回答:
『DBZ』の大成功ぶりへの反動としてANIMEファンのなかにはこの番組についてこき下ろしたがる人たちが結構いるようです。これ以前にも米国で放映されていたANIMEはたくさんあるのですが、ファン層以外にも広くANIMEへの関心を呼び覚ましたという点では『DBZ』の功績はとてつもなく大きいものです。
遡れば’60年代には『マッハGOGOGO』『ジャングル大帝』『鉄人28号』そして『鉄腕アトム』らが日本より持ち込まれ放映されています。’70年代ですと『科学忍者隊ガッチャマン』『宇宙戦艦ヤマト』の2本がANIMEファンの第一世代の誕生に貢献していますが、ジャパニーズ・アニメーション人気を市場として広く確立させるには至っていません。
’80年代から’90年代の初めにかけてですと『ロボテック』『ヴォルトロン』『宇宙の騎士テッカマン』それに『ドラゴンクエスト』がお目見えし(訳注)、限定された層にとはいえ日本製作品への関心を掘り起こしただけでなく、さらにANIMEを専門に扱うストリームライン社やUSレンディション社のような翻訳業者の登場のきっかけになりました。
『ドラゴンボール』と『美少女戦士セーラームーン』が米国にお目見えしたのは’95年のことでした。配給を行ったファニメーション社、玩具のDIC社それにその関連業者らの努力にもかかわらずたいした人気にはなりませんでしたが、玩具商品については悪くない手ごたえでした。『セラムン』のほうがわずかに『ドラゴンボール』より人気では上回っていましたが、どちらも思春期前のお子様向けにひどく再編集された代物で、放映時間も視聴には不便な枠でした。
『DBZ』はこの翌年にあたる’96年に登場したのですが、現在のような大人気作になるのはもっと後のことで’98年秋に始まったカートゥーン・ネットワーク局での再登場がきっかけでした。これがきっかけでANIMEファン以外の広い層にも認知されたのだと思います。『DBZ』も全米放映網ではなく局ごとにフィルムが買われるというシンジケーション方式での放映であり、前作と違って有力局も含まれていたのですが、放映時間が良くなかったりころころ変わることもあってなかなかファンを掴みにくかったようです。
カートゥーン・ネットワーク局は『DBZ』を目玉番組として扱ってくれたおかげで視聴者もたくさんつき、大人気番組として注目を集めるに至りました。『セラムン』は女の子以外には支持されにくいし、『ロボテック』は大河ドラマなので話を追うのが面倒という弱点がありましたが、『DBZ』は格好良くてしかもそんなに難しくない番組であるのが強みです。登場人物たちはいずれも非常に分かりやすく、物語についても途中よりの視聴でも楽についていけるように作られています。
『セラムン』のように男性視聴者にとって観るのが照れるような番組でもありません。なにしろマッチョな格闘が『DBZ』の売りなのですから。
『DBZ』のカートゥーン・ネットワーク局での放映以前にもANIMEはいくつも放映されていたわけですが、いずれも単発的な人気にとどまり広く視聴者を獲得するには至らずに終わっています。『DBZ』以前の番組はつかめる視聴者も少なく、つかめても広い層に人気が広がることはありませんでした。
しかしながら同局による『DBZ』放映によってようやくすべてがそろったのだと言えます。これ以前にすでに30年にわたって日本製番組は放映されていたことからも、早かれ遅かれどれかの番組がきっかけでANIME人気はブレイクしていたと思います。たまたまそれが『DBZ』だったのです。
この’98年には『ポケモン』も米国デビューを果たしており、その後の大人気ぶりについてはご承知の通りなのですが、それでも『DBZ』の功績はまた別格だと思います。アニメーションであっても漫画チックでない人格を備えた人物たちや生々しい暴力(スーパーマンではなく生身の人間がこれも生身の人間相手に物理的に殴りかかったりする)が描かれうることを米国人相手に広く知らしめたのは大きいことでした。
『ポケモン』はジャパニーズ・アニメーションへの関心を大いに呼び覚ましはしましたが、『DBZ』は米国のTV視聴者にたいして日本製アニメーションは米国のものとは根本から異なるものであることを広く知らしめたという点で画期的であったと言えそうです。
訳注 『ロボテック』については"原型をとどめないほどにずたずたにされたものが’80年代には平然と放映・発売されていたそうですが”参照。『ボルトロン』は東映製作の『百獣王ゴライオン』と『機甲艦隊ダイラガーXV』を再編集で一本にしたシリーズ。'84-'85年放映。これの超合金おもちゃが『トランスフォーマー』とともに当時米国では大当たりした。『テッカマン』も'84-'85年に放映されたが放映は十数局にとどまった。それから原文でジョンは『Teknoman』としているが、これは'90年代に放映された『テッカマンブレード』のほうの英語題。『ドラゴンクエスト』は『Dragon
Worrior』の題で90年に放映された。
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