2010年6月9日0時2分
五月末にガイトナー米財務長官が訪独、ショイブレ独財務相と会談した。サルコジ仏大統領も近く訪独する。こうした動きはユーロ急落による世界的金融不安の中で表面化した欧州連合(EU)のジレンマを示唆していると見るべきである。
米独会談ではガイトナー長官は欧州の金融機関に対する健全性検査(ストレステスト)を要請したと伝えられたが、真意はドイツに国際協調を促したものと思われる。独政府はEU加盟国との事前協議なしで空売りの一部禁止措置を導入し、EU内にきしみを招いたからだ。
歴史的にEU統合の政治的動機は二つ。域内ではドイツ経済を内包することでマルクを牽制(けんせい)し、ひいてはドイツの覇権を阻むこと。域外では米国に拮抗(きっこう)する経済圏を作ることでドルの掣肘(せいちゅう)を裁ち切ることだ。(ちなみに対米比肩の動機をめざとく見抜いたのはケネディ大統領だ。EU統合が揺籃(ようらん)期にあった時代に素早くケネディ・ラウンド《多角的関税引き下げ交渉》を提唱して先手を打った)
ところがギリシャ金融支援をめぐる動きの中で、域内貿易黒字国としてドイツ経済力の突出が鮮明化、危機の元凶とまで非難された。だからドイツが独自の金融規制強化に踏み切ったのは欧州中央銀行に対する挑戦と映り、金融不安を増幅させたのも無理はない。そこで一人勝ちのドイツが業を煮やさぬよう、域外の米国からは財務長官が、域内では仏大統領がドイツに駆けつける騒ぎとなる。
国際的なカネの流れに国境が無くなったいま、EUの政治的動機は「絵に描いた餅」に陥り、結局はグローバル・ガバナンス(世界的統治能力)の問題のなかに止揚されるのかも知れない。(昴)
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「経済気象台」は、第一線で活躍している経済人、学者など社外筆者の執筆によるものです。