米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)移設問題の5月末決着の失敗は社民党の連立離脱に発展し、鳩山内閣の支持率下落に拍車をかける形になった。毎日新聞が29、30日に緊急実施した全国世論調査で民主党はついに政党支持率で自民党に並ばれ、参院選へ向け民主党内に募る危機感は、普天間問題で「自爆」した鳩山由紀夫首相に対する不満のマグマとなって渦巻く。小沢一郎幹事長の周辺から漏れる「首相退陣論」が党内に疑心暗鬼を生み、「鳩山降ろし」の気配も漂い始めた。
「政策を前に進めることができるのが鳩山首相かそうでないかは首相自身に判断していただくしかない」。民主党の細野豪志副幹事長は30日のNHKの討論番組でこう述べ、首相が自発的に辞任する可能性を示唆した。
通常国会の会期延長がないなら、6月24日の参院選公示まで1カ月を切っている。改選を迎えるベテラン参院議員は「今日も後援会のミニ集会に出たが、民主党支持層は『小鳩』体制に怒り心頭だ。このままだと選挙は惨憺(さんたん)たる結果だ」と語る。
こうした悲鳴が週明けの党内情勢に影響を与えるのは確実だ。31日には定例の党役員会が予定されており、党幹部は「役員会は荒れるかもしれない」とみる。参院幹部は「6割が退陣を求めているのに、首相は何も分かっていない。これは困ったことだ」と首相の辞任に期待をにじませる。
注目されるのは、表向き沈黙を守っている小沢氏の動向だ。
3月ごろまで内閣支持率低落の主因は「政治とカネ」問題を抱える小沢幹事長とみられていた。今回の世論調査でも、小沢氏に辞任を求める回答は73%に上ったものの、前回調査(5月15、16日)からは5ポイントの微減。党幹部は「これまでの『政治とカネ』への批判と違い、普天間では首相の統治能力が問題にされている。『これなら自民の方がいい』となるのが怖い」と語る。
鳩山首相は27日夜、ひそかに首相公邸で小沢氏と会談している。福島瑞穂消費者・少子化担当相の罷免方針を伝えたとみられるが、小沢氏は28日、福島氏に電話し「あなたは筋が通っている」と社民党を擁護したという。小沢氏に近い細野氏から「首相の自発的辞任論」が出る裏には、世論の批判が小沢氏より首相に向かっているとの判断もありそうだ。鳩山首相が退陣しても、小沢幹事長が残って参院選を乗り切るシナリオも小沢氏周辺から漏れ始めている。
首相は29日、韓国・済州島で記者団に「国民のために闘っている政権の姿を協力して示すことが大事だ」と語り、党内に結束を呼びかけた。31日には、来日中の温家宝中国首相と会談する予定。口蹄疫(こうていえき)問題で宮崎県への視察にも意欲を示し、続投する構えを崩していない。【須藤孝】
社民党が30日、連立離脱を決めた背景には、参院選に向け普天間飛行場の移設で「筋を通した」と主張し、ぶれ続ける首相との違いをアピールすることで党の存在感を高める計算がちらつく。しかし、毎日新聞の緊急世論調査では、首相が福島瑞穂党首を閣僚から罷免したことについて「適切だ」との回答が56%に上り、「適切でない」(41%)を上回った。政党支持率は2%にとどまり、今回の連立離脱劇が社民党への支持を高めたとは言い難い。
福島氏は30日、連立離脱を決めた後の記者会見で、民主党との選挙協力を続ける方針について「選挙協力をしていないところ、民主党と戦っているところも多い。社民党としての選挙を戦うので大丈夫だ」と強調した。しかし、又市征治副党首らが首相退陣を公然と求める一方、小沢幹事長の主導する民主党との連携は維持する戦略も分かりづらく、党の存亡をかけた参院選の展望は開けていない。
地方県連にも、参院選への懸念は残る。現職の近藤正道氏を擁する新潟県連は30日の全国幹事長会議で、連立離脱に慎重論を展開。重野安正幹事長は同日の会見で、新潟選挙区の対応について「全力を挙げて、民主党に我々の思いを述べて、(選挙協力に向けた)協議は続けていく」と苦しい説明に追われた。
与党か野党か--。立ち位置の定まらない社民党は早晩、「決断」を迫られる。自民党など野党は今後、口蹄疫問題を抱える赤松広隆農相への不信任決議案を皮切りに、内閣不信任案提出を予定。福島氏は30日の会見で、不信任案の対応について「今日の段階で、コメントする場面ではない」と述べ、先送りした。
社民党幹部は民主党との選挙協力について「矛盾したような、分かりにくい方針だというのは分かっている。ただ、(旧政権の)自民、公明両党とは組めない以上、与党側と連携の芽を残すしかない」と苦しい胸の内を語った。【西田進一郎】
野党転落後、初めて政党支持率が民主党と並んだ自民党。17%と相変わらず1割台に低迷しており、民主党が一方的に失速した結果ではあるが、参院選比例代表の投票先でもほぼ並び、無党派層の投票先では自民16%、民主14%と逆転した。大島理森幹事長は「信頼される自民党の姿を理解してもらう努力をすれば、おのずと結論が出てくる」と参院選へ向けた手応えを語った。
普天間問題を巡る鳩山政権の混乱に乗じ、自民党など野党は終盤国会で内閣不信任決議案を提出する方針。自民党幹部は一斉に首相退陣や衆院解散を要求する発言を繰り返し、政権に揺さぶりをかけている。谷垣禎一総裁は30日も北海道稚内市で記者団に「鳩山さんが退陣するか、解散して信を問うか、このことが問題解決のスタートだ」と強調した。
だが、約3分の1の衆院小選挙区で候補者が決まっていない現状では、衆参同日選挙は回避したいのが本音。参院選で「改選第1党」を狙うには「このまま鳩山・小沢体制が続いてほしい」(閣僚経験者)という声も根強い。参院自民党幹部は「普天間問題と社民党の連立離脱でも数字は逆転しなかった」と敵失頼みの限界を嘆く。【中田卓二】
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<本社世論調査 質問と回答>
◆鳩山内閣を支持しますか。
全体 前回 男性 女性
支持する 20(23)21 19
支持しない 67(62)67 67
関心がない 12(14)11 13
◇<「支持する」と答えた方に>支持する理由は何ですか。
民主党の首相だから 12(16)14 9
指導力に期待できる 3 (1) 3 3
政策に期待できる 14(13)18 9
政治のあり方が変わりそうだから 69(69)63 76
◇<「支持しない」と答えた方に>支持しない理由は何ですか。
民主党の首相だから 3 (2) 4 3
指導力に期待できない 50(50)48 51
政策に期待できない 26(25)28 24
政治のあり方が変わりそうにない 21(22)19 22
◆どの政党を支持していますか。
民主党 17(19)20 14
自民党 17(15)16 19
公明党 4 (4) 2 6
共産党 2 (3) 2 2
社民党 2 (2) 2 2
国民新党 0 (0) 1 0
みんなの党 9 (9)10 8
新党改革 1 (1) 1 1
たちあがれ日本 1 (1) 2 1
新党日本 0 (0) 0 -
その他の政党 1 (2) 1 1
支持政党はない 44(43)42 46
◆政府は米軍普天間飛行場を同じ沖縄県の名護市辺野古に移す方針を決め、米政府と合意しました。辺野古への移設に賛成ですか、反対ですか。
賛成 41 46 37
反対 52 50 53
◆この問題で鳩山首相は「最低でも県外への移設」と「地元の合意を得た5月末の決着」を約束していました。これを実現できなかった責任を取って、首相は退陣すべきだと思いますか、思いませんか。
退陣すべきだ 58(47)59 57
退陣する必要はない 40(51)40 41
◆社民党の福島党首は辺野古への移設に反対し、消費者・少子化担当相を罷免されました。鳩山首相が福島氏を罷免したことを適切だと思いますか、思いませんか。
適切だ 56 64 48
適切でない 41 34 46
◆この問題で、社民党は連立政権から離脱すべきだと思いますか。
離脱すべきだ 64 73 55
離脱する必要はない 33 26 39
◆民主党の小沢幹事長の資金管理団体による政治資金規正法違反事件についてお聞きします。検察審査会は「起訴相当」と判断して検察に再捜査を求めましたが、検察は再び「不起訴」にしました。小沢幹事長は辞任すべきだと思いますか。
辞任すべきだ 73(78)67 78
辞任する必要はない 24(19)31 18
◆参院選が今行われるとして、あなたは比例代表でどの政党、あるいはどの政党の候補者に投票しますか。
民主党 22(22)24 20
自民党 21(18)21 22
公明党 4 (5) 2 6
共産党 4 (3) 3 4
社民党 3 (2) 3 3
国民新党 1 (1) 1 0
みんなの党 14(15)17 11
新党改革 1 (4) 2 1
たちあがれ日本 2 (3) 3 1
新党日本 0 (1) 0 0
その他の政党 18(18)17 19
◆民主党は衆院で半数を大きく超える議席を持っていますが、参院選の結果次第で連立政権の枠組みが変わる可能性があります。参院選後、民主党がどの政党と連立を組むのが望ましいと思いますか。
民主党の単独政権 32(25)34 30
社民党、国民新党との連立 7 (9) 8 6
自民党との大連立 14(12)13 15
公明党との連立 2 (4) 4 1
みんなの党との連立 10(13)12 9
その他 29(30)27 31
(注)数字は%、小数点以下を四捨五入。0は0.5%未満、-は回答なし。無回答は省略。カッコ内の数字は前回5月15、16日の調査結果。前回、鳩山首相の進退は「5月末に決着できなかった場合」を前提に、小沢幹事長の進退は検察審査会の「起訴相当」の議決を受けて聞いた。
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29、30日の2日間、コンピューターで無作為に選んだ電話番号を使うRDS法で調査。有権者のいる1705世帯から、1025人の回答を得た。回答率は60%。
毎日新聞 2010年5月31日 東京朝刊