総会における「組織運営上の諸問題と対処策」の審議について

 

201068日  代表理事・加瀬和俊  

 

 昨年の総会(20095月)以降、本年の総会までの間に、本学会の組織運営に関わる二つの大きな問題が発生しました。そこで、本年の総会においてこの問題について代表理事より経過報告を行い、当面の措置について提案し、審議をお願いいたしました。ここでは、総会での経過報告、提案、審議結果の概要を要約してお伝え致します。

 

1.代表理事による経過報告と提案

 代表理事は前日に行われた全国理事会での討議結果を踏まえて、以下のように経過報告と提案を行いました。

(1)問題の経過

 第一の問題は、北日本漁業経済学会の学術雑誌である『北日本漁業』第37号(2009年3月)に掲載された中原尚知会員をファースト・オーサーとする論文「サンマの需給構造と市場の変化」が「『盗作』との疑念を招く」ものであり、「学会の威信と学会会員の尊厳を著しく傷つける行為」であると認定されて、この論文の著者の中原会員と、刊行経過に不適切な形で関わったとされた婁小波会員に厳重注意の措置がとられたことです(北日本漁業経済学会・池田均会長「通知」、20091124日)。これに対して中原・婁両会員は、北日本漁業経済学会の事実認定と処分には納得できないと主張しています。この問題に対して、本学会として何らかの措置をとるべきであるという意見が多数の会員から理事会に寄せられてきました。

 第二の問題は、本学会の『漁業経済研究』に20086月に投稿された会員からの投稿論文の審査が著しく遅延し、投稿者からの抗議文書が提出された200910月まで編集委員会の段階で放置され、これによって投稿者に回復不能な種々の不利益を負わせてしまったという問題です。その原因は、投稿論文の現物の受け渡しに関して編集総務・委員長(馬場治会員)は担当者に渡したと述べ、担当者(婁小波会員)は受け取っていないと主張していた状況が放置され、その食い違いを迅速かつ実務的に処理する努力がなされなかったことにあります。

(2)対処策の提案

 上記の二つの問題についての対処策として次の措置を提案します。

1)『北日本漁業』の掲載取消問題に対して

@すでに他人の作品として公にされた著作を、ほぼ同様の内容のまま、別人の著作として学会誌に投稿することは、オリジナルな著作の発表の場としての学会誌にとってふさわしいことではありません。したがって、北日本漁業経済学会の掲載取消し処分を支持します。

A両氏は、北日本漁業経済学会の措置を受け入れていません。そのことは、「他人の作品として公にされた著作を、別人の著作として投稿してはならない」という原則が、本学会の理事2名によって公然と否定されていることを意味します。『漁業経済研究』がオリジナルな論文を掲載する査読誌であるという立場を主張し続けるためには、このような見解を有する者を学会の運営機関の中枢に止めることは不適切です。

B上記の判断に立って代表理事は、中原・婁両会員に対して自発的に理事を辞任するよう勧告してきました。これに対して両氏は、北日本漁業経済学会の措置に対しては引き続き異論を有しているとしつつ、中原会員は「(同会員の)処遇をめぐって会員間における紛糾や無用な対立等が生まれること」についての「代表理事の混乱回避の要請に従い」、また婁会員は「編集遅滞の責任をとって」、それぞれ理事を辞任する旨、代表理事に申し出ました。

C代表理事としては、この辞任を受け入れることを全国理事会に提案し、その承認を得ましたので、同様の内容をこの総会に提案し、承認を求めるものです。

2)論文審査放置問題に対して

 投稿論文の保管・管理の責任者であった馬場編集総務(20096月より編集委員長を兼務)、編集委員会内の本投稿論文の担当者(20091月より査読者を兼務)であった婁編集委員に本問題の直接の責任があることは明らかですが、同時に毎月の編集委員会への出席難等の結果、両編集委員を中心とする少数の東京海洋大学のメンバーに編集作業の大半を任せてしまい、バックアップ体制や論文授受連絡等の実務的体制の整備を含む共同の努力を怠った編集委員会の全体的な責任も不問にはできません。

このため対処策としては、@編集委員会として謝罪して総辞職し、委員を交替する、A投稿者に対する編集委員会の義務を明文化し公表することによって実務体制を確立する、B掲載まで長期に及ぶ論文が多い現状をなくすように編集方式を変更する(掲載されるように投稿者に改善アドバイスを繰り返す方式をやめて、短期間の補筆で改善が期待できないとみられる投稿論文は返却し、再度の投稿は新規投稿として扱う方式に改める)、C査読を依頼された会員が多忙を理由に断らない協力体制を強める等の措置を計画しております。

 

2.議論と採決結果

 上記の代表理事からの経過説明と提案を受けて、討論がなされました。討論の冒頭において大海原宏会員を提案者とする会員有志が「婁小波・中原尚知両会員を除名する」という決議案を文書で提出しました。同提案の趣旨は、両会員の行為は本会会員・研究者にとって「許し難」く、「本学会の社会的信用を著しくおとしめる」ものであり、彼等を会員にとどめるべきではないというものでした。また、理事の辞任は認めるべきではなく、罷免すべきであるという意見もありました。さらに、本案件を糾弾するだけでなく、学術倫理について本学会全体を律する宣言を発すること等を考慮すべきではないかという主張もありました。また、両問題の関係者が被害を被った会員等に配慮して、謝罪を含む誠実な対応をしてきたとは思われないとした批判的発言もありました。これに対して代表理事の提案を支持する発言や経過についての質疑等もなされました。

 種々の意見の表明後、まず理事辞任を承認するか否かについての採決をとることが合意されました。採決は、辞任を申し出た理事一人一人について行われ、編集遅延の責任をとって理事を辞任した馬場治会員・川辺みどり会員とともに、中原会員・婁会員の辞任も承認されました。

 その後に予定されていた大海原会員提案の除名決議については、討論の結果、提案者が採決の要望を取り下げたため採決されませんでした。

 

3.今後の課題

 以上、当面の措置については総会で一つの結論を出していただきました。とはいえ、中原・婁両会員は北日本漁業経済学会の措置に同意しておらず、その帰趨によっては本学会としても新たな対応をとらざるをえないかも知れません。また、編集遅延問題を教訓にして新規にスタートした編集体制がスムーズに軌道に乗るか否かについては、新編集委員会の格別の奮闘とともに、投稿者・査読者を含む会員全体の理解・協力が欠かせません。来年度の大会において、その後の事態の推移を含めて、前向きな報告ができますよう、代表理事として引き続き努力していくつもりですので、御協力のほどよろしくお願いいたします。