ここから本文です。現在の位置は トップ > 地域ニュース > 秋田 > 記事です。

秋田

文字サイズ変更
はてなブックマークに登録
Yahoo!ブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷

探検録:出所者の再犯防止(その1) 将来不安、逆戻り続出 /秋田

 ◇「刑務所にいたかった」 高齢化で仕事なし

 秋田地裁で7日、銃刀法違反に問われた住所不定、無職、横山茂夫被告(62)の判決公判があり、馬場純夫裁判官は懲役1年(求刑同1年6月)を言い渡した。秋田刑務所を出たその日のうちに果物ナイフを買って交番に差し出し、逮捕された横山被告。裁判では「自分はずっと刑務所にいた方がいいと思う」と口にした。刑期を終えても行くあてがなく、再び刑務所入りを望む人たちをどうするか。受刑者の高齢化が進み就業、自立の厳しさを増す中で、新たな支援策も始まった。【小林洋子】

 公判は事実関係に争いがなく、1回で結審した。

 事件が起きたのは3月27日午後7時ごろ。横山被告はプラスチックケースに入ったままの新品の果物ナイフ(刃渡り約10センチ)を手にJR秋田駅前交番を訪れ、「自首しに来た。持っていると何をするかわからない」と話した。警察官は戸惑い、対応を秋田中央署に相談したという。

 横山被告は、この日午前9時に秋田刑務所を出た。弁護側によると「東京の保護観察所に行くか、また事件を起こすか気持ちは半々だった」。当初の所持金は、入所中の作業報酬など約2万9000円。まず果物ナイフを購入し、昼食後にパチンコを始めたが使い果たしていた。

 「兄弟に迷惑をかけたくない」「将棋のことを考えていると、刑務所の中で自分を保っていられる」。法廷でこう述べた横山被告。検察側は「社会更生の意欲がなく、反社会的で自己中心的」と指摘した。弁護人の荘司昊弁護士は「生きるために刑務所を志願した」としたうえで、こうつけ加えた。「自分も被告の更生に尽力したい」

  ◆   ◆

 横山被告が同様の事件を起こしたのは、これが初めてではない。

 検察側の冒頭陳述などによると、横山被告は千葉県出身。中卒後に漁師の父の元で3年間見習いをして、その後は会社に就職し職を替えながら仕事をしていた。将棋は四段の腕前。だが03年12月、勤めていたパチンコ店が倒産し、失業したことが転機になった。

 次の職を探したが、年齢の制約もあって見つからない。クリスマスの日、病院で果物ナイフを取り出して金を出せと脅し、強盗未遂の疑いで逮捕された。判決は懲役3年。今回の裁判で当時の動機を問われ、「刑務所に入るためだった」と答えた。

 07年1月に仮釈放されたが7カ月後、千葉県で刃物を所持していると告げる手口で逮捕され懲役10月の判決。09年1月には埼玉県で銃刀法違反容疑で逮捕され、懲役1年の判決で秋田刑務所に入った。

  ◆   ◆

 荘司弁護士は、40、50代で初めて罪を犯し、その後社会復帰できずに何度も刑務所に入るケースを複数見てきた。

 きっかけは家族内の不和やギャンブルなど。裁判で担当した被告が執行猶予判決を受けたものの、その後連絡がつかなくなり後で自殺していたと知らされたこともある。「家族や知人とのつながりを絶たれ、更生のモチベーションを持ちにくい。年齢の問題に加えて前科もあれば働いてやり直すのは不可能に近い。将来が不安で、刑務所の方が快適と思ってしまっている」

  ◆   ◆

 横山被告は法廷で、診察を受けてがんの疑いがあると告げられたことを明らかにした。「今さら病気だと言われても動じない」と淡々と述べる一方で、こうも言った。「刑務所の中で死にたくない」

毎日新聞 2010年6月8日 地方版

PR情報

秋田 アーカイブ一覧

 
郷土料理百選
地域体験イベント検索

おすすめ情報

注目ブランド