<ひと・いき>
「周りの人がいて仕事ができる」という言葉が口癖だった父・正明さん(享年92)が2月に他界し、自身が理事を務める更生法人「茨城保護観察協会」に4月末、遺産から500万円を寄付した。
正明さんは故郷・新潟を離れ、1957年に日立市にパチンコや飲食業を営む株式会社「金馬車」を設立。61年、日立製作所から社員用の保養所の経営を任された。「周りの人の支援に、できることは返したい」と、日立市に国際交流基金1000万円を寄付するなど地域に恩返しをしていた。
正明さんは50年代後半に保護司も務め、更生の前提となる安定した職探しに奔走。「会社を紹介したのに行かなくなって……」と父親の悩む姿も中学時代に見てきた。
その後、病に倒れた正明さんの跡を継ぎ自分が会社の経営者になってみて、業績優先の競争社会の中で、民間企業が元受刑者を受け入れる余裕が持ちにくい状況も理解できるようになった。
「だからこそ市民参加の公的な支援が必要だ」と今は痛感している。自身の行動をきっかけに、「もっと市民の寄付が集まるようになってほしい」と願っている。【杣谷健太】
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■人物略歴
48年4月新潟県生まれ。72年早稲田大学政経学部卒業後、大手レストランチェーン入社を経て、76年に株式会社金馬車入社。00年、代表取締役社長に就任。更生保護法人茨城保護観察協会理事、更生保護法人有光苑理事などを務める。
毎日新聞 2010年6月6日 地方版