連載

2009年6月20日 (土)

三田典玄の Linuxここが肝心! ① プロローグ 不況の切り札

執筆者の略歴みた・のりひろ。1957年生まれ。金融機関のオンラインシステム、光ファイバー通信技術を用いたデータ通信システムの開発等に従事、96 年東京大学先端科学技術センター協力研究員、2003年4月産業技術総合研究所ティシュエンジニアリング研究センター特別研究員(~2004年3月)。主な著作に「入門C言語」、「実習C言語 」、「応用C言語 」(アスキー)、「qmail完全解説」、「IT技術者のためのバイオ入門」(九天社)など。「Windows ネットワ ーク接続ガイド」、「オンライン・ゲリラ・マーケティング」(NTT出版)、「インターネットプログラミング」( コアダンプ)など翻訳・監修、講演も多く手がける。

Linuxでコストダウンに挑戦

 2008年秋から始まった「100年に一度」の不況。この不況を乗り切るために、不要不急の支出を抑えることが必要になるのは、会社でも家庭でも事情は変わらない。また、IT関連への支出も極力抑えることが求められている。こんな現状にあって、IT業界で再び注目を集めているOSが「Linux」である。 

続きを読む "三田典玄の Linuxここが肝心! ① プロローグ 不況の切り札" »

2009年6月13日 (土)

目指せ、海外展開 始まった日本のソフト会社の挑戦(1) フリーランスライター 小林秀雄 『IT記者会Report』2009年4月27日号

記者会加盟のフリーランスラーター・小林秀雄氏が「IT記者会Report」に書き下ろした連載記事を掲載する。

小林秀雄(こばやし・ひでお)氏の略歴:早稲田大学第一文学部日本史学科卒。IT雑誌の編集長を経て、現在フリー。企業と情報技術のかかわり及び企業・地域の変革を主要テーマに取材・執筆。著書に『中小企業の突破力!』、『今日からできるナレッジマネジメント』、『図解よくわかるエクストラネット』(以上日刊工業新聞社)、『日本版eマーケットプレイス活用法』『IT経営の時代とSEイノベーション』(以上コンピュータ・エージ社)、『図解よくわかるEIP入門』(日本能率協会マネジメントセンター)『SEのための顧客提案術』『キーワードで学ぶ情報システム提案営業の実際』『挑戦し続ける野村総合研究所』『SI力!』(以上日経BP社)など。

続きを読む "目指せ、海外展開 始まった日本のソフト会社の挑戦(1) フリーランスライター 小林秀雄 『IT記者会Report』2009年4月27日号" »

目指せ、海外展開 始まった日本のソフト会社の挑戦(2) フリーランスライター 小林秀雄 『IT記者会Report』2009年4月27日号

SIは終わりの時代に

 一方、インフォテリアの平野社長はなぜ、日本のソフト業界が向かうべき道が海外なのかについて、SIビジネスに触れつつこう語る。
 「日本のソフト会社のほとんどは受託開発で、製造コストがほぼゼロというソフトウェアの最大のメリットを生かしていない。1社のためだけに、日本中の何百人、何千人という技術者が同じようなコードを書いている。それで成り立っているから日本から出ていかない。しかし、SIは終わりの時代に近づいている」

続きを読む "目指せ、海外展開 始まった日本のソフト会社の挑戦(2) フリーランスライター 小林秀雄 『IT記者会Report』2009年4月27日号" »

目指せ、海外展開 始まった日本のソフト会社の挑戦(3) フリーランスライター 小林秀雄 『IT記者会Report』2009年5月8日号

 開発拠点としての中国から、市場=顧客としての中国へ。日本の製造業の視線が変わってきている。日本のソフト会社も中国を市場として製品を販売する動きを具体化させている。今回は、世界にソフトウェアを販売すべく日本のISVが結成したMIJSコンソーシアムのメンバーの取り組みをレポートする。 

続きを読む "目指せ、海外展開 始まった日本のソフト会社の挑戦(3) フリーランスライター 小林秀雄 『IT記者会Report』2009年5月8日号" »

目指せ、海外展開 始まった日本のソフト会社の挑戦(4) フリーランスライター 小林秀雄 『IT記者会Report』2009年5月8日号

■□■―インフォテリア   
~アライアンス戦略を重視~

 やはり、中国に熱い視線を注いでいるのはインフォテリアだ。同社はASTERIAという企業内に散在している情報システムを束ねる機能を提供するデータ連携ソフトを開発している。このASTERIAを軸にまず中国語市場を開拓しようとしている。
 ASTERIAは、パソコンにインストールすれば使えるという性格のソフトではない。企業の基幹システムの連携を図るソフトだから、企業が導入する際にはエンジニアの手が欠かせない。だが、その部分をアライアンスによって実現するのが同社の考えだ。



 平野洋一郎社長は、
 「我々独自で大きな投資をしてマーケティングをするのではなく、現地に根付いた企業と組んで顧客を開拓することを考えています」
と語る。
 同社は、杭州にある浙江大学のソフトウェア技術院およびコンピュータサイエンス院と組んで技術者の養成をサポートしている。中国では、大学教授が会社を保有してビジネスを行うことが珍しくない。そうした企業とのアライアンスによって中国語対応製品の展開ことを前提として開発している。主力のASTERIAは英語対応となっているし、linoというオンライン付箋サービスは日英中韓の4カ国語対応で、ユーザーの海外比率は30%を超えている。すでに製品面での準備は整っていると言える。
 2009年4月に平野社長はグローバル戦略を専任とする役員を採用し、経済のリセッションを踏まえてグローバル戦略を見直すという。前回に触れたように、インフォテリアは初めから世界でソフトウェアを販売するために立ち上げた会社。
 平野社長は、
 「将来的には海外の売上げを半分以上にしたい」
 と世界へ向けて歩を進めている。

続きを読む "目指せ、海外展開 始まった日本のソフト会社の挑戦(4) フリーランスライター 小林秀雄 『IT記者会Report』2009年5月8日号" »

目指せ、海外展開 始まった日本のソフト会社の挑戦(5) フリーランスライター 小林秀雄 『IT記者会Report』2009年6月8日号

 前回は、比較的新興のソフトパッケージ会社の海外戦略を取り上げた。今回は、老舗のSIerである構造計画研究所の取り組みを紹介する。併せて、海外で事業を展開するうえで取り組むべき要素をまとめる。

▼2008年11月に行われた「第1回MIJSワークショップin上海」には中国の企業関係者が多数参加した=MIJSコンソーシアム提供=

続きを読む "目指せ、海外展開 始まった日本のソフト会社の挑戦(5) フリーランスライター 小林秀雄 『IT記者会Report』2009年6月8日号" »

目指せ、海外展開 始まった日本のソフト会社の挑戦(6) フリーランスライター 小林秀雄 『IT記者会Report』2009年6月8日号

■○■―          
SaaSも重要なテーマ 
パートナー作りがポイント

 ソフトを低コスト流通させる仕組みとしてSaaSが期待されている。経済産業省は中堅・中小企業のIT活用を底上げする基盤としてSaaSの後押しをしている。また、海外を目指すソフト会社を集結しているMIJSコンソーシアムもSaaSを重要な活動テーマとして設定している。
 とはいえ、SaaSを日常的に企業が利用する時代はもう少し先のことだろう。いまはまだ、「コモディティ化されていないビジネスソフトはコストがかかっても顧客に説明する流通形態がメインだろう」(サイボウズの山本執行役員)という見方が現実的。その説明を行うのは現地のIT企業となるだろう。この連載で取り上げた各社とも、「販路」「人脈」「ネットワーク」をキーワードとしてパートナー開拓を最重要課題ととらえている
 では、現地パートナーとどのような関係を築くべきか。インフォテリアの平野洋一郎社長は、ロータス日本法人に参画した経験を踏まえて「ロータスが日本で成功したのは現地主導という方針を貫いて日本のやり方に任せたから」と語る。まさに、Think Globally Act Locallyという思考が求められる。
 第三の要素は、経営マネジメントを世界で通用するものとすることだ。商品の開発・投入前にすることは市場ニーズを見きわめること。製品の知名度を高めるために最も効果的なマーケットを選択すること。商品開発と並行して行うべきは、商品説明や運用・保守を担う現地パートナーと信頼関係を構築することや、現地法人の社員が納得する給与や教育などを考案することだ。それらをタイミングよく実行することが経営者に求められるし、その内容が現地で高く評価されるものとなる必要がある。
 現地パートナーや現地法人の従業員など、進出先の人々の価値観をきちんと把握し、形にすることが大切だろう。クオリティが上海に設立した現地法人の社長を務める飯島邦夫専務はこういう。

 「中国では会社より自分を大切に考える。高い給与を求め、自分を伸ばす教育を求める。会社が正当に自分を評価しているかにも高い関心をもっている」。
 会社と従業員が互いに納得できる人事や給与の仕組みを構築することが問われる。そうしたことは、国内であれ海外であれ実行すべきことなのだが……。 


『IT記者会Report』2009年6月8日号 written by Hideo Kobayashi

2009年6月 6日 (土)

【連載】ベクトル チェンジ ④~自立せざるを得ない個人~(2)

非正規就労を前提に

 就労者と個々の家庭が分断される一方、大企業が「儲けるってそんなに悪いことですか」と開き直ってはばからず、つい最近まで「過去最高の利益」と豪語していながら景況が悪化したとたんに就労者を解雇し、政府に公的資金の注入を求める。20世紀型社会・経済がたどり着いた体たらくをどんなに嘆き、怒ったところで、時計の針は後戻りしない。

続きを読む "【連載】ベクトル チェンジ ④~自立せざるを得ない個人~(2)" »

【連載】ベクトル チェンジ ④~自立せざるを得ない個人~(1)

大量生産・大量消費と非正規雇用者

これによって、たしかに私たちの生活は豊かになり、便利になった。少なくとも1980年代末まで、日本では「個人は組織に属し、企業は発展し続ける」という方程式が成り立っていた。企業は多段的な生産者(原料・部品メーカー、組立てや塗装の下請け会社など)と購入者(倉庫、運送、卸売り、小売り、最終消費者)が納得できる利益を追求し、そういう企業に属することが是とされた。すなわち概観図1である。



続きを読む "【連載】ベクトル チェンジ ④~自立せざるを得ない個人~(1)" »

【連載】ベクトル チェンジ ③~「A-B-Cのフレーム論~(3)

〈規範〉の6階層


 ここでいう「規範」とは、人や組織、社会が行動を起こしたり判断を下す基準を指す。整理すると、おおむね6階層で構成されるであろう。
 最下層は食べる、飲む、眠る、排出する、交接する、怒る、喜ぶ、悲しむ、戦うといった動物的・本能的・先天的な規範である。弱肉強食の食物連鎖が典型的な事象であって、それは遺伝子が生命の継続をミッションとするからである。

続きを読む "【連載】ベクトル チェンジ ③~「A-B-Cのフレーム論~(3)" »

2009年6月 2日 (火)

【連載】ベクトル チェンジ ③~「A-B-Cのフレーム論~(2)

仮説にとらわれるな

 留意しなければならないのは、図1、図2とも、あくまでも思考を整理するための仮説であり、議論を進めるための叩き台に過ぎないということである。仮説は仮説であって、それ以上でもそれ以下でもなく、様ざまな試行と考察を経て、妥当性が検証されなければならない。

続きを読む "【連載】ベクトル チェンジ ③~「A-B-Cのフレーム論~(2)" »

【連載】ベクトル チェンジ ③~「A-B-Cのフレーム論~(1)

 山田氏によると、人の行動は個人、組織、社会の影響を受ける。影響とは欲求であったり習慣、常識、責任、義務、権利、指示、命令などであって、それを同氏は図2の3つの形に整理する。同氏の仮説は、「このうちFrame Cの社会フレームにあって、21世紀においては人が自律的に行動することを可能にする情報システム=情報の海=が求められるのではないか」というのである。

続きを読む "【連載】ベクトル チェンジ ③~「A-B-Cのフレーム論~(1)" »

【連載】ベクトル チェンジ ②~「21世紀型」とは何か~(2)

読者の理解を深めるために、BPIAのホームページから関連する山田氏の所論を転載する。

 IBMの例を参考に転換のイメージを共有

 1980年代までの情報産業は半導体からOS、アプリケーション、周辺機器までを全部自社でまかなう、自社の技術が一番という総合主義の時代だった。当時から情報産業を牽引していたIBMやその他のコンピュータ・メーカーが、これを実践していた。
 これは顧客となるユーザー企業も同じで、ある会社に頼めばすべてやってくれることがよかったのである。総合主義による垂直統合社会では自社内だけ、もしくは系列グループのみの部分ネットワークの中でコミュニケーションをとる。それ以外の企業がコミュニケーションをとりたければ、系列に入るしかなかった。
 情報産業に転換点が生まれるきっかけを作ったのは、82年に創立されたサン・マイクロシステムズだ。同社は「Network is the Computer―Open Interface―」というビジョンを掲げていた。このようなサンの考え方を咀嚼し、転換を推進したのは、やはりIBMだった。
 「地域や国を超えたネットワークを実現するには、自社の技術だけにこだわっていては実現できない」。
 IBMは、標準インタフェースにより、情報がフラットになる世界を築くためにいち早く取り組んだ。
 もちろんこれには伏線がある。80年代末から90年代前半にかけてのダウンサイジングやオープン化へのムーブメント、そしてマイクロソフトとのパソコンOSにおける覇権争いに敗れたことだ。経営に行き詰ったIBMは93年、その歴史の中で初めて社外から社長を招聘した。ルイス・ガースナー氏である。
 当時、RKRナビスコのCEOだったガースナー氏に対して、「ビスケット屋のオヤジに何ができる」と冷ややかに見る向きも少なくなかった。ところが、彼は情報産業をきちんと捉え、IBMが生き残って成長を遂げるには組織が抜本的に変わらなければならないことを認識していた。どうすれば会社が変わるかも知っていた。
 そして30万人の社員を10万人に減らし、新たに10万人を採用するなどして、見事にIBMを変えていった。このあたりのことは彼の著書である『巨象も踊る』を読むと、よく分かる。
 例えば、同書には、こんな記述がある。
 「一般的な見方では、PCが次の大物ということになっているが、そうではない。メインフレームモデルにとって直接的な脅威になったのは、サンやヒューレット・パッカードなどが中心になって進めた「オープン」なオペレーティング環境のUNIXが台頭してきたことだ」
 「95年の秋、この戦略への確信は深まり、ネットワーク中心のコンピューティングをIBMの戦略ビジョンの中心にすえる決定を下した」
 「決断が最も難しかったのは、技術面でも財務面でもない。それは企業文化の改革だった。痛みの伴う企業文化の改革は上からの号令でできるわけではない……」。
 今も、学ぶ点が多い本だ。
 パラダイム転換をしたIBMは、15年後の今日、コンピュータを製造する会社ではないし、ソフトウェアを提供する会社でもなくなった。単なるコンサルティングやアウトソーシングの会社でもない。情報ネットワーク技術を強みにしながら、顧客が必要とするあらゆるサービスを提供するグローバルカンパニーになった。
 一方、日本のコンピュータ企業はどうか。結局、IBMを追随しようとしたが、できなかったか、そもそもほとんど何もしなかった。事業のポートフォリオとか、ハード、ソフト、サービスなどのビジネス領域だけを見ると、大して違わないように見える。しかしIBMがしたような大転換は、一度も経験していない。
 結果として、収益力のみならず、情報産業における影響力や変化を先取りし、リードする力に差が付いてしまったように感じる。こうした過去10数年に起きた、彼我の違いをどう捉えるべきだろうか。これが今日の本題である。

転換を図るための要素は整っている

 戦後の日本は欧米先進国の技術や経営を取り入れ、製造輸出立国を目指すという大局的な決定を共通意識として、産業を発展させてきた。この共通意識があるために、日本企業や日本人は、新しい技術の開発、洗練や、モノづくりの効率化など、ちょっといい方は悪いが“ハウツーもの”に専念でき、国内でのし烈な競争を通じて国際的な競争力を確保してきた。製造輸出立国のもと、政府、製造業、公共事業、地方行政といった中核システムを通じて、中央経済から地方経済にまんべんなく富が行き渡る構造が完成していった。
 ところが今、国際市場は地球全体のネットワーク化へと転換を図っている。日本が立脚しているこれまでの大局感が通じなくなっているのである。にもかかわらず、日本は従来の共通意識の中で右往左往している。ここにミスマッチが発生し、日本の存在感とか、企業や個人における方向性が失われる、つまり戦後日本のシステム構造が滞っている。今こそ、「大局的な決定をし、それに基づいて行動すること」が、各企業に求められている。大局的な決定とは人の考え方や意識の規範であり、パラダイムと呼ばれる。つまり今求められているのは、新たなパラダイムであり、それに向けてシフトを起こすということだ。
 そのとき、必要になるのが「組織神経としての情報装置」である。現在では、組織の日常の活動状況をリアルタイムでデジタル化し、その正確なオンライン組織情報をインターネットにより、いつでも、どこからでも把握できるようになった。
 このようなリアルタイムのオンライン情報群を「情報の海」と呼ぶ。日々、活動し、判断し、決裁するために必要な情報は、情報の海にある。私たちホワイトカラーの仕事場は情報の海であり、この情報を各人がどう使っていくかが重要になる。つまり、人の頭の良さが非常に大事になる。

【連載】ベクトル チェンジ ②~「21世紀型」とは何か~(1)

 これに続く話題は、《コペ転》もしくは『博多っ子純情』がⅠT(ないし情報システム)とどうかかわるのか、である。読者にあっては、筆者の迂遠な論説展開に今しばらくお付き合い願いたい。
 ビジネスプロセス改革協議会という組織―実態は「組織」というほどかっちりしたものでなく、緩やかな有志の集まりといった方が正しいかもしれない―がある。英文名を略して「BPIA」。そのホームページ(http://www.b-p-i-a.com/)を見ると、その名の通りビジネスプロセス改革にかかわる様ざまな研究会、勉強会があって、それぞれが真剣に個別の活動しているらしきことは分かるが、筆者は全体像を把握しているわけではない。筆者がかかわりを持っているのは、そのうちの「21世紀型情報システムのあり方を考える」研究会である。

続きを読む "【連載】ベクトル チェンジ ②~「21世紀型」とは何か~(1)" »

【連載】ベクトル チェンジ ①~《コペ転》もしくは『博多っ子純情』~(補足)

 天動説の裏づけとなっていたのはプトレマイオス(85?~165?)の『天球論』(アルマゲスト)であって、コペルニクスもまた熱心な天球論者だった。ところがそれでは天体がときおり見せる逆行現象が説明できなくなる。
 ――もし地球が太陽の周りを回っていたら……。
 すると、様ざまな矛盾が解決した。
 そこで彼は1510年ごろ(1514年とする説もある)、『コメンタリオルス』と題した6ページほどの草稿を、著者名を伏せてクラクフ大学時代の友人に送って評価を求めた。折りしも普及していた活版印刷によって、彼の草稿はヨーロッパ域内の天文学者に手渡されていった。
 1522年9月、それまでのヨーロッパ知識人の常識を覆す事実が明らかとなった。スペインに帰還したマゼラン艦隊が、大地は球体であることを実証して見せたのだ。おのれが踏みしめている大地が球体をしているのであれば、地球自身が回転しながら太陽の周りを回っているとしてもおかしくはない。
 1533年、『コメンタリオルス』はローマ教皇の秘書官を務めていたヴィドマンシュタットの知るところとなり、その三年後、コペルニクスのもとに、より詳細な論文と天文表を提出するよう求める書簡がシェーンベルク枢機卿の名で届けられた。1541年、彼はかつて一緒に暮らしたことがあるオーストリアの天文学者で弟子でもあるゲオルグ・レティクス(1514~1574)の勧めに従って論文を著したが、その出版作業はレティクスのライプニッヒ大学への転出で中断した。
 このときコペルニクスは病床にあって、かつ論文が世に出ることによって自身が弾劾されることを畏れていた。出版作業を引き継いだ神学者のフンドリアス・オジアンダー(1498~1552)は、
 ――これは天球論を否定するものではなく、天体の動きを説明する一つの考え方に過ぎない。
 というコメントを付した。こうして1543年の4月、コペルニクスの『地球の回転について』は世に出ることとなった。地動説の始まりである。
 ただしコペルニクスは、のちのガリレオ・ガリレイ(1564~1642)のように異端者として宗教裁判にかけられることはなかった。『地球の回転について』が出版された数週間後に彼は七十歳の生涯を閉じ、そののちもオジアンダーが用心のために付したコメントが効を奏したからだった。
 ――地球が回転しながら太陽の周りを回っているのなら、なぜ空を飛ぶ鳥が取り残されないのか。
 天動説論者からの反問を論破するには、ヨハネス・ケプラー、アイザック・ニュートンの登場を待たなければならなかった。とはいえ、結果としてコペルニクスがヨーロッパ中世の終焉の引き金を引いたことは間違いない。

         『IT記者会Report』2009年3月5日号 written by 佃 均

【連載】ベクトル チェンジ ①~《コペ転》もしくは『博多っ子純情』~(2)

 コペ転。
 すなわち、コペルニクス的転回。
 調べると、この言葉を編み出したのはドイツの哲学者、イマヌエル・カント(1724~1804)であるという。『純粋理性批判』『実践理性批判』『判断力批判』の三書を通じて認識論を展開したこの哲学者は、天動説から地動説への転換をもって、中世的=固定的な視点からの脱却を喩えた。

続きを読む "【連載】ベクトル チェンジ ①~《コペ転》もしくは『博多っ子純情』~(2)" »

【連載】ベクトル チェンジ ①~《コペ転》もしくは『博多っ子純情』~(1)

※この記事は情報社会論の一つとして、『IT記者会Report』2009年3月5日号まら連載を開始したものです。分割して掲示するため順序が逆になり、また途中に別の記事が入ることになりますが、ご容赦ください。ある程度したら読みやすいかたちに整理したいと思います。

 昨年の11月、ポーランドの考古学研究チームが、考古学学会にとっては思いもしなかった情報を全世界に発信した。
 ――フロムボルク大聖堂の正餐台の地下2mから2005年の春に発掘された人骨が、コペルニクスの頭蓋骨と確認された。
 というのである。

続きを読む "【連載】ベクトル チェンジ ①~《コペ転》もしくは『博多っ子純情』~(1)" »

2008年9月 9日 (火)

情報の海~~ERPの概念・現状そして将来~③

 前回に続いて「21世紀型情報システムを考える」研究会/第3回研究会(7月7日)の議事録を原文ママ(写真も)で転載する。当日のショートレクチャー2番手はオリンパスの執行役員・西河敦氏=右写真=だった。オリンパスにおける「情報の海」はどのように構築され、現在はどうなのか、調達プロセスはどうだったのか――レクチャーと意見交換の時間には物足りなさが残ったが、西河氏の歯切れのいい対応は自信の表れに違いない。

■■
 ERPで基幹系の情報を一元化

 オリンパスでは2002年、中期基本計画でSAPのERPパッケージ導入を決定した。当時は部門ごとにバラバラのシステムを構築しており、データ配信もタコ足配線状態で、どこがどうつながっているのかも分からない状態だった。変化対応力と成長性に欠けるシステムのままでは将来の成長の足かせになるとの社長の思いも強かった。ERPパッケージの導入を目指し全社業務改革プロジェクト「BPIプロジェクト」をスタートさせた。ERPパッケージで会計、人事、販売、倉庫、修理という基幹業務の統合システムを構築するとともに、マスタの統合、修理サービスシステム(CRMプロジェクト)の構築に着手した。
 時系列で説明すると、2002年4月に会計システムが稼働。BPIプロジェクトのスタートは2003年で、2004年10月に人事システムが稼働。2005年1月には映像事業の修理サービスシステム、5月には医療事業他の修理サービスシステムが稼働。2006年5月にはBtoBビジネスである医療系を中心とした販売物流システムと新倉庫管理システム、2007年5月にはBtoCビジネスの映像系販売物流システムが稼働している。
 新しく構築した販売物流システムは、販売管理、購買管理、計画管理、物流管理、請求システムから成る。マスタコードを統一し、プロセスごとに整理・統合された形になっている。その上で、情報をさまざまな視点から可視化し、業務改善のアプローチや顧客満足度向上に貢献する仕組みのベースとして「情報基盤システム」を構築した。
          *
 情報基盤システムを中心に、以前と今を対比してみよう。従来のシステムでは用途別にデータベースを構築していた。それゆえ、データは増殖する一方であり、目的の情報を得るための検索回数も増えていた。例えば商品の売上状況は、国内営業のシステムと海外営業のシステムに分かれて存在していたし、部品の出荷数を検索するには、また別のシステムを使わねばならなかった。
 このような硬直化するデータベース構造を解消するため、新システムで採用したのが多次元データベースだ。多次元データベースであれば、業務の目的、用途に合わせて情報を選択するだけ。国内と海外・製品と部品で別なシステムを使うことなく、様々な情報収集、活動分析ができるだけではなく、意思決定者であれば計画管理、担当者であれば業務管理、施策担当者であれば事業分析など、好きな切り口で情報をみることができる。国内と海外・製品と部品で別々のシステムを使うことなく、様々な情報収集、活動分析ができる。意思決定者であれば計画管理、担当者であれば業務管理、施策担当者であれば事業分析など、好きな切り口で情報をみることができる。

■■
使えるDBは完成したが、活用はこれから
 このように使える情報基盤は完成したが、まだそれほど使いこなされているとはいえない。実はオリンパスの映像、医療事業の売上の7-8割は海外で、国内の売上比率は小さい。今回、構築したシステムが管理するのは日本国内のデータのみだからである。経営層にとっても事業部門にとっても、グローバルな情報へのニーズが強い。
 そこで現在、オリンパスでは、米国や欧州などにあるグローバル拠点の情報が見られるようシステムの連携に取り組んでいる。各現地法人では、それぞれ別々のERPパッケージが導入されている。そのデータを一元化していく。国内の一元化でも大変だったので、グローバル連携はそれを上回る大変さになるが、これはやっていくしかない。データの一元化には、色々な方法があると思うが、オリンパスでは各国のデータはそのままに、日本側で辞書を作って変換する方式で進めている。
         *
辞書を作り、グローバルな情報を日次で取り出す
 事例講演だけに参加者は興味津々で、活発な質疑応答が交わされた。
 司会の田口氏は、「研究会のテーマがデータの一元化。それに合わせて、興味深い話をしていただいた。しかしそもそもの目的はデータの一元化だったのか。違うのではないか」と、BPIプロジェクトの目的について尋ねた。
 西河氏は、「その通り。データの一元化は手段であり、事業の実態をスピーディーに把握してPDCAをきちんと回せる仕組みをつくることが目的だ」と回答。
 次に山田氏が「どのくらいのデータ項目を管理しているのか」と質問した。
 西河氏に同席し、実際に構築に携わったオリンパスIT改革推進部次長の石橋正行氏は「現地法人の情報系から集めているのは、第一次顧客の売り上げ実績の生データで、数千に及ぶ。地域ごとに辞書を用意し、データを統一している。辞書の数もかなりの数に上る」と回答。
 またリアルタイム性はどうかという質問に対して、「時差はあるが、ほぼ日次情報として取り出せるようになっている」
と石橋氏。
 小林氏からは「3つの情報のタイプでいうと、このシステムでどういう情報が取り出せるのか」という質問があった。
 西河氏は「使い人が使いたいような形で取り出せる」と回答。
 続けて小林氏は「情報のタイミングや精度、範囲についてはどうなっているのか」という問いかけに対して、「船や飛行機で運搬中の在庫についても見られるようにしている。1パーセントに満たない売上しかない国はまだデータの一元化が進んでいないが、販売データについては日米欧、アジアとカバー率は9割に及ぶ。流れてくるデータは正確で、傾向は分かる」と西河氏。

 「生産管理をつながなかった理由」(小林氏)については、「今回のシステム化の目的はいろいろあるが、ひとつには事業をコントロールするため。例えば、売れてない国の在庫を売れている国に回すというようなアクションをとれるようにしたかった。このような手をうつための仕組みを早く構築したかったから」(西河氏)と解説した。

 「マスタはどこまで統一されているのか」(田口氏)の質問に対しては、「マスタは割り切り、国内の販売系のみ統一している。生産系、特に工場の生産部品マスタは複雑な構成であるため、統合していない。製品そのものとリペアパーツ、得意先のマスタは合わせている。これは国内の映像系システム、国内の医療系システム、輸出用システム、部品管理システム、倉庫システムと複数あったが、比較的出所は近かったのでマスタの統一はそれほど大変ではなかった。製品、リペアパーツは近かったので、古いマスタをクレンジングして統合した」と石橋氏。

 シグマクシスの濱田氏からは、「グローバルな情報を一元化し、現場でも共有化するのであれば、辞書を各国に渡す必要はないのでは」という質問があった。
 西河氏は「確かにおっしゃるとおり。しかしグローバル情報の共通言語ができれば、現地で最初から合わせてもらうことも考えている」と答えた。
 続けて西河氏は「コードや勘定科目などの根本から統一する方法が難しいのは、世界中のオリンパスが協力しないとできないから。現地には現地の理屈があって、今の仕事のやり方がある。それを説得するのに膨大なエネルギーが必要になる。私たちが採用した辞書方式であれば、日本が頑張ればできるから、確実にできる」と語った。

アドオン開発の判断基準、プロジェクトの人員構成は?
 クシダ経営研究所代表の串田昭治氏は
「基本的なことになるが、バラバラのマスタデータをどうやって統合したのか。もう少し詳しく知りたい」と質問。
 西河氏は「米国でSAPを入れるとすると、SAPに合わせて仕事のやり方を変えることは比較的容易にできる。一方、日本人は仕事にこだわりがあるので、なかなかSAPをそのまま入れることができない。ビジネスのバリューにしたがって、カスタマイズする、しないを決定した」と回答。
 石橋氏も続けて「アドオン開発は、その費用を2年間で回収できるようなものに限定した。開発費用とそれを効率化することで削減される金額を算出し、それを示すことで現場に納得してもらった」と答えた。
 「効率化ではなくて仕組みとして必要だという現場の反論もあるのでは」(串田氏)という質問に対しては、「修理サービスシステムを構築した際は、顧客価値を基準に判断した。顧客が本当に求めているのかを徹底的に議論して、必要かどうか決定した」(石橋氏)と回答。「データ入力のタイミングなどが遅れてしまうことを防ぐ手立てはあるのか」という質問に対しては、「誰がどんなタイミングで情報を登録しているか、だれもがチェックできるようになっている。これによりデータ精度が高まっている」(石橋氏)という。

 「SAPのERPパッケージに業務プロセスを合わせたというイメージに近いのか」(山田氏)という質問に対して、石橋氏は「アドオン開発がかなりの数に及んだことから考えれば、パッケージに合わせたとは言いがたい」と答えた。
 「開発ルールやドキュメントの統合などが必要だと思うのだが、そのあたりはどうしたのか」(IT記者会の佃氏)の質問に対し、「プライムベンダーのノウハウにかなり頼った」と石橋氏。「ERP導入は初めてだったため、そのようなノウハウはあまり必要ないと甘く考えてしまい、準備のために2年を要した。プロセスがしっかりしていてマスタ構造ができていれば、ERPの導入は1年もあれば可能だと思う」石橋氏。
 さらに佃氏からシステム構築に携わった人員構成について質問があった。データの一元化が成功するかどうかは、情報システム部門のかかわり具合によるところが大きいからだという。
 石橋氏はこの問に対して、「私が携わったCRMシステムは最新モジュールだったため、プライムベンダーを置かず、SAPに入ってもらった。プロジェクト人数は最大で30人規模だったが、そのうち3分の1は社員である。映像の販売物流プロジェクトの人数は、最大で100人程度。そのうち社員が20~30人である」と答えた。

 「今日の講演およびその後の質疑応答は、データの一元化をどうすればできるか悩んでいる企業にとって、非常に参考になったと思う。これからも本研究会ではどんどん、企業に役立つ情報を発信していきたい」と田口氏の言葉で、会は終了した。

2008年8月28日 (木)

“情報の海”で報告書~ERPの概念・現状そして将来~①

 筆者も参加していたので、やや手前味噌的ないしインサイダー的になるが、ビジネスプロセス革新協議会(BPIA)の「21世紀型情報システムを考える」研究会(IT関係の有志で構成)が、近く第一次の報告書をまとめる。テーマは〔情報の一元化をめぐって~“情報の海”とは~」(仮題)。5月13日から計4回、東京都内で開催した研究会での討議を通じて得られた21世紀型情報システムの方向性のうち、まず情報の一元化に焦点を絞って基本的な考え方を取りまとめる考えだ。

『21世紀型情報システムを考える』研究会 主旨(原文ママ)
~20世紀型アプローチからいかに決別するか~

【2008年5月13日第1回研究会資料】
 趣旨
 日本企業や日本人は、新しい技術の開発、洗練や、モノづくりの効率化など、いい方は悪いが“ハウツーもの”に専念し、国内での熾烈な競争を通じて国際的な競争力を確保してきました。製造輸出立国のもと、政府、製造業、公共事業、地方行政といった中核システムを通じて、中央経済から地方経済にまんべんなく富が行き渡る構造が、その成果です。
 しかし、今日では地球全体のネットワーク化の進行で、コミュニケーションや情報流通が組織だけでなく国境をも超える、いわゆる“情報のフラット化”が進んでいます。
 諸外国は、90年代中ごろから、この新しいパラダイムへ向けて動いてきましたが、日本の社会システムはいまだ、その流れに乗っておらず、旧来からの強さが制度疲労を起こしているように見えます。
 この事実を端的に示しているのが、情報システムのあり方やその使い方でしょう。未だに個別業務の合理化、効率化の域を出ておらず、情報システム、あるいは情報技術がもたらすはずの、本質的な情報活用の高度化やコミュニケーション力の拡大と言った果実を享受している企業や組織、人はほとんどいないと言っても過言ではありません。
 リアルタイムのオンライン情報群を「情報の海」と呼ぶなら、誰もが時間、空間を超えて情報の海から必要な情報を入手できる時代には、横方向へのコミュニケーションは非効率であるとした従来の縦型コミュニケーションの仕組みから決別し、現場の、組織フレームを超えた自律的、自発的な視点による横へのコミュニケーションを育む組織運営へと転換する必要があります。
 本研究会では新しい社会の流れに対応するための;
 情報システムのあり方
 情報システムの使い方
 について、フレームモデルを用いて検討し、現状をそこへ持っていくための道筋を探求します。

 形式
 講師、アドバイザー、体験者などを随時招聘しながら、ワークショップ型で進めます。4回を1フェーズとして、1フェーズ毎にレポートをまとめ会員/一般に公開します。第1フェーズ終了後に次のフェーズを計画します。

 アプローチ方法
1.情報の海とフレームモデルを組織運営モデルとして検討し、情報システムとそ
  の使い方の将来像を共有する。
2.現状のモデルを検討しイメージ化する。
3.現状を意味づけるフレームモデルを用いて、個人から組織のフレームモデルへ
  と「転換」する流れを仮説にしたがって検証する。
4.成功事例を探し当てる。

 ナビゲータ
 田口 潤(インプレスR&D)/山田博英(アールワークス監査役)

情報の海~ERPの概念・現状そして将来~②

ひょんなことから筆者(佃)が連続して参加した『21世紀型情報システムを考える』研究会の第3回研究会(7月7日開催)で行われたショートレクチャーの概要が、ビジネスプロセス革新協議会(BPIA)のホームページにアップされた。テーマは「データ一元化に向け、乗り越えるべき壁は何か?」である。事務局の了解を得て、原文のまま転載する.

研究会の冒頭、『21世紀型情報システムを考える』研究会のナビゲータのインプレスビジネスメディアの田口潤氏は前回までに話し合った内容を振り返った。

         *

田口 繰り返しになるが、本研究会の最終的な目標は、企業が行動する新しい規範(フレーム)を検討していくことである。しかし、そのフレームを検討し、見つけたとしても、情報がきちんと必要なタイミングで取れるような仕組み、つまり「情報の海」がなければ、人は適切な行動がとれない。
本来の「情報の海」には、企業内で生成される情報から、新聞やテレビ、インターネットの情報、さらに人の噂話までいろいろな情報が含まれる。しかし、これまでの2回の研究会では、基幹系情報システムに入力、処理される伝票レベルの情報に絞って検討してきた。伝票レベルの生のデータが企業全体、あるいは事業部門内全体として整合性をもった状態で蓄積されているかどうかが、情報の海の出発点になるからである。
過去の議論では、日本企業においては企業全体はおろか、事業部門でもまだまだ整合性のある形で基幹系の情報が蓄積されている企業は少ないという結論になった。そこで今回は、それはなぜなのか、そもそも企業は情報の海を必要としないのか、必要としたとき、それを持っていない企業が多いのはなぜなのか、という議論を進めていきたい。
その議論を進める前に、前回、問題になった「情報」と「データ」という言葉の定義について、(財)社会経済生産性本部の小林さんから話をしていただく。

   
(財)社会生産性本部主任経営コンサルタントの小林定夫氏による「データの一元化をめぐる言葉の定義と考察」の講演要旨は以下の通り。

        *

■――
整合性のある一元化データの必要性
               ――■
小林 情報とは、非連結あるいはいくつかのデータが集合して構成されたものである。あくまでも情報が上位の概念で、データはそれを構成する要素というイメージで捉えている。
データは様々なところに分散して存在している。販売管理システムや会計システムはもちろん、個人が使うパソコンの中にもデータは存在している。
ある企業の例を紹介する。同社では販売管理システムから売上一覧表はでてくるが、そのシステムでは支払い情報の消し込みがうまくできず、担当者のパソコンの表計算ソフトで行っている。「どれだけ消込が終わっているのか」は、担当者のパソコンの中の表計算データにあるため、他の人は販売管理システムでも会計システムでも見ることができない。これはほんの一例である。このように情報が分散していると、情報を探して収集する作業が必要になるので、仕事の能率が落ちる。それだけではない。例えば今日の利益を知りたいと思っても、売上は今日のデータでも原価が昨日のデータであれば、それが真のデータではなくなる。つまり精度も下がってしまう。このようにデータの分散による弊害は様々ある。やはりデータは整合性のある形で一つの場所に蓄積されるべきだと考える。

■――
企業の中で流通する情報は3つある
               ――■
小林 企業の中で流通する情報は3つに定義づけられる。第一が業務情報である。例えば製造業では開発、生産、販売、保守という業務において、日付や商品コード、数量、品名、口座名、金額などからなる伝票データが流れている。
第二が結果情報。「業務が終わった」という結果を管理し、管理会計や制度会計に活用される。例えば開発部門では、案件が終わるとそれにかかった作業工数を算定する、管理する側ではこれを案件の原価として使用する。先に挙げた業務情報が流れる中で、結果情報が生成されていく。
第三は状況情報である。この情報は社長や部門長・拠点長などの経営者が意思決定するための情報である。開発や生産、営業という各業務の中では、PDCAが回っている。その状況を経営者に知らせるための情報である(終わった結果でなく)。
例えば、経営者が
 A店:100万円
 B店:100万円
という各店舗の前日の売上一覧表を見ても有効な意思決定はできない。
もし午前中の来店者と購入の状況について、
 A店:来店者200人中購入者10人
 B店:来店者50人中購入者10人
という情報がわかれば、午後の対応として、A店の売上を伸ばすために、A店の品揃えを変えたり、店員を増やしたりすることができる。このような情報が見えることが、経営者にとって重要なのである。こういった情報は、伝票レベルの業務情報からは得られない。それとは別に取得、蓄積、共有する必要がある。今を変える情報が、状況情報である。

■――
マネジメントレベルによって
一元化の難易度は変わる
               ――■
小林 このように企業には3つのタイプの情報、そしてそれらを構成するデータがあるが、どんな企業でもデータをすべて一元化できるわけではない。データの一元化は、マネジメントの成熟度レベルに左右されるからだ。
ここでデータの一元化を定義しておこう。データの一元化とは、物理的に漏れがなく、複数カ所に同じデータが存在しない状態。データの組み合わせで情報が生成される場合の一元化とは、タイムラグがなく、精度が合っている状態を指す。
さて、私はマネジメントの成熟度を、PDCAを用いて4つに分けている。
最も成熟度の低いレベルがD。日々仕事が来て、それをこなしているだけの組織や企業である。この場合、業務情報や結果情報・状況情報のどのデータについても一元化は難しい。
次はPDレベルで、計画(P)はあるが、必ずしも実施(D)と一致していない状態である。例えば経営が計画(P)を作っても現場の担当者はそれを知らない企業などである。このレベルでは、業務合理化システムの導入がマッチするため、業務情報の一元化は可能になる。
3段階目がPDCレベル。このレベルの企業は、計画で定めた目標の結果はどうだったのか、結果情報を把握したいと考えている。業績評価システムの導入が可能なため、業務情報とそこから生成される結果情報の一元化が可能である。
そしてマネジメント成熟度合いの最高位が、PDCAレベルである。PDCAが回っている状態にある企業である。PDCAレベルの企業になってはじめて、経営情報システムの導入が考えられ、業務情報とそこから生成される結果情報・状況情報の一元化が可能になる。
ある企業を紹介すると、生産から営業、物流などに基幹系情報システムがあり、多くの社員にパソコンが支給されている。業務情報フローの約8割が基幹系情報システムでサポートされていた。しかし、結果情報フローは5割程度しか基幹系情報システムでサポートされてなく、販売管理システムの売上高(結果情報)を見ても、手処理など基幹系情報システム以外で売上計上しているものがあるため、全社や部門毎の正確な売上高を知るのは、経理部門が集計・修正した資料ができあがるまでわからない状態であった。また、社長や部門長などの経営者が必要とする状況情報で、基幹系情報システムを参考としているものは1割程度であった。この企業は、この現状をふまえて、段階を追って情報の流れや一元化に取り組んでいる。

■――
その他の一元化に影響を与えるもの
               ――■
小林 データの一元化に影響を与えるものは、マネジメントレベルだけではない。
システムの構築や運用の体制もその一つだ。一般的に企業情報システムの構築・運用体制は、大きく鉄道型と道路型に分けられると考えている。この表現は私が考えたもので、鉄道型は情報システム部門が主体となって構築・運用体制が築かれているタイプ。マスターデータは情報システム部門が管理し、専用オペレータが運用するためデータ精度も高い。鉄道型であれば、情報システム部門の統制がきいて全体最適も可能である。
一方の道路型は、現場やSIerが主体のタイプ。販売管理システムはA社のパッケージ、生産管理システムはB社がオーダー開発、また現場の担当者がデータベースソフトを使って独自システムを構築することもある。情報の流れやデータも仕事の流れ同様多種多様で、マスターデータも現場が管理していて十分に修正がされてなかったり、十分にオペレーション教育をされてない社員やパートが運用するため、精度が低くなる。部分最適になってしまう。データの一元化において鉄道型が取り組み易いから道路型から戻せと言うわけではなく、これからも技術対応やコストなどから道路型へ移行していくことが予想される中で、どうデータの一元化に取り組んでいくかを考えなければならない。

        *

小林氏のショートレクチャーの後、質疑応答が行われた。

まずアールワークス監査役の山田氏は、
「業務情報に関しては、マネジメントの能力に関係なく、技術力によって一元化できるのではないか」
という質問が投げかけられた。
それに対し小林氏は、
「確かに業務情報については可能かもしれない。データの一元化の難易度はマネジメントレベルだけではなく、構築・運用体制によっても変わる。道路型であれば、一元化はより難しくなる」
と答えた。
山田氏はまた
「状況情報の一元化は経営者だけではなく、現場にとっても重要なのではないか」
と問いかけた。
「大三紙業という包装フィルムを製造している企業では、現場の誰もが状況情報が見られるように一元化して、PDCAが回り、生産性が向上したから」(山田氏)である。
小林氏はそれに同調しながらも、
「経営者が意思決定するために欠かせない情報が状況情報である。というのも、経営者には事業の的確な舵取りや継続や中止などを判断することが求められている。しかし現場の担当者であれば自分の関わる仕事に直接関わることができるが、経営者は一部の現場を見ることしかできない。また場面に立ち会うことができないため、情報という形で現場や場面などの取組みを見ることになる。よって、その企業に合った業務情報・結果情報・状況情報の経営情報体系をどう作り上げていくかが企業経営にとって重要となる」
と強調した。

情報の海~ERPの概念・現状そして将来~③

 研究会は山田博英氏(アールワークス監査役)と田口潤氏(インプレスビジネスメディア取締役)がナビゲータ、ハートウエア21(東京・目黒、青山修二社長)が事務局となって、5月13日、6月10日、7月6日、8月7日の計4回行われた。討議のメインテーマは、実質的な座長格である山田氏が提唱した“情報の海”だった。
討議内容は以下のようだった。

第1回(5月13日)
 「情報の海」と、行動を決定づける「フ
 レーム」
第2回(6月10日)
 「情報の海」に向け、データ一元化は本
 当に必須か?
第3回(7月7日)
 データ一元化に向け、乗り越えるべき
 壁は何か?
第4回(8月7日)
 一元化に関する中間的まとめと、日本
 の情報システム再構築への試論

 筆者宛のメールで第1回研究会の案内が届き、「山田さんと田口さんが何を始めたのか」という興味本位で顔を出したのがきっかけだった。

■フリートークの討議が中心
 研究会は毎回、専門家や実務推進者によるショートレクチャーののち、そこで示されたテーマを中心にフリートーク形式の意見交換が行われた。現場で次期システムの検討プロジェクトをリードしているエンジニアや、企画部門に参加している30代~40代の人たちが、平日の午後4時~6時に仕事を抜けてくるのは難しい(これも仕事のうちと考えれば別だが)。年齢の高い人(筆者も含めて)が多くなってしまうのは止むを得ない。だが、IT関連のメディア関係者がナビゲータの田口氏と筆者のみというのは、いかにも口惜しい。
 こうした研究会は報告書や指針があらかじめ出来上がっていて、委員は査読して意見を述べるだけの「腹話術」「アリバイ作り」というケースが少なくない。特にお役所にその傾向が顕著で、実際、筆者が参加した某中央官庁外郭団体の委員会では、あまりに露骨な“デキレース”に腹が立って、報告書のかなりの分量を書き直したことがある。それに対してこの研究会は、毎回  同じ人が参加するとは限らず、発言は自由というオープンフォーラム形式だった。
会場の広さ(席数)の関係もあったのだろうが、毎回20人前後というのは全員の顔が見える適度な人数。毎回参加者を募集する方式は初参加者のギャップが懸念されたが、それなりの専門家や実践者なので、大きな問題にはなっていなかったと思う。また、研究会が行われるごとに議事録を作成しホームページで公開するという主宰者側の姿勢も評価できる。

■記者会だって困る
 最初に主宰者が概念と方向性を示し、様ざまな立場からの報告とフリートークの議論を通じて筋道を立てて行く。この手法は独創的な取り組みだが、好感を込めて評すれば、それだけに「確信犯」「共犯幇助」の度合いが強いともいえる。筆者は「確信犯」度の強さが面白くて4回の研究会のすべてに参加し、最後はショートレクチャーまでやったので、「共犯幇助」に加担したことになるのだろう。
 それはそれで一向に構わないのだが、気になったのは、参加者に配布する資料の作成や会場、飲み物などにかかる費用のことだ。研究会を運営するには実作業が必要だし、事務的な連絡もしなければならない。つまり時間と費用がかかっている。
ショートレクチャーの講師はボランティアでいいとしても、運営実費は参加者から徴収してよかった。というのは、筆者もIT記者会で同じような意見交換会を継続的に開いていきたいと考えていて、何度かトライしたものの事務的なパワー不足もあって挫折している。それを持続させるには最低限の原資が要る。BPIAもしくは研究会の主宰者が1回当たりワンコイン(500円)でも集めてもらわないと、記者会だって困るのだ。

情報の海~ERPの概念・現状そして将来~④

情報の一元化をめぐって~中間とりまとめ~
【8月7日第4回研究会資料】

「情報の海」とは
*変化対応に向けて、あるべき組織(企業)を、「個人が、共通の目標を達成すべ く自律的に行動する有機体」と定義する。
*個人が正しい行動を選択するには、適切な情報を適切なタイミングで把握できる ことが必要である。
*多種多様なリアルタイムの情報を、活用可能な形で蓄積したもの、あるいはその 状態を「情報の海」と呼ぶ。
*「情報の海」に蓄積される情報には、物やお金の流れを示す「基幹情報」と、基 幹情報を分析したり外部から得たりした「状況情報」など、性格を異にするもの がある。

「情報の一元化」とは
*「情報の海」の根幹(基本中の基本)をなすのは、基幹情報、すなわち定型業務 で生み出される伝票レベルの「明細データ」である。これを活用可能な形で適正 に蓄積しなければならない。
*活用可能な形の必要条件は、「発生時点で入力・蓄積される即時(リアルタイム) 性」、「同じ意味のデータが論理的に一つしか存在しない一元性(ワンファクト・ワ ンプレース)」を担保しなえればならない。
*「リアルタイム」の意味は、情報が現実を正確に反映していること。情報が正確 かどうかを、会議等で改めて確かめる必要がないことである。
*「一元性」の意味は、同じデータがいろいろな名前で呼ばれたり、同じ名前がい ろいろなデータを意味しないことである。
*これらの必要条件を満たすことを、「情報の一元化」と呼ぶ。情報の一元化は、 10年以上前から「ERP」という概念で提唱されている。
*情報の一元化は、企業の経営を可視化するための基盤である。すなわち「21世 紀型情報システム」が実現すべき要件の一つである。

「情報の海」の現状
*情報の一元化を実現するのは、技術的というより組織政治的に簡単ではない。全 体最適の視点が欠ける構造がある。
*例えばスクラッチ開発の場合、部門や業務最適の視点でシステムを構築してきた(せ ざるを得なかった)経緯がある。
*ERPパッケージは、ERPの概念を具現化、つまり情報の一元化を実現するツ ールとしてポテンシャルを持つ。だが、日本企業の多くは部門システムや業務シ ステムとしてERPパッケージを採用してきた。この点でやはり情報の一元化が できていない企業が多い。
*結果として、全社的な情報の一元化を実現している企業は、全国でも数十社程度 しかないと見られる。

情報の一元化に向けた考え方
*全社的視点から、統合システムの必要性を確信しないと、情報の一元化はいつま でたっても実現しない。
*経営、もしくは現場サイドの中核人材による強力なリーダーシップが必要である。
*部門の業務システムの構築においても、「全体の一部でる」と認識し、そのよう に開発することが必要である。
*欧米、そして日本でも先進企業の一部は、情報の一元化のための専門担当者や組 織を有している。そのような取り組みを参照すべきである。

情報の一元化に向けたシステム構築
*かつて情報の一元化は、システムの保守性・拡張性の観点から議論された。直面 するネット時代には、経営の視点にたった議論と基幹系システムの構築が必要で あろう。
*綿密な業務分析、業務設計を行うための方法論や情報化のガイドラインなしに、 基幹系システムを開発するべきではない。
*既存の業務の流れを分析記述し、そこからターゲットとするシステムを設計して 稼動させるシステム開発フレームワークも出現している。

情報の海~ERPの概念・現状そして将来~⑤

■「情報の海」の意味
 ところで『情報の海』とは、聞きなれない言葉(山田氏の創作)である。インターネットで検索しても、〔インターネットに満ち溢れる情報をどうコントロールするか〕といった情報氾濫にかかわるメッセージしか出てこない。「はて?」と戸惑う向きも少なくあるまい。
 そこで主旨説明(第1回に掲載)の文言に沿って、筆者が理解した範囲で説明すると、
 「誰もが時間、空間を超えて必要な情報を入手できるリアルタイムなネットワーク型情報システム(もしくはそのような情報利活用環境)」
 ということらしい。
 満々と水(情報)を蓄えた海(データベース)から誰もが自由に、必要に応じて水(情報)を汲むことができれば、その水(情報)をどのように活用するか、初めて自律性や自発性が創生されるのではないか―という仮説に立っている。その思考プロセスを推測するに、仮説は「組織内で個人が自律性・自発性を発揮する」ことから出発し、そのために組織や企業の情報システムはいかにあるべきか」を経て『情報の海』という言葉に集約されたのに違いない。
仮説に立って〔あり方(あるべき姿)〕を示し、現状(個々の事例や考え方)と対比させつつ然るべきアプローチを抽象化する。この演繹的な手法は、理論形成に一般的なプロセスということができるだろう。対置するのは現状から出発する帰納法的な手法で、それはそれで一つの選択肢である。演繹的手法と帰納的手法の両方を同時並行で進める方法も想定できなくはないが、混乱が生じやすい。

■筋道は正しいと思う
 まず、論旨の筋道(アウトライン)――複数の人が協調して、自律的・自発的に適切な判断や行動を起こすには、正確な情報が所属集団の中で共有されていなければならない―は間違っていないと思う。また〔正確な情報〕のためには、言葉や名前が定義され、他の何物でもないことが保証されていなければならない、というのも正しい。
 1960年代のMIS(Management Information System)、1980年代のDOA(Data Oriented Approach)の当時から、データの真一性と唯一性が最も重要であることが指摘されてきた。「液体を入れて手に持って飲む円筒形の容器」のことを、ある人は「コップ」と言い、別の人は「カップ」と言い、また別の人は「湯呑み」と言うのでは、情報は最後まで交わることがない。用語や言葉がツリー構造で定義され、カテゴリー別に分類されなければ真一性と唯一性は保証されない。
 その上で、例えば倉庫にある製品在庫数がリアルタイムで管理され、「絶対に間違いない数字」がリアルタイムで提供されれば、生産現場の人も営業現場の社員も、さらには経営者も正しい(と考えられる)判断や指示を下すことができる―であろう。
そしてそれは、リレーショナル型データベース管理システムに全社の情報を蓄積して経営判断や生産計画、販売計画など様々なアプリケーションに利用するERP(Enterprise Risource Planning)の概念であろう。しかし「ERP」を自認・自称するソフトウェア製品が、ERPのために導入されているとはいえない(せいぜい財務会計システムや在庫管理システムとしてしか動いていない)とする現状認識も間違ってはいない。ERPパッケージを導入したからERPが実現したと思っているユーザーがいかに多いかは、いうまでもない。
 また事業部制や独立採算制の予算編成・執行が、個別のIT発注につながり、他部門と整合性のない「部分最適」システムを乱立させた、とする指摘も正鵠を射ている。IT会社が「ソリューション」だの「システムインテグレーション」だのと口にするようになったのは、サーバーが低価格化したからだけではない。「オープン系サーバー」の中に他部門と互換性のないプログラムやデータベースを潜ませることで、ユーザーの部門を囲い込むという手品が功を奏したわけだった。
 研究会の論旨は間違っていない、ということを確認したうえで、今後の論点を筆者なりに整理しておきたい。

情報の海~ERPの概念・現状そして将来~⑥

■仮説の前提条件
 ここに示されている前提条件は
  ①複数の人間が
  ②協調して動く
 という2点である。
 さらに、その上位の条件として、
  ③複数の人は経済活動組織に所属している。
  ④その組織は経済活動によって利益を得ることを目的としている。
 という暗黙の了解がある。
 ロビンソン・クルーソー(前ページ「行動フレーム」のA)にも絶海の孤島で生き抜くために様ざまな情報が必要だが、協調して動く相方がいないので共有する必要性が生じない。また、宇宙家族ロビンソン(同B)においては、経済活動とは無縁なので資金や生産、在庫、販売といった情報は不要となる。ここで議論の対象としているのは、行動フレームC、すなわち社会の中に存在する組織(企業)と組織、個人における情報共有のあり方と言い換えていいだろう。
 このとき考えなければならないのは、情報システムそのものではなく、まして情報技術(狭義のIT)でもなく、〔社会〕〔企業〕組織〕〔個人〕の相関関係である。話を大きく広げれば、〔国家〕と〔国民〕の関係を考えてみればいい。
 ○民主主義の理念においては、〔国家〕は〔国民〕によって成り立っている。
 また〔国家〕の機関や団体に所属する公務員や職員も〔国民〕の1人である。
 さらに国民の意見を代表する議員も、〔国民〕の1人である。しかし(にもかかわらず、国民の意思と国家の意思はしばしば一致しない。
 という事象がある。組織が形成されるとそこに〔組織の思考〕が生まれ、〔社会〕には〔社会の意思〕が作用する。全網羅型の正確な情報が蓄積され、誰もが自由に取り出せる環境が整ったら、〔組織の思考〕〔社会の意思〕はどのように形成されていくのだろうか。あるいは〔個人〕に向けて解消していくものなのだろうか。

■心理的考察の必要性
 本論との関連で付記しておきたいのは、すでに古典となったケインズ経済学における心理的考察である。一杯のビールの経済学的価値は同じでも、風呂上りの一杯目と二杯目では、心理的価値が全く異なる。同じ10万円の商品をプレゼントするのでも、100円×1,000個と10万円×1個では受け取る人の感激が異なる。同じ〔正確な情報〕であっても、受け取る人のおかれた状況、立場によって価値が異なり、ときとして邪魔になることもあり得るのだ。
 もう一つケインズ経済学的な比喩を加えると、景気が上昇していてモノがどんどん売れているとき、販売店は現時点の手持ち在庫の1.1倍~1.2倍を発注したくなる。モノがうれなくなれば、発注量は0.9倍、0.8倍に減少していく。「見込み」という心理的な作用が働くためだ。この連鎖によって、好景気のとき、製品メーカーは過剰な増産計画に、不景気のときは過剰な減産計画に陥って行く。正確な発注データがリアルタイムに把握されたとしても、この連鎖は阻止できない。ばかりでなく、情報伝達の速度に応じて加速され、増産・減産の度合いが調整不可能なまでに進んでしまうのだ。

■責任回避型社会の問題
 『情報の海』から得たリアルタイムな正確な情報をもとに「個人が自律的・自発的に行動する」には、その行動を起こした個人または個人が所属する〔組織〕が、行動によって生まれた事象に対して責任を取ることが前提となる。むろん、組織として複数の人が協調して動くので、責任を担うのは〔組織〕ということになるかもしれないが、さて実情はどうだろうか。
 というより、日本型(ないし村落共同体的運営)の〔組織〕というものはどうやら、①責任を回避する、②結論を先送りする、③寄ってたかって出る杭を打つ―という伝統的な特性があるらしい。戦後の経済復興(ひいては太平洋戦争以前にさかのぼって)において、それはいい方向に作用した。全員が等しく貧しく、等しく富の配分を受ける仕組みだった。この仕組みを構成しているのが現在の〔社会〕〔組織(企業)〕〔個人〕であり、それを維持するための仕掛けとして情報システムが構築されている。
論理的に突き詰めると、〔『情報の海』は形成されるべきである〕という結論が導き出される。しかし、研究会は
 「であるにもかかわらず、その形成が顕在化しないのはなぜか」
 で立ち止まらざるを得なかった。少なくとも第1フェーズ、4回の研究会では、その壁を突破する手法を見出すことができなかった。なるほどいくつかの事例は発見できたが、そのプロセスや手法を抽象化し理論化するにはいたらなかった。紹介された事例は事例に過ぎず、個々の事例が持つ事情に帰趨してしまう。ここを乗り越えるのがたぶん第2フェーズ以後のテーマとなるに違いない。

カウンター

  • ezカウンター
    医療事務 派遣Web制作ワークフロー家庭教師ウィッグ副収入印鑑一戸建て社会保険労務士事務所

2010年6月

    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30      

IT記者会

東北取材旅行

  • データセンター
    2007年1月、電子自治体の取材で東北地方を縦断しました。 行程は東京~郡山市~喜多方市~山形市~長井市~紫波町(岩手県)の3泊4日でした。 取材の折々に撮影した風景などを掲載します。

九州・沖縄取材旅行

  • 竹瓦温泉
    取材で訪問した土地の風景、話を聞いた人、イベントなどを掲載します。 2007年3月、九州~沖縄を3泊4日で取材したときのものです。 行程は東京~岡山~長崎~熊本~八代~鹿児島~浦添~別府。 東北縦断取材旅行に続く第2弾でした。
ブログ powered by TypePad