2010-06-07
■[メモ] Hidekazuさんの「年度を越えて使用できる研究費の実現の方法」がすばらしい
熟議:「我が国の研究費を使いにくくしている問題点は何か?」のHidekazuさんの提案がすばらしい。でも、熟議だと読みづらいので、転載。
なぜ研究費は年度を超えて使えないか
研究費が年度を超えて使えないのは、「後払い」の仕組みになっているからです。額の確定調査(あるいは検査)と呼ばれる国や配分機関の検査を受けた経験のある方は多いかと思います。研究終了後のこの検査で交付額が正式に決定するという建前の制度になっています。採択通知で知らされる額も概算払いされる額もあくまで仮の額なのです。一方、会計年度独立原則のために国は予算の使用と支払いを年度内に終わらせなければなりません。支払いの額が決まらなければ支払いが終わらないので、研究者は年度内に研究を終わらせることを求められるのです。
どうすれば、研究費を年度を越えて使用できるか
もし、国の研究費を「前払い」にできれば、研究費を年度を超えて使用することが可能になります。前払いした段階で、国の支払いは終わります。年度内に使用しなければならないのは国であって、国からもらった者まで年度内に使用しなければならないわけではないのです。
補助金は、研究が終わった後に、国が検査を行い精算して交付額を正式に決める仕組みです。研究開始時に正式な額を決めて渡してしまい、研究が終わった後に研究機関が清算する仕組みに変えればよいのです。研究機関が勝手に都合よく清算するのが心配ならば、清算の結果を国が承認する仕組みにすればよいのです。支払いの後は、国は清算の承認という権利を持ちますが、支払った経費に関して国が義務を負うものではありません。国としての経費の使用と支払いは研究費を渡した段階で終了しています。
補助金を「前払い」にできないか
研究開発については、補助金を「前払い」してもらう制度に変更できればよいのですが、従来からある大きな仕組みの変更や例外を作ることは、政府部内での相談がなかなか進まないことが多いようです。
年度を越えて使用できる研究費の実現の方法
一方、お金を他人に前払いして仕事をしてもらう制度として信託があります。数年前に信託法の全面的な改正があり、事業もまるごと信託できるようになりました。研究を信託することも可能と考えます。国や配分機関である独立行政法人が研究費を大学や研究機関に信託する方法です。
信託の方法で研究費を提供すれば、研究費の複数年度使用が可能になります。補助金制度や会計年度独立原則に例外を作るわけではないので政府内での調整も可能ではないかと思います。
少なくとも運営費交付金を財源として独立行政法人が研究機関に信託する方法ならば、国の予算の仕組みに変更を求めなくとも実施できます。国の場合、会計年度を超えて研究に使用できたように、中期計画期間を超えて研究に使用することが可能になります。
なお、信託の仕組みでは、信託された者のみの利益を目的とする信託は認められません。そこで、例えば、知的財産権収入の一部を配分機関に納付することなどを信託の条件とすることが考えられます。知的財産権そのものは、従来どおり研究機関に帰属します。
補助金や委託費の方法に替えて信託の方法で研究費を提供する、これが私の提案です。いかがでしょうか。
予算・会計上の問題点をもっともっと抽出したい
〜前略〜
>Hidekazuさん
詳細な御意見ありがとうございます。非常に重要な論点であると考えています。
信託のご提言ですが、単年度予算主義の例外である継続費、国庫債務負担行為、基金といった諸制度との比較考量の上、制度として最もメリットがある制度を選択すべきと考えますが、どのようにお考えですか?ご存じであれば、諸外国の例なども併せて教えていただけると、皆さんにとっても大変参考になるかと思います。
えんつばさん
御質問ありがとうございます。
継続費や国庫債務負担行為は実際に適用されている例が限定されています。継続費は艦船に、国庫債務負担行為は施設などです。研究費には、これまで適用されていません。艦船や施設は、必要額を柔軟に増減しにくいものです。建物の一部だけを作ってストップしてしまうと一部のために投じた経費もむだになってしまいます。研究費は、施設などに比べると柔軟に増減できると考えられるため、最初の年に複数年の約束をすることについて、財政部局の理解が得られにくいのだと思います。
また、これらの制度は、経費をあらかじめ複数年度にわたって約束する制度だと理解しています。現場の効率的な研究費の使用を促すには、未執行分の研究費を翌年度使えるようにすることが効果的だと思います。十分な成果を挙げた場合は、終了予定年度の翌年度にその課題の発展のための研究に使用することなどを認めるとよいと思います。
基金から助成される研究費は、複数年度にわたり使用できると理解しています。ただし、補正予算での措置が多く、毎年の当初予算で措置している例は、健康被害の救済など限定的な例です。運営費交付金を財源として信託すれば、毎年の予算措置可能です。
3月末日まで制約なく使える研究制度
えんつばさん、みなさま
信託が基金や補助金とは異なる部分で、使いやすさの向上につながると思われる点についてお話しします。
多くの大学や公的研究機関では、3月末日まで研究費が使えないことが多いと思います。高い機械装置の発注は1月半ばが期限だとか年度内に使用しきれないと思われる薬品等は購入してはいけないなどの決まりごとです。
信託された資金は、研究機関の固有の財産とは区分して管理しなければならず、研究機関の法人としての決算には加えません。個別の研究課題ごとに書類を作りますが、信託の年度は、当事者間で決めることができます。3月末に決算を閉じる必要がないのです。
基金も信託も、研究費を複数年度使用できるようにするので年度ごとに返納する必要がありません。信託の場合、法人としての決算に合算しませんし、3月末に決算を閉じる必要もないので3月末日まで制約なく研究費を使うことができます。
年度末に使えなくて困ったことを教えてください
みなさま
研究費が複数年度使用できなかったり、年度末日まで研究費が使えなくて非効率だと思われたことがあったら、ぜひいろいろ教えてください。
現状の年度末における研究費の取り扱いから考えると研究機関からの発注が集中する時期と少ない閑散期があるのではないかと思います。それがならされることで全体としては、研究費の節約になると思います。昨日鈴木副大臣も同趣旨のことをおっしゃっていたかと思いますが、研究費をより効率的に使用できるようになることを示せれば、これは財政当局にとってもメリットなはずです。改善の相談が進みやすくなると思います。
まとめて二つ買えば安い機器を研究費を繰り越せずに年度末と翌年度に一つづつ割高で買ったとか、4〜5月は発注も少ないのでプログラミング費用や作業費が安い(その分、発注が集中する時期には、少ない時期があることを考えた割高な入札額になっている)などあるかと思います。
3月に研究費が使えることはもちろん必要ですが、それを「次年度の準備」に使えることが重要だと考えています。
一年の中で、大学の教員が集中して研究に時間を取れる期間は限られています。具体的には、授業のない夏休みと春休み期間がもっとも研究に時間が取れる時期ですが、補正予算系など、夏休みにはまだ研究費が交付されていないというケースもあります。一方で、2月は多くの私立大学が入学試験を実施していて、この時期は通常の学期中よりも忙しいという教員も少なくありません。やっと入試が終わるともう3月で、2月末締めになっている研究費は使えなくなっています。自分自身の経験からも、3月に次年度のシステム開発のための打ち合わせや環境構築等に研究費を使うことができれば、4月からの研究をスムーズに立ち上げることができると考えます。
研究費が使えない「空白期間」をなくし、研究費のライフサイクルを大学教員のライフサイクルとマッチさせることができれば、研究費のパフォーマンスの向上が期待できるのではないでしょうか。
mygw3さんのおっしゃるように次年度まで視野に置いたスパンで研究できると効果が上がると思います。多くの競争的資金は3月末を完了期限としているため、次年度に使用するための機器の購入や3月末までに使用できない量の薬品などの購入は敬遠されているのではないかと推測します。(経費をかけない打ち合わせならばできるのではないかと思いますが。)3月末を意識して不自然、あるいは無理な切れ目ができているのではないでしょうか。
完了期限を3月末を越えて設定すれば、次年度の準備のための研究を進めることができます。昨年度の補正予算で措置された基金からの助成は、複数年度の期間使える条件で研究費を交付します。
9から13で提案した信託の方法でも同様に完了期限を3月末を越えて設定でき、次年度のことも考えて研究を進めることができると考えます。信託は新しい方法の提案ですが、補正予算でなく毎年の当初予算でできると考えています。
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