「オルタナティブ政治経済研究所」

オルタナティブ政治経済研究所

2010年6月9日(水)

「国防戦略」なき国会議員でいいんですか?

景気や雇用の前に、まず生き延びることを考えるべき

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 そこで、極東の主要国をすべて視野に入れる場所を探すと、ちょうど沖縄があります。この地域を米軍が軍事的に制圧するには沖縄が欠かせないでしょう。これが、今も米軍が沖縄に展開している理由とワタシは思っています。

 この発想は時代遅れで、冷戦の時代に、ドミノ現象で世界中が赤化するのを防ぐために、このような配置が必要だった名残だという意見もあります。だから沖縄の基地はもういらないのだと。

 しかしながら、冷戦時に本当に重要だったのは北海道であり、また日本本土でした。北海道を当時のソ連が制圧すると、オホーツク海が完全にソ連の内海になり、核ミサイルを搭載したソ連の原子力潜水艦が米海軍に補足されづらくなります。日本本土は西側の有力国ですから、ここにドミノ現象を起こすと、世界全体の経済バランスが東側有利に傾きます。太平洋に面した良港を東側が得てしまいます。そこで、米軍は日本の軍事占領を続け、本土の基地も撤退しませんでした。

 沖縄は、第2次世界大戦の後、米国委任統治時代を経て基地の島になってしまいましたが、東西冷戦後の今の軍事環境では一層、軍事的な重みが増したように思います。

 なぜなら、米軍にとって本当に脅威になるのがロシア軍以上に中国軍になってきているからです。中国は経済力をつけ、軍事力を増強し、外洋海軍を整備しつつあります。一説では大型空母の建造も視野に入っていると言われます。

 下図をご覧ください。これは、中国海軍が外洋に進出しようとすると、沖縄がいかに邪魔か、ということを示しています。

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 ここを閉じられてしまうと、ちょうど、沖縄が蓋になって、出口が台湾海峡だけになってしまいます。台湾海峡も、台湾側に強力な制空権を持つ空軍があると、安全な通路とはなりません。この状態で外洋に艦隊を派遣しようとすると、香港などを根拠地にするしかなく、その場合は西沙諸島が蓋になりそうですが、ここは中国が実効支配しているために、問題なく通行できます。

 とはいえ、上海、天津、大連といったその他の主要港は、沖縄に蓋をされる状態であり、中国が日米の意に反した洋上行動を取りたい場合、たいへん邪魔になります。

 今後、中国海軍が外洋に展開する力は増々強まると思われます。ここで、沖縄における米軍のプレゼンスを低下させると、それは防衛線を九州とグアムまで後退させる、という間違ったシグナルになりかねません。

 日本は、沖縄に米軍基地を置くことで、米軍を人質に取り、米国は沖縄を人質に取ることで極東をグリップしているのでしょう。

 これは、双方にとって安上がりの戦略で、日米は沖縄の負担において軍事的な相互扶助状態にあります。また、見かけ上、沖縄は被害者ですが、逆に相互人質の状態であることから、それ以外からの干渉を避けているとも言えましょう。これは、日米は沖縄を絶対見捨てない、切り捨てないというサインだからです。



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著者プロフィール

タナカ(仮称)

大手証券会社の企画部門で働く会社員。1989年に大学を卒業、某大手資産運用会社、某総合研究所を経て現職。某業界団体の専門検討部会の委員を務めるほか、環境問題のNPO法人(特定非営利活動法人)を立ち上げ、そのほか複数のNPO法人の理事を務めている。


このコラムについて

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政権交代から約1年が経った。政党・政治家が“国民の審判”を仰ぐ2010年夏の参議院選挙を目前に迎える。「ダメなら首相を、それでもダメなら政党を、取り替える」。それだけでは、もはや現状を打破できないだろう。改めて政治の原点に立ち返り、今だからこそ、国民が選挙で起こさなければならない行動があるはずだ。

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