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社説:強い社会保障 統合と選択と持続を

 「強い経済、強い財政」はわかるが、菅直人首相の言う「強い社会保障」とは何かよくわからないという人が多い。が、日本の社会保障は弱い。何が弱いのかといえばまず財源である。世界一の高齢国でこれからますます高齢者が増え続けていくというのに、税と保険を合わせた国民負担率は先進国で最低水準だ。医療や介護の現場を破綻(はたん)させないために消費税引き上げも含めた負担増を論議するのは必然である。

 もちろん財源をやみくもにつぎ込めばいいということではない。社会保障費の内訳を見ると年金や医療の比重が大きく、次が介護、ずっと下がって生活保護や障害者福祉や子育て支援がある。医療や生活保護も高齢者の占める割合が大きく、実際のところ現役世代の社会保障はほとんど注目されてこなかった。日本では雇用が安定しており現役世代の不安要因を吸収してきたからだ。しかし、今や非正規社員が労働者全体の3分の1を占め、完全失業者は300万人を超える。時代のニーズに合った職業訓練などの積極的労働市場政策に重点を置き、福祉を受ける側から働いて税金を払う側へ転換を促す必要がある。また、介護や育児サービスを充実させることは雇用の受け皿を作るだけでなく、介護や育児のために離職している有用な人材の職場復帰を促すことにもなる。

 強い社会保障のためには、第一に重点目標を定めて政策を統合することだ。場当たり的に給付や負担軽減をするだけでは社会保障の機能が高まらない。成長産業へ労働力を移していくためにも雇用を中心に教育と社会保障を統合した改革が必要だ。

 第二は優先的に実施すべき政策を選択することである。財源がない以上やれることは限られる。自民党政権を批判していた声をかき集めたのが総選挙時の民主党マニフェストだった。もう一度課題を精査し、多くの国民が安心を実感できる政策が何なのかを見極めるべきだ。

 第三は持続可能な制度設計である。わが国の子育て政策の予算水準は先進国の中で極めて低く、来年度から子ども手当を満額支給してやっと欧州並みになる。しかし、予算の組み替えで16兆円捻出(ねんしゅつ)するという当初民主党が描いていた前提が崩れた以上、支給額が現実的なものになるのもやむを得ない。保育所の整備など現物給付の充実を求める声にも応えなければならない。

 この数年、政権は1年持たず、社会保障制度も3年持たずに変更を迫られてきたものが多い。少子化対策などは何年も続けなければ効果が表れない。政局や選挙に巻き込まず、安定して長期間実施することが強い社会保障を実現する条件である。

毎日新聞 2010年6月10日 2時35分

 

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