英国訪問報告 第1回
9日から16日まで
英国政府の招待で
ロンドンを訪問してきました。
そのご報告を
4回に分けてお伝えします。
今回の訪問は
12月9日(日)11時成田発の
英国航空への搭乗で始まりました。
12時間のフライトですが
時差9時間の関係で
午後2時にヒースロー空港に到着。
英国外務省嘱託の通訳相沢さんの出迎えと案内で
ロンドンに向い
その日は宿泊先の
Rubens Hotelにチェックインして終了。
時差がつかないように
一息ついた午後5時頃にホテルを出て
一人で地下鉄に乗るなどして
ロンドン市内をぶらつきました。
翌10日は朝9時にスタート
英国外務省の担当者Gwenda Scarlettさんと
通訳の相沢さんから
アテンドされた日程について
具体的な説明を受けた上で
ホテルを出発しました。
1 シンクタンク
最初の訪問先はIPPRというシンクタンク。
直訳すれば公共政策研究所となるのでしょうか。
こちらで、10時から1時間
社会政策担当の主任研究員である
Will Paxtonさんからお話を伺いました。
英国のシンクタンクは、
それぞれ政党との関係が深く
IPPRも労働党との関係が深いが、
資金的関係はなく、
むしろ資金提供を受けると違法になるとのこと。
あくまでも民間からの資金で運営されているそうです。
Paxtonさんは、年金と介護についての専門家で、
これらについても伺いましたが、
最も興味深かったのは、資産形成という問題です。
これは、これまでのような富の再分配というだけでは
不平等を解消することはできないとの前提で、
すべての人に必要な資産を持たせるようにしよう
との考え方です。
この前提には、英国にはまったくの無資力者が多い
という背景があります。
不動産などの資産がないだけではなく、
銀行口座や生命保険などまで含めて、
一切の資産を持たない人が多いのです。
こうした視点から、
ベビーボンドという政策が準備されています。
これは、出生時に
500ポンド程度の資金を政府が提供し、
18歳まで使えないことにして、
無資力者を作らないようにしようという政策です。
使い道を制限しようという議論もありますが、
むしろ金融教育との組み合わせが大切との方向で
準備が進められているようです。
つまり、この制度によって
低所得者にも貯蓄という概念を理解させ、
また、その癖をつけようとしているようです。
貯蓄過剰が問題視される日本では考えられない政策ですが、
単なる補助・支援ではなく、自立を促す政策が大切なのだ
という現政権の理念が、具体的に示されていると思います。
2 学者
次の訪問先はLondon School of Economics and Political Science。
11時半から約1時間あまり
国際史の名誉教授であるIan Nishさんと
日本経済・社会史専攻の上級講師Janet E Hunterさんから
日本をどう見ているのかについてお話を伺いました。
予想どおり金融改革の必要性を強調されましたが、
注目すべきは、
小泉首相に対する評価を確定するのにはまだ早い
と見ていることです。
何よりも彼の政治思想の根本が
右なのか左なのかよく分からない
と指摘されました。
右・左の意味は、
労働党・保守党の二大政党が確立している英国での表現ですから
日本での意味とは違うと思いますが、
理念の点に疑問を感じているというのは、
「外からの目」ならではかもしれません。
3 金融サービス庁
昼食を取って午後2時には
金融サービス庁を訪問し、3時まで
リスク査定部門のTerry Allen氏からヒアリング。
英国の銀行検査は
かなり独特のシステムであることを
認識しました。
金融機関の自己資本比率については、
国際基準で8パーセント以上となっていますが、
英国では、8~25%の範囲で
当局が銀行毎に別々の数字を適用するシステムに
なっているそうです。
その代わり、
英国には不良債権の分類がなく、
個別債権の査定をする代わりに、
自己資本比率に対して強い規制をする
という考え方を取っています。
また、具体的な検査そのものは、
金融サービス庁と契約した外部の会計法人に委託するとのことで、
日本でも参考にできないか、今後検討したいと思います。
4 ダイニング・テン
この日の公式日程の最後は、
午後4時から30分ほど首相官邸で
首相の上級政策アドバイザーである
Carey Oppenheimさんからヒアリング。
噂には聞いていましたが、
ダウニング・テンと呼ばれる英国首相官邸は、
本当に小さな普通の家でした。
玄関先に通じる路地の入り口で
セキュリティー・チェックはされますが、
玄関を入っても大きなホールや受付があるわけではなく、
内部も本当に狭くて普通の家のようです。
首相のリーダーシップと、官邸の物理的機能とは
まったく相関関係がないことがよく分かりました。
Oppenheimさんからは
主に「第三の道」の理念について伺いました。
そのポイントは、福祉において
「機会と責任」「権利と義務」という概念を重視すること。
かつての労働党は、富の再配分を重視していましたが、
これに加えて責任性を重視しています。
また、個人により重点を置き、
単に職の数を問題とするのではなく、
その職を遂行する個人のモチベーションを重視している
と強調されました。
また、公共サービスの提供はしっかりと行なうが、
その提供主体としてボランティア組織などの
民間セクターを活用する方向に進んでいるとのことです。
ただ、「第三の道」が上手くいっているのは
好況によって労働市場が拡大してきたことに助けられている
ということも、
率直に認めていました。
また、アドバイザーの役割について、
あくまでも首相に対する意見具申をするにとどまり
政策の責任者は各省の大臣である
ということを強調されました。
もっとも、官邸にいると
他分野のアドバイザーと意見交換し
総合的な政策調整が容易である旨を認めており、
結果的に、政策の全体像は
官邸のアドバイザー・グループが主導し、
それを首相が各大臣に徹底する
という側面が強いように受け止めました。
5 邦銀ロンドン支店
この後、一度ホテルに戻り一息ついた後、
午後6時すぎから中華料理店で
三菱信託銀行ロンドン支店長の掛川洋さん
同銀行の現地法人社長の若林辰雄さん
資金証券課長の今井豊さんと会食。
金融政策などで日頃からアドバイスをいただいている
エコノミストの中前先生から
「せっかく英国に行くのなら
シティー(ロンドンの金融街)で働く日本人から見た日本
について聞いてくると良い」
と進めていただき、ご紹介いただいたものです。
予想されたとおり、
日本の金融改革に対する強い期待をうかがいましたが、
いまのところ、ジャパン・プレミアムは
深刻な問題になっていないとのことです。
この日は午後9時にホテル着。
時差でだいぶ前から眠気をこらえていましたので、
ぐっすりと眠ることができました。
つづく