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1. サンパウロの疫学的睡眠検査における閉塞型睡眠時無呼吸症候群 1年次研修医 土井 好恵
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2. 高度医療病院における若年患者の脳卒中の原因 1年次研修医 平岡 美佳 |
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3.
頭頚部がんの放射線治療において喫煙は好ましくない関連がある 1年次研修医 吉岡 貴史
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4.
社会的背景が及ぼすアルコール消費行動の変化 2年次研修医 深井 航太 |
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5.
Lipotoxicity and Decreased Islet Graft
Survival モンゴル留学医師 Battsetseg
Batchuluun, MD |
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6.
ショックの治療におけるドパミンとノルエピネフリンの比較 救命医療センター総合診療部 齋藤 学 |
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7.
経皮内視鏡的胃瘻造設術における局所感染の危険因子 救命医療センター総合診療部 末廣 剛敏 |
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8.
外傷に対する脾臓摘出と腎臓摘出の同時的施行例:
合併症、死亡率、転帰についての30年間の調査 |
救命医療センター 井上 徹英
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9.
大腸憩室症に対する待機的手術の適応は 消化器外科・総合外来 折田 博之 |
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10.
塩素があぶない 消化器外科・総合外来 松股 孝 |
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11.
片側顔面痙攣に対する微小血管神経減圧術:
神経生理学的モニターを用いずに手術された114例の長期性成績 |
脳神経外科 岡本 右滋
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12.
吸引細胞診による甲状腺悪性リンパ腫の診断 中央検査部・病理診断科 原武 讓二 |
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1. サンパウロの疫学的睡眠検査における閉塞型睡眠時無呼吸症候群
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Obstructive Sleep Apnea Syndrome in the Sao Paulo Epidemiologic
Sleep Study.
Tufik
S et al. Universidade Federal de Sao Paulo - UNIFESP,
Sao Paulo, Brazil.
Sleep Med. 2010 Mar 31.
【目的】
サンパウロ(ブラジル)の成人人口で現在の臨床疫学の技術を使用して、Obstructive Sleep
Apnea Syndrome(OSAS)の有病率を見る。
【方法 】
この人口を拠点とする調査は、性、年齢(20-80歳)、および社会経済の状態に従って人口を表すのにサンパウロ住民の3段階のクラスターサンプルを使用した。鼻カニューレを使用する直接面接と研究室で1晩のポリソムノグラフィーを施行した。
Sleep Medicine(2005)のAmerican AcademyからのSleep Disorders(ICDS-2)の最新の国際分類の評価基準に従って、OSASと診断した。
【結果】
合計1,042人のボランティアがポリソムノグラフィー(5.4%の拒否率)を受けた。平均の年齢が42
+/- 14。 55%は女性、そして、60%には、BMI値>25kg/m(2)であった。 OSASはそのうち(29.6-36.3の95%のCI)の32.8%で観測された。男性は、女性(OR=4.1;
95%CI、2.9-5.8; P<0.001)よりも、肥満者(OR=10.5; 95%CI、7.1-15.7;
P<0.001)は標準体重の人よりも要因があった。20-29歳のグループと比べると60-80 歳はOR=34.5(95%CI、18.5-64.2;
P<0.001)となり、年齢に従って、要因は増加した。低い社会経済地位は男性(OR=0.4)のための保護要因であったが、女性(OR=2.4)に関連する要因であった。自己申告の更年期はこの増加した要因を表している。(年齢は、OR=2.1を調節;95%のCI、1.4-3.9;P0.001)、そして、それは最も低い年齢(43.1%)で、2番目(26.1%)あるいは年長の(27.8%)女性より多かった。
【結論】
この研究は、他の疫学的研究で見つかるより高いOSASの有病を確認している南アメリカの大きな大都市圏の最初の調査である。これは、ポリソムノグラフィーの拒絶率がほとんどないprobabilistic
sampling process、現在の技術と臨床基準の使用、肥満が多いことで説明することができた。
【土井のコメント】
OSASはよく新聞やマスコミなどでもよく知られている。しかし、自覚症状のほとんどない疾患であり、パートナーや家族の指摘が重要である。今回、ブラジルの研究であったが、肥満や性別だけでなく、社会経済状況によってもSASの頻度が高くなるということであった。
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(
1年次研修医 土井 好恵 )
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2.
高度医療病院における若年患者の脳卒中の原因
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Etiological patterns of stroke in young patients at
a tertiary care hospital
Samiullah S, et al.
J Pak Med Assoc 2010; 60: 201-204
【目的】
若年者(15~35歳)の脳卒中の様々な原因の頻度を調べる。
【方法】
この症例対象研究はJamshoro、Liaquat大学病院、Hyderabadのすべての医療施設において、年齢や地域に関わらず15~35歳の脳卒中患者を対象にして、2006年8月から2008年2月までの間に実施した。この患者らのデータは、全病歴の統合と精密検査、基本的関連検査を行い、事前に作成されたフォーマットを通じて収集した。低血糖のあるものや占拠性病変のあるもの、一過性脳虚血発作や精神疾患を持つ患者は対象から除外して分析した。
【結果】
脳卒中発作113例のうち、評価基準を満たす男性30名、女性20名の合計50名を選出した。このうち43名(86%)が脳梗塞であり、7名(14%)が脳出血であった。脳卒中の主要な原因は、感染性髄膜炎(結核性、細菌性)であった(34%)。次に多かったのは心原性塞栓症(20%)であり、その内訳は弁膜症(14%)、心筋症(4%)、心臓粘液種(2%)であった。高血圧は14%の症例で認められた。妊娠関連の原因によるもの(妊娠高血圧症、産褥熱など)は12%で、SLE、ネフローゼ症候群は各4%であった。4%以下のものはまとめてその他とした。
【結論】
若年者の脳卒中の主要な原因は、結核性や細菌性といった感染性髄膜炎であった。出血性脳卒中は高血圧が大きな原因である。若年者の脳卒中は主に男性で発症する。その他の主要な原因としては、心原性脳塞栓症、妊娠高血圧症、産褥熱などがあげられる。
【平岡のコメント】
巨人の木村拓哉監督が37歳という若さで、クモ膜下出血で亡くなった。広島東洋カープ現役時代に応援していたため、残念でならない。クモ膜下出血は高齢者のみならず若年者にも発症することが知られているが、脳梗塞や脳出血といった脳卒中も、若年者で発症しうる。脳卒中の原因は多岐にわたるが、感染性髄膜炎もその大きな原因であることをこの報告を通して知った。他の報告によると、感染性髄膜炎に脳梗塞を併発した症例では、脳血管造影、MRA所見で動脈狭窄を認め、血管炎や脳血管攣縮が機序として想定されているそうだ。原因が何であれ、不幸にも脳卒中を発症してしまった場合、一刻も早く適切な治療を受けることが必要なのは言うまでもないが、現在の自分ではそれも適わないのではと、甚だ不安である。研修医生活はまだ始まったばかりで右も左もわからないが、少しでも早く患者さんのために役立てるように頑張りたい。
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3.
頭頚部がんの放射線治療において喫煙は好ましくない関連がある |
Tobacco Smoking During Radiation Therapy for Head-and-Neck
Cancer Is Associated With Unfavorable Outcome.
Chen AM,
Chen LM, Vaughan A, Sreeraman R, Farwell DG, Luu Q,
Lau DH, Stuart K, Purdy JA, Vijayakumar S.
Department
of Radiation Oncology, University of CaliforniaDavisCancerCenter,
Sacramento, CA.
Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2010 Apr
14.
【目的】
放射線治療中も喫煙していた者と喫煙をやめた者の臨床経過を比較することで、持続的な喫煙が頭頚部がん放射線治療に及ぼす影響を評価する。
【方法】
新たに頭頚部扁平上皮がんと診断され、放射線治療中も喫煙を続けている101名の患者記録を用いた。この患者群は全て放射線治療開始前に喫煙をやめた患者を対照としてマッチングが行われている。マッチングは喫煙歴,プライマリサイト,性別,パフォーマンスステータス,臨床病期,治療に用いられる放射線量・化学療法の有無・治療年数・外科的切除が行われたかどうかに基づいて行われた。
結果はKaplan-Meier 法を用いて比較検討された。正常組織への影響は、放射線療法腫瘍グループ/European
Organizationにおけるがん治療の毒性基準に基づいて評価された。
【結果】
追跡期間中央値の49カ月において,治療開始後も喫煙していた患者群は、治療開始前に禁煙した患者群に比べて5年生存率(23%vs55%),局所制御率(58%vs69%),無病生存率(42%vs65%)の全てが明らかに低かった。(いずれもp<0.05)この差は、患者が手術後放射線療法あるいは根治的放射線療法が個別に分析された時、統計的に重要な意味を持つ。またグレード3以上の晩期合併症の発症率も、喫煙患者群は禁煙患者群に対して増加した。(49%vs31%p=0.01)
【結論】
頭頚部がんの放射線療法において、喫煙は好ましくない関連がある。これらの結果の差異について生物学的、分子医学的理由を分析する更なる研究が計画されている。
【吉岡のコメント】
煙草は百害あって一理なしとは良く言ったもので、こういった論文によりエビデンスが続々と提示されているようです。病院内は禁煙ですし、これを機に喫煙者の皆さまも禁煙にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
(本文については拙い訳で申し訳ありません。)
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4.
社会的背景が及ぼすアルコール消費行動の変化
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The Spread of Alcohol Consumption Behavior in a Large
Social Network
Rosenquist et al.
Ann Int Med: Apr 2010; 152: 426-33
【背景】
アルコールの消費量は個人の社会的因子と相関性がある。
【目的・方法】
1971‐2003年に7回の調査を行ない、本人と、本人とつながりのある人達(配偶者,兄弟姉妹,友人,近所の人,職場の同僚)の飲酒習慣の変化を調べた。多量飲酒は、男性では一日平均3杯以上(2杯は日本酒約1合に相当)、女性は2杯以上の飲酒と定義した。
【結果】
多量飲酒は、女性の友人が多量飲酒を始めると、始めない場合と比べて、本人が多量飲酒を始める確率が154%高くなる。一方、男性の友人が始めても、本人が始める確率は高くならなかった。また、妻が始めると夫が始める確率が196%高くなり、夫が始めると妻が始める確率は126%高くなった。姉妹が始めると本人が始める確率は37%高く、兄弟が始めると本人が始める確率は34%高くなった。これに対して、近所の人や職場の同僚が多量飲酒を始めても、本人が多量飲酒を始める確率は高くならなかった。
禁酒については、女性の友人が飲酒を止めると、止めない場合と比べて、本人が飲酒を止める確率が42%高かった。一方、男性の友人が止めても、本人が止める確率は高くならなかった。妻が止めると夫が止める確率は74%高くなり、夫が止めると妻が止める確率は56%高くなった。姉妹が止めると28%、兄弟が辞めると39%、本人が止める確率が高くなった。これに対して、近所の人や職場の同僚が飲酒を止めても、本人が飲酒を止める確率は高くならなかった。
【結論】
ネットワーク現象はアルコール消費行動に影響を及ぼすと考えられる。これは、臨床現場や公衆衛生的に、問題飲酒を抑えるために意味を持つ。
【深井のコメント】
著者らはこれまで、肥満、喫煙、幸福感、うつ症状についても、今回と同様に、親しい人の社会的ネットワークを通じた伝播があることを明らかにしている。研究の限界として著者らは、中等量の飲酒が心筋梗塞の予防になることなどを考えると、親しい人が飲酒を止めると本人も止めるといった今回の結果が、全体として健康にどの程度の良い影響または悪い影響を与えるのかは分からない点などを挙げている。しかしながら、多量飲酒を防止する対策は、個人単位だけではなく、集団にも焦点を当てることが重要だと思われる。
禁煙対策においても同様のことがいえると思う。自身もそうであったように、喫煙を始めるきっかけは家族、友人や職場などの親しい関係にあることが多いと感じるし、禁煙のきっかけは敷地内禁煙や、知人の禁煙などであり得るのではないか。将来産業医を志す身として、飲酒に限らず、喫煙やメンタルヘルス対策などに関する、プライマリケアの手法の一つに『集団』という視点が重要であることが伺える、具体的数値で表された文献であった。
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(
2年次研修医 深井 航太 )
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5.
Lipotoxicity and Decreased Islet Graft Survival |
Cristiane B.Leitao, et.al
Diabetes Care 2010, 33:658-660
Recently, lipid toxicity has been studied in an
animal model of islet transplant recipient and found
that liver triglyceride accumulation was associated with
poorer islet graft function and histological appearance
(reduced β-cell mass and increased islet fibrosis).
This retrospective cohort study aimed to determine whether
the lipid profile of type 1 diabetes islet transplant
recipients is associated with islet graft survival.
Methods: The study was conducted in 44 type 1 diabetic
subjects (37 island transplant alone recipients and 7
islet transplant after kidney subjects) with follow up
between 2000 and 2007.
Results: All patients achieved the goal of glucose stability
and avoidance of hypoglycemia, and 28 (64%) achieved
insulin independence.Subject with baseline fasting plasma
triglycerides above the median had earlier graft dysfunction
(6.61.5 vs 17.33.4 months, p<0.001) and failure (39.76.1
vs 61.36.6 months, p=0.029). Similar results were found
for VLDL cholesterol. Similar results were found for
VLDL cholesterol. Total, LDL and HDL cholesterol were
not determinants of islet function. Patients with triglycerides
and/or VLDL cholesterol above median were more frequently
male. Besides direct toxic effects, this finding could
suggest another hypothesis related with lipoperotein
apo C3 that provokes β-cell apoptosis. This lipoprotein
is a component of triglyceride-rich VLDL cholesterol
molecules, raising the possibility of another mechanism
of β-cell damage.
In conclusion, higher baseline triglycerides predict
earlier graft dysfunction and failure in islet transplant
recipients.
【 Comments 】
Triglyceride, VLDL might be more important for lipid profile
controlling in diabetic patients. However, experimental
studies for causal relationship between lipotoxicity and
β-cell function as well as interventional clinical trials
should be done in order to confirm the above mentioned
possible mechanism of β-cell dysfunction or damage. |
(
モンゴル留学医師 Battsetseg Batchuluun, MD )
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SOS Medica Mongolia UB International
Clinic
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6.
ショックの治療におけるドパミンとノルエピネフリンの比較 |
Comparison of Dopamine and Norepinephrine
in the Treatment of Shock
Daniel De Becker et al. Brussels,
Belgium
N Engl J Med. 2010; 362:779-789
【背景】
ドパミンとノルエピネフリンは、いずれもショックの治療における第一選択の昇圧薬として推奨されている。しかしどちらに優位性があるかについては議論が続いている。
【方法】
2003年12月〜2007年10月に、ベルギー、オーストリア、スペインの3ヵ国・8施設で、ショック症状を起こした患者(心原性ショック,敗血症性ショック,出血性ショック)を対象、血圧を回復・維持するため第一選択の昇圧薬としてドパミン(20μg/kg/分)またはノルエピネフリン(0.19μg/kg/分)のいずれかを投与するよう割り付けられ行われた。患者は、割り付けられたドパミンまたはノルエピネフリンで血圧が維持できなかった場合は、ノルエピネフリン、エピネフリンまたはバソプレシンを非盲検で追加投与された。
試験には1,679例の患者が登録され、そのうち858例がドパミン群に、821例がノルエピネフリン群に割り付けられた。ベースライン時の特性は両グループで同様だった。
主要転帰は、無作為化後28日の死亡率。副次エンドポイントには、代用臓器を必要としなかった日数、有害事象の発生などを含んだ。
【結果】
28日後の死亡率には両群間で有意差は認められなかった(ドパミン群 52.5%、ノルエピネフリン群
48.5%)。しかし不整脈の発生数は、ドパミン群のほうがノルエピネフリン群より多かった(ドパミン群24.1%、ノルエピネフリン群12.4%)。サブグループ解析では、ドパミン投与はノルエピネフリン投与と比較して、心原性ショック
280 例における 28 日後の死亡率の上昇との関連が認められたが、敗血症性ショック 1,044 例、循環血液量減少性ショック
263 例では認められなかった。
【結論】
ショックに対し、第一選択の昇圧薬としてドパミンを投与した患者とノルエピネフリンを投与した患者間で死亡率に有意差はみられなかったが、ドパミン投与には有害事象の増加との関連が認められた。
【齋藤のコメント】
2004年に敗血症のガイドライン(Surviving Sepsis Campaign2004)が出て以来、「敗血症にはノルアド」「低血圧にはステロイド」といったガイドラインに沿った安易な治療が巷では流行している。ICU治療が「Cook
Book Medicine(料理本医療)」と揶揄されるのも理解できる。人工呼吸器のモードも多様化し、DIC治療も複雑になり、ICU治療がマニアックな路線にどんどん入っている。しかし、煩雑になればなるほどなぜかICU治療に魅力を感じる自分を発見し、マニアック?と思うようにもなった。救急初期診療からICU管理、そして一般病棟管理まで担える総合診療部を目指したいと思います。よろしくご指導お願い申し上げます。
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(
救命医療センター総合診療部 齋藤 学 )
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7.
経皮内視鏡的胃瘻造設術における局所感染の危険因子 |
Zopf, et al.
Can J Gastroenterol 2008; 22: 987-991.
1980年にGaudererらにより経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG)が紹介されて以来、摂食障害症例に対してPEGは広く行われるようになった。最も多い合併症である局所感染は2-39%に発生しているが、その危険因子については明らかではないため、2つの大学病院の390例のPEG症例を検討した。PEGはPull法にて行い抗菌薬は使用しなかった。施行時の合併症は無く、1例で皮下膿瘍にてPEGを抜去した。局所感染の独立した危険因子は施設、内視鏡経験数、悪性疾患、太いチューブ径であり、手技による差が局所感染に大きく影響すると考えられた。
【末廣のコメント】
当院では年間約50例の経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG)を行っており、方法としてイントロドューサー法とPull法が施行可能ですが、手技の簡便さで現在は主にPull方を用いています。Pull法ではチューブを消化管から腹壁に通すため、イントロドューサー法に比べ局所感染のリスクが高いと報告されています。そのため当院では局所感染防止策として内視鏡施行前に充分に口腔内を洗浄することにより局所感染を予防しており、局所感染はほとんど見られておりません。
当院はPEG在宅医療研究会施設会員であり、PDN(PEGドクターズネットワークhttp://www.peg.or.jp)に胃瘻造設施設として登録しています。さらに、リハビリテーション部門に言語療法士(Speech
therapist: ST)が常勤しておりSTによる専門的な嚥下リハビリテーションも可能です。2011年にはPEG在宅医療研究会認定胃瘻造設専門医師(末廣)、胃瘻管理専門医師(末廣)、胃瘻教育者(末廣)、胃瘻専門造設施設の申請予定となっています。認知症などで自己決定能力が乏しいという倫理的問題はありますが、進み行く高齢社会においてPEGは必要不可欠な治療であります(1)。当院では、PEGといえども開腹手術と変わりない危険な手技であることを常に念頭に置き、医療従事者一同より安全で有用な医療を提供することを心がけております(2)。
【参考文献】
@
末廣剛敏ほか。85歳以上の超高齢者に対する胃瘻の安全性と予後に関する一考察。(在宅医療と内視鏡治療2010掲載予定)
A
末廣剛敏ほか。安全性を追求した胃瘻造設の工夫。臨床と研究
2010; 87: 102-104
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(
救命医療センター総合診療部 末廣 剛敏 )
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8.
外傷に対する脾臓摘出と腎臓摘出の同時的施行例:
合併症、死亡率、転帰についての30年間の調査
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Combined Splenectomy and Nephrectomy for
Trauma:Morbidity, Mortality, and Outcomes Over 30 Years
Chad
G. Ball , MD, et al.
Department of Surgery, EmorySchool
of Medicine
Journal of TRAUMAVolume 68, Number 3, March
2010
【背景】
(摘出術を必要とする)脾臓外傷と腎臓外傷の死亡率はそれぞれ23%と26%である。脾臓摘出と腎臓摘出を同時的に必要とした場合の転帰については知られていない。本研究の目的は、(1)それらの患者の早期の合併症と死亡率の頻度を明らかにすること、(2)これらを、時代の変遷で進歩したダメージコントロールと腹部コンパート症候群の治療への認識によって変化がもたらされたかどうかを検討すること、である。
【方法】
1995年から2007年にかけて脾臓摘出と左腎臓摘出をGrady Memorial Hospital(GMH)で施行された外傷例と、1978年から1987年にかけてこれらをBen
Taub Hospital(BT)で施行された例とを比較した。
【結果】
35例と30例の脾臓摘出と左腎臓摘出がそれぞれBTとGMHで施行されている。死亡率はそれぞれ43%と53%、合併症率はそれぞれ79%と81%で、30年の期間においてはほぼ同様であった。死亡は典型的には入院から24時間以内の治療に不応性の出血によってもたらされている。抗生物質とドレナージの進歩にも関わらず、それぞれ38%と33%の患者は左横隔膜下膿瘍を形成している。
【結論】
死亡率はこの30年において変わっておらず、依然、不応性の出血性ショックが一次的な原因である。80%にも及ぶ合併症率は多く左横隔膜下膿瘍と多臓器不全によってもたらされていることも一貫している。
【井上のコメント】
脾臓外傷も腎臓外傷も単独の場合は迅速な対応さえできれば比較的治療しやすいが、両者が同時的に存在し両者の摘出を必要とした場合は死亡率も高く合併症が非常に多くなるようである。死亡は24時間以内の大量出血によるものが多い。両臓器とも豊富な血流を受けているので、そうなるであろうことは想像に難くない。
なお、Level I 外傷センター(日本で言う救命救急センターに相当)の外傷登録システムがこういった調査を可能としている。日本でも行われているが、登録施設が少ないこと、脾臓摘出と腎臓摘出を同時的に必要とするような外傷は多くないため、まだ結果調査をまとめる段階には至っていない。
外傷への治療体制を整えるのは大変な作業であるが、それをすることで病院の診療体制は飛躍的に向上する。九州で有数の外傷治療施設になりたいものである。
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(
救命医療センター 井上徹英 )
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9.
大腸憩室症に対する待機的手術の適応は |
Indication for Elective Sigmoid Resection in Diverticular
Disease
J Cuschieri, et al.
Ann Surg 251 (2010) 670-674
【背景】
大腸憩室の再発による穿孔を予防するため、2000年に米国大腸外科学会が2回以上の憩室炎の既往があれば待機的手術を推奨するガイドラインを発表したが、憩室炎の穿孔は初回から生じうることなどからガイドラインの改訂が議論されている。
【方法】
1990年から2000年までにオランダVU大学医療センターに憩室炎の診断で入院した患者に対して2009年までのコホート研究を行った。
【結果】
291例の憩室炎患者のうち111例が保存的治療を受け、180例に手術が施行され108例が緊急手術、72例が待機的手術であった。保存的治療の後の再発率は48%であった。待機的手術の理由は再燃が36%、狭窄症状が40%、瘻孔が14%、膿瘍が3%、出血の再発が7%であり74%が腹腔鏡下に手術が施行され合併症発生率は22%、手術死亡率は0%であった。一方、緊急手術となった原因の57%は穿孔による腹膜炎で、他には膿瘍が22%、閉塞が11%、保存的治療無効が6%、出血が4%であり、緊急手術では58%で人工肛門の造設が必要となっていた。緊急手術が必要となった患者のうち20%は憩室炎の既往があり、免疫抑制治療中、慢性腎不全、膠原病の因子をもつ患者では再発による穿孔の危険性が5倍以上であった。
【結論】
大腸憩室対する待機的手術の適応は単に憩室炎を起こした回数のみで決定するべきでない。明らかな適応は狭窄、瘻孔、出血の再発であり、免疫抑制治療中、慢性腎不全、膠原病などの危険因子を有する患者では待機的手術を考慮されるべきである。
【折田のコメント】
この論文では10?20年近くのコホート研究で保存的治療による再発率が48%と報告されていますが、これは実際我々が臨床で経験するより高い印象を受けます。大学の医療センターという事情からより重症の症例を受け持つからとも考えられます。本論文はオランダからの発表であり左側結腸の憩室に関する解析ですが、私どもの施設ではやはり右下腹部痛と発熱を主訴として上行結腸や盲腸の憩室炎を急性虫垂炎との鑑別を兼ねて紹介頂くことが多く、CT検査まで行えば診断は比較的容易です。また、憩室炎の治療では抗生物質投与に加えてCT、エコーによる正確な診断や経皮的ドレナージなどにより手術を行わずに治療できることも多くなりました。しかし、一方患者さんからは「憩室をこのまま放置して大丈夫なの?」という疑問をよく受けます。本論文で言われる程再発率は高くないものの再発の可能性はあることをお伝えしますが、殆どが抗生物質などによる治療で軽快するのであまり心配はないと説明しています。しかしながら、再発を繰り返す場合や腎不全などの基礎疾患をお持ちの場合には、やはり待機的手術も考慮されるべきでしょう。この論文でも示されているように当院でも待機手術においては腹腔鏡手術を原則に治療を行っています。
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(
消化器外科・総合外来 折田 博之 )
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10.
塩素があぶない |
Impact of chlorinated swimming pool attendance
on the respiratory health of adolescents.
Bernard A, et
al.
Pediatrics 2009;124:1110-1118
塩素は多くの水性病原菌を不活化する作用があるが、利用者の皮膚や眼、上気道の上皮細胞の防御能も破壊してしまい、アレルゲンに感作されやすい体質になってしまう。子どもの頃に塩素消毒されたプールで塩素に暴露されると、喘息、花粉症、アレルギー性鼻炎などの呼吸器系アレルギー疾患につながるアトピー体質を強める。したがって、プールの水や空気に含まれるこの化学物質の濃度を調節するように図らなければならない。
【松股のコメント】
学生時代に市内数カ所に市民プールがオープンした。当時住んでいた近所に中央区市民プールができたので早速利用した。ところが、泳いでプールの縁に着く度に鼻をかまないといけない程、大量の鼻水に悩まされて一日でやめてしまった。中学、高校では屋外のプールだからまだよかったのだろう。プールが危険なことを20歳代に学習した。以来、プールには一度も行っていない。
40歳過ぎからは自家感作性皮膚炎に悩まされている。皮膚炎は顔には出ず、主に下肢だけにでるので目立たないのはよいのだが、滲出液で下肢はミイラのように包帯巻ですごさなければならない時期もあった。日中は痒みを通り超して痛い。お風呂で50度近いお湯をかけると気持ちがよい。ペンフィールドの感覚領野では、性器と下肢の領域が極めて近いせいだろう。
病気には快楽に繋がるよい点もあるのだが、やはりたまったものではない。風呂のリニューアルをした後、水圧の関係でシャワーが使いにくくなったので、シャワーをやめ、バスタブのお湯で洗髪をするようになった頃から、件の皮膚炎が小康状態を保つようになった。いまは、バスタブにビタミンCを入れている。
ビタミンCは、C6H8O6+ClO- → C6H6O6+H2O+Cl-となり、塩素を無毒化してくれる。
皮膚は、重さが3〜5キログラム、面積が1.8平米にもなる最大の臓器である。経皮毒は塩素だけではない。皮膚からの化学物質の吸収を極力さけなければならない。
介護施設で、頻回の入浴サービスをやめると入所者の皮膚の状態がよくなったという報告がある。入浴すると皮膚の保湿成分が失われ、乾燥が始まりやがて痒みが起こると書かれている。これも塩素の害ではないだろうか?化学物質は危険である。
かつて、火事の原因の大半は漏電だった。永井隆博士は、『長崎の花』のなかで「火事が起こらぬように石綿を材料にした道具を使うとか、燃えない材料で家を建てるとかまでは考えない人が多い」と嘆いている。漏電による火事を防いできた石綿が目の敵にされているが、塩素はレジオネラ肺炎などの水系感染の予防剤として欠かせない。レジオネラ菌は60℃以上でないと死滅しないので、循環式浴槽を使っている温泉レジャー施設では塩素消毒が必要である。ペルー政府は水道水の塩素消毒によって生じる、発がん性が疑われるトリハロメタンをゼロにしようと、塩素消毒をやめた。その結果起きたのがコレラの蔓延だった。80万人がかかり、7千人が死亡したという。わたしには怖い塩素であるが、恩恵も多いわけだから何事も極端に走ってはならない。
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(
消化器外科・総合外来 松股 孝)
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11.
片側顔面痙攣に対する微小血管神経減圧術:
神経生理学的モニターを用いずに手術された114例の長期性成績 |
Microvascular decompression for hemifacial spasm :
long-term
results 114 operations performed without neurophysiological
monitoring
Mark Dannenbaum,M.D, et al.
J Neurusurg 109:410-415,2008
【目的】
微小血管神経減圧術は片側顔面痙攣に対し有効な治療であるが、聴力障害や顔面神経麻痺などの合併症の危険を伴う。多くの術者は術中の脳幹聴覚刺激装置等のモニターを用い手術成績を向上させる事を推奨している。筆者は片側顔面痙攣に対し神経生理学的モニターを用いずに微小血管神経減圧術をおこなった多くの症例を厳格に評価した。
【方法】
過去に片側顔面痙攣に対する手術歴が無く、脳幹聴覚刺激装置等のモニターを用いずに単独の術者による微小血管神経減圧術を受けた114例を対象とした。術後の評価は診療録と電話でのインタビューで行った。術後最低1年以上経過観察された症例は114例中91例で、平均追跡期間は8年(3ヶ月から23年)であった。Kaplan-Merier分析では術後10年時での顔面痙攣消失率は86%であった。
【結果】
術後死亡例や重篤な神経脱落症状を来たした症例は無かったが、1例の聴力消失,1例の聴力低下と10例の顔面神経麻痺(うち2例は残存)の合併症がみられた。この結果と術中に脳幹聴覚刺激装置等のモニターを用いて手術された症例の発表データとを比較検討した。
【結論】
片側顔面痙攣の患者にとって、術中の神経生理学的モニターを用いない手術は安全で有効な治療法のひとつである。脳幹聴覚刺激装置等のモニターは有効であるが、術中のモニターが無いからといって熟練した脳神経外科医が片側顔面痙攣の患者に対する微小血管神経減圧術を躊躇する必要はない。
【岡本のコメント】
片側顔面痙攣は、動脈硬化で伸びて蛇行した血管が橋の顔面神経起始部を圧迫刺激するために起こるもので、重篤な神経脱落症状や生命の危機に結びつくといった病気ではないが、自然寛解はほとんど無く通常徐々に増悪する。内服薬等の保存的治療では軽快,寛解は望めず、ボツリヌス毒素注入も効果は一時的でしかない。開頭による微小血管神経減圧術が永続的な治療効果が期待できる唯一の治療法と考えられる。当院では最近の4年間に限っても29例の片側顔面痙攣に対する微小血管神経減圧術を行っている。脳幹部を触る繊細で熟練を要する手術ではあるが、この論文と同様術中の神経生理学的モニターを用いない手術を行い、顔面痙攣が完全に消失しなかった症例を1例、聴力低下と一過性の軽い顔面神経麻痺を来たした症例を各々1例経験している。術後の顔面神経消失率は97%である。聴神経は長軸方向の外力に弱く、聴力障害等の合併症を起こさないためには同じ後頭窩開頭でもより大後頭孔とS条静脈洞直近を開頭し、なおかつ、小脳橋角部槽のくも膜を鋭利に切開し開放して小脳を牽引する際も下から上に持ち上げるように(つまり聴神経の長軸ではなく直角方向に)牽引するといった専門の手術書にも書いていないような細かなノウハウが必要である。同様の理由から、顔面神経起始部の露出も副神経をたどってまず舌咽神経,迷走神経,副神経の起始部を確認し、これら神経とflocculonodular
lobeとの癒着を慎重に鋭利に切開してより尾側方向から術野を開放する事がポイントである。
私も梶原医師の指導のもとこの手術をてがけるようになって20年になるが、当初舌咽神経,迷走神経,副神経の起始部から顔面神経起始部までのわずか1-2
mmの術野展開の習熟に2年を要した。その他細かい手術のノウハウは書ききれないほどあるが、重要な事は三次元的な臨牀微小解剖の理解習得と合併症を起こさない手術手技および技術の伝承であると考える。
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(
脳神経外科 岡本 右滋 )
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12.
吸引細胞診による甲状腺悪性リンパ腫の診断 |
The role of fine-needle aspiration in the diagnosis
of thyroid lymphoma: a retrospective study of nine cases
and review of published series.
Morgen EK et al.Dept Pathol,
Univ Toronto, Toronto, Canada
J Clin Pathol 2010; 63:
129-133.
【背景と目的】
甲状腺腫瘍の診断には吸引細胞診が広く普及し有力であるが、悪性リンパ腫の診断に関しては難しい症例も多い。細胞形態や計測、免疫染色などを駆使し、甲状腺悪性リンパ腫の診断に有力な因子を検討する。
【方法】
自施設の最近約20年の甲状腺吸引細胞診材料を再検討し、8例9件の悪性リンパ腫標本を得た。パパニコロウ染色とギムザ染色のほか、cell
block(細胞診の検体が十分ある時に固めて組織標本と同様にパラフィン切片を作成したもの)も検討した。MEDLINEとEMBASEのデータベースから同時代約20年分を検索し、8つの関連文献に合計70例の甲状腺リンパ腫を検出し、その臨床病理像をレビューした。
【結果】
臨床像で最も注目されるのは、急速な増大傾向である。平均年齢は自験例で72才、文献シリーズでは62才であり、大細胞性リンパ腫が最も多い。小型のリンパ球が主体で形質細胞様の形態を示した症例で、最終的に辺縁帯リンパ腫と診断された例もある。細胞診では、大型異型リンパ球が均一に認められる場合に診断がつきやすい。診断の補助として免疫染色の標本がある場合は、さらに診断の精度が上がる。
【結論】
リンパ腫の診断に有力な情報としては、急速な増大傾向、大型異型リンパ球の均一な出現、小型でも形質細胞様の異型細胞の均一な出現、免疫染色による軽鎖の偏り(κかλかの一方のみが染色される)などがあげられる。
【原武のコメント】悪性リンパ腫の多くは全身リンパ節のいずれかで発見され、漸次全身リンパ節浸潤や臓器浸潤に発展するが、リンパ節以外の諸臓器に初発するリンパ腫も少なくない。上皮性腫瘍に比べれば比較的まれではあるが、甲状腺も悪性リンパ腫の母地として知られた臓器の一つであり、最新のWHO教科書によると、甲状腺腫瘍中の約5%、(リンパ)節外性リンパ腫の2.5から7%が甲状腺リンパ腫と記載されている。本論文中筆者らの症例のほとんどは大細胞性リンパ腫とされており、パパニコロウやギムザ染色でも比較的診断が容易と推察され、それに免染の補助があれば心強い。近年注目されているのは、橋本病などを背景にした甲状腺MALTomaであり、ギムザ染色やパパニコロウ染色のみでは診断に苦慮する場合が多い。本論文にも示されたように、CD20やCD79aなどの免疫染色に加え、軽鎖κ/λ染色による軽鎖の偏りが診断に有力と思われる。
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(中央検査部・病理診断科 原武 讓二)
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