きょうの社説 2010年6月8日

◎百万石まつり改革 「盆正月」再現の意気込みで
 好天に恵まれ、にぎわいをみせた「百万石まつり」は、来年が60回の大きな節目とな る。2006年から始まった改革は一定の成果を挙げ、メーンの百万石行列もかつての商工まつりの色彩から、歴史性を重視する方向に変わってきたとはいえ、今年も行列の間延びを指摘する声が聞かれ、まつり全体を見渡しても、まだまだ改善の余地がある。

 12月には加賀藩御算用者(ごさんようもの)(会計専門の武士)として藩の財政にか かわった猪山家の映画「武士の家計簿」が公開され、加賀藩の歴史や金沢への関心は全国的に高まることが予想される。映画では藩政期の「盆正月」の場面が描かれているが、前田家の慶事を城下挙げて祝ったこの風習を現代に生かそうとするなら、百万石まつりが最もふさわしい場と言えるだろう。

 来年の行列で利家やまつ役に大物俳優を起用すれば話題性はそれなりに引き出せるだろ うが、改革の方向性として、より大事なのは、市民、県民が加賀藩の歴史や文化を見つめ直し、それを誇りに思えるような場として機能させることである。「武士の家計簿」を追い風に、来年は「盆正月」の熱気を再現するような意気込みで思い切った見直しを望みたい。

 今年は行列に2代藩主利長の正室永姫が新たに登場したほか、踊り流しの区間を延伸し 、最終日の薪能も1日早め、行列の入城祝祭の後に設定して連動性を持たせた。行列以外の催しでも、このように見直す余地は多々ある。まつり全体を通してマンネリに陥っていないか点検することが大きな課題である。

 百万石まつりを地域の歴史、文化を内外に発信する一年のメーンイベントと位置づける なら、期間中に「加賀藩」を発信できる企画を効果的に打ち出す必要がある。金沢で城の復元整備、城下町遺産の文化財指定を進めてきたのと同じ熱意で、まつりを全国に誇れる魅力ある内容にしていきたい。

 盆正月 前田家の嫡子誕生や官位昇進などの慶事に際し、金沢城下を挙げて催された祭 り。町内ごとに作り物を出し、獅子舞や祇園囃子などが繰り出され、文字通り、盆と正月が一緒にきたようなにぎわいだった。6代藩主吉徳の家督相続を祝って以来、40回以上行われたという。

◎APEC貿易自由化 問われる日本自身の戦略
 札幌市で開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)の貿易相会合で、地域経済統 合の推進や域内の成長戦略の策定方針を柱とする議長声明が採択された。15年ぶりにAPEC関連会合の議長国を務める日本は、11月に横浜市で開く首脳会議で、自由貿易圏をめざすAPECの将来像を示した「横浜目標」を打ち出したい考えであるが、その作業は並大抵ではなく、日本自身の通商・成長戦略がまず問われる。

 政府は昨年末にまとめた成長戦略の基本方針で、「アジア太平洋自由貿易地域(FTA AP)の構築」を掲げている。今回のAPEC貿易相会合で、FTAAP構想の道筋を探ることで一致したが、域内の経済統合の枠組みをめぐって各国の思惑は異なり、日本は議長国として議論の主導権は握れなかったようだ。

 地域経済統合について、中国は東南アジア諸国連合(ASEAN)に日中韓3カ国を加 えた「ASEANプラス3」を重視している。米国抜きの枠組みで主導権を確保しようという狙いである。一方、米国はシンガポールやニュージーランドなどがメンバーの環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への参加を表明している。TPPは将来的にFTAAPの中核になる可能性もあるという。

 APECの自由貿易圏構想をめぐって米中がけん制し合うなか、日本として経済統合の 将来像と道筋をどう描くか。新政権の大きな課題の一つである。停滞している韓国やオーストラリアなどとの二国間の経済連携協定(EPA)交渉を動かす必要もある。

 APECの成長戦略の策定も、議長国の日本に託されているが、リーマン・ショックと ギリシャ・ショック後の経済社会の在り方をどう考え、格差のあるAPEC域内の「均衡ある成長」をどう実現するかという問いに答えるのは容易ではない。それは日本自身の問題でもある。通商戦略と成長戦略は一体であり、まず自国の各戦略をしっかり固め、日本経済の展望を示さないと、議長国としてAPECの議論をリードしようと思っても難しかろう。