見どおり田中との友情をもらたしてくれた。

ゲームを始めた翌日思い切って話し掛けて同じゲームをやっていることもあり意気投合して学校での行動を共にするようになった。

しかし田中は飽きっぽい性格だったので今では他のゲームにいってしまい一緒にゲームをすることは無くなってしまった。

「ところで今度のゲームショウで三国志のブースもでるらしいよな。」

「ああ、俺招待券持ってるけど都合が悪くて行けないんだよな~。」

「まじで?関係者が知り合いに居ないと入手が難しいと聞いてたんだがどうやったんだ?」

「元盟主の人が株主でさ。同盟員の分の券確保してくれたんだよ。」

「すごい盟主だな。」

「だけど俺いけないから券2枚もらったけど無駄になるんだよな。」

券が無駄になるのに残念そうな顔をしていない。

それどころかこっちをみてニヤニヤしている。

やつが何を言いたいか察したのでこちらから切り出してやることに。

「せっかくもらった券なのにもったいないから俺が有効に使ってやろうか。」

「焼きそばパンおごりな」

間髪いれず切り替えしてきた。

やはり先に切り出したのは失敗だったのか。

俺が券を欲しがっていることがばれてしまった。

「OK焼きそばパンで済むなら安いもんだ。」

実際混雑した中を歩き回る労力を考えたら安いもんである。

「取引成立だな。券は今手元に無いから終業式の時にもってきてやるよ。」


こうして招待券が手に入った。

しかし2枚あっても一緒に行こうと思える友人は田中ぐらいしか居ない。

その田中からチケットをもらった以上1枚無駄になってしまう。

ふと祐喜とのチャットが頭に浮かんだ・・。

あいつも行きたがってたし余るのもったいないし誘ってみるか。

帰宅後メッセンジャーをつけると試験が終わって短縮授業らしい祐喜がオンラインになっていた。

「よう。試験どうだった?」

「こんにちは~。散々ですよぅ。」

「だからあれほど勉強しろっていったのにな。」

「アンダーさんってたまにお兄ちゃんみたいな事いいますよね。」

あまり指摘するものだからちょっといじけてしまったみたいだ。

「祐喜が心配だからこそ言ってるんだけどな。不愉快なようならなるべく言わないようにするよ。」

「不愉快なんてそんな・・。心配してくれて嬉しいですよ。次ぎの試験は頑張りますから見ててください。」

思っているより怒ってなかったようでほっとした。

チャットだと実際の会話と違って表情が見えないためニュアンスが伝えずらくて誤解を生みやすい。

祐喜とは今まで仲良くやっていけたのにこんなことで誤解されたら悲しいからな。

「そんな祐喜にいい話があるんだが。」

「なんですか?いい話ってゲームの事ですか?」

「半分正解かな。」

「もったいぶらずに教えてくださいよぉ~。」

「この前話してたゲームショウあるだろ?アレの招待券手に入れた。」

「えええええええ!本当ですか?よく手に入りましたね。それでいい話って?」

鈍い奴だな。

イヤ、券が2枚あると言ってないから自分の分もあると思って居ないのだろう。

「しかも2枚あるんだ。1枚は俺が使うとしてもう1枚が余っちゃうんだよな。祐喜行きたがってたろ?一緒に行かないか?」

「・・・・」

反応が無い。

もしかして実際にはそんなに行きたくなかったのか?

「ええええええええええええええええええ!」

さっきの倍ぐらいの驚きが画面からも見て取れる。

「もしかして行きたくなかった?別に無理にと言うわけじゃないけどさ。」

「一緒にって二人きりでですか?行きたく無いなんて事は無いです。突然だったので吃驚しちゃって。」

画面越しでも焦ってる状況が目に浮かぶ。

これも3ヶ月の付き合いによるものなのだろうか?

「ならOKだな。7/30の入場券だから待ち合わせ場所決めて合流して行くか」

その後は普段の祐喜らしからず、すごく興奮していた。

当日の持ち物確認や服装の話など一通り終えた後何故だから解らないが

「どんな髪型の女性が好きですか?」と聞いてきた。

少し気になったが「ポニーテールが好き」と適当に答えておいた。



[19327] その3
Name: まるせい◆cd5b2656 ID:76a86ac6
Date: 2010/06/06 17:28
待ち合わせ当日。

幸いと言うべきか天候に恵まれ気温は午前の時点で30度を突破した。

開催場所は幕張メッセだが人が多くて合流が難しそうなので一旦新宿で待ち合わせてから行くことになっている。

開催時間が10:00~17:00だが、祐喜が用事があるということなので12時に待ち合わせをしている。

アルタ前で待ち合わせにしたが、さすがは都会この暑い中でも人の行き来が多い。

待ち合わせ時間に遅れてはまずいと思い20分前には到着した。

「本当に暑いな~。」

誰が聞いているわけでもなく独り言をこぼしながら待つ。

おお~。この暑い中ゴスロリを着てるよ。

あっちの人は主婦かな?

初めて都会に来た訳では無いが、友人と一緒だったり家族と一緒だったのでゆっくり見渡す機会がなかった。

こうしてみると都会は人が多いなと関心してしまう。

そんなことを考えていると時計が11:55分を過ぎたあたりで携帯が鳴った。

今流行のアニメの主題歌が流れる。

メール着信時の音楽なのでメールが来た事が解る。

携帯を開いて内容を確認すると。

送信者:祐喜
件名:今
本文:アルタ前に着きました。アンダーさんどこですか?

ふとアルタ前を見てみるが祐喜だと思われる人物はどこにも居ない。

見当たらないので視線をメールに戻し返事を打つ

発信先:祐喜
件名:Re:今
本文:俺も今アルタ前だよ。どこにいる?

急いでメールを送信する。

十数秒後隣でメロディが流れる。

メールを開いてるのは純白のブラウスに同色のスカート。頭はポニーテールにしておりピンクのリボンで結んでいる。
その上に日差し避けの為か麦わら帽子を被っている。

美人というよりは可愛系。可愛らしい容姿とは裏腹に成長している胸。恐らく中学生か高校生ぐらいだろう。
今の時点でこの膨らみなら将来は・・・。

彼女は着たメールの返事を打つのに夢中で俺が観察していることには気付いていない。

あまりぶしつけに見ているのは失礼なので、視線を少女から外し祐喜を探しに戻る。

又メールが鳴った。

慌てて携帯を開く。

送信者:祐喜
件名:Re:Re:今
本文:アルタのマネキンの横です。白のブラウスを着ています。

(白のブラウス?さっき見たような・・・)

考えていると後ろから声をかけられた。

「あっあのっ!ア・・・アンダーさんですかっ?」

振り返ってみると先ほどの女の子が話掛けてきた。

誰だろう?知り合いだろうか?しかし【アンダー】というハンドルネームはゲーム内でしか使ってないし・・・。

考え混んでいると謎の美少女はまくし立てるように言ってきた。

「・・・あのっ!私!ゆうきですっ!」

親しい友人の名前が出たことにより思考が再開され又停止する。

「・・・・ええええええええええええええええええ!だって・・・・お・・んな・・?」

人が行き交う中思わず絶叫してしまう。

周りの人も何事かと視線をこっちに向けてくる。

ゆうきと名乗った少女は恥ずかしそうにうつむいてしまった。

「祐喜って女の子だったんだ。」

ようやく状況を把握した俺はぽつりと呟く。

「ごめんなさい。騙すつもりは無かったんですけど・・。中々言い出せなくて・・。」

黙っていたことに俺が怒ったと勘違いしたのか萎縮してしまっている。

だんだん声が小さくなって最後のほうは聞き取れなかった。

「別に怒ってないよ。ただ今まで男だと思って話してたから吃驚しただけだよ。」

「本当ですか!よかったよぅ・・・」

「じゃあ時間も無いし移動しながら話そうか。」

気が付けば合流してから10分も留まっていた。

移動中に話しを聞いてみる。

本名は「橘 裕紀」と読むらしい。

以前インターネットで本名で遊んでいたら変な奴に絡まれたので性別と名前を隠す事にしたみたいだ。

しかし、名前を一文字変えたぐらいじゃ全然隠せて無いと思うぞ・・。

会ったばかりの時は相手が女の子と言うことで緊張してしまったが、

話してみると普段の祐喜と変わらない。

目的地に着く頃にはすっかり元の調子で話が出来るようになっていた。



[19327] その4
Name: まるせい◆cd5b2656 ID:76a86ac6
Date: 2010/06/06 17:28
「うわぁー。おっきな建物ですねえーッ。」

【祐喜】いや【裕紀】が建物を見上げながら感想を述べている。

「大輔さんは今日お目当てのブースとかあります?」

会った頃のびくびくしてた感じが無くなり、

見てるこっちが幸せになるぐらいの満面の笑顔で聞いてくる。

「イヤ、ゲームは三国志だけだし、特別見たいってのは無いよ。」

「良かったら。先に寄りたい所があるんですけどいいですか?」

小首をかしげることにより後ろのポニーテールが尻尾のようにブンブン回り興奮した子馬のようだと思ってしまった。

「良いよ。まず裕紀の行きたいブース行こうぜ。」

中に入ってみると招待者のみの日なのに相当の人間が入っている。

招待券には「ビジネスデイ」などと書かれていたのでスーツ姿のサラリーマンが多数居るのかと思ってた。

実際のところスーツ姿の人間も多いが、子供連れや中学生ぐらいの団体も結構居る。

「大輔さん!こっちです。こっち~!はやく行きましょうよ~。」

本当にはしゃいで子供そのものだな。

「慌てなくてもゲームは逃げないから大丈夫だぞ~。」

「何を言ってるんですかっ。最新のゲームがこんなに一杯あるんですよ。ひとつでも多く見て見たいじゃないですか。」

そういうと戻ってきて俺の手を引っ張って歩き出す。

俺は突然の行動に慌ててしまう。

容疑者を確保するように左腕を両手でがっちり抱えて歩きだしたからだ。


そうすると肘の当たりにいままで体験したことの無い柔らかさが・・・。

「だーっ。暑苦しい。一人で歩けるって。」

とっさに腕を振りほどき裕紀の隣を歩く。今鏡で顔を見たら恐らく真っ赤になっていることだろう。

年下の女の子に抱きつかれて取り乱すなんて情けない・・・。

振りほどいた事でちょっと萎縮してしまったのか裕紀が謝ってきた。

「ごめんなさい。ついはしゃいでしまって。」

とたんに小動物みたいに小さくなる。

帽子の上から頭をぽんぽんと叩いて怒っていないことを伝える。

「裕紀の行きたいブースってどこなんだ?」

「あっ!こっちの方です。」

大体の位置はインターネットで事前に調べておいたらしく迷うことなく進む。

「ここですー。ここー。」

裕紀が着たかったのは昔からある大手のゲームメーカの「ナミコ」だったらしい。

「この展示会で今秋からゲームセンターにリリースされるクイズゲームの体験プレイが出来るんですよ。」

なんでもゲームセンターで流行っている【QMA(クイズマジカルアカデミー)】の最新筐体が今回の目玉らしい。

俺自身はプレイしたことは無いが、以前田中とゲームセンターに行った時やっているのを後ろで見ていた事がある。

通信を利用したクイズゲームで予選を勝ち抜き優勝することによりクラスが上がっていくというシステムだった。

裕紀はこの手のゲームが大好きらしい。

着いてまもなくブースの説明員さんが説明を開始する。

「本日は暑い中御来場頂き誠に有難うございます。」

「早速ではありますがゲームシステムを説明させて頂きます。」

説明内容はゲームのルールと前作との違いなどについてだったので適当に聞き流しておく。

裕紀は、最新情報をひとつも聞き漏らすものかという真剣さで説明を聞き入っている。

「以上で説明を終了します。この後ゲームの体験プレイを希望のお客様はステージの方へお上がりください。」

「大輔さん一緒にやりましょう。」

はしゃいでステージに上がる裕紀に着いていきステージに上がる。

筐体は全部で4台用意してあり各台の後ろにはギャラリーが立っている。

椅子は二人掛けの長手のタイプで二人で腰掛けて座った。

「それではゲームを開始します。本日は体験版ということで決勝戦のみのプレイとなります。」

先ほど話してたゲームのルールで各予選で足切りがあり最終的に上位4人による決勝戦で優勝を争う。

各プレイヤーが得意のジャンルを選択しそれぞれのクイズに答えもっとも正答率が高い人間が優勝だ。

裕紀は【雑学】を選択した。

他の3人のプレイヤーはそれぞれ【社会】【アニメ・ゲーム】【アニメ・ゲーム】を選択した。

早速クイズが始まる。

裕紀はなれた手つきで○×クイズ・文字の入れ替えクイズ・4択クイズを正解していく。

周りのプレイヤーが選択した状況も同時に解るようになっていて今のところ裕紀の正答率が一番高く見える。

最後に【社会】のクイズが出題され最近の政治や歴史やニュースの問題になり裕紀の正答率が落ちていく。

結局優勝は【社会】のジャンルを選択した20歳ぐらいの人で裕紀は準優勝になってしまった。

「後少しだったのになぁ。」と残念そうな裕紀。

「仕方ないさ。準優勝でもたいしたもんだよ。」

その後ブースを離れるところで参加賞としてナミコのプレミアムカードをもらった。

左端にナミコのロゴが入っていて中央にはアニメのキャラクターが印刷されている。

限定でここでしか手に入らないみたいで裕紀の機嫌は途端に良くなった。

その後は、三国志のブースに立ち寄り新しいシステムの話と現在開発しているゲームの説明を受けた。

さすがに人ゴミに疲れてしまい、休憩を兼ねてランチコーナーへ避難する。

「それにしてもさっきのクイズ惜しかったな~」

「本当ですよね。社会なんてまだ勉強してない事もあるから解らないです。」

お嬢様は憤慨していた。

「でも裕紀。大化の改心はもう習ってたろ?間違えたよな?」

「あれは・・・その・・。社会は苦手なんですよぅ。」

「そのくせアニメとかゲームはしっかり答えててたな。もっと勉強頑張れよ。」

「・・うー。意地悪です。別に勉強してないわけじゃないんですよっ?ただ覚えられないだけというか・・。」

可愛い顔で憎らしげにこちらを見てくる裕紀を見ているとついつい苛めてしまいたくなる。

俺にこんな性格が隠れていたなんて今日は大きな発見だな。

「冗談だよ。裕紀はやればできる子だもんな。次のテストは期待してるぞ。」

「はい。見ててください。次のテストでは挽回してみせますから。」

知識が雑学やアニメに偏ってるだけで実際のクイズは正答率が高かったし興味を持てば覚えられるのだろう。

「この後どうする?まだ時間多少あるから何ヶ所かぐらいなら回れると思うけど。」

「そうですね。メインで見たいところは見てしまったのでブラブラと回りましょうか。」

「OK。んじゃもう少ししたら行くか。」

その後はゲーム内でペットを飼うゲームや今大人気のMMO、アミューズメントパークに導入予定の占いのブースなどを見て回った。

占いのブースでは体験で二人の相性を診るゲームがあった。

説明員さんが「カップルですか?是非占いをやってみませんか?結構当たると評判なんですよ。」と勧めてくれる。

他人から見ると俺たちはカップルに見えるらしい。

「いえ友達です。これって友人間の相性とかも診れるんですか?」と質問をする。

その間裕紀は顔を真っ赤にしたかと思ったら残念そうな顔でこっちをみていた。どうしたんだろう?

説明を受けて操作を行うと裕紀が「せっかくなので恋人の方で相性見てみましょう。」などと言い出す。

そんな言い方されるともしかして裕紀俺のこと好きなんじゃねえの?なんて期待しちゃうじゃないか。

「そうだな。んじゃあ恋人の方でやってみるか。」

心の中で浮かんだ説を否定しつつ。相性がよければいいなーと思い占いの質問に答えていく。

結果は

※『お二人の相性度は20%です。』

キッパリと相性が悪いと出てしまった・・。

内心では落ち込んでしまったがそれを表面に出さずに振舞った。

「あらー。相性20%か!でもまあ付き合ったらの話だし友達としての相性はバッチリなはずだよな。」

結果をみてぼーっとしてた裕紀が突然

「ほぇ?えっ?付き合うって私と大輔さんがですかっ。そんな急に・・。」

うーん。一日一緒にいてわかったが裕紀はかなりの天然さんで人の話を一部抜かして聞いているみたいだ。

「いやいや。もし付き合うとしたの話だよ。この相性は恋愛のものだから友人としてやってれば100%だったよって事。」

「・・・・・あ。そうですよね!友人としてですよね。私ちょっと聞き間違えてました。」

何故だか残念そうに聞こえた。

きっと一日遊びまわって疲れてるから元気がなく見えたんだろう。

「んじゃあそろそろ帰るか。あんまり夜遅くなってもまずいしな。」

俺は高校に入り門限も無くなり問題はないが。現役女子中学生を夜遅くまでひっぱり回すのは非常にまずい。

帰りの電車の中ではお互いにあまり話をしなかった。

無言といっても気まずい雰囲気では無くお互いに疲れていたんだとおもう。

新宿で一旦乗り換えの為電車を降りる。

「裕紀の家ってどこらへん?俺は八王子市だから京王線に乗るんだけど。」

「ええー!本当ですか。私もそっちの方なんです。まだしばらく一緒に帰れますね。」

ここでお別れだと思っていたが、お互いの住んでいるところは意外と近かったみたいだ。

電車を乗り換え隣り合って座ると先ほどまでの無言ではなく地元のお店の話で盛り上がる。

「学校帰りに友達とカラオケいったんですけど。あそこの店員さんがおかしくて~。」

などと今まであまり触れなかったリアルの話をしてる内にあっという間に目的の駅に着く。

「んじゃ俺はここで降りるから。またネットで会おうな。」

「今日はすごく楽しかったです。これからも宜しくお願いしますね。」

軽く手を振り電車を降りる。

裕紀の方はこっちが恥ずかしくなるぐらい全力で手を振り電車が走り始めてもこっちに向かい手を振っていた。

(今日は楽しかったな)

人生で始めてのオフ会。

今まで男だと思っていた裕紀が実は女でしかも滅多にお目にかかれないほどの美少女。

今日がこんな日になるとは昨日の自分には全く予測できなかった。

家につき風呂と夕飯を済ませてパソコンの前に向かう。

時間は夜の21時になっていた。

「今日はお疲れ様でした。無事帰宅しましたよ~。」

早速裕紀からメッセージが飛んでくる。

「俺も無事帰宅したよ。今日は本当に楽しかったな。」

そこからしばらく今日の反省会ということで色々話をした。

「じゃあそろそろ遅くなってきたんで俺は寝るよ。夏休みだからってあんまり夜更かしするなよ。」

「はーい。それじゃあまた明日ですね。今度ゲームが導入されたらゲームセンター付き合ってくださいね。」


こうして忙しかった一日が終わった。



[19327] その5
Name: まるせい◆cd5b2656 ID:76a86ac6
Date: 2010/06/06 17:29
「大輔さんいます?」

「よお。今飯食ってきたところだよ」

もはや毎日の日課になった裕紀とのやりとり。

「今日は学校でバスケットの授業があったんですよ。」

オフ会から1ヶ月半が経過してすでに秋が近づいていた。

俺と裕紀との関係は会う前と変わらず仲良くしている。

ただ昔との違いはお互いの生活の話をするようになった事だ。

「バスケットの授業か。裕紀スポーツ得意だっけ?」

「えへん!本日はシュート3本も決めましたよ。」

凄いのか凄くないのか良くわからないがとりあえず誉めておこう。

「おお!凄いな!将来はNBAからスカウト来るかもしれないぞ」

「もしそうなったら私アメリカ行っちゃうんですよね。その時は大輔さんもマネージャーとして連れてってあげますね。」

なんか勝手に裕紀のマネージャーにされてしまった。

「俺を雇うとなるとギャラは相当高額になるぞ。払えるのか?」

「うっ・・。そこは友情割引ということで。」

「まあいいさ。もし本当にそうなったらついてってやるさ。」

「絶対ですからね~。早くスカウト来ないかなぁ~♪」

もう裕紀の中ではNBAからスカウトが来るのは確定しているみたいだ。

相変わらず想像力が残念な方向に行ってしまう子だ・・。

「そういえば大輔さん。今週末って暇あります?」

「うん?特に予定はないけどどうした?」

「ゲームショウでやったクイズゲームが週末に導入されるんで付き合って頂けませんか?」

「おおー。あれとうとう導入されるんだな。行ってみるか~。」

「じゃあ時間とかの詳細はメールしますね。」

「わかった。待ってるよ。」

今週末か~。楽しみだな。




翌日学校で


「なにいいいい。それってデートじゃねえの?」

お昼に飯を食いながら週末の話をしたところ田中が叫びだした。

「違えよ。ただ一緒にゲームセンターに行くだけだっての。」

「安藤よく考えてみろ。若い男女が約束して二人きりでどこかへ遊びに行く。これをデートと言わずして何と言うんだ?」

「別に裕紀とは7月にもゲームショウに一緒に行ってるしそんな大げさなもんでもないだろ?」

「その時はお前裕紀ちゃんを男だと思ってたんだろ?今回ははっきり女とわかって一緒に行くんだから状況が違うっつの。」

「裕紀は妹みたいなもんだからな。妹と一緒にゲームセンター行くぐらい良くある話だろ?」

これは嘘じゃない。裕紀と話している時に感じる感情は恋愛とは違う。

気にならないかと言われたら気になるが現時点で恋愛感情は無いはずだ。

「ふうん。妹ね~。まあお前がそう言うならそうなんだろうけど。」

やけに含みを持たせた言い方をするな?

「後から自分の気持ちに気が付いても遅いって事もあるんだぜ?」

そう言われて考えてしまう。もし裕紀に彼氏が出来てその男を紹介されたら・・・。

正直あんまり面白くは無いが、裕紀の事を好きになるなんてありえないと結論付ける。

だって、たまたまインターネットで同じゲームをやってオフで1回会っただけだぜ?

「まあ何と言われてもデートではないしな。」

お昼休みも少なくなってきたので残ってる珈琲牛乳を一気に飲み干し紙パックをゴミ箱に向けて放り投げる。

狙いはわずかに外れてしまい結局拾いなおしてゴミ箱に捨てる。

そして週末が訪れた。



[19327] その6
Name: まるせい◆cd5b2656 ID:76a86ac6
Date: 2010/06/06 17:30
俺は時計を見ていた。

時刻はすでに11時を5分ほど越えていた。

今日は裕紀と遊ぶ約束の日だ。

地元より二駅ほど行った所にあるショッピングモールが本日の待ち合わせ場所だ。

都会と違ってそれほど迷わないと思い【駅前】としか決めて居なかったのは失敗だったかもしれない。

時間になっても裕紀が現れないので不思議に思い電話したところ南口から出てしまったとの事。

お互いに動き回るとまずいので裕紀がこっちに来るのを待っている。

「すいません!お待たせしました。」

走ってきたのだろう。息を切らしながらこっちに歩いてくる裕紀。

今日は白いセーターにニット帽子・赤と緑のチェックのスカートとブラウンのロングブーツを履いている。

髪型は帽子で見えないが今日はポニーテールではないみたいだ。

元が可愛い上服を完璧に着こなしている為周りの人間もチラチラ裕紀を見ていた。

「すまん。出口が二つあるの忘れてた。」

「いえいえこちらこそ。私いつも南口使ってるんで深く考えていませんでした。」

「んじゃ。早速行こうか。」

「はいっ。今日は一杯遊びましょうね。」

当初の予定ではゲームセンターで遊ぶつもりだった。

裕紀が見たい映画があるということで付き合うことになり地元から離れたショッピングモールまできた。

映画の上映時間は13:30からだからそれまでにゲームをやってお昼を済ませておこうと言う事になっていた。

「近所のゲームセンターと全然違いますよ。色んなゲームがあって楽しそう~。」

「アミューズメントパークって名前は伊達じゃないな。」

中に入るとメダルゲームや格闘ゲームがフロアごとに別れている。

お目当てのクイズゲームは・・・と、1階に置いてあった。

裕紀が早速座る。

人気のゲーム機らしく8台入っているのに空いていたのは1台だけだった。

俺は裕紀の隣に座り見学をする。

展示会と違い筐体同士の幅が狭く椅子も小さいので二人で座ると自然と肩と肩が触れ合うまで接近しなければならない。

裕紀からミント系の匂いがしてくる。

以前あったときは柑橘系の匂いだったし、裕紀は果物の匂いが好きなのかもしれない。

肩が密着してちょっと照れてしまうがそうしないと席から落ちてしまうから仕方が無い。

「うわー。1ヶ月ぶりだー。」

感動していて肩が触れてる状況には気付いていないみたいだ。

裕紀は財布から100円とカードを取り出し筐体に差し込む。

何でもこのカードに戦績を記録することが出来るらしい。

裕紀はネット対戦を選択し画面が変わる。

デフォルメされたキャラクターが表示される。

名前は平仮名で「ゆうき」と本名をそのままつけていた。

真剣にゲームに向かう裕紀は面白い。

クイズに間違えたときの悔しそうな顔。パーフェクトを出したときの嬉しそうな顔。

ころころ表情が変わり見ていて飽きない。

気が付けばクイズを見ることを忘れて裕紀の顔ばかり見てた気がする。

ふと裕紀が顔を上げてこっちを見た。

「大輔さんどうしたんですか?ずっと私の方を見てませんでした?」

「ん。」

「裕紀は表情がころころ変わって可愛いなと思ってみてた。」

何故か素直な気持ちがぽろっと出てしまった。

「えっ。かっ可愛いなんてそんな。そんな風に言ってもらえるなんて嬉しいです。」

顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。

「あれ?ゲーム始まってるぞ。いいのか?」

はっとしてゲームに向かいなおす裕紀。

さっきまでとは違い心ここにあらずといった感じでクイズに不正解を重ねていく。

数分後ゲームオーバーになりこっちをねめつけてくる。

「もう!大輔さんが変なこと言うから緊張しちゃったじゃないですか。」

照れながら怒ってくる。むしろ可愛いだけで全く怖くは無い。

「ごめんごめん。ついぽろっとね。」

頭を撫でると借りてきた猫みたいに大人しくなる。

その後UFOキャッチャーでぬいぐるみをとってあげたところで昼時になった為昼食に行くことに。

お昼といっても学生が行く食事なんてレパートリーは知れたもの。

マックで軽く注文して食べる事にした。

ハンバーガーにかぶりついていると裕紀がじとめでこっちを見ている。

気にしつつコーラを飲んでいると不意に。

「大輔さんってスリムで格好いいですよね。」

「ぶほっ!」

いきなり何を言い出すんだこの子は。

「それだけ食べても全然太ってないし顔も格好いいですよ。」

誉められているのに目が全く笑っていない。何事かと思っていると。

「ぷっ!」

「冗談ですよ!さっき可愛いなんて言われたから仕返ししてみただけです!」

ああそういうことか。裕紀は見た目とは違って負けず嫌いな所が結構ある。

さっきの言葉でからかわれたままなのが悔しかったのだろう。

「いきなりどうしたのかと思ったぞ!」

「だって!私ばかりからかわれて不公平じゃないですかぁ!」

「ごめん!ついからかっちゃうんだよ。」

「それってもしかして好きな人に意地悪しちゃう心境ってやつですか?」

といってこっちを見てニヤニヤしている。

「うーん。裕紀がもうちょっと大人ぽければそうなのかもな。」

どうだ、この大人の余裕があるからこそ出来る切り返し。

しかし敵は思っているより強大だった。

「私ってそんなに子供っぽいですか?」

そういいつつテーブルに乗り出してきた。

腕をテーブルに乗っけたまま乗り出して来たのでセーターの上からでも胸が強調される。

さらにちょっと不満そうな顔に薄い化粧がしてあり言われなければ高校生ぐらいに見える。

狙ってやってるのかこいつは!

あんまり直視しているとよからぬ考えが浮かびそうだったので裕紀のおでこに軽くでこぴんをする。

「痛いじゃないですか~。大輔さんのばかー。」

「テーブルに肘をつくのはお行儀が悪いぞ。」

本当のところは別な事情があるのだがそれを言うと調子に乗りそうだったので口が裂けても言わない。

「うー。やっぱり子供扱いしてる~。」

不満顔でこっちをねめつけてくるが無視をしていると

「あっ!そろそろ上映の時間ですよ。行きましょー!」

胸の内に広がるもやもやしたものに蓋をしつつゆっくりと付いて行く。



[19327] その7
Name: まるせい◆cd5b2656 ID:76a86ac6
Date: 2010/06/06 19:33
「楽しみ!楽しみ~!」

さっきまで不機嫌そうだったのにもう笑顔になっている。

やはり裕紀は面白い奴だな。

今日みるのはベストセラーになった児童書を映画化した作品だ。

「この映画ってアメリカの児童書を映画化したものなんだよな?今6作目だっけ?」

「そうです。今回の6作目は前半と後半の2回に分けて映像にしてるんですよ。今日のは前半です。」

「俺は本の方読んでないんだけどそうすると続きは映画が出来上がるまで見れないんだな。」

「そうですね。だから次に上映される時も私が付き合って上げますよ。」

自分が見たいくせに素直じゃないなと苦笑したが流しておく

「そうだな。前半を付き合わされるんだから責任とって後半も付き合えよ!」

上映15分前に席を取りドリンクを買いに行く。

裕紀曰く

「ポップコーン食べながらだと映画に集中できないからオレンジジュースだけお願いします。」

俺はポップコーン食べながら見るのが普通だと思ってるけどこの辺に男女の価値観の差があるのかな。

結局俺はコーラ、裕紀にはオレンジジュースを買って席に戻る。

「ほら!果汁100%だぜ」

「ありがとうございます。ポップコーンはいいんですか?」

「ああ、今日は裕紀にあわせるよ。」

しばらくすると会場が暗くなり上映が開始される。

映画は非常に面白かった。

ストーリーがシンプルな分引き込まれやすい。

主人公の葛藤が伝わってきて一挙一動にドキドキしてしまう。

大掛かりなセットやCGを駆使しているだけあって迫力満点だ。

気が付けば映画は佳境に入っていた。

主人公と老師が二人で大勢の敵と対決している場面だ。

このピンチをどうやって切り抜けるのかと夢中になっていると右手に何かが触れた。

右をみてみると裕紀が画面を凝視しながら手を握ってきた。

突然の事に驚いていると裕紀がこちらを向く。

無意識の内に握ってしまったみたいで慌てて手を離した。

裕紀の事も気になったがまずは映画だ。

画面は変わっており老師が一人で敵を引き付けてる間に味方の援軍がたどり着き主人公は助かった見たいだ。

しかし老師が敵の一人の手にかかりやられてしまったところで映画は終了する。

手に汗握るという言葉があるが実際に体験したのは初めてだ。

児童向けの話と思って本を読んでなかったが考えを改めざるを得ない。

上映が終わって周りの客が出ていく。

俺たちもいつまでも居るわけには行かないので映画館を出た。

「すっごい迫力だったな!続きマジで気になるよ!」

「そうでしょ~。私も早く続き見たいですよ!」

「待ちきれないから本を最初から読んじゃおうかな。」

「そこまではまったんですか?家に全部揃ってるので今度貸しますね。」

「マジ頼むよ!このままじゃ夜眠れないわ。」

歩きながら映画の感想を言い合う。

「まだ時間ありますよね。」

時計を見てみると16時をちょっと回ったぐらいだ。

「まだ大丈夫だけど。もう一回ゲームセンターでもいく?」

「せっかくここまで来たんでショッピングモールも色々覗いてみたいなと思いまして。」

「ああいいよ。じゃあ店を順番に見ていくか~。」

洋服店や雑貨・グッズ関連・書籍やCDなどの店を回った。

時間が17時を超えた辺りでそろそろお開きにしようということになり二人で駅に向かう。

「さっきはすいませんでした。」

「え?なんかあったっけ?」

「もう!映画館でいきなり手を握ったことですよ。」

忘れて居た訳じゃない、意識しないようにしていただけだ。

「そうだっけ?映画に夢中だったからな。」

「別に良いですけど。大輔さんの手って冷たいですよね。」

裕紀の手が俺の手を掴む。

「大輔さんって冷え性なんですか?」

両手ではさみこむように右手を触ってくる。

意識しちゃダメだと思ってはいるが身体が勝手に動き出す。

今こいつを抱きしめたい・・・。

空いてる左手が彼女の頬に触れる。

彼女はどうしたのかと不思議そうな目でこっちを見ている。

あと一瞬遅ければ彼女を抱きしめてしまっていただろう。

突然音楽が流れ始めた。

俺の携帯メールだ。

内容を確認したところ田中からだった。

送信者:田中

件名:デートどうだ?

本文:盛り上がってるか?月曜日に結果教えろよ。

普段なら殴り飛ばしたくなるような内容も今のタイミングでかかってきたのは助かった。

携帯を閉じると何事も無かったように切り出す。

「そろそろ遅くなるから帰るか。」

「そうですね。大分寒くなってきたし今日はお開きにしましょう。」



裕紀と別れたあとほっとした。

危なかった。友人として付き合っている裕紀を抱きしめてしまうところだった。

まだ2回しか会っていない相手。相手は中学生。インターネットで知り合った。

否定する材料をいくら並べても割り切れない。

いつのまにか裕紀のことを友人ではなく異性として見てしまっていた。

心の整理ができなかったのでその日はパソコンを繋ぐこと無く布団に入った。



[19327] その8
Name: まるせい◆cd5b2656 ID:76a86ac6
Date: 2010/06/06 19:35
今日でパソコンを繋がなくなり三日になる。

最後に裕紀に会った日から気持ちの整理が出来なかったからだ。

さすがにこのままではいけないと思い覚悟を決めパソコンを立ち上げた。

裕紀は・・・まだ居ないようだ。

一瞬ほっとしてしまうが。根本的な問題は解決していない。

この三日間、大輔は真剣に悩んでいた。

今までの人生16年間それなりに恋愛もしてきたが付き合った事はない。

中学の頃に勇気を出して告白したこともあるが、

「友達でいましょう」

と断られてしまい、その後気まずくなって話せなくなった。

裕紀は以前、インターネットで知り合った男に言い寄られたことがあると話していた事がある。

好意のようなものは感じるが、裕紀にとって自分は兄のような存在なのかもしれない。

もしそうだとすると、仮に俺が裕紀を好きになってしまい告白したら信頼を裏切る事になる。

大輔に出来るのはこれ以上気持ちが進まないようにブレーキをかけることだけだった。

しばらくインターネットをやっていると裕紀がログインしてきた。

一瞬慌てたが、すぐ平静になり挨拶をする。

「よお。久しぶり~」

「あっ!大輔さん久しぶりです!三日も会えなかったから寂しかったですよぅ~」

三日ぶりに会えて嬉しい気持ちが湧き上がってくる。

だけどこれ以上の気持ちを抱いては駄目だ!

「なんか風邪引いたみたいでさ。パソコン禁止されてたんだよ。」

「えええ~!大丈夫ですか?あまり無理しないほうが良いですよぅ」

俺の嘘に真剣に心配してくれる。

裕紀に嘘をつく事に胸が痛むが本当の事を言うわけにもいかない。

「風邪薬のんだからもう治った!ところで三国志だけどどうなった?」

「大輔さんがいない間に大手と戦争があって大変でしたよ。」

「もう2ゲーム目も終盤だしな~。とうとう始まったか。」

このゲームは4ヶ月で一旦終了する。終了時にどれだけの領地と城を確保しているかでランキングが決まる。

一度奪っても奪い返されたりがあるので終盤は常に戦争状態になる。

残り2週間を切ったのを皮切りに領地争いが始まってしまったらしい。

「大輔さん3ゲーム目どうします?また一緒にやりません?」

「ん~。ちょっと成績落ちてるし考えてみるよ。」

「・・・残念です。勉強じゃあしょうがないですよね。」

「他人事みたいに言ってるがお前来年受験だろ!大丈夫なのかよ。」

「一応真面目に勉強してますよ!大輔さんと一緒の学校に通いたいので」

「俺の学校結構偏差値高いけど大丈夫か?」

「はい!大輔さんが入れたんなら大丈夫ですよ!」

「あほかーーーー!」

「ふふふ!冗談ですよ。そんな理由で受験する学校なんて決めませんって。」

どこまで本気かわからないのが怖い。

久しぶりの会話に満足していると

「そういえばこの前の映画の本いつ頃貸しましょうか?」

「ああー!俺はいつでもいいけど裕紀の予定は?」

「私は平日は学校があるので土日なら大丈夫です。」

「あれって結構重そうだよな?最寄の駅まで取りに行っていい?」

「大輔さん!あんな重たいものを私に運ばせる気ですか!?」

「じゃあどうすればいいんだ?」

「家まで取りに来て下さいよ!」

「ええ~!だっていいの?」

「いいって何がですか?」

「俺なんかに家の場所知られても良いのかよ?もっと警戒したほうが良いぞ」

「信用してますから大丈夫です!」

「いやでも・・・親にあったら気まずいし・・。」

「うちは共働きなので夕方までは私一人なんで大丈夫ですよ。」

「それはそれでまずいだろ!」

「?」「何かまずいことでもあるんですか?」

だめだ・・。警戒心がなさ過ぎる。

結局押し切られる形で日曜日の昼過ぎに本を借りに行くことになった。




[19327] その9
Name: まるせい◆cd5b2656 ID:76a86ac6
Date: 2010/06/06 19:35
「ここが裕紀の家か・・・」

豪邸という程ではないが普通の一軒屋というほど小さくも無い。

表札には【橘】とかかれている。

インターフォンを押そうとするが緊張して中々押せない

それなりに人通りがある場所なので人が通り過ぎるたびに不審者に見えないだろうか?

とドキドキしてしまう。

いつまでもこのままではいけないと意を決してインターフォンを押す。

「はい」

スピーカーから声が聞こえる。

「橘さんのお宅でしょうか?私裕紀さんの友人の安藤と申します」

緊張して早口でしゃべる

「大輔さん!私です。今鍵開けますね」

しばらくすると扉が開き裕紀が現れた

「遠いところわざわざ有難うございます。」

今日の裕紀は黒のフリル付きブラウスにミニスカートにニーソックスという格好だった。

男を家に上げるのにそんな格好はやめろ!と心の中で突っ込む。

「地元の駅から3つしか離れてなかったから全然近かったよ。」

「それにお礼をいうのは俺のほうじゃないか。」

本を借りにきたのはこっちなのに何故かお礼を言われてしまった。

「そういえばそうですね。それじゃ上がってください。」

一瞬ためらったがここまできてしまっては仕方ない、覚悟を決めて扉をくぐった。

「私の部屋は2階の突き当たりです。飲み物用意するので先に行っててください。」

そう言って行ってしまった。

仕方ないので2階に上がり奥の部屋の扉をみると【ゆ☆う☆き】という看板がかかっている。

さすがに部屋主が居ないのに入るのはまずいと思いそこで待つ。

「あれ?部屋入ってなかったんですか?」

裕紀が両手でお盆を持って上がってきた。

「さすがに家主が居ないのに入れないって!」

「別に気にしないでいいのに~」

なんだか意識してしまっているのは俺の方だけなきがする。

裕紀にしてみればそんな気にならないみたいだ。

部屋に入ってみると、女の子の部屋とはこんな感じだと想像していたのとはちょっと違った。

一応ぬいぐるみが置いてあるが、その他に少年漫画やパソコンなんかもある。

裕紀らしいなと納得は出来るが・・。

「あんまり見ないで下さいよ。恥ずかしいです。」

裕紀は俺に椅子を勧めて自分はベッドに腰かける。

「いや~。裕紀の部屋だなって思ってさ!」

「私の部屋?どんなの想像してました?」

「漫画が多くて参考書が少ない」

「・・うっ!それは来年が受験だからまだ買ってないだけですよ!」

「そういえば裕紀もバクマン好きなんだな?全巻揃ってるじゃん」

「ええ!こういう普通の少年漫画ぽくないやつって好きなんですよ。」

「俺は銀魂とかスカッと笑える話が結構好きだな」

「ああ~!銀魂いいですよね。」

「たまに泣ける話もあるし奥が深いんだよな!」

「うちにDVDありますけど見ます?」

時間を潰すのにちょうど良いのでその提案を採用しDVD鑑賞をする。

テレビが1階の居間にあるので移動してDVDをセットする。

テレビが良く見える位置のソファーに二人並んで腰掛けて黙々とDVDを見始める。

集中してみていたが、昨日緊張してよく眠れなかったのと昼食の後ということもあり眠ってしまう。

気が付くとDVDは終わっていた。

テレビが横を向いている。いや俺が横になっているんだ。

頬に布の感触となにやら暖かいものが当たっている。

目線を変えてみると上から潤んだ瞳で裕紀がこっちを見ている。

目が合い裕紀の顔が段々と近づいてくる。

このままじゃまずい。唇が触れ合うかと思った次の瞬間ー

ヤッターマンの着メロが鳴り顔が離れる。

メールを確認すると。

送信者:田中

件名:明日

本文:明日貸してるエロDVD返してしてね^~^

田中め。どこかで見てるんじゃないかと思うぐらいのタイミングでメールを送ってくる。

《DVD返してしてね》って俺に何をしろっていうんだ?

まさかDVDのプレイを俺にやらせるつもりか?

慌ててメールを打ったのが解るがエロDVDをどれだけみたいんだ!

そろそろメールをチェックするのも限界にきていた。

裕紀はこちらから目をそむけている。

「ごめんな!昨日あんまり寝てなかったからさ」

今あったことには触れずいつもの調子で話し掛ける。

聞こえてないのか反応がない。

「もうこんな時間か!実は学校の友達とこの後待ち合わせしてるんだ!」

気まずくなり、裕紀に帰宅すると告げる。

「はっはい!じゃあ本持ってきますね。」

本を受け取るとそそくさと家をでる。

お互いに顔を合わせないままに別れを告げる。

「じゃあ今日は有難う。本帰ったら早速読ませてもらうよ。」

「それじゃあまた!」

慌てて扉を閉めてしまう。

時刻は夜の八時。

さすがにこのままじゃまずいと思い、家に帰ったら早速パソコンを立ち上げる。

普段ならこの時間裕紀はインターネットをしているはずだ。

今日に限って現れない。

結局23時まで待ってみたが現れなかったので翌日話をしようとその日はそのまま寝るしかなかった。



[19327] その10
Name: まるせい◆cd5b2656 ID:76a86ac6
Date: 2010/06/06 19:36
翌日

学校につくと俺は田中を探しはじめた。

やつはいつも遅刻ギリギリに登校するのでまだきていない。

始業の5分前になりようやく田中が姿を現す。

俺は持ってきたDVDの角で田中の頭を叩く。

「ちゃんと持ってきたぞDVD」

「朝っぱらから痛いじゃないか!何を怒ってるんだよ?」

「お前あのメールなんだよ!どうやったらあんな文章が出来上がる!」

なんのことかと自分が送ったメールを見る田中・・・

「別に良いじゃんか!途中打ち直したら文字が被っちゃっただけだよ」

「メールみて吃驚したぞ!俺にDVDと同じ事しろと言ってるのか!」

「・・・確かにそういう風にも見えなくないな。それより昨日はどうだったんだよ?」

裕紀の家に本を借りに行く事はぽろっと話してしまっていた。

「別になんもねーよ!」

「お前が不機嫌になるなんて裕紀ちゃんと何かあったぐらいしか考えられねーじゃん!」

田中のくせに何気に鋭いな!全然論理的じゃないけど・・。

「別に裕紀と何かあったとしてもお前には関係ないじゃないか!」

ついつい強く言い過ぎてしまった。

弁解しようと思ったが始業のチャイムがなり教師が入ってきたためこれ以上話せなくなる。

休み時間になると気まずさから田中を避けてしまう。

昨日といい今日といいなんでこんなにイラついてるんだ。

昼休みになった。

いつもは田中と購買で買ってきたパンを食べるのだが今日はそんな気分になれず図書室に避難する。

いまどき図書室を利用する人間はほとんどおらず、一人になりたい時には最適な場所だ。

休憩時間が30分を過ぎた辺りで田中が図書室に現れる。

あいつが本を読むわけ無いから目的は俺だろう。

声をかけるわけでもなく無言で出て行く。

そのときの目はついて来いと語っているようだった。

田中に付いて行くと教室ではなく中庭の方へ出て行く。

ベンチがあり落ち着いた話をするには最適だ。

ベンチに腰を下ろした田中に近づき

「よお。さっきは悪かったな。」

「ん?何がだ?俺はただ図書室に本を見にいっただけだぜ?」

さっきのことは気にしてないぜと言うアピールをしてくる。

「お前の言うとおりだよ。裕紀と色々あったから不機嫌だったんだ。」

正直なところ一人で悩むには重すぎた。

俺の苦しそうな顔を見たせいか田中の顔からも笑顔が消えて真剣な顔つきになる。

「実は昨日裕紀とキスしそうになった。」

「まじかよ!それって別に不機嫌になることじゃないんじゃ?」

「キスしそうになったらお前からのメールがきた」

「ほんっと!すいませんでしたーーー!」

一瞬で田中の真面目な顔が消える。やはり田中は真面目な顔より慌ててる顔の方が似合う。

それから俺は詳しい状況を話した。DVDを見てたら寝てしまった事。

キスをしそうになりその後気まずくなった事。そもそも本当にキスしようとしたのか?単に話し掛けるために近づいたのかもしれない。

家に帰って話をしようとしたが裕紀が現れなかった事。

「んで。お前の気持ちはどうなの?今でも裕紀ちゃんは妹のままなのか?」

「正直なところ好きだと思う。だけど変じゃないか?まだ3回しか会ってない上に中学生だぜ?」

「ん~。本当に好きなら中学生とか関係ないんじゃね?」

「俺にはお前が振られたときの言い訳として言ってるように見えるんだが?」

田中に言われて気が付いた。

「確かに、俺は振られたときの言い訳をしてるんだと思う」

「俺は裕紀の事が好きだ!」

「実は彼女、俺と同じ中学なんだよ。入学当時から結構もててたぜ。」

「自分の気持ちに気が付いたのは結構なことだが、振られる可能性もあるんだぜ?どうする?」

言葉につまった。田中の後輩だったというのも吃驚だが、今まで考えまいとしていたこと。

あんなに可愛い子なんだから彼氏がいないわけが無い。それでも・・・

「とにかく一度裕紀と話をしたい。」



[19327] その11
Name: まるせい◆cd5b2656 ID:76a86ac6
Date: 2010/06/06 19:36
その日の夜

パソコンを繋ぐと裕紀がログインしていた。

ちょっとためらって時間を置いてしまったが向こうから話し掛けてくることはなかった。

「こんばんわ!いる~?」

「こんばんわ!アンダーさん」

胸が痛んだ。今まで二人きりの時は【大輔】と呼んでいたのに【アンダー】に戻っている。

気にしない振りをして会話を続ける。

「本面白かったよ!一気に読んじゃった」

本当は飛ばし読みをして内容を何とか頭に入れた程度だ。

あんな分厚い本が一日二日で読み終わるわけが無い。今は裕紀との会話のきっかけが欲しかった。

「もう読んだんですか。すごいですね。」

「・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・」


今まで出来ていた会話が成立しなくなっていた。

繋ぐ前のシュミレーションでは裕紀が「どのシーンがよかったですか?」「私はどこどこのシーンが好きです。」

などと会話が盛り上がると思っていたが、いざ話をしてみると画面越しなのにお互いに緊張しているのがわかる。

その後も一言話し掛けてはまた黙るを繰り返す。

裕紀と話をしたいと思っているのに!本当に話したいのはこんなことじゃないのに!

今までの関係が嘘のように見知らぬ他人と話してる錯覚に陥った。

この白々しい空気は以前に体験したことがあった。

中学時代に告白して振られた直後の同級生と話したときがこんな感じだった。

俺に下手に期待を持たせないように感情を出さず淡々と話す感じだ。

文字だけの会話なので感情は見えないはずなのだが、俺には裕紀があの時の彼女と同じ顔をしていることが解った。

もう手遅れなのか・・。そもそも裕紀は実は俺のことを嫌っていたんじゃないか?嫌だけど仕方ないから付き合っていたんじゃないか。

一度ネガティブな考えが浮かぶと駄目だった。目に涙を浮かべていると画面が動いた。

「・・・なんで。一昨日の事全く聞かないんですか!」

「そんなに私の事嫌いなんですか?アンダーさんが何考えてるか全然わかりません!」

「もういいです!さようなら!」

突然の裕紀の発言に俺の頭はさらに混乱した。

俺が裕紀を嫌ってる?そんな訳ないのにどんな誤解をしてるんだ?

慌てて返事を返そうと思ったが、裕紀はログアウトしてしまいこっちの発言は届かなかった。

携帯を手に取り急いでメールを打つ


送信先;裕紀

件名;なにか誤解してないか?

本文;俺が裕紀の事嫌いな訳ないだろ。とにかく一度きちんと話たいんだ。今から電話してもいいか?


メールを送信して5分が経過した・・・・

10分・・・30分と経ったところで我慢できずに電話をした。

最初はコールしていたのだが途中で切られてしまいその後は何度掛けても留守番電話になってしまう。

こうなってしまうともはや連絡を取る手段が無い。

昨日までは仲良く話が出来ていたのになんで急にこんなことに・・。

自分がいったい何を間違えたのか解らない。



気が付けば夜が明けていた。

携帯を見てみるがメールの返事はない。もしかして着信拒否もされているかもしれない。

ほとんど寝ていないので足元がふらつく。

体調不良を理由に学校を休もうと思ったが、何もしないでいると悪いことを延々と考えつづけてしまうので学校へ行くことにした。

その日は散々だった。

授業中にぼーっとして教師にたるんでると説教され、お昼は食欲が無いので抜き。5限目の体育でぶっ倒れた。

同級生が数人がかりで保健室に運んでくれたみたいで、気が付いた頃には放課後になっていた。

保険の先生に謝り、担任に報告をして帰宅した。

習慣でパソコンを立ち上げるが裕紀の姿は見えない。三国志もやっていないみたいで連絡をとる手段がない。

もう一度電話を掛けてみようかと思ったが、着信拒否されていたらどうしようと思いかけることが出来ない。

いきなり日常が崩れ落ちてしまい、何もする気力が起こらなかった。



翌々日

田中が話し掛けてきた。

「よう!やっぱ振られたか?」

無神経にも程がある。今は放っておいて欲しかった。

返事をしないで睨み付けていると-

「まあこんだけ鈍感なら振られて当然だよな」

聞き捨てならない言葉だった。

「どういう意味だ?お前が何を知ってるっていうんだ?」

「俺は何も知らないぜ?お前と裕紀ちゃんの間に何があったかも」

「ただな。俺の視界の中に『僕は不幸です。だれか慰めてください』って顔で不抜けてる奴が居るとイライラするんだよ!」

教室中が静まり返った。

俺は立ち上がり思いっきり田中を殴った。

「お前なんかに何がわかる!もうどうしようもないんだよ!話がしたくても連絡をつけることすら出来ない・・・」

起き上がり田中は言った。

「ああ解らないね!自分を好いてくれてる女の気持ちにすら気付けず傷つけてしまうような馬鹿の気持ちなんてわかるわけねえ」

「・・どう・・い・・う・・こと・・だ・・・?」

「はたから見てる俺から見ても丸解りだったのに一緒に居るお前が気付いてないとはね・・。」

「彼女の気持ちは俺が言うべきじゃない。お前が自分であって確認してこいよ。」

「だから連絡が取れないといってるだろ!」

そこで田中がニヤリと笑った。

「裕紀ちゃんの居場所なら知っている。昨日俺が聞いておいた。」

「裕紀ちゃんは今日の放課後ショッピングモールのアミューズメントパークに行くはずだ。」

「お前なんでそんなこと知ってるんだ?」

「一昨日のお前の様子みてらんなかったぜ。彼女の中学、家の近くだったから先回りして事情を聞いたんだ。」

回りから「うわー」「ストーカー」などとしゃべる声が聞こえてくる。

周りの声に若干押されながらも-

「んで友人としてもう一度話をする機会を与えてやってくれと頼み込んできたわけ」

なんて馬鹿だ・・。こんな馬鹿見たこと無い。

たかが友人の恋の為に中学生を待ち伏せして事情を聞いて挽回のチャンスをセッティングしてくれるなんて。

一歩間違えればストーカーとして捕まってもおかしくないのに。

「ありがとうよ!」

そういって俺は鞄をもって教室を出る。

「ちょっと!待ち合わせは放課後だぜ?まだいっても居ないと思うけど!」

「ああ!俺も言いたいことを整理する時間が欲しいんだ。正直どこで間違えたのかいまだにわかってないんだ!」

「このまま裕紀に会ったらまた怒らせてしまうかもしれない。」

「ばーか!とりあえず会ったら抱きしめてキスしてやれよ!後のことは殴られてから考えな!」

いつもの調子に戻って馬鹿なことをいう。

やはり田中は馬鹿を言っているときが一番似あってる気がする。

「お前も相当な馬鹿だな」と苦笑しつつ学校をでる。



[19327] その12
Name: まるせい◆cd5b2656 ID:76a86ac6
Date: 2010/06/06 19:37
もう一度裕紀と話せる。

そう思ったらここ数日の脱力感が嘘のように力が湧いてきた。

だが、話せるチャンスをもらったに過ぎない。もしかすると今回が裕紀に会える最後のチャンスかもしれない。

後悔をしないように絶対に自分の気持ちを伝えなければ。

待ち合わせまでの時間俺は裕紀と知り合ってから今までのことについて思い出していた。


夕方になりショッピングモールに向かう。

本当に裕紀は来てくれるのだろうか?

アミューズメントパークが近づいてくる。

入り口にセーラー服姿の裕紀が立っていた。

「・・・・裕紀」

「・・・・大輔さん」

「ここじゃなんだからちょっと歩こうか?」

裕紀は頷いて歩き始めた。

俺は裕紀を連れて近くの公園に向かった。

秋になり葉っぱが黄色くなりはじめこの時間でも空気が冷たくなってきている。

こんな時間に公園にきてるのは俺たちぐらいのもんだ。

ベンチに葉っぱが積もっていた。

座る場所を確保するため手で葉っぱを払い裕紀をベンチに座らせ俺も隣に座る。

「今日は裕紀に聞いて欲しいことがあってきた」

緊張でなかなか声を出すことが出来ない。

「俺は裕紀が好きだ!まだ4回しか会ったことが無いのにこんな事を言うといい加減なやつと思われるかもしれない。」

「最初は男だと思ってた。女の子だとわかってからは妹みたいだと自分をごまかしてきた。」

「だけどもうごまかすのは止めた!俺は一人の女性として裕紀が好きだ。」

「裕紀が俺のことを兄のように慕ってくれていたのにこんなことを言うなんて酷い裏切りだと思う。」

「だから今日以降俺は君の前に現れないようにする。その前にどうしても気持ちを伝えておきたかったんだ。」

裕紀はうつむいて震えている。当然か・・。いきなり公園に連れて来られて告白されたのだ。

「・・も・か・・な・・・ない・・か!」

「なにもわかってないじゃないですか!!!」

裕紀が泣きながら怒鳴りつけてくる。

「私がどんな気持ちでいたと思ってるんですか!」

「初めてゲームショウに行った時から大輔さんが好きだったんですよ!」

「チャットしてた頃から大輔さんが気になって、好みの髪型を聞いてゲームショウの時にお洒落していったり。」

「2回目のデートの時は大輔さんに女性としてみてもらいたくて大人っぽくしたのに気付いてくれなかった!」

「3回目の家に来たとき寝てしまった大輔さんにキスしようとした。」

「大輔さんも起きてたのにその事にはまったく触れないし。私嫌われてしまったんだと泣いたんですよ?」

「しかも今日以降私の前から姿を消すなんて・・・。勝手に好きにさせて居なくなるなんて・・・。」

裕紀の突然の告白に俺は何もいえなかった。

「・・・・私・・・大輔さんと離れたくないよぅ・・」

全身を血液が駆け巡った。

裕紀をこんなに悲しませてしまった自分が許せなかった。

とっさに裕紀を抱きしめた。

「ごめん!本当に俺って馬鹿だ・・。裕紀の気持ちに全然気が付かなかった。」

「俺も裕紀と離れたくない。」

裕紀が胸に頭を押し付けていやいやをする。

「・・・わたし・・これからも・・・大輔さんの側にいていいれすか・・・?」

なきじゃぐり俺に聞いてくる。

「ああ!もちろんだ!」

裕紀の顔に笑顔が戻ってくる。

涙で目を真っ赤にして、ほっぺを赤く染めこっちを見ている。

「もう一度言ってください。」

「何度でも言ってやる!俺は裕紀が世界一好きだ!」

「私わがままですよ?ちょっとした事ですぐ怒りますよ?嫉妬するかもしれません。それでも好きでいてくれるんですか?」

「そういうところも含めて全部が裕紀なんだ!俺を信じろ!」

「じゃあ態度で示してください。」

そういうと裕紀は目を閉じた。

さすがに鈍い俺でもわかる。態度で示してやろうじゃないか。

裕紀の肩に手を置き引き寄せる。

少しずつ顔を裕紀に近づけていく・・。

あと少し・・・お互いの唇が触れあ・・・


ヤッターマンのメロディが流れた。田中のメールだ。

その瞬間裕紀から近づいてきて唇が触れ合った。

柔らかく冷たい感触が唇に当たる。

一度離れまた角度を変えて唇を重ねる。

何度かキスをして離れる。

顔を真っ赤にした裕紀がぽつりと言う

「うー。恥ずかしいですぅ。大輔さんの顔見れません」

「そんなに照れるなよ。俺も恥ずかしいんだから」

きっと俺も大差の無い顔をしているだろう。

しばらくの間沈黙が続いた。

「裕紀!」

「はっはい!」

「順番が逆になったけど俺と付き合ってくれ!」

「はい!宜しくお願いします。」




[19327] エピローグ?
Name: まるせい◆cd5b2656 ID:76a86ac6
Date: 2010/06/06 19:38
後日

あの日の帰り道、田中からメールがきていたのを思い出し見てみた。

送信者:田中

件名:おめでとう

内容;振られた時の事は考えてない。今度お礼に飯おごれ。
   
   あと裕紀ちゃんに合コンセッティングしてくれるように頼んでおいて^~^

田中は所詮田中だった・・・。

メールを閉じ時計を見ると待ち合わせ時間から5分が経過していた。

「大輔さーん!」

「遅いぞ!遅刻だ~!」

ダッフルコートに毛糸の帽子・チェックのスカート姿の裕紀が走ってきた。

俺と裕紀はショッピングモールで待ち合わせをしていた。

「ごめん!準備に時間かかりすぎちゃって!」

「まあいっか!行こうぜ!」

自然に裕紀の手を取る。

裕紀は嬉しそうに腕を組んでくる。

「遅れちゃったお詫びに暖めてあげるね」

今日は付き合い始めて始めてのデート。

あれから俺たちは同じあやまちが起こらないようにいくつかのルールを決めた。

1.お互いに納得がいかないことがあればすぐに話すこと。

2.敬語は禁止

3.イベント事は必ず一緒に過ごすこと

必ず守れるわけではない。お互いの都合話せないことそんなことは承知の上での約束事。

だったら決めた意味は無いじゃないかと思うかもしれない。だが・・

「ルールがあるって事は二人だけの繋がりがあるって事じゃないですか」

という事だ。

ルールなんか無くてもイベントは一緒に過ごしたいしなんでも話したい。

先のことはわからないけど裕紀の笑顔を見ていればこの先にも幸せなことが待っている。そんなきがした。



[19327] ゆうき100%【2】
Name: まるせい◆cd5b2656 ID:76a86ac6
Date: 2010/06/08 23:50
春休みも残すところわずかとなった。

そろそろ宿題でも片付けようかなと思っていた所、朝から来客があった。

インターフォンが鳴りでてみると、そこには白いワイシャツにチェックのスカートとラフな格好をした美少女が立っていた。

ワイシャツから押し上げるように膨らんでいる胸は、もうすぐ中学3年生になるとはいえ同世代の子よりはるかに成長している。

いまさら説明するまでもない、昨年の秋から付き合はじめている彼女の裕紀だ。

付き合いはじめてからお互いの家にはよく行くから家にきても不思議はないのだが、事前に連絡がなく来るのは珍しい。

不思議に思ったので聞いてみた。

「連絡も無しに来るなんて珍しいな!どうしたんだ?」

「友達と遊ぶ約束して家を出たんですけど用事ができちゃったみたいでキャンセルされちゃった。」

「昨日チャットで『明日は宿題やる』って言ってたからそのままきちゃいました。」

確かに昨日話したとき今日は家にいると言って置いたが・・・

「とりあえず上がれよ」

「おじゃましまーす」

何度となく繰り返してきたやり取りをして裕紀を家に上げる。

付き合って半年ちょっとになるが学生の身分なのでデートはほとんど家でおこなう。

「私飲み物いれますので部屋いっててください。」

といって持ってきたバッグを俺に渡してくる。

家主ではないのに家の台所にかなり慣れている。

紅茶の位置や食器の場所に関しては俺より詳しいかもしれない。

両親との関係も良好でお袋が家にいるときは一緒にお菓子を焼いたりなど母娘のように接してる。

折りたたみのテーブルをセットして待っていると裕紀が紅茶を持って階段を上ってきた。


ひとまず、裕紀がいれた紅茶を飲み一息つく。



「今日は順子ちゃんと遊ぶ約束だったんだけどペットの猫を病院に連れていかなくなったんでキャンセルになっちゃったんです。」

「大輔さんが一人で寂しいだろうと思ってきてあげました。」

2年の頃に仲良くなった友達で【伊藤順子】という子がいる。裕紀との会話にもよく出ていて仲が良いみたいだ。

確か家の学校に姉がいるとか言っていたな。この近所に住んでいるらしい。

「寂しいも何も、毎日会話してるだろうが!」

「甘いですよ!大甘もいいところです!人と人の付き合いは触れ合える身体の距離が大事なんですよ!」

「チャットなんかでは心の距離は埋まりません。順子ちゃんもそういってました。」

自信まんまんに胸をそらして言い切る裕紀。

しかも自分の発言じゃないのか!

「あー!まあ俺は勉強するから適当に本でも読んでてくれ。」

「スルーですか!最近私って扱い軽くなってませんかっ?付き合って飽きたら放置するんですね。大輔さんは鬼です!悪魔です!」

「やかましい!こっちは宿題終わらせないと新学期を迎えられないんだ!邪魔するな。」

振り向きもせず机に向かっていると

裕紀が肩に顔を乗せて後ろから抱きついてきた。

お互いの顔が近づき背中には十分に発達した胸を押し付けてくる。

こいつわざとやってるんじゃないだろうか。

「だいたい今頃宿題やってるのがおかしいんです!休みは2週間もあるんだから計画的にやってればいいんですよ!」

「俺は計画を立てて実行してたのに、毎日デートだなんだと引っ掻き回したのはどこのどちらさんでしたかねぇ?」

そう、本来なら宿題は前半で終わらせてるはずだった。

うちの高校は珍しく春休みに宿題がでる。

というのも新学期がはじまったらすぐに実力テストがあるからだ。

範囲は去年ならったところ全体から出ることになるからテストでそれなりの成績を収めるには宿題をきちんとやる必要がある。

「だって・・・そうでもしないと大輔さんかまってくれないんだもん・・」

後ろでおとなしくなった裕紀を気にしつつ宿題を片付けていく。

俺は別にそれほど裕紀をほったらかしているわけじゃあない。

毎日チャットもしてるし、数日に一回はきちんと電話もしている。

実際裕紀はすごく甘えん坊なところがあると思う。

付き合う前から甘えてくることが多かった。

付き合い始めてからは毎日我侭も言うし甘えてくる。

突き放してみようかとも思うが、こうしてへこんでいる姿をみると小動物みたいでどうにも放っておけない。

とうとうこの沈黙に耐えれずギブアップしてしまった。

「わかったよ、勉強は裕紀が帰った後にするよ。一緒にゲームでもするか。」

さっきまでへこんでいたのが演技じゃないかとも思える変わりようで近寄ってくる。

「大輔さん大好き!」

といって正面から抱きついてくる。

最近では彼女というより年の近い妹じゃないかと本気で思ったりする。

頭をなでてやりテーブルを片付けゲームを準備する。

時間つぶしに丁度よいゲームということで、サイコロを振って各鉄道を回り収益を上げていくという昔からはやっているゲームを開始する。


このゲームは最初の目的地にプレイヤーが到着すると以後、目的地から一番遠いプレイヤーにお邪魔キャラが憑いて回る。

ゲームは好きだが、こういう頭を使うものには弱い裕紀は開始早々にビンボー神が取り憑いてしまう。

一度取り憑いた貧乏神は誰かになすりつけなければ1回ごとにいろんな嫌がらせをしてきてプレイヤーを借金地獄に陥れる。

「ああっ!大輔さんそこから先進んじゃだめです!また私にビンボー神が憑いちゃいますよ~」

「これも勝負だからな、悪く思うなよ。」

サイコロ運に恵まれ一発で目的地に到着する。

「ああ・・・・!ひどいですよ!私またびりになっちゃうじゃないですか~!」

一度転げ落ちたら最後まで上ってこれないのがこのゲームのやらしいところだ。

優劣がはっきりしてしまったら負けてるほうは惰性でゲームを続けていくしかない。

裕紀をみると不貞腐れてゲームをやっているのがありありと見える。

さすがに可哀相だとおもったがゲームはもう終盤なのでさっさと終わらせてやるほうがいい。

結果は大輔が1位、NPCが2位、裕紀が3位

裕紀はゲームが終わると無言で俺のベッドに入り不貞寝をはじめてしまった。

やれやれ、これはお姫様の機嫌を直すのは大変そうだなと思った、何もしないわけにはいかないので機嫌を直す方法を考える。

「そろそろ昼にするか。裕紀なに食いたい?今日は俺が作ってやるよ。」

布団がピクッと動いた。空腹ではあるがまだ怒りが収まらずどう対応しようか悩んでるみたいだ。

今日は納豆もあるし納豆チャーハンつくってやろうか?

我が家の定番メニューで以前つくってやったら美味しいと喜んで食べていたのを思い出した。

また布団が動いている。ゲームで負けた悔しさと食欲が心の中で戦っているのだろう。

こっちを向いて布団から顔をだした。

「ちなみに食後にはプリンが用意してある」

「大輔さんはやく準備してください。私おなかぺこぺこなんですよっ!」

完全に機嫌が直った。ちょろいもんだ。

早速1階に降りて料理にとりかかる。

まず野菜を切りサラダ油で炒める。そこにベーコンを入れる。その間に卵と納豆を混ぜておき醤油をたらす。

用意ができたらゴマ油をいれ、ご飯を投入し全体的に火を通す。

最後に納豆と卵を入れて絡めれば完成だ。

短時間でできてそこそこ美味しいので親がでかけてしまっているときはよく作る。

「わーい!頂きます~!」

幸せそうな顔でほおばる。

自分が作った料理をこうも美味しそうに食べてくれるのは良いものだ。

「もうちょっと醤油入れたほうがよかったかな。」

「私はこのぐらいの薄さが丁度いいですよ。」

休むことなくスプーンを動かしあっという間にデザートのプリンまで平らげる。

「お前、午後はどうするんだ?」

一応勉強もしたいので予定を立てる上で聞いておく。

「午後は適当に本でも読んでるんで勉強してもいいですよ。」

ふむ、勉強もあと数時間やれば終わるだろうし午後にやってもいいなら今日中には終わるだろう。

「洗い物は私やります。作ってもらってばかりじゃ悪いから!」

と裕紀が言うので俺は一足先に部屋に戻った。

洗い物が終わった裕紀はお茶をいれてきてくれた。

戻ってきてからはおとなしく本を読み始めた。

おかげで勉強はすごくはかどり、夕方前にはある程度の目処はついた。

ふと静か過ぎると思い後ろを見てみると、裕紀は布団に包まり眠っていた。

寝顔をみると整った顔立ちが緩んで幸せそうな顔で眠っている。

きっといい夢を見ているんだろう。

勉強で疲れてた俺も眠くなったので、裕紀をちょっとはじにずらしベッドに入った。

裕紀の頭をなでるとトリートメントを念入りにしている癖のないストレートな髪が手からこぼれる。

さらさらした感触が心地よくなんどもすくうように手に取る。

しばらく同じ動作をしていたら眠気が押し寄せてきたので素直に眠気に身を任せた。





気がついたら夜になっていた。

母親が仕事から帰ってきた音で目を覚ます。

時計を見るとすでに18時を回っていた。

「おい・・!裕紀起きろ!もう18時だぞ!」

寝起きの良くないやつなので普通にやってると起きない。

肩をつかんで激しく揺する。

「起きろって!」

「ふぇ?・・・あと30分・・・・」

まだ寝ぼけているのか完全に目が開いていない。

「あと30分も寝るなああああああああぁ」

「大輔さんうるさいです。ちゃんと聞こえてますから」

「俺か?俺が悪いのか?」

「冗談ですよ~。ちゃんと起きてますって。」

「まったく。ほらちゃんと起きて」

「起きれないので起こしてください!」

・・・めんどうくさくなった。

敷き布団をスミから持ち上げていく。そうすると裕紀がころころと転がっていく-

ゴチンッ!

なにかが落ちた音がした。思っていたより大きい音だったので吃驚してると。

「ううう。痛いよぅ。ベッドで寝てたのになんで床に・・。」

ちょびっとだけ罪悪感が湧き上がってくる。

「ほらほら!寝ぼけてないでさっさと起きる。帰る時間が遅くなるぞ!」

「大輔さんひどいです!私を突き落としておいて謝りもしないなんて!」

「起きないお前が悪い!俺はがんばって起こそうとしたんだぞ。」

「む~!傷物にした責任取ってください。」

「人聞きが悪いし言葉の使い方間違ってるから!」

「大輔さんが責任取るまで私は起きません」

そのまま床にゴロンと寝転がる。

今までの付き合いでこういうとき何を求めているかはわかっている。

半眼でこちらを見てまた目を閉じている。

このままではいつまでたっても終わらないので裕紀の希望通りにする。

裕紀を抱き起こし顔をこちらに向けキスをする。

そうすると裕紀が唇を押し付けるようにぐいぐい押してくる。

されるままになり頭をなでてやる。しばらくして顔を離すと

「はぅー。」と呟いている。

毎度のことなのでもはや慣れてしまった。

しかし毎度のこととはいえ・・なにやら視線を感じる。これは裕紀以外のものだ。

ふと扉をみると開けっ放しの入り口に母親が立っていた。

思春期の息子を暖かい目で見ていた。

「おわぁああああああ!いつからいたんだよ!」

お袋に向かって叫んだ。

「帰ってきてしばらくしたら2階から鈍い音がしたから気になって上がってきたのよ。」

どこから聞いていたんだ?

「大輔!裕紀ちゃんを傷物にした責任ちゃんととりなさいよ」

死んだ・・・。一番聞かれたくないところを聞かれてしまっていた。

誤解なのだが色眼鏡をかけているうちの母には説明は一切通じない。

「裕紀ちゃん晩御飯食べていく?」

「あっ!今日は突然だったので家になにも言ってきてないのでそろそろ帰ります。」

そんな会話を平然としている裕紀。お前はキスしてるところを親に見られて気まずくないのか。


「大輔!もう外も暗いんだから裕紀ちゃん送ってきなさい。」

「分かったよ。じゃあいくか」

そういって裕紀を送るために外に出る。

俺は物置においてある自転車を取りにいく。

「それでは今日はお邪魔しました。」

母親と仲良く会話をしている。

「またいつでもきてね。今度は私がいるときに来て頂戴。」

「はい!それではまたー」

挨拶もそこそこに自転車を漕ぎ出す。

裕紀の家と家は自転車で15分ぐらい離れたところにある。

なので遅くなった場合はいつも俺が送っていく。

今日は友達と遊ぶため電車で近くまで来たみたいなので二人乗りで帰る。

「今日は楽しかったです。」

「悪かったな。午後はあんまりかまってやれなくて。」

「いいんですよ。同じ空間に居られればそれだけでも」

たまに素で聞くと恥ずかしい事をいう。

意識していないからこそ言えるのだろうが聞くほうの身になって欲しい。

普段から可愛い彼女だと思っているのにぽろっと嬉しい言葉をかけてくるから顔が緩んでしまう。

「大輔さんのベッドって寝心地がいいんですよね。つい眠り込んじゃいました。」

ふむ。家は毎日布団干しをしているしそれが気持ちいいんだろうな。

「だけどこんなに寝ちゃったら夜眠れないんじゃないか?もうすぐ学校なんだからあんまり夜更かしするなよ。」

「はーい」

いつもの調子で話していると裕紀の家に到着した。



[19327] その1
Name: まるせい◆cd5b2656 ID:76a86ac6
Date: 2010/06/09 22:46
始業式

今日から高校2年だ。

去年一年は色々あったが仲の良い友人もいっぱい増えた。

【エスケープ事件】以来クラス内での知名度がぐんと上がり男子と一部の女子が良く話しかけてくるようになった。

「よお!今年も同じクラスだな」

「そうか、あの問題にはこの公式を当てはめればよかったのか・・なるほど・・」

「って!うぉい!新学期早々無視するなよ!」

いきなり席にくるなり騒ぎ出してうるさいやつだ。

「だれかと思えば鈴木じゃないか!久しぶり!休み元気にしてたか?」

「だれだよそれ・・・。ボケはいいからまじめに答えろ。」

「わかってるよ。バ・・・田中だよな。」

「今お前馬鹿って言おうとしなかった?なんで俺いきなり扱いひどいの!!」

「こいつは田中。1年の時からの友人だが激しく馬鹿である。」

「どのくらい馬鹿かというと【女子中学生ストーカー事件】に関しては語ることもできない」

「おい!なにナレーション口調で話してるんだよ!誰に説明してるのさ!」

「大体その事件、お前のために俺が中学まで行った心温まる話のはずだろ!なに恥ずかしい事件ぽく捏造してるのさ!」

「ということに世間ではなっているが実は・・・」

「いや!実はじゃないって!」

「わかったよ。お前の言うとおりだ。」

そういうと俺はやつの言葉を肯定してやった。

「いや・・なに物分りの悪いやつだなって顔でいってるんだよ。俺間違ったこといってないから」

「始業式からテンションたかいな・・。とりあえず座れよ。」

「なにやら非常に納得のいかないものもあるが、とりあえず色々疲れたから座るわ。」

その後も田中をからかっていたら教師がやってきた。

今日は始業式なのでこのあとHRでクラスの役割を決めれば終了となる。

教師の長い挨拶とクラスメイトの自己紹介が終わる。

この後は委員会決めだ。できるだけ楽な委員になりたいなと考えているうちにクラス委員がきまった。

全員に役職をつけるみたいだ、ぼーっとしていると枠が埋まってしまい誰もやりたがらない仕事になる可能性がある。

図書委員と保険委員は週の当番みたいなのがあるからパス。

美化委員はごみ広いが面倒くさい。短期間の労働ですぐ終わる委員会は・・・・

頃合を見つけて俺は手を上げた。

「俺は体育祭実行委員をやります。」

これで安心だ。体育祭実行委員なら4月に開催されるため最初だけ忙しいが、終わってしまえば後が楽だ。

ところがここで計算外の自体が起こる。

基本的に委員会はクラスから男女1名ずつでるのだが、ここで女子側が一人手を上げた。

そいつは1年の頃から知らないやつは居ないぐらいの有名人。容姿端麗・スポーツ万能でうちの高校で3本の指に入る美少女。

【渋沢有希】だった。

今頃彼女と同じクラスということに気が付いた、なぜ体育祭実行委員をやるのかが謎だ。

他に手を上げるやつが居ないためそのまま決まってしまう。

別に俺は渋沢が嫌いと言うわけではないが1年の頃から一方的に嫌われてるみたいだ。

なのになぜあえて俺と同じ委員会を選んできたのかと不思議に思う。

20分ほどして全ての枠が埋まった。

「それじゃあ今日のHRはこれで終了とする。なお、体育祭実行委員は今日から会議があるので参加するように」

そういって教師は出て行く。

「ラッキーだな!あの渋沢と同じ委員なんて。」

確かにクラスの男から見たら羨ましく思われる気持ちはわかる。

俺だって青少年だし、美人と一緒に居られるなら例えどんな苦難が待ち受けていても構わないと思うだろう。

だが事渋沢に関してだけは別だ、あいつと俺は犬猿の仲。不倶戴天の敵。

こんなことならやつが選ぶのを待ってから委員会を決めればよかった。

そう思っていると渋沢が近づいてくる。

「はやくしなさいよ。実行委員の集まり3年の教室でやるって。置いてくわよ」

近くで見ると不機嫌なのが分かる。だが怒っていても人を惹きつける綺麗な顔。

そこらの女子高生など比べ物にならない完璧なプロポーション。光の加減だろうか?見る角度により髪が茶色く見える。

さらに渋沢は頭もなかなか良く1年の定期試験では10位以下に落ちたことがない。

見れば見るほど完璧超人だ。

「はやく準備しなさいといってるの!さっさと終わらせて帰りたいんだから。」

急いで荷物をまとめて田中に別れを告げて後ろについていく。

「よりによってパートナーがあなたなんてね。まあ決まってしまったものは仕方ないからちゃんと仕事してよね。」

正直むっときた。先に立候補していたのは俺のほうだ。そんなに俺が嫌ならそもそも立候補しなければ良かっただけだろう。

言い返してやろうかと思ったが、古来より女に口で勝てる男はいないと知っているので我慢しておく。

「と・・とりあえず短い期間だからお互いに我慢してやろうね。」

友好的に振舞うつもりが感情を制御できなかったみたいだ。ちょっとだけ本音がもれてしまった。

絶対に文句を言われるかと思ったが、聞こえなかったのかそのまま歩いていく。

3年の教室に入りすぐに会議が始まった。

おもに決める事はといえば当日の本部設置と本部に詰める当番の順番そのたの準備の確認ぐらいだった。

昼前には会議が終わり解散となったので午後からは田中と遊ぼうかと考えながら教室をでた。

下駄箱に向い歩いていると後ろから渋沢が追いかけてきた。

「ちょっとまって、安藤この後予定ある?」

厳密に言うと予定はない。だが渋沢のこの後の行動が読めないためなんと答えるべきか悩んだ。

「友達と遊びに行こうかと思ってるけど。」

「つまりまだ約束してないのね?なら丁度いいわ!さっきの会議の打合せをやるわよ。」

「は?」「そんなの今度でいいんじゃないか?まだまだ先の話なんだし。」

「この私が誘ってあげてるんだから黙ってついてきなさい。」

「って俺の意見は無視かよ。仕方ねえな・・」

特に予定もなかったわけだし黙ってついていく。

「んでどこに行くつもりだよ?」

すでに学校を出て歩いている。打合せなら学校でやるのかと思っていたのだが・・・

「ひとまずお腹すいたからマックにいきましょう。そこで打合せするわよ」




マックに着きそれぞれ注文をして席につく。

俺は照り焼きバーガーのLセットを注文した。

渋沢はポテトとコーヒーという組み合せだ。女子ってあの程度の量でよく身体がもつな。

「んで、打合せといっても当日の当番の時間とかそんなもんだろ?」

「あんた馬鹿ね!そのほかにもクラスに協力をあおいだりとか勝つための選手の選定とかあるでしょうが。」

確かに言ってることはもっともだが、クラスが編成されたばかりの現状でだれがどの程度の戦力になるか測りきれないのだから・・・

今日こうして打合せをする必要はないと思うのは俺の気のせいだろうか?

「んでそっちはどのぐらいクラスの戦力を把握してる?俺が分かる範囲は去年同じクラスだったやつぐらいだぞ」

「そうねー。運動部の人間は大体わかるかな。後は文系の人間にもそれなりに運動が得意な人もいるし。」

「うまくチームを組ませて勝てるところは勝ってある程度は負けるのも覚悟しなきゃね」

確かに戦略的な観点からみると悪くないように思える。勝負に負けたくないという気迫も伝わってくるが・・。

「なあ、体育祭なんてお祭りみたいなもんなんだからもう少し適当でもいいんじゃないか?勝てるやつは楽しいかもしれないけどさ。」

「負けるの前提で組まされるやつが可哀相じゃないか?」

「確かにそれはあるわね、でも適当はだめ!皆で話し合って最良の組み合わせを考えるべきよ」

以外だった、強引にこんなところに連れてこられて一方的に話し始めるようなやつだから人の意見なんて聞かないかとおもったが、

他人のことも考えられる思いやりを持っているみたいだ。

そんなことを考えて見ていると

「ん?何?あんまりじっとみないでよ変態」

うん。ちょっとでも良い奴だとおもったのは気のせいだったようだ。

「いきなり失礼だな!そんな風に他人を思いやれるなんて意外だったなと思ってただけだ」

「あんたも結構失礼なやつね。」

「だってそうだろ。強引にこんなところまで連れてくるし。1年の時からなんとなく目の敵にしてるみたいだし。」

「それはべつに・・その・・・・目の敵にしてるわけじゃ・・・」

さっきまでと違い声に元気がない上はっきりしない。

「まあ別にいいけどさ。俺のこと気に食わないならはっきり言ってくれてもいいぜ。影でコソコソ嫌われるよりよっぽどいい」

「別に嫌ってなんかいないわよ。ただちょっと気に入らないだけ」

「理由聞いてもいいか?」

「あんた定期試験で毎回私の上の順位いるわよね?狙ってやってるのかしら?」

「いや別に普通に勉強してテスト受けてるだけだけど。特に渋沢をマークしてるわけじゃないぜ?」

「私がどれだけ勉強してもかならず上にいるからどんなやつなのかなって思い始めたのよ。」

「それから注意してみてるけど、あなた全然勉強してるように見えないし家で効率的な勉強をしてるに違いないとおもったのよ」

「単刀直入にいうけど、私にその勉強法を教えなさい。」

ようやく今日呼び出された理由がわかった。体育祭の打合せをメインでやりたかったわけじゃなく俺がどれぐらい勉強してるかを探りたいんだ。


「勉強法っていってもな~。授業真面目に聞いて家で復習すればある程度はできるんじゃないのか?」

「そもそもなんでそんなに勉強にこだわるんだ?渋沢って部活もやってるし両立させた上であの順位だろ?」

「俺なんかより全然すごいじゃん。尊敬するよほんと。」

「私は一番にならなければならないの・・・。」

なにか切羽詰ったものを感じる。突っ込んで聞いてみたいがきっと教えてくれないだろう。

「力になれなくて悪いな。地道に勉強するのが一番だと思うぜ。」

「今日のところはこれ以上決めれることないだろうし俺は帰るよ。じゃあな。」

渋沢はまだなにか言いたそうだったが結局なにも言わなかった。

用件は終わったのでこれ以上居る意味はない。

俺は渋沢の方をみることなく早々に店をでた。






始業式から2週間がたった

体育祭が1週間後にせまり、実行委員の俺と渋沢は放課後に作業をしていた。

「はやく終わらせましょう。部活があるんだから」

とっとと終わらせることに俺も異論はない。

さっきまで競技の選手決めを行っていた。

なかなか立候補者がいなくて決まらなかった為、時刻はすでに17時にさしかかろうとしていた。

俺と渋沢は今、当日のしおりを作っていた。

一枚ずつ折りたたんでホッチキスで止める単純作業だが学年全員分となると結構時間がかかる。

渋沢はバスケ部でレギュラーなのでできるだけ練習の時間を減らしたくないのだろう。

「俺がやっておくから、渋沢は部活いってもいいよ」

「何いってるのよ。任された仕事はどんな理由があってもきちんとやるのが当然でしょ。」

「安藤一人に押し付けるなんてできないわ」

話してみてわかった。今まで外見的なところしか見ていなかったが渋沢は考え方がしっかりしている。

最初は見た目の容姿に惹かれるが、外見だけの人間がここまで人気が出るわけがない。

放課後の静まりかえった教室。外からは陸上部がスタートの笛を吹く音が定期的に聞こえてくる。

校内で人気の女子と二人きりというシチュエーションは普通に生活をしていたらほぼありえないだろう。

外は日が落ち始めちょっと暗くなってきたので電気をつけようかとおもっていると・・・

渋沢が立ち上がって出て行こうとする。

「どこいくんだ?」

呼び止められて気まずそうにしている。顔がちょっと赤くなった

「トイレよ!いちいち聞くな!察しなさいよね」

今のは確かに俺のほうがデリカシーがなかったと言わざるえない。

気まずいので手短に「ごめん」といって作業に戻る。

そこから10分たっても渋沢が戻ってこなかった。

トイレにしては長いと思い心配になり様子を見に行くと

「なあ、試しに一度付き合うだけでもいいからさ」

視聴覚室から声が聞こえてきた。

「斉藤君を振るなんて何様のつもりなんだ?」

かなり興奮しているみたいで外まで声が響いている。

ここで推測を立ててみる。15分ぐらいもどらなかった渋沢と今視聴覚室から聞こえた内容。

告白されて振った相手に絡まれてる?

「申し訳ありませんが、私は今のところ誰とも付き合う気はありません」

渋沢の震えた声が聞こえてきた。

扉の隙間から覗いてみると先輩が二人渋沢を逃がさないように出口をふさいでいた。

めんどくせえ。



他人の色恋にどうこう言うつもりはないが、渋沢は毅然とした態度ではっきり断っている。

それでも自分の気持ちを押し付ける先輩になんだか腹が立った。

無造作に扉を開ける。先輩と渋沢が同時にこっちをむく。

「なかなか戻らないと思ったらこんなとこにいやがった。戻って作業手伝えよ」

そういって渋沢の手を掴んで歩き出す。

われに返った先輩方が食って掛かる。

「てめえ何勝手に連れて行こうとしてるんだよ。空気よめや!」

「先輩達こそ空気読んでもらえませんか?今俺達は実行委員の仕事をしてるんです。」

「断られたら素直に身を引いたほうがいいんじゃないですか?」

怒っているのだろう。口をパクパクさせている内に教室をでた。

廊下を歩いていると

「いい加減手を離してもらえるかしら?」

ふと手をみるとまだ渋沢の手を握ったままだった。

手を離し並んで歩き出す。

「なんで助けてくれたの?」

不思議そうに聞いてきた。

「安藤って私の事嫌いだったんじゃあ?」

別に嫌いというわけではない。1年の頃から顔を真っ赤にして睨んできたり敵意をむき出しにされていたので気にしていたが、

そのこともテストの順位で意識されていたと理解できたのでわだかまりは溶けたつもりだ。

「友達が明らかに困ってたら普通助けるだろ?あのままじゃ埒があかなかったし。」

俺の答えをきいて考え込んでいるのか何も言ってこない。

もしかして友達と思われていなかったのだろうか。

教室に入るとき渋沢が小声で呟く。

「ありがと」

顔を赤くして席につく渋沢。素直にお礼を言うのが恥ずかしかったみたいだ。

「さあ、あとひとふんばりがんばろうぜ。」

結局しおりの作成は終わらず19時になった時点で強制的に学校から追い出されてしまった。

残る作業はあと少しだから明日ちょっとやれば終わるだろう。

なんとなくそのまま置いて帰るのもまずい気がして渋沢を駅に送るため自転車を押して歩き出す。

「安藤って余計なことは何も聞いてこないのね。」

「ん?さっきの事なら渋沢が話したいなら聞くけど無理には聞かないぜ」

「さっきのバスケ部の斉藤先輩って人なの」

「放課後に視聴覚室に呼び出されて行ってみたら告白されちゃった」

どうやら聞いて欲しかったらしい。

「ふぅん」

「断っちゃったんだけど、今まで仲良くしてくれた人だから気まずくて」

とりあえず聞き役に徹してればいいのでそのまま話を聞く。

「私って1年のときに10回告白されてるのよ。だけど誰とも付き合ったことがないの」

「なんで?その中にいいなと思う人いなかったわけ?」

「・・・・自分に自信がないの。」

「は・・?」

いまさら何を言い出すんだろう?美人でスポーツ万能で成績優秀。

学校が誇るアイドル的存在なくせに自信がないとかありえない。

「お前馬鹿だろう?」

俺の言葉に反応する。ただしいつもの調子ではなくこちらの様子を伺うように見てくる。目元が潤んでいるのは涙を我慢しているからかもしれない。

「自分に自信があるやつなんてそうはいないっての!大体渋沢が自信もてないなら勉強しかできない俺なんてもっと無理だよ」

「他人が自分のことを魅力的って言ってくれてるならそれが渋沢の魅力なんだから素直に信じればいいんだよ。」

普段は明るく友達と過ごしていて、俺には辛らつな言葉を浴びせてくる渋沢が自信が無いなと到底信じられなかった。

「私昔いじめられてた事があるの。私の髪って光の加減で茶色く見えることがあるのよ。」

「小学校の頃先生に『子供の癖に髪を染めるなんて不良のすることだ。保護者に注意するからな!』って言われて」

「お父さん呼び出されて説明して納得してもらったんだけど、そのことがきっかけで周りから苛めにあうようになったの。」

なるほど。小学生ぐらいの年代なら教師の言うことは絶対のはずだ。

教師が面と向かってしかりつけた事により正義感という大義名分を得て弱いものを叩く。

過去のトラウマが残り自身をもてないということは良くある。

だが過去は過去なのだから克服するしかない。

「もっと気楽に生きても良いんだぜ。小学校の同級生の苛めは忘れられないかもしれないけど、今のお前は人気者だ。」

「もし仮にお前を苛める奴がいたら今日みたいに俺が助けてやるよ。」

「本当に・・・助けてくれるの・・?」

上目遣いでこっちを見てくる。風が吹き、渋沢からシャンプーの香りがただよってくる。

なんだよこいつ。しおらしくしてればすっげえ可愛いじゃん。

「さっきも言ったろ。友達が困ってたら助けるのが普通じゃないか。」

「ありがとね・・。私もあんたが困ってたら助けてあげるわよ。」

だんだんと普段の調子に戻ってきた。ここまで散々恥ずかしい事をしゃべっていたのでそろそろこの空気に耐えられなくなっていた。

「まあ・・俺が困ってるのは大体渋沢絡みなんだがな・・」

「なんですって~!ひとがせっかく歩みよってあげてるってのに!」

怒っているが途中で笑い出す。俺もつられてて笑う。

「やっぱり自然体の渋沢のほうが一番だな。」

その後喧嘩しながら話していたら駅までついた。

「それじゃまた明日ね!」

「おう!明日で作業終わらせような」






渋沢は一度打ち解けてしまえば実に話しやすいやつだった。

俺達は体育祭の準備の間いろんなことを話した。

テストのこと部活のことお互いの友人関係のこと。

充実した時間はあっという間に過ぎいよいよ体育祭当日を迎えた。



「暇だな~。」

俺は今体育祭本部にいる。当番制によりこの時間は本部につめていなければならない。

本当なら各学年から1名なのであと二人いなければならないはずだが、前の競技の進行が遅れているために戻ってこれないみたいだ。

雲ひとつない快晴でまさに絶好の運動日和といったかんじだ。

そこに渋沢が飛び込んできた。

「安藤!由佳が倒れたから横になれる場所確保して。あと氷の準備しておいて。」

クラスメイトの伊藤由佳が倒れたらしい。伊藤はいつも本を読んでいて運動は苦手という文学少女だ。

聞いたところによると応援席で気分を悪そうにしていたので声をかけたところ倒れたということだ。

ほどなくして伊藤がクラスメートに運ばれてきた。

俺はベンチにタオルをしきそこに伊藤を横たわらせる。

「大丈夫か?とりあえず横になっておけよ。」

「由佳平気?だめなら保健室連れて行くからね」

症状を聞いてみると、眩暈と頭痛がするらしい。

発汗の量も凄いので恐らく日射病だろう。

ベンチに寝かせ、足が心臓より上にくるように毛布で高さを調整してやり団扇で扇いでやる。

程なく伊藤が落ちついてきた。

渋沢が心配そうに見ていたので説明してやる。

「症状からみて日射病だと思う。応急処置はしたから多分大丈夫だよ。」

「よく判ったわね。凄いじゃない!」

原因を聞いて重大な病気ではなかった事にほっとしている。

もっとも処置に関しては、家庭の事情で簡単なものはできるようになっているがあえて説明するほどではない。

「ところでなんで安藤一人なの?他の学年の人はきてないの?」

「どうやらスケジュールの遅延で捕まってるらしい。」

「ふぅん。一人じゃ大変だろうし由佳が心配だから私もいてあげるわ」

正直ここで伊藤を置いて一人にされるのはつらかったので助かった。

「サンキュー!クラスのほうはどう?」

「みんな楽しんでるわよ。特に田中なんていつも以上に馬鹿やってるわ」

「あいつはお祭り男だからな~。仕方ないさ。」

しばらく話していると伊藤が席に戻ると言って来た。どうやらもう大丈夫らしい。

「じゃあ私は由佳について戻るけどまた後でくるから。」

そういって戻っていった。

その後まもなく1年と3年の当番がきて午前の部が終了した。

昼の時間になると普段と同じグループに集まって昼食をとりはじめる。

体育祭とはいえ普段から購買で飯を買っている俺は急いで購買に買いに良く。

首尾よくパンを二つと飲み物をゲットすると教室にもどり田中を探す。

意外なことに田中は一人ではなかった。

伊藤と渋沢と向かい合って弁当を広げている。

「珍しいな田中!女子と飯食うなんて。」

「おう!せっかくの体育祭なんだからクラスメイトと交流をはからないとな」

そう返事を返してくる間に俺もちゃっかり座り込み食事をとりはじめる。

「安藤の家ってお弁当作ってもらえないの?」

「家は両親共働きだからそういうことであんまり負担かけられないんだ」

母親の言によると

「金で時間を買っているのよ。だから暇があるならあんたが自分で作りなさい」

ということだ。

俺も料理ができないわけじゃないが、朝1時間早起きして弁当をこさえる程の元気はない。

「毎日パンだけじゃあ栄養偏るわよ。きちんと野菜もとらないと」

そういう渋沢は玉子焼きにから揚げにサンドイッチとカラフルな弁当を持ってきている。

「私食べきれないから安藤にも手伝わせてあげるわ」

弁当を見ていたことで物欲しそうに見えたのだろうか?渋沢がそんな提案をしてくる。

「悪いな、せっかくだからちょっともらうよ。」

手掴みでから揚げをひとつもらう。

冷凍食品では出せない味付けが口の中に広がる。

おそらく醤油と生姜とにんにく、胡椒の汁につけこんで揚げたのだろう。

スパイスが効いて本当に美味しい。

「渋沢のお母さんって料理上手なんだな。うまいよこれ。」

「それ作ったのあたし・・。うちお母さんいないからさ。」

つくづく地雷を踏んでしまうなと思うが一度いってしまったことは取り消せない。

ごまかすように明るく行く事にした。

「渋沢って料理も得意なんだな。彼氏になる奴は幸せだよなハハハ。」

焦りをごまかせずなにやらおかしな事を口走っているようだが何を言っているか自分でもわかっていない。

渋沢は顔を真っ赤にしていて伊藤と田中はあきれた顔でこっちを見ていた。

「なんでこいつは色んなところでフラグ建てちゃうかね・・」

「安藤君・・・鈍感すぎ・・・」

フラグ?鈍感?今の言葉になにか不当なものが含まれていたのだろうか?

3人の反応にいまいち釈然としないものを感じたが分からないものは仕方ない。

その後なぜか休憩時間一杯3人とも俺に対する愚痴を話し続けた。


午後になり、当番も終わったので競技に参加する以外の時間やることがなくなってしまった。

応援も高校生ともなると一致団結してというより友達と騒ぎながらする感じだ。

午前中本部に居たためどうにも乗り遅れてしまいそんな雰囲気ではない。

退屈なので本部で渋沢をからかって遊ぼうかと思い向かってみたが、本部をみても渋沢がいない。

どこか行ってるのかなと思いぶらぶらしてると、用具小屋あたりで渋沢の声がした。

「ですから、何度も言うように私はあなたと付き合うつもりはありません」

「好きな奴いないんだろ?だったらためしに付き合ってみてくれてもいいじゃないか」

つくづく変な場面に縁がある・・。

困っているようなら助けてやると言った以上なるべく力になってやりたいが急に出て行くわけにも行かない。

「この前はそういいましたけど。私今好きな人居ますからごめんなさい」

「いったい誰なんだそれは?」

「それは・・・その・・・いえません」

「言えないと言う事はそんな奴いないんじゃないのか?」

だいぶヒートアップしてきている。

そろそろ止めたほうが良いなと思い出ることにした。

急に現れると聞き耳を立てていたのがばれるので、走ってきたかのように飛び出した。

渋沢と斉藤先輩がこちらをみる。

「渋沢探したぞ!本部で点呼かかったんで戻らないと!」

「あ!うん!すぐ行く!」

そういって斉藤先輩を無視して付いてくる。

目の前で渋沢を連れて行くのは2回目なので目をつけられたかもしれない。

男子の世界は上下関係が厳しいのでこのままでは虐めにあう可能性もある・・・。

念のため手は打っておこうと考えていると・・・

「点呼ってなにかあったの?」

本当に本部に呼ばれたと思っていたみたいだ。

「んにゃ。お前が困ってるぽかったから連れ出したほうがいいかなと」

「もしかして今の会話聞いてた?」

「ああ!ぶらぶらしてたら揉めてたし途中からだから良く分からなかったけど聞いてたぞ」

「いったいどこから聞いてたのよ!」

突然せっぱつまった様子で俺の手を掴んでくる。

やはり告白されてる場面など他の奴にみられたくないのかなと思い。

「先輩が『好きな人が居ないならためしに付き合え』って言ってたところぐらいかな」

そういうと、渋沢は俺から手を離した。

「私の言ったことも聞いてた?」

急に緊張の面持ちになりこちらの様子を伺い始める。

「ああ!先輩があまりにもしつこかったから好きな人居ますって言ってたことなら」

「あの状況じゃそうでも言わないと諦めてくれなそうだもんなー」

「うっうん!そうなのよ・・別に好きな人がいるわけじゃないんだけど仕方なくね」

本部へ戻ろうと思ったが渋沢が動かない。

「ねえ・・・・もしも本当に好きな人が居るって言ったら安藤気になる?」

「そりゃ友達の好きな奴の話だからそれなりに興味はあるけどな」

「ふーんそっか友達としてね・・・」

なにやら不機嫌そうに走っていってしまった。

やはり人助けはタイミングが難しいんだなと思い俺も本部に向かった。

その後はスケジュールが滞ることもなく体育祭は終了し、うちのクラスは学年で2位全体で4位の成績を残すことができた。

片づけを終えれば体育祭も終わる。

明日からはゴールデンウィークに突入するため1週間はのんびりできる。

しばらく裕紀と遊んでないので連休は目一杯デートしようと考えていた。


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