2010年04月20日

アルコール価格政策の健康効果。

イングランドのアルコール消費と健康障害に対する18種類の価格政策の効果を数理モデルでシミュレーションしたところ、価格の値上げ、最低価格制の導入、販売店での値引きの禁止により、消費が減少し、入院件数と死亡数が減少し、医療費も減少した。論文はLancet 2010年4月17日号に掲載された。

2006年のイングランドでは、人口4390万人に対して、アルコールによる慢性疾患(がん・肝疾患・循環器疾患など)の発症が331,500人、急性疾患(事故や中毒など)の発症が152,700人、慢性疾患の死亡が7,800人、急性疾患の死亡が2,690人、入院が808,100件、医療費が29億5200万ポンド(1ポンドは約142円)と推計された。

研究では、18種類の価格政策を導入した場合の、アルコール消費への影響と、健康や医療費への効果を、数理モデルを使ってシミュレーションした。価格を10%値上げした場合には、消費が4.4%減少した。年間の健康効果は、死亡が1,460人減少、疾患の発症が慢性疾患で20,500人、急性疾患で5,800人減少、入院が48,000件減少した。年間の医療費は1億4800万ポンド減少し、患者の健康改善分を含む10年間の節約は累積で35億ポンドと推計された。

最低価格制を導入した場合の消費の減少は、アルコール10mLあたり0.4ポンドの場合は2.6%、0.45%の場合は4.5%(10%値上げとほぼ同等)、0.5ポンドの場合は6.9%、0.7ポンドの場合は18.6%で、消費の減少にほぼ比例した死亡・入院・医療費の減少があった。販売店での値引きを禁止した場合の消費の減少は2.8%と相応の効果があったが、大幅な値引きのみを禁止した場合の消費の減少は小さかった(例えば、20%超の値引きの禁止で消費の減少は0.8%のみ)。

著者らによると、今回のように多様なアルコール価格政策の効果を比較した研究は初めてという。

研究に対する論評は、アルコールによる健康障害と医療費を減少するための回答は(価格政策を通した)政府による介入であり、個人の選択に委ねることは非現実的と主張している。また、今回の研究がイングランド保健省の委託により行なわれたもので、英国政府内でアルコールの最低価格制の必要性に対する認識が生じていることを紹介している。

⇒かつて日本では発泡酒に対する増税の試みが国民の反対で中止されたことがあった。この時の増税の主目的は税収増であり健康改善ではなかった。研究に対する論評は、これまでヨーロッパでもアルコールの価格政策は、公衆衛生上の目的よりも財政上の理由で行なわれてきたことを指摘している。

しかし今後は、健康改善の目的でアルコールの価格政策を議論する動きが、世界的に強まると予想される。税収増から健康改善へという価格政策の目的の変更は、すでにたばこについて世界で生じているが、アルコールもこれに追随する動きが各地で生じてくるだろう。

論文要旨

ytsubono at 06:00論文解説  この記事をクリップ!
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