厭債害債(或は余は如何にして投機を愛したか)

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<<   作成日時 : 2009/06/03 19:06   >>

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最近ちょっと債券市場で話題になっているようです。生保などのいわゆる機関投資家が、通常の国内公社債(つまり円建ての国債など)の代替として、外国の信用度の高い債券(外貨建て)を購入し、元本部分に短期先物予約などで為替ヘッジを行う、いわゆるヘッジつき外債投資が増えているといわれているのです。国内債券担当者からは、そのおかげで市場が死んでしまっている、という諦めとも怨嗟とも付かない声が聞こえてきます。

昨年度は機関投資家も外貨建て投資ではかなり大きな損失を出したところが多かったようです、今はかなり戻ってはいますが、特に年金や終身保険など長期の固定利付き負債を抱える生保などでは、株や外貨などリスク資産に対して一定の距離を置こうという動きがあります。とはいえ、機関投資家も背後にお客さんを抱えているわけで、そうしたお客さんへのリターンをきちんと出していかなければならない。キャッシュや短期の円建て資産ではとても回らない。最近発表された決算を見ると、多くの生保ではまた逆ザヤが増えており、保険収支が伸びないなかで、きちんと運用収益をあげていかないとますます苦しくなっている。ところが、金利は上昇傾向で、利回りの取れる長期債は目先含み損になってしまうかもしれないし、金利が上がってから長期債をやりたいという気になっている。

そこでつなぎとして注目されるのがヘッジつき外債です。もう釈迦に説法になりますが、仕組みは至ってシンプルで、普通に外債を為替を取って買い(つまり円投外債にして)、同時に短期の先物予約(たとえば3ヶ月先の外貨売り)を入れるもの。このやり方がもっとも有効なのは投資先通貨(たとえば米ドル)と円の短期金利差が小さく、その債券と国内債との金利差が大きいときです。現状がまさにそうで、ドルと円の短期金利差(これがヘッジコストになります)は限りなくゼロに近いのに中期以上のカーブではきちんと金利差がある。つまり目先の為替変動の影響を避けながら、海外の高い金利を享受するわけです。具体的には5年の米国債を買って3ヶ月先物予約でヘッジを転がしていくと、ヘッジコストは(手数料を別にすれば)スポット対3Mで約11銭。同じ環境が続くと仮定すれば年間でも44銭です。これをスポット対比の利回り換算すればスポット96円としてマイナス0.45%ということです。一方5年の米国債は2.49%ありますから、同じ状況が5年続けば、2%弱程度のリターンが取れる。少なくとも目先の期間収益は年率2%あたりとなります。国債でこれですから、まだまだスプレッドの乗っている企業の社債を使えば、期間損益はもっと大きくなります。

もちろんリスクはあります。為替リスクこそヘッジしていますが、金利リスクや信用リスクはヘッジしていません。まあこれは国内公社債投資でもおなじことですから、ヘッジつき外債に特有のリスクとは言えませんが、最近は海外のほう(特に米ドル)の金利上昇リスクが注目されているだけに、国内よりはリスクは高いと思われます。
重要なのは、この戦略が投資期間とヘッジ期間のミスマッチを伴うため、ヘッジコストが将来変わることについて依然としてリスクを負っているということです。たとえば将来ドルLIBORが3%にまで上がってしまうと多分ヘッジコストのおかげでリターンが国内公社債以下になってしまったりマイナスになったりすることも考えられます。しかも短期金利が上がるということは中長期金利も上がっていることが多いので、予想より早い時期に金利が上昇してしまうと、ヘッジコスト増加と元本の金利上昇による損失というダブルパンチをくらうことになります。

もちろん、満期も含めてすべてのキャッシュフローをスワップの形で円に固定して本当にフルヘッジしてしまえば、そういう問題もなくなるのですが、その場合は金利裁定によって、金利部分については国内公社債と変わらないリターンにしかなりません(信用リスク部分は残るので、現在の市場環境ならそれでも妙味があるという見方はあります)。だから、最近流行のヘッジつき外債という場合はおおむね外債買いの短期為替ヘッジという組み合わせだろうと思います。

あと、細かいことを言えば、為替予約のカウンターパーティーリスクもあります。為替が大きく円高に動いてヘッジ手段(為替予約)のほうで大きな含み益になったあと為替予約の相手方の銀行がデフォルトしたら、その含みがパァになり外債のほうの為替の含み損だけが残ってしまいます。

会計的には、いわゆる時価ヘッジまたは繰り延べヘッジという方法でヘッジ会計を利用し、会計期間内の為替変動を相殺することが出来ます。つまり外債の為替変動とヘッジ手段(先物予約等)の為替変動がまったく逆に損益に働くので、ルール上これらは損益計算書上(時価ヘッジ)または貸借対照表上(繰り延べヘッジ)で相殺されます。

上に述べたスワップを使ったフルヘッジというやり方は、ヘッジ会計適用の前提となる「有効性判定」に確信がもてないためヘッジ会計対象としづらいのではないかと思います。ヘッジ会計が使える前提として、ヘッジ対象(この場合外債)とヘッジ手段(この場合為替予約)の時価の変動がおおむね1:0.8〜1.25の間に収まっていなければならないというのが金融商品会計基準の定めるところですが、ヘッジ手段をスワップとしてしまうと、最近のスワップの妙な動きからして、本当に0.8〜1.25に収まるかどうか、確信がもてないところとなります。

現在の金融商品会計が適用される前は、いわゆる「振り当て処理」というのが主流でした。これだと将来の利息元本一つ一つに為替予約なりスワップのフローなりを割り当ててその実額から換算した個別の為替レートを個別のフローの評価としていましたから、ヘッジ対象の外債とヘッジ手段の為替予約等が一体化して評価は一ミリも動かないというすばらしい商品が出来たのですが、現在のルールは振り当ては例外扱いで、原則はヘッジ会計を使うことになってしまいました。個人的には振り当て処理のほうが取り扱いは楽だったように感じますがどうして例外扱いに追いやってしまったのでしょうかね。

いまのところはヘッジつき外債は悪くないと思います。海外の資金需要は日本より高く、底に投資して超過リターンを得られるなら、当面それで逃げるのも一つのやり方でしょう。資金需要のあるところにお金を流してより早い景気回復に貢献するのも悪くないでしょう。とはいえ、いずれはかつて2005年ごろ体験したようなEXIT問題に直面することになるでしょう。つまり短期金利の上昇局面でどう撤退するのか、そこがポイントとなりそうです。

なんだか説明が長くなりましたが、最近の債券市場の話として、機関投資家がヘッジつき外債ばかりやっているから国内公社債市場が死んでいるという怨嗟の声が聞こえるのですが、どう見てもこんなことずっと続けるわけには行かないのです。あくまで期間限定の「シノギ」ですから、国内金利が十分上昇してさえくれればいずれは本来的なALM需要やら絶対値で買う投資家のお金が登場するはずです。円債の無気力さは、国債に変わる社債のマーケットが異常にタイトであることも原因だと思います。それは実は国内経済の無気力さと表裏一体だと思います。投資対象に困った金融機関が優良な民間投資先へ事実上のダンピングで融資をしたり社債を買ったりしてしまうから、こういうことになります。国内市場でもっと資金需要が出るような元気のある経済にいつかはしたいものですね。

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コメント(3件)

内 容 ニックネーム/日時
素人の感覚では、外債を買うのはともかく、今の為替レートでヘッジするのはアツモノに懲りて、ナマスの吹き過ぎでは?と感じてしまいます。

>>国内公社債市場が死んでいる
金融機関が個人向けの劣後債を連発してるのも、この余波なのでしょうか?
そうであれば、せっせと買っている個人投資家としては、ありがたいことだと感謝せねば(^^)
単にカスをつかませられているだけなのかなあ?
39歳無職
2009/06/03 22:58
害債をヘッジしたら意味がありません。常識です。ふだって30年米国債を3M予約でヘッジして、害債ヘッジとかいってるドアほうはいます。ハイでは9月以降30年後までカバーできません。なのでヘッジはできないのです。理論的に30年フルカバーのカウンターを探せばいいのですが、そんなロットを受け切れません。
なのでヘッジするアホはいません。というかそれにかけるのヘッジとはいわないので。
かるぱーす
2009/06/04 00:08
39歳無職さん、どうもです。おっしゃる論点は市場感覚から言うと正しいと思います。ただ、企業としてはリスク管理の観点からリスクが取れなくなっている、という状況もあるとは思います。メガバンク劣後債については、まだ日本のものは割高に感じますが、(どこにも書いてはいないけれど)いざという時政府が出てくれるという期待感が強いようですね。

かるぱーすさん、どうもです。30年債を買ってフルヘッジする人は(この文脈では)さすがにいないと思います。せいぜい5年程度でしょうかね。
厭債害債
2009/06/08 06:30

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