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時速200キロ超「爆風雪崩」 北ア・抜戸岳 2人遭難死

静岡山岳会 「自戒の念込め」報告書

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2人が遭難した地点や発見場所が記入された現場写真。「デブリ」は滑り落ちた雪がたまったところ(静岡山岳会の報告書から)

 岐阜県高山市の北アルプス・抜戸(ぬけど)岳(2812メートル)で2008年12月、静岡県のパーティー2人が巻き込まれて死亡した雪崩事故で、この雪崩が時速200キロ以上の雪煙を伴う「爆風雪崩」だったことが、静岡山岳会のまとめた報告書でわかった。パーティーのリーダーだった高校教諭小田直美さん(56)は「仲間を失った自戒の念を込めて記録することで、登山者に山の怖さや危険性を改めて知ってもらいたい」としている。


 小田さんらは4人パーティーで、同月27日午前7時10分頃、抜戸岳山頂を目指して新穂高温泉を出発。午後3時頃、現場近くでベースキャンプのテント設営を始めたが、その約30分後に数百メートル先で雪崩が起きた。翌日からのルート探索をしていた私立高校教諭桑原義仁さん(当時48歳)と会社員塚田征義さん(同39歳)が巻き込まれた。

 報告書では、事故の瞬間を「ふと顔を上げると2人が走っているのが見えた。何をしているのかと思った瞬間、山陰から膨大な雪煙が押し出してきた。雪煙は少し間をおいて、2人をのみ込んだ」と記している。

 塚田さんが持っていた全地球測位システム(GPS)を解析した結果、時速70キロで吹き飛ばされていたことや発生当時の雪煙の状況などから、通常の雪崩とは異なる爆風雪崩と分かった。

 国土交通省によると、爆風雪崩は「(ほう)雪崩」とも呼ばれ、アイスバーンになった斜面に積もったパウダー状の新雪が音や震動など何らかの原因で一気に滑り落ちて発生するという。厳冬期の急斜面で起きることが多く、1938年には富山県内で80人以上の犠牲者が出たが、実際に爆風雪崩が目撃されることは少ない。

 報告書でも爆風雪崩について「想定外だった」としているが、事故当時は一度解けかけた雪が再び凍った上に、2日間にわたって新雪が積もっている状態で、発生する条件は整っていた。このため、「結果として、我々の気象判断が誤りだったことが、今回の最大の反省事項だ」としている。

 亡くなった2人の思い出や感謝の言葉もつづられた100ページの報告書は、捜索に参加した山岳会員の日当を充てて120部作成し、全国の山岳関係者らに配布した。

 岐阜県警によると、北アルプスの一部を抱える同県では昨年、56件の山岳遭難があり、死者は前年の2倍の10人に上った。大型連休を前に、県警山岳警備隊の谷口光洋小隊長(53)は「真冬より春の方が雪崩の危険性は高い。沢筋を通る際には細心の注意を払い、冬山と同じ緊張感で入山してほしい」と話している。


2010年4月14日  読売新聞)
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