「オルタナティブ政治経済研究所」

オルタナティブ政治経済研究所

2010年6月9日(水)

「国防戦略」なき国会議員でいいんですか?

景気や雇用の前に、まず生き延びることを考えるべき

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 そうすると、北朝鮮にとって、韓国支援の兵站線を遮断しようと思ったら、岩国基地が攻撃の対象になると思われます。日本は、地理的環境から、紛争に巻き込まれる恐れがあるのです。

 また、日本がこれを怖れて岩国基地の使用を禁止した場合、日米同盟は崩壊し、韓国軍も支援が途切れて苦戦するかもしれません。これによって韓国で多数の一般市民が死亡する事態になったら、日本はたいへんな責任を負うことになります。

 さて、その紛争の結果として、もし北朝鮮が崩壊し、韓半島が統一され、親米韓半島政権が生まれたとしましょう。ここに米軍の軍事基地が置かれることになると、一番近い場所では中国の首都である北京まで700キロメートル程度しかありません。これは近代兵器を前提にすると、十分に指呼の距離と言え、中国にとって重大な脅威となります。従って中国は、北朝鮮の位置に親米政権ができることはとても困るでしょう。

 これらのことは、政府・与党も野党も全然口にしません。

 こうしたことは、平時にしっかり議論して、国民が知識を持ち、一定の合意を得ておくべきであるにもかかわらず、です。

 だから普天間の問題でも、天から降ってきたような騒ぎになり、現実性を無視した「対案」が乱れ飛び、その挙げ句に一国の指導者自身が「勉強したら抑止力が大切であることが分かった」などと言い出すのです。それではいったい、何を学んだのでしょうか。学んだ内容を、なぜ国民に説明しなかったのでしょうか。

 本来、国家の生存は繁栄の前提条件にあるものなので、「景気対策」「雇用不安」などを論じる前に、「まず生き延びること」がクリアされていなければならないのです。

 しかし、日本は第2次世界大戦での敗戦以来、ここを考えることを止めてしまった。今回の基地問題における混乱をきっかけとして、少しはこのことを考えてみるべきではないでしょうか。

 今回の参議院選挙で、個々の候補者が、これらの問題についてどのような見解を持っているのか、聞いてみて下さい。

 無定見であれば、これほど危険なことはありません。

沖縄の重要性を考えてみる

 この際ですから、日本を取り巻く軍事的な距離について、もう少し見てみましょう。

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 米軍は、自国領内であるグアムを拠点とすると、極東地域の主要国である日中、台湾及び韓半島に2500〜3000キロメートルの距離を持ってしまいます。

 緊急展開を想定して、飛行機を使うとしましょう。一部の戦略爆撃機や大型輸送機を除くと、往復6000キロメートルを無補給で進出するには無理があります(状況次第で着陸せずに引き返すこともあり得るため)。


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著者プロフィール

タナカ(仮称)

大手証券会社の企画部門で働く会社員。1989年に大学を卒業、某大手資産運用会社、某総合研究所を経て現職。某業界団体の専門検討部会の委員を務めるほか、環境問題のNPO法人(特定非営利活動法人)を立ち上げ、そのほか複数のNPO法人の理事を務めている。


このコラムについて

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政権交代から約1年が経った。政党・政治家が“国民の審判”を仰ぐ2010年夏の参議院選挙を目前に迎える。「ダメなら首相を、それでもダメなら政党を、取り替える」。それだけでは、もはや現状を打破できないだろう。改めて政治の原点に立ち返り、今だからこそ、国民が選挙で起こさなければならない行動があるはずだ。

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