修正アリ(7日20時30分)

週末の6月5日(土)、6日(日)は千葉大学で開催された日本経済学会春季大会に参加して参りました。(大会プログラムはこちら

私の発表は、もともと2日目の「特別セッション」に予定されていたのですが、1日目の午前に移動。そのお陰(?)で、他の特別セッションとのバッティングを避けることができ、結果として多くの方にお越し頂けたのはラッキーでした(笑)

発表に足を運んで下さった皆様、セッションチェアーの宇井先生、非常に練りこまれたコメントを下さった討論者の坂井先生、どうもありがとうございました!

初日は、自分のセッションが終わった後は他の研究者の方とミーティングを行い帰ってしまったのですが、2日目はいくつかのセッションに顔を出しました。以下その雑感です。
「Middlemen in Competitive Markets with Indivisible Commodities」(慶應義塾大学 坂上紳)

生産者と消費者に、Middleman(仲買人)という新たな種類のエージェントを加えた経済で競争均衡の特徴付けを行った研究。各エージェントとの取引コストが異なる2種類のMiddleman(ClassicとModern)が、取引コストの大小に応じてどのように発生するかに焦点が当てられている。結果自体はかなり自然に感じたが、この辺のLiteratureに詳しくないので実は大きな発見なのかもしれない。討論者の戸田先生が、Shapley and Shubik(1977JPE?)の拡張だとおっしゃっていたので、まずはそちらをチェックしてみたい。


「Perfect Foresight Equilibrium Selection in Signaling Games」(香川大学 天谷研一)

最もシンプルな形のシグナリングゲームに、完全予見動学(Perfect Foresight Dynamics)を応用することによって、既存研究よりもより精緻な均衡選択が得られることを示した研究。モチベーション、発表内容ともに非常にわかり易かった上に、討論者の尾山さんのコメントがネ申だった。シグナリングゲーム自体は非常に重要なクラスのゲームであるものの、その均衡選択は少しテーマ的に古いので、現実の重要な問題に絡めて議論できると面白そう。


「The Impacts of Competition and a Fixed Saving Goal: A Randomized Field Experiment to Increase Saving among Homeless」(アリゾナ州立大学 田中知美)

アリゾナのホームレスシェルターで、ホームレスに対して行った実験研究。異なるいくつかの方法のもとで、ホームレスの貯蓄行動がどの程度変化するかを調べている。グループ内でもっとも高い貯蓄額を達成したホームレスに賞金を与える、という金銭動機を与えるトーナメント方式が効く一方で、1位の被験者をみんなの前で称えるという非金銭的なトーナメント方式のパフォマンスが非常に悪かったのが印象的。将来的には、(同じ期待支払額のもとで)どういった報酬体系がより効果的に貯蓄上昇をもたらすかが分かるとナイスかも。例えば、行動経済学でしばしば主張される損失回避の傾向が強いのであれば、プラスの金銭報酬ではなく(敗者への)罰金の方がより効果的かもしれない。


「ヒット曲は景気を語る(唄う)か?? マクロ経済と社会心理の一考察?」(一橋大学 保原伸弘)

景気と流行歌の様々な特徴間の相関関係を調べている著者の最新研究。今回は音程に焦点を当てているが、これは過去に着目した調性やテンポと比べてあてはまり(決定係数)が悪いらしい。結果の(やや強引な)解釈や、なぜ単回帰だけで重回帰を行わないのか?といった点に疑問は残るが、非常に個性的で興味深い報告だった。景気との関係だけでなく、大きなショックの前後で流行歌の特徴が変わるかどうかを、構造変化テストを使って調べてみても面白いかも。(例えば、各国におけるリーマンショックやギリシャショックの影響や、政権交代の影響などを調べてみるとか)


「The Binarized Scoring Rule of Belief Elicitation」(京都大学 奥井亮)

あるエージェントが私的に知っている確率変数に関する情報を、正直に申告させるための新メカニズムを提案し、実験によってそのパフォーマンスを調べた研究。エージェントがリスク中立的な場合に正直申告が引き出せるメカニズムが存在すれば、リスク中立ではない幅広いタイプのエージェントについて、効用関数や意思決定の仕方に依存せずに正直申告を(理論的には)引き出すことのできる、シンプルなメカニズムの設計方法を明示的に提示している。残念ながら、今回の実験結果からはこの新メカニズムの有用性を確認できなかったが、理論面だけでも目からウロコの驚くべき結果。


「Inferring Strategic Voting」(ノースウェスタン大学 渡辺安虎)

タイトルの面白さに魅かれて、構造推定についてほとんど何も分からないにも関わらず、聞きに行ってしまった(笑)2005年の郵政選挙のデータを用いて、「戦略的に投票行動を行う投票者がどの程度存在するか」という戦略的属性と、投票者の候補者に対する好みという選好情報を、同時に構造推定した研究。戦略的に行動した結果として第1希望の候補者に投票した有権者と、ナイーブに第1希望に投票した有権者の投票行動は、観察者にとっては全く同一であるにも関わらず「どの程度戦略的な有権者がいるのか?」をデータから推計できるというのは驚き。(ナッシュ)均衡条件を直接使わずに、被支配戦略を排除するというアイデアだけでは、推計値の幅がもの凄い広くなりそうだが、実際の幅がとても狭いことにも驚いた。これは討論者の中嶋先生も絶賛されていたので凄い結果に違いない!(が、門外漢の自分には背後の理由は全く分からず。。。泣)


最後に、発表(ポスター・セッション)には顔を出せなかったものの、報告資料を頂いた東大の鶴岡さんの研究について:
「Auction Versus Negotiation in Issuing Treasury Securities: Evidence from Japanese Government Bond Auction」(東京大学大学院 鶴岡昌徳)

日本の国債落札に関する価格データを用いて、交渉(シンジケート団との交渉による売却)と89年より導入されたオークション方式との違いを分析した実証研究。意外なことに、交渉の方がオークションよりも落札価格が“高く”なることが示されている。背後の統計的な処理の正当性や結果の解釈について様々な議論が起こる可能性があるが、発見自体が非常に重要で注目を集めそう。日銀や財務省にぜひ研究報告を申しこんでみては?彼らも興味を持つテーマだろうし、(本論文を含め)多くの既存研究でブラックボックスになっている交渉過程について、有益な現場の声が聞けるかも。
ちなみに交渉とオークションとの比較について扱った理論研究としてはBulow and Klempererによる以下の2論文が代表的(ただし、どちらもオークションの方が期待売り上げが一般には高くなり易いことを示唆している):
"Auctions Versus Negotiations" (1996AER)
"Why Do Sellers (Usually) Prefer Auctions?" (2009AER)