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不思議な偶然の数々/口蹄疫

2010年06月08日

 一縷(いち・る)の望みをつないだ種牛たち。しかし、5頭が、念のために行われた「抗体検査」で「陰性」となり、延命を手に入れるまでには、不思議なくらいの偶然と、特例に次ぐ特例があった。

 口蹄疫(こう・てい・えき)の感染疑いが出た4月20日の直後、計55頭の種牛がいた県家畜改良事業団が移動制限区域に入った。そして発生農場は事業団から数キロの地点まで近づいてきた。

 このため、県は「エース級」の6頭を選抜。本来は移動が許されないのに「特例」として、5月13〜14日に2日がかりで、20キロ離れた西都市の山中へ移動させた。

 当初の想定は西米良村。しかし、移動開始後に「(避難予定場所の)周辺に畜産農家があった」として急きょ行き先を変更。6頭を野営させるなどして避難を完了させた。

 それから1日と少したった同月16日未明、県は事業団内で感染が疑われる肥育牛が見つかったと公表した。同じ施設内で感染の疑い例が見つかった場合は、すべて牛や豚は殺処分の対象となる。

 実は、この肥育牛は6頭が避難を終えた日には症状が出ていた。しかし、県は「(避難した直後に)本当にいきなり(症状がある牛が)出た」と説明。事業団に残っていた次世代のエースなど49頭は殺処分の対象となった。

 避難先でも「不思議」は続いた。県は同月22日未明、6頭のうち1頭が遺伝子検査で「陽性」とされた、と発表した。しかし、実は、「陽性」は19日の検体で出ていたが、県はこれを明らかにせず、翌20日の検体も検査に出し、これら2回の「陽性」の結果を受けて初めて明らかにした。

 一緒にいたほかの5頭も殺処分対象となる可能性が高まった。だが、県はこの時の発表で、避難先の牛舎には部屋が七つあり、「陽性」とされた1頭だけが体調が悪く興奮状態だったためほかの5頭と1部屋分離れた部屋に入れられていた、ほかの5頭には症状はない――と説明。再度特例を求め、残りの5頭を2週間、遺伝子検査を繰り返す経過観察とした。

 県がこの1頭の「陽性」を明らかにした日、東国原英夫知事は、事業団に残った49頭が、実は殺処分されていないことを明らかにした。そして、特例として殺処分回避を求める趣旨の発言を報道機関のカメラやマイクに向かって発した。

 ところが、知事は5月27日夜になると「国には(殺処分回避を)直接要望していない」と言いはじめ、翌28日午前には、49頭の一部からも口蹄疫の症状が出たことを自ら発表した。この日夕の県の発表によると、実はこの牛は、26日に発熱し、その症状はその日のうちに知事に報告されていたという。

 知事は7日開会した県議会6月定例会の提案理由説明の中で「日本畜産界の財産を失う結果となった。『守って欲しい』という要望が全国から寄せられており、私としても誠に残念」と述べた。

◆5頭無事 喜べぬ県

 素直には喜べない結果だった――。6日夜に県庁で開かれた記者会見。前日の遺伝子検査結果の発表会見には姿を見せなかった幹部が報道陣の前に現れ、喜びの言葉を漏らした。しかし、その表情は、5頭と一緒に避難した1頭、そして、施設に残った種牛49頭がすでに殺処分されていることから、決して晴れなかった。冷凍精液の年間供給量は避難した6頭で9割を占めており、5頭になった今後は、これまでの7割に落ち込む見通しという。

 「必死で守ってきたかいがあったと大変うれしく思っている。一方、50頭の種雄牛が犠牲になり非常に残念。そちらの方を非常に重く受け止めている」

 児玉州男・県畜産課長は、報道陣から感想を問われ、こう話した。5頭については、2週間に及ぶ遺伝子検査と、念のための抗体検査はすべて「シロ」。しかし、もともと県家畜改良事業団(高鍋町)で管理していた種牛は55頭。9割以上を失った状況では決して素直に喜べなかった。

 現在、西都市尾八重の避難先から半径10キロの地域は移動制限区域になっている。5頭と一緒に避難していた「エース中のエース」忠富士が先月22日、遺伝子検査で陽性となったためだ。

 県は、10日に再び5頭の抗体検査を行うとともに、制限区域内に入れられてしまった2戸の農家にいる牛を目視検査することで、清浄性を確認することにしている。異常が無ければ、13日午前0時に制限を解除するという。

 5頭について、県は再び県事業団の施設に戻す予定だという。ただ、川南町を中心とした地域では現在も口蹄疫の発生が続いているため、児玉課長は「(川南町付近の)清浄性が確認され、農家の経営が再開されるぐらいまでは今のところに置いておきたい」と話している。(石田一光)

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