きょうのコラム「時鐘」 2010年6月9日

 追加される常用漢字196字を眺めていたら、気が重くなった。「社会生活で使用する目安」として選ばれたというが、とても「常用」したくない字が目につく

呪(のろ)う・溺(おぼ)れる・貪(むさぼ)る・罵(ののし)るなどが解禁される。曖昧(あいまい)・嫉妬(しっと)・軽蔑(けいべつ)・翻弄(ほんろう)という言葉も、大手を振って通る。串(くし)・鍋(なべ)・釜(かま)・麺(めん)というごちそう関係が入ったのが、わずかな慰めか

流行歌は時代を映す鏡だという。常用漢字表も、そうに違いない。暗い印象を帯びる字が増えた。使いたくなくても、読み書きできなければ暮らしに困る。学校でもちゃんと教える。そんなご時世だと告げられて、心が弾むわけがない

書をたしなむ人に、「裸の字・服を着た字」という言葉を教わった。技巧に走ると字は服をまとう。着膨れすると見苦しくなる。心を打つのは裸の字だが、それを書にするのは難しい。含蓄のある言葉だが、裸になって暴れてほしくない漢字もある。そんな大軍が押し寄せてきた

新内閣発足の折、ふさわしい漢字はないものか。茨(いばら)や拳(こぶし)は、皮肉がきつい。虹(にじ)という字を見つけた。梅雨空を払って輝くのか、それとも早晩、はかなく消えるのか。