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2)周期的凹凸構造の形成による撥水性及び光学特性に優れた表面の作成

 

散逸構造の説明のところをご覧になった方は、もうおわかりになられたかと思いますが、熱帯魚、キリン、シマウマの体表模様、そして細胞周期、呼吸、脈拍、睡眠と覚醒といった、空間パターン及び時間的周期現象が、自然界においては非常に普遍的に存在しています。すなわち、「散逸構造」あるいは「非平衡開放系の自己組織化」といった現象は、決して特別なものではありません。このような概念を用いることにより、非常に身近な材料においても革新的な技術開発が可能となります。

 ハスの葉の表面は水をよく弾き撥水性を示すことが知られていますが、これはその表面に微細な疎水性の凹凸構造が形成されていて、表面に空気を保持させることで水が塗膜本体と接触しなくなるためと言われています。したがって、表面に周期の揃った微細な凹凸構造を形成させることができるならば、同様のメカニズムによって撥水性の表面を作り出すことができるはずです。

これまでに当グループは、液膜の脱濡れという現象を利用して、ミクロレベルの周期凹凸構造を形成させ、撥水性表面を作り出すことに成功してきました。作成方法は以下の通り、非常に簡単なものです。
1)揮発性物質を含んだ3成分以上からなる液膜を、固体基盤上に作成する。
2)揮発性物質を蒸発させる。
3)2)の後に、場合によっては水に浸ける。

この結果として、下図の(a)に示すようなミクロレベルの周期凹凸構造が自発的に形成されます。この凹凸の周期が揃っているのは、この電子顕微鏡写真をNIH(National Institute of Health: アメリカ国立衛生研究所)Imageという画像解析ソフトウェアを用いて二次元フーリエ変換することで確認できます。(b)のようなパワースペクトルが得られ、形成された微細な凹凸構造は等方的で周期が揃っていると言えます。

(a) 形成される周期凹凸構造
(b) NIH Imageによる フーリエ変換解析

表面にこのような周期凹凸構造が形成されると、撥水性が向上します。下図の(a)および(b)は、ほぼ同様な組成の液膜で、凹凸を形成していない表面と形成している表面を作成し、そこに滴下した水滴の様子を示しております。微細な周期凹凸構造が形成されることで、撥水性が向上するのがおわかり頂けます。
 

(a) 非凹凸形成型表面
(b) 凹凸形成型表面
          
  また、このような表面は光を散乱させる機能も有します。下図の(a)および(b)は、同様の表面に対し、いくつかの入射角で照射された光の散乱状態を、ゴニオフォトスペクトロメーターで測定した結果ですが、微細な周期凹凸を形成することで、光を全方向へ乱反射させるようになることが確認されます。
(a) 非凹凸形成型表面
(b) 凹凸形成型表面
   この技術については、2002及び2003年度の2年間に渡りカネボウ(株)と共同研究を行ない、その成果はサンスクリーン剤として製品化されました。2003年には「ALLIE EX カットサンスクリーン R」、2004年には「ALLIE EX カットサンスクリーン a」として発売されました。
(a) ALLIE EX カットサンスクリーン R
(2003年発売)

(b) ALLIE EX カットサンスクリーン a
(2004年発売)

 本現象を理論的に説明するには、散逸構造理論をしっかりと理解していなくてはなりません。しかし、撥水性及び光学特性に優れた表面を、非常に簡単な作業で作成できる技術であることも確かです。したがって、化粧料以外にも以下のような用途での応用が期待されます。
 ・浴室の床や壁あるいは衛生陶器の撥水及び防汚
 ・美しい光散乱性を自発的に示す塗料
 ・排ガス処理触媒の比表面積の増大
 ・寒冷地における防雪あるいはつらら対策

  そして、撥水性及び光学特性に優れた表面を非常に簡単な作業で作成できる技術は、化粧品のみならず、様々な他の工業分野への応用が期待されます。現在、
 ・浴室の床や壁あるいは衛生陶器の撥水及び防汚
 ・美しい光散乱性を自発的に示す塗料
 ・排ガス処理触媒の比表面積の増大
 ・寒冷地における防雪あるいはつらら対策
等への応用を目指して研究を行なっています。尚、本技術の工業所有権は、化粧品分野についてはカネボウ化粧品に、化粧品以外の分野については慶應義塾に有ります。

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