民主党の目玉施策だった子ども手当は、11年度からの満額支給2万6000円が実現しない見通しとなった。8日の会見で長妻昭厚生労働相が、これまでの姿勢を転換し、満額支給を事実上断念する考えを明らかにした。菅内閣が財政再建を重視し、政権公約修正へかじを切った象徴ともみられる。
■母親たち
子育て中の親からは「こうなると思っていた」などの冷めた反応や、「国民への裏切り」との手厳しい評価が聞かれた。
4児を育児中の東京都文京区の主婦、岸野美恵子さん(34)は「ウキウキしながら待っていたが、当初から無理があるのではと思っていた」と話しつつ、「財源の裏付けを取り、きっちり実行できる確信を得てから公約してほしかった」とチクリ。同区在住の地方公務員男性(31)は「マニフェストに掲げたことを実行しないのは、国民への裏切り。支給額を組み込んだ生活設計を考えていたので、いまさら減額されては困る」と怒りを込めて話した。
横浜市中区の主婦、本屋宣子さん(37)は「本音では満額支給された方がいいが仕方ない面もある。保育所の増設などにお金を回してほしい」と話した。【山田奈緒、宗岡敬介】
■厚労省
子ども手当を所管する厚生労働省では、「世間の感覚に沿っている」との受け止めが多い。
ある幹部は「大臣は最近まで、『簡単に衆院選で掲げた旗(マニフェスト)を降ろせるか』という姿勢で来た。内閣発足の日、あえて非常に難しいと言ったのは、現実路線重視の菅政権全体のメッセージではないか」と分析する。
担当局の幹部は「今年度の支給は月額1万3000円で、マニフェスト変更により実務的に支障が出るわけではない。自治体には、給食費の滞納分と相殺したいといった要望も多い。今後の制度設計のイメージはまだわかないが、判断変更の背景には自治体の声も反映している」と話している。【野倉恵】
■識者
高橋紘士・国際医療福祉大大学院教授(福祉政策)は「財源の裏打ちもないのに借金で賄おうとする施策は不健全であり、今の日本の財政状況を考えれば、当然の判断」と指摘。「現金給付をする場合は、本当に効果がある層に集中すべきであり、今後も子ども手当の所得制限などを議論し、生活に困難を抱える人たちを集中的に支援すべきだ」と話した。
一方、松田茂樹・第一生命経済研究所主任研究員は「今後手当が半額の1万3000円にとどまり扶養控除が予定通り廃止された場合、子育て世代への経済的支援はほとんど増えないことになる」と指摘。「財源問題が深刻だったのだろうが、政権交代で少子化対策にやっと光が当たり、子ども手当の満額支給に期待を寄せていただけに、大変残念でならない。まずは扶養控除の廃止を見直し、中長期的には増税も視野に入れて、改めて満額支給を目指すべきだ」と話している。
毎日新聞 2010年6月9日 東京夕刊