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捕鯨問題「横領鯨肉の確保は知る権利の行使」グリーンピースの2被告に独占インタビュー

荒木祥2009/02/14
 政府がチャーターした調査捕鯨船の乗組員がその鯨肉を常習的に横領している事実を告発しようとしたグリーンピース・ジャパンのスタッフ2人が逆に窃盗罪で起訴された。2月13日に青森地裁でその公判前整理手続きが行われたが、公判開始に先立って記者は2人に単独インタビューし、横領告発の真意を聞いた。2人は自分たちの行為は国際人権規約が保障する「公共の利益のための知る権利」に基づくもので罪に問われるいわれはないと「無罪」を主張し、公判で検察と争っていく考えを明らかにした。
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 この2人はNGOグリーンピース・ジャパン海洋生態系問題担当部長の佐藤潤一さんと同アクティブ・スタッフの鈴木徹さん(肩書きは逮捕時・現在は公判に備えて自宅勤務)。佐藤さんは2006年に担当部長となり、日本の調査捕鯨の不正などを追及してきた。筆者は2月10日、東京・新宿の弁護士事務所で2人と個別に会って話を聞いた。以下は、2人の話を筆者が構成したものだ。
 
「お土産」はクール宅急便、塩蔵加工の横領鯨肉は常温輸送で

 政府がチャーターしている共同船舶の調査捕鯨母船・日新丸の内部から、情報提供者が初めてグリーンピース・ジャパンに連絡してきたのは2008年1月のことだった。情報提供者は、日本の南極海調査捕鯨が2005年度から捕獲目標数を倍増させたため、調査捕鯨船団の労働環境が悪化し、冷凍能力の不足からクジラの海洋投棄もあり、調査に必須の「ランダム(無作為)捕獲」もされないことがある、など政府事業の数々の不明朗な実態を明かした。

捕鯨問題「横領鯨肉の確保は知る権利の行使」グリーンピースの2被告に独占インタビュー | <center>証拠品として東京地検に提出された横領鯨肉(2008年5月15日)</center>
証拠品として東京地検に提出された横領鯨肉(2008年5月15日)
 最も衝撃的だったのが鯨肉横領の問題だ。彼は「貴重な部位の鯨肉、とくに畝須(うねす)を、解体部門の船員が塩漬けにして個人的に持ち帰っている。長年の慣習だ」と語った。そういえば、2006年4月に日新丸が金沢に入港した際、船から大量の不審な「宅配便」が発送された事実はグリーンピース・ジャパンもつかんでいた。佐藤さんらが慎重に裏づけ調査を進めている中、2008年4月15日、日新丸が東京港に寄港したさい、大量の宅配便が運び出されているのを目撃した。

 「西濃運輸のトラックの隣にはヤマト運輸のクール便が来ていました。しかしヤマト運輸への運搬には誰も加勢せず、常温の西濃便のみ、船員たちがよってたかってバケツリレーで運搬を手伝ったんです」と佐藤さんは振り返る。本来ならクール便の荷物こそ急いでトラックに移すべきではないのか。どちらも船員個人の荷物だが、クール便が船からの「お土産」なのに対し、西濃便の方は(塩蔵してあるので常温でよい)「横領鯨肉」だったと思われる。

捕鯨問題「横領鯨肉の確保は知る権利の行使」グリーンピースの2被告に独占インタビュー | 東京港大井水産ふ頭に着岸した捕鯨母船・日新丸。岸には船員が集まっているのが見える。ヤマト運輸のクール宅急便のトラックもあり、日新丸から降ろされた“私物”とみられる荷物を受け取っていた (C)Greenpeace
東京港大井水産ふ頭に着岸した捕鯨母船・日新丸。岸には船員が集まっているのが見える。ヤマト運輸のクール宅急便のトラックもあり、日新丸から降ろされた“私物”とみられる荷物を受け取っていた (C)Greenpeace
船員の持ち出す鯨肉は公然の秘密
 提供された情報の裏づけのため、鈴木さんは全国各地を訪ねた。非正規流通鯨肉は「長崎では配られ、函館では売られているようです」という。

 長崎県のある島では、「お土産」や「横領鯨肉」は慣習として近所に配られ、飲食店によっては船員の飲み代の対価となっていた。「こんどクジラで払うから」などというそうだ。その鯨肉は飲食店でお客に出されている模様で、「地域限定クジラ通貨」の役割を果たしていた。

 函館ではもっと露骨に、お土産や横領鯨肉が、船員によって飲食店などに現金で売られている様子だったという。

 広島では、日新丸の入るドックの近くで、毎年秋の出港前、船員が塩や段ボールを確保し、帰港後にはお土産や横領鯨肉が出回ることも明らかになった。お土産や横領鯨肉を出す飲食店は、あからさまには「それ」とは言わない。ただ、そのような不正流通の鯨肉があることは、扱わない飲食店などにも知られていた。

 鈴木さんは「最近は監視カメラの設置などで持ち出しが難しくなっているが、船員の持ち出す鯨肉が正規流通品とは別にある」ことも知る。「せまい業界では公然の秘密なんです」

 佐藤さんと鈴木さんは西濃運輸の常温宅配便を追跡、「段ボール」と称した1箱を青森県内で「確保」し、これを証拠として東京地検に告発した(2008年5月21日)。しかし、「鯨肉横領問題」は不起訴処分となり、逆に2人が窃盗容疑で逮捕された(2008年6月20日)

捕鯨問題「横領鯨肉の確保は知る権利の行使」グリーンピースの2被告に独占インタビュー | <center>独占インタビューに応じた鈴木徹さん</center>
独占インタビューに応じた鈴木徹さん
表現の自由、不正を告発する権利は何人にも保障されるべきだ
 裁判の焦点は、2人の行為が表現の自由と認めるか否かにある。2人は、「公共の利益のために知る権利を行使し、結果を表現の自由に基づいて公にしただけだ。まして証拠品を転売したわけでもなく、窃盗にはあたらない」としている。

 横領鯨肉の証拠品確保がなぜ表現の自由なのか?、2人によると、調査捕鯨には例年5億円もの補助金がつぎ込まれ、これまでの20年間に100億円を超える額の税金が投入された。しかし、調査捕鯨の母船では、鯨の解体部門で長年にわたり組織的な横領を慣習的に続けてきた。

 水産庁は当初、何も知らず、2人の告発で初めて現場での「横領」実態を知った。横領鯨肉ではなく乗組員への「お土産」だと釈明したのは、事態が露見した後の単なるつじつま合わせに過ぎない。まして、鯨肉横領の証拠として確保された23.5kgの「畝須」はわざわざ塩蔵品に加工したもので、本来の「お土産」の冷蔵品とはまったく異なる。塩蔵畝須までをもお土産だとは、説明がつかないのだ。

 佐藤さんと鈴木さんは鯨肉を盗み出して食べようとか、売り払おうとしたのではない。国営事業の不正を暴くため、横領の証拠品を確保したのであった。この手法は調査ジャーナリズムに似ているが、先進地のヨーロッパでは、プロのジャーナリストだけに認められるのではなく、すべての者」に許される「表現の自由・知る権利の行使」として定着しているという。

 その法的な根拠は、日本政府も批准している国際人権規約(自由権規約)第19条などにある。あらゆる人に保障されている知る権利を含む「表現する自由」だ。たとえばイギリスでは、温暖化防止のため石炭火力に反対して石炭運搬を阻止した人がいても、それが不法侵入の罪に問われることはない。

 横領鯨肉が部外者によって確保されたことで、日本の調査捕鯨に関わる不正が明らかになり、水産庁などは「お土産」慣行の是正などを迫られることとなった。仮に2人の行為が窃盗に当たるとしたら、今後、NPOやNGOにとどまらず、あらゆる人が日本では政府などの不正を追及する手段を制限され、活動が委縮する恐れも出てくる。


【関連サイト】
 国際人権規約(自由権規約)第19条
 1、すべての者は、干渉されることなく意見を持つ権利を有する。
 2、すべての者は、表現の自由についての権利を有する。この権利には、口頭、手書き若しくは印刷、芸術の形態又は自ら選択する他の方法により、国境とのかかわりなく、あらゆる種類の情報及び考えを求め、受け及び伝える自由を含む。
 3、2の権利の行使には、特別の義務及び責任を伴う。したがって、この権利の行使については、一定の制限を課すことができる。ただし、その制限は、法律によって定められ、かつ、次の目的のために必要とされるものに限る。
 (a)他の者の権利又は信用の尊重
 (b)国の安全、公の秩序又は公衆の健康若しくは道徳の保護
捕鯨問題「横領鯨肉の確保は知る権利の行使」グリーンピースの2被告に独占インタビュー | 独占インタビューに応じた佐藤潤一さん(クリックで拡大します)
独占インタビューに応じた佐藤潤一さん(クリックで拡大します)
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