2004.11.2
早稲田大学モーニング娘。研究会主催・オール早稲田文化週間イベント
「モーニング娘。に見るアイドル音楽の再評価」イベントレポート


 


このイベントのレポートをしてくださったサイトをご紹介致します(50音順)。
「月夜の晩に、拾ったボタン」(管理人:チュンセとポウセ)様 11/2付
「Capricorn」(管理人:のりぃ)様 11/2付
「Morning Into Infinity」(管理人:ななぷる)様 11/3付
「桃子に必死なハロヲタ受験生むじんのピリリと行こう!」 11/2付 11/3付
この他にレポートしてくださったサイトの方がいらっしゃいましたらご連絡下さい。

 



 <パネリスト>
永井ルイ 氏(編曲者)
渡部チェル 氏(編曲者)
宇多丸 氏(Rhymster MC)
たかぎ(司会・早大モーニング娘。研究会)

左から たかぎ、宇多丸氏、渡部チェル氏、永井ルイ氏


 
ここでは収録した音源とメモを用いて出来る限り情報のボリュームを多めに設定致しました。
その為、各種情報が原則的に細かい短文形式となっておりますがご了承下さい。
また、以下の文章に関しては一部転載に限り可能、画像は転載不可とさせて頂きます。
それに関連して、トップページ( http://mmrevent.hp.infoseek.co.jp/ )へのリンクもお願い致します。

なお、全て時系列通りとなっています。
 
 
 <第1部>

 ★編曲という仕事について

  永井ルイ氏の場合〜ハロプロのアレンジをするようになったきっかけ〜
2000年ごろから、ハロープロジェクト側で「新しいカラー」を出せるアレンジャーを探していた。
そのとき白羽の矢が立ったのが永井氏。
事前に誰の曲になるのかは全く知らされず渡された仮歌(シンセでメロディーをなぞったもの)と、
簡単なトラックのみのデモテープから永井氏が好きに作った曲がタンポポ『乙女 パスタに感動』となる。

・他のレコード会社、アーティストとは違う、ハロープロジェクトに特有の発注の仕方、というものはない。
・永井氏に来るアレンジの仕事は基本的にその都度色々な形態である。
・余り作曲家とは話さない(永井氏が自由に制作している)。
・編曲においてのこだわり(特定の音楽ジャンルに特化する等)は特に無いが、自分が聞きたいものを作る。
・つんく氏については、優れたメロディメイカーとして好きである。
しかし仕事をし過ぎな面は否めない。人間なのだから限界もあるのではないか・・・。


  渡部チェル氏の場合〜ハロプロのアレンジをするようになったきっかけ〜
THE BAND☆MANのつながりで二期タンポポの二枚目=『恋をしちゃいました!』のアレンジを頼まれる。
1〜2ヶ月前に唐突に頼まれ、なし崩し的に・・・といった感があった。
メロディをピアノでなぞった、簡単なオケのみのデモテープを渡される。
制作はつんく氏。『LOVEマシーン』『恋のダンスサイト』の頃まではつんく氏の仮歌とギターのみ、
といったスタイルのデモテープだったが、『ハッピーサマーウェディング』からデモテープもDTMを駆使したものとなる。

・自分は「職業アレンジャー」である。
故に職人として(”アーティスト”ではなく)タレントの才能を生かすよう心がけている。
自分に出来ることの中で相手の要求にフィットするものを出す。
(デモの段階でどのアーティストのどういった位置づけの曲になるのか知らされている)。
・作曲家としてのつんく氏は一曲の中に必ず特殊な「ひっかかり」のあるメロディーを作る。
インテリジェント・アレンジャー*1にかけると「これでいいんですか?」
と聞き返してしまうくらいの違和感がある部分(フック)がメロディーの中にある。
しかしその違和感がアレンジを煮詰めていくに従って楽曲の”キモ”になってくる。
例えば『トロピカ〜ル恋して〜る』のサビ2小節目には、完全にスケールアウトしている音がある。*2



 ★タンポポについて

  永井ルイ氏の場合〜乙女パスタに感動〜 
・Queenをはじめとする70sの洋楽のエッセンスを盛り込んだ。
基本的に好きなようにやらせてもらっている。制作期間はわりと短かった。
・つんく氏がいじっている部分はない。
ただ一つだけ、歌詞が乗った状態のコーラス(ヴォーカル)の追加を注文された。
一度完成品として納品した後に足すことはある。*3

※基本的に永井氏にはアレンジを頼む際は「放置プレイ」。
  細かい指示は無く、好きなようにやっているらしい。
  永井氏のある種”アーティスト”的なアレンジャーとしての立ち位置が見えてくる。


  渡部チェル氏の場合〜恋をしちゃいました!〜
・ハロー!プロジェクト楽曲においてはつんく氏のさらに上の人間*4からの注文があることが多い。
例えば「ここにリコーダー」「ここにタンバリン」といった具体的な注文をされることがある。
そしてその注文が結果的に良い方向に行くことが多い。駄目な注文はディレクターが止めている?
・ハロプロ楽曲として初めてのアレンジの仕事を受けるにあたって、
先行シングルである『乙女 パスタに感動』はとてもかっこいいと思っていた。
また当時のハロプロ楽曲の売れ行き、社会的関心の高さがプレッシャーになった。
しかし『恋をしちゃいました!』の発注を受けた時『乙パス』のブリティッシュロックーポップス風路線を
踏襲して欲しいといった要求は一切なく、『恋しちゃ』はむしろモータウン風味の曲と捉えていた。
当初のアレンジではリズムが「もっさり(鈍重で踊れない)」していたのでフレンチポップ風味を加味、
ex.ヴァネッサ=パラディなどの楽曲の要素を取り入れた。
タンポポーブリティッシュというイメージはPVや衣装などの視覚的な要素からの影響が大きいのではないか?

※渡部氏は、永井氏とは対照的に細かい指示まで注文が来る
  いわば”職人”的なアレンジャーだということがわかる。


  宇多丸氏から
・打ち込み中心のハイファイな音造りだった初期タンポポから一転して、二期タンポポは、
永井氏、渡部氏共に”生音”をメインにした音作りになった。
ある種のタンポポの統一感−ブリティッシュロック/ポップスのイメージはここに起因しているのでは?
との見解が為される。


  永井ルイ氏〜王子様と雪の夜〜
・二期タンポポ3rdシングル『王子様と雪の夜』は最初クリスマスイメージはなし。
完成したものに、発売日が冬の時期(11月21日)に決まって、クリスマス的な要素を盛り込んだ。
具体的にはベルの音などを加えた。
「PVはもちろん見ています」(by 渡部氏)



 ★松浦亜弥について


  渡部チェル氏から
・1stシングル『ドッキドキ!LOVEメール』よりも「アイドル然」としたものをとの発注を受ける。
・この時点で渡部氏には松浦の能力は未知数だった。
・1stシングルの弦の使い方(ストリングスアレンジ)を参照、踏襲した。
・当初はキメ*5が多く、その意義がわからなかったが、後にライブを見て納得したという。
「全部飛ぶんだこの人たちは」(by 渡辺氏)
・3rdシングル『LOVE涙色』は新人アイドル(アーティスト)にとって三枚目のシングルは勝負の一枚、
ターニングポイントとなることが多く、そのためか発注の段階でUFA側からピリピリした雰囲気が感じられた。
{仮MIX納品→直し} の回数がとても多かったのを覚えている。
元のバージョンはもっともっさりしたアレンジで、それを生ベースに差し替えてグルーブ感を出したりした。
・歌詞も『夕暮れ』のようなほのぼのしたものだった。
「女子高生が彼氏と夕暮れの帰り道に会う」といった内容だったと記憶している。
・最終的に確定の歌詞を見せてもらって、こういう風にもっていこうと思った。


  宇多丸氏から
・「まさに編曲という名のセッションですね」とのコメント。渡部氏もそれに同意する。

※このセクションからは派生的にトラックダウン(以下TD)についての興味深い言及もあった。
  以下にまとめて紹介する。
・渡部氏より TD*6につんく氏が立ち会うことは時と場合によるが、同席した場合かなり口を出す。
場合によってはMIXのやり直しまでさせることがあるのだとか。
・永井氏においてはつんく氏が全てTDに立ち会っている。
MIXのやり直しまではなかったが、その際つんく氏の手がずっとベースのフェーダーを触っていた、とのこと。
つんく氏はベースにうるさいということのようである。
・宇多丸氏からは、基本的にMIXのやり直しまでさせるのは金がかかるので余りやらない
(=ゆえに楽曲制作には力を入れているのであろう)のコメントが。
・ちなみに二人とも自分が手がけた楽曲がかかると嬉しいそうである。
永井氏はスーパーなどで掛かる、ヴォーカルをシンセの音色に差し替えたバージョンがかかるとチェックする。



 ★ハロー!プロジェクトと2001年について

  ダンス☆マン氏のアレンジについて
・ダンス☆マン氏も永井氏と同じく、発注の際に細かい指定があることは無い。
・ダンス☆マン氏もキーボードが弾けるので、THE BAND☆MANにおいてはダンス☆マン氏
の指示に従って弾いたフレーズも結構ある。
・『LOVEマシーン』の頃、THE BAND☆MANのキーボディストとして3年間追求してきた
シンセの音色が頂点を迎えていた。

  三氏より
・永井氏より、モーヲタは異常なテンションだった。ライブの始まる前から飛ばし過ぎだろうと思っていた。
・01年夏の”ヲタ的盛り上がり”はアレンジャーとしての二人も感じていた。
01年夏の清里、モーニング娘野外ライブにヲタバスが出る。そのバスに永井氏も誘われたりしていた。
・『LOVEマシーン』リリース直後、カラオケに行くと隣の部屋でOLが二時間ずっと『LOVEマシーン』を歌っていた、
というような現象があったが、松浦亜弥の『LOVE涙色』のリリース時にもそういった現象があった。

※ なぜそういったカラオケ文化に受容されたか、という司会からの質問に対して、
渡部氏はわからないと回答しながらも、以下の興味深い示唆があった。
・『LOVEマシーン』は往年のディスコサウンドのマニア的なリヴァイヴァルであるにも関わらず、
あれだけ「大衆」に支持された。つんく氏からはダンス☆マン氏のディスコ/ファンクの空耳カバーアルバム*8
具体的な曲名を挙げてまで発注、指示があった。
・宇多丸氏からは、当初『LOVEマシーン』はGTS*7にアレンジが行くはずだったが、
当のGTSのG氏より、むしろ制作側の希望に向いているのはダンス☆マン氏の方では?
という話しになり、あの形になったとの裏話がもたらされる。



 ★一部のまとめ
・ファンの二期タンポポへの思い入れに対して、渡部氏は特に意識していないとのこと。
・タンポポの(ヲタ的)パブリックイメージに関して、造っているときから特に意識したわけではない。
・永井氏は、ヴォーカリストとしての矢口真里が気に入っている。
以降楽屋トーク。
メロディーに対してピッチを素早く当てる*9のが良い。音感の良さ、というか、潔い、とのこと。



ここで第一部が終わり、休憩を挟んで第2部に移りました。








 <第二部>

 ★質疑応答(質問は会場参加者による)

Q.ミニモニ。『春夏秋冬大好っき』について、ミニモニの曲だということは決まっていたか?
A,永井氏:聞いてなかった。ビートルズ『オブラディ・オブラダ』風にしようと思っていた。


Q,ミニモニについて、子供に受けるような曲にしようと意識してアレンジしたのか?
A,渡部氏:『お菓子作っておっかすぃ〜!』は最初に振り付けが決まっていた。MCハマーのある楽曲が元に。


Q,『I&YOU&I&YOU&I』について
A,永井氏:早い段階から曲は作っていた。最後だと聞かされた。

※この質問の際には、永井氏がポール・マッカトニーが使用したことで有名な
ヘフナーのバイオリン型ベースのコピーモデルをつんく氏にプレゼントし、とても喜んでもらったエピソードが語られた。
ここにもつんく氏のベース好きの一面が伺える。


Q,ハロプロ作品中唯一つんく氏がアレンジしたシェキドル「心のフェロモン」について。
A,永井氏:氏が唯一プレーヤーとしてのみ参加した楽曲でもあるこの曲のレコーディング時には
つんく氏から「たくさん楽器を持ってきて欲しい」との要望があった。
現場ではいきなり、つんく氏のドラムとガイド的な簡略なギターのみが入ったデモを聴かされて
好きなようにベースを弾いてくれとの指示があった。
何度かおとなしめのテイクを録ったが、さらに思いっきり好きなように弾いて欲しいとの要望があり、
それに応える形で弾いたテイクが最終的には採用されている。
しかしベース録り終了後、台風が来ていたためスタジオから出られず、さらにオルガンやピアノ等をプレイした。


Q,『BE HAPPY 恋のやじろべえ』以降ハロプロ楽曲の発注はないのか?
A,永井氏:無い。来ればもちろんやる。蔵出し音源なども氏に関しては存在しない。


Q,『BE HAPPY 恋のやじろべえ』にはリズムアレンジにDJドラゴン氏が参加しているが、それについては?
A,永井氏:リズムパートは丸ごと差し変わっている。元々は氏の叩いたごく普通の8ビートがあった。


※ここで時間の都合で永井氏が退場することになる。
最期に一言を求められて
「皆さん、体に気を付けて、アイドル音楽は無くならないでしょうから、清里行きましょうよ」(会場笑)







Q,ハロプロ楽曲と他の仕事に違いはあるか?
A. 渡部氏:ハロプロは具体的なやり取りが多い。他の仕事に関しては余り細かい注文はない。
他の会社は事業としてやっているのみだが、アップフロントの仕事に関しては細かい注文が多く、
楽曲制作に力を入れていることがわかる。

※渡部氏のプロとしての初仕事は初期の森高千里のバックバンドでのキーボード
(バンマスはあの伊秩弘将)だったそうだが、その時マネージャーやディレクターをやっていた人間達*10
今のアップフロント関連の制作会社の重役に就いており、音楽に対する関心が高い人々が
会社の上層部にいることが楽曲制作に手を抜かないことの一因ではないか、との指摘もあった。


Q,ハロー!プロジェクト所属アイドルの中で歌手として興味のある人はいますか?
A,渡部氏:出来上がった音源を聞いても歌手としての良し悪し、上手い下手は判断出来ない。
全く自由に歌わせたなら彼女たちの能力は未知数である。
ほかには、器用な歌い手が多く、仮歌の段階でのつんく氏のヴォーカルの影響が大きい、とも。
(やはり)人数が多すぎて誰がどのパートを歌っているのかを把握出来ないそうです。


Q,全く自由にアレンジを任されたとしたらどうしますか?
A,渡部氏:まず課題曲を歌わせて各自のシンガーとしての能力を見る。
「渡部氏の音楽的バックボーンを反映させるとしたら?」との問いには
「僕の音楽的バックボーンはインストですから」とのこと。
以降楽屋トーク。
渡部氏の音楽的バックボーンとは「プログレ」と「フュージョン」だそうです。納得。
普通両立しないジャンルです・・・



 ★宇多丸氏から渡辺氏への質問

Q,ダンス☆マン氏への放置プレイ発注について。
A,『恋愛レボリューション21』の制作はダンスマン氏も自身のツアー中であり
(当然THE BAND☆MANも)多忙を極める中行われた。
アップフロントからも売れる曲・勝負曲としたい、という雰囲気が伝わってピリピリしていた。
ツアーのリハを終え、リハーサルスタジオに制作機材(DTM環境*11)を持ち込んで
アレンジを練ったという苦労話も伺えた。
『ハッピーサマーウェディング』の軽やかなシンセから一転して「LOVEマシーン」のような
”重厚さ”を狙おうということになっていた。
構成も相当手が加えられたが、元の形は失念したとのこと。
イントロ、間奏部分のUMEDY氏のラップは、スタジオにたまたま遊びに来たU.M.E.D.Y.氏に
「ちょっと(ラップを)やってよ」といった気軽なノリで録られたものらしい。

※司会からの、曲のKeyは誰に合わせて決定されるのか、という質問には
「キーは基本的に向こう(制作スタッフ)が決めるのでわからないが、高域を歌わせたい子に
合わせているのでは」との回答を頂いた。
※また、『「、、、好きだよ」』(これについては音との確認が取れず、恐らく)においては、
そのKeyが*12上で丸ごと変えられた、という裏話も聞くことが出来た。
また、『「、、、好きだよ」』の変わった定位*13については、KUWA☆MAN(桑野信義)氏のトランペットを
目立たせたいために試行錯誤した結果あのようなMIXになったという秘話も。


Q,『恋愛レボリューション21』『ザ☆ピース』『そうだ!We're Alive』の流れの中で
  「歌声のパーツ化」(by 宇多丸氏)が進んだと思うが、どのように考えているか?
A,ザ☆ピースでPro Tools体制が完全に確立した。
当初のアレンジでは、イントロの通称「ピースラップ」は存在せず、
現行バージョンのスネアドラム三連のオカズから始まるアレンジだったという。
やはりこれもアレンジはダンス☆マン氏に完全に任されていたという。


Q, 『そうだ!We're Alive』は苦しんで作ったのではないか?
A,渡部氏自身はTHE BAND☆MAN名義によるアレンジ作品で最も気に入っているとのこと。
氏はスポーツ好きで、冬季オリンピックの番組テーマソングとしてタイアップが決まったことをとても喜んだそうだ。


Q,自身が手掛けた作品の中で最も自身作は?
A,「ミニモニ。じゃムービー お菓子な大冒険!」のサントラが最も上手く行っている。
アニメ作品の楽曲も多く手掛ける渡部氏にとって、アニメ楽曲とハロプロ楽曲の両方の視点から捉え、
なおかつ映像作家との綿密なコラボレーションという意味でも気に入っているそうだ。



 ★04.11/3リリース『涙が止まらない放課後』を聴いて・・・

渡部氏:ここしばらく昔のアイドルっぽいものを目指している方向性がモーニング娘。にも波及しているのでは、と。

AKIRA氏編曲によるc/w『寝坊です。デートなのに・・・』に話は移行する。
宇多丸氏が以前渋谷HMVの前でAKIRA氏と偶然遭遇した時のエピソードを披露。
それによると藤本美貴1stアルバム「MIKI(1)」収録の『銀色の永遠』を褒めたところ、
AKIRA氏に「基本的に彼女の声は暗いからねぇ(笑)」とのコメントをもらったそうだ。

※ここで司会よりダンス☆マンアレンジによる楽曲に比べ、音質が無機質になっているように
聴こえるがどうか?との質問が出る。
渡部氏から「そうは思わないが、DTM環境によるトータルリコール*14が、そのような結果を
招いているかもしれない」とのコメントが。


Q,松浦亜弥初期三部作と呼ばれるシングルのストーリーの統一性(出会いー蜜月―別れ)については
  製作者は意図していたのか?
A,全くしていない。しかし発注側の戦略的意図は感じていた。
『LOVE涙色』に関しては第1部の松浦亜弥の項を参照。
・裏話として、4thシングルは『100回のKISS』と『初めて唇を重ねた夜』の2つが天秤にかけられていたという。


Q,松浦亜弥の歌唱力の評価については?
A,渡部氏がとあるレコーディングで訪れたスタジオの隣のブースでは偶然、
松浦亜弥『夕暮れ』(『トロ恋』c/w)の歌入れが行われていた。
その時、松浦はものの一時間半程度で歌入れを済ませてスタジオを後にしたらしい。
それを聴いて「これって加工してるの?」と思うほど、いわゆる”上手い”歌だったそうだ。
相当音感が良くなければ出来ない芸当である。渡辺氏は「器用」と評していた。


Q,松浦亜弥ほどの歌唱力であれば当然、生バンドによるツアーが期待されてもいいのでは?
A,良いミュージシャンをブッキングし辛いのでは。
彼女のような一日2公演をバンドがこなしていたら、後ろのメンバーが一人つぶれ一人つぶれで
千秋楽には松浦一人という事態になっているかも・・・(笑)


Q,同業者=アレンジャーで注目している方はいますか?
A,特別扱いされる(第1部・永井ルイ氏の項参照)という意味では永井ルイ氏。

※楽曲制作とは「共同作業」であり、要求に応えていく”職人”としてのアレンジャーと
永井氏のようなアーティスト的なアレンジャーとの差異に言及するシーンも見られた。


Q,宇多丸氏に、このユニットを手掛けたい、と思うハロプロのユニットはあるか?
A,宇多丸氏より、私は音楽的素養がない、ラップしか出来ない、また「ファン」過ぎる。
例えば宇多丸氏はハルカリのファンだそうだが、ファンであるがゆえに甘くなる視点があり、
なおさらそれがハロプロであれば、全肯定してしまうかもしれない(「仕事にならない!」)。
ファンの視点とミュージシャンの視点は違う。



 ★アイドル音楽を聴く意味とは?

・渡部チェル氏より
まずアイドル−アーティストという垣根を作らずに楽曲に接すること。
以前はアイドルというと”一段下”に見られたが、モーニング娘。の登場以降そういう偏見は薄くなった。
我々(制作側)もアイドルであろうと真剣に作っている。みなさんも分け隔てなく見てください。


・宇多丸氏より
なぜかわいい子が歌っている歌を聴くのか、と自問自答する。
その一つのきっかけとして、美勇伝1stシングルのc/w『銀杏〜秋の空と私の心〜』における、
マーヴィン=ゲイ『What's Going On』を彷彿させるような素晴らしいトラックに乗る、
一般的な音楽観からは外れた石川梨華のへなちょこなフェイクが、しかしなぜこんなに素晴らしいのか、
それがわからない。
そのわからなさに、アイドル音楽に我々が魅かれる何かがあるのだろう。






以上でサークル部員によるレポートを終了致します。
長いものになりましたがお付き合いいただきましてありがとうございました。






 <文中:注>
*1  自動伴奏ソフト、あるいはその機能を搭載したキーボードのこと。
*2  確かに二小節目の頭にはKey=EにおけるA♯(Y♯)という音が存在する。
   それを証明するかのように、以前に雑誌のインタビューで松浦自身がこう述べている。
   
「サビの“はしゃいじゃってよいのかな?”の“よい”のところを最初にちゃんと聴かないで想像で歌ってたんですよ。
    シャープがついて半音上がるところなんですけど、私はシャープがつかないふつうの音と思ってて。
    だからそれを直すのにちょっと苦労したりはしました」
(引用:GIRL POP Vol.50)
*3  チェル氏の場合、他の仕事より、ハロープロジェクトは「直し」が多いそうである。
*4  UFA代表取締役社長の瀬戸由紀男氏や同専務の緒方英二氏をはじめ、
   現在のアップフロントはUFWに限らず音楽制作に直接的に関わった方が多いのも事実。
*5  曲中におけるリズムのブレイク。リズム隊が一拍だけ抜けたりする箇所を言う。
*6  多くのトラックに分けて録音された個々の音を音量、定位を決め、
   エフェクトなどを施し最終的な2MIX(ステレオ2トラック)に落とし込むこと。
*7  リミキサーチーム。過去に「恋のダンスサイト」12inch(アナログ盤)に収録の
   「恋のダンスサイト(groove that souls remix)」などを手がける。
*8  「ミラーボーリズム」シリーズかと思われます。
*9  メロディーのピッチ=音程に対して正確に、声のピッチを合わせること。
*10 当時の森高千里のマネージャーは緒方英二氏ほか、ディレクターは橋本慎氏か。
    ほぼ *3 に同じ。
*11 Desk Top Musicの略。ハードディスクとCPUによる音楽製作。
*12 言わずと知れたDTMソフト/環境の決定版。21世紀の音楽を変えたとまで言われる。
    つんく氏は早くからPro Tools環境への取り組みを公言していた。
*13 実際に聴けば一聴瞭然だが、左にバンド隊+ホーンバンド、右にヴォーカルなどという、
    実に極端であり、また一般的に考えれば変わったミックスになっている。
*14 録音、アレンジの段階で何度でもやり直しが利く、という現代音楽の方向性。
    ハロプロのようにやりなおしの多い現場では非常に便利なシステムだそうだ。
    ハイサンプリングレートと大容量CPU−メモリ−ハードディスクドライブによる録音の利便性は
    確かに生音一発勝負の録音に比べ、音質やプレイ内容に関して、
    失ってしまった緊張感や人間臭さ、が多々ある、という説を昨今かなり良く耳にする。
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