池田信夫 blog

Part 2

2006年03月

2006年03月07日 00:42
IT

インターネット中立性

AT&T(旧SBC)がBellSouthを買収することが決まり、これで米国の通信業界はVerizonとの「2強」時代に入る。まるで1984年のAT&T分割以来のフィルムを逆に回して見ているようだ。FCCはマーティン委員長が「歓迎」の声明を出したりして、チェックする気はないし、司法省も静観の構えだ。これで米国のインターネットは、通信会社とケーブルテレビ局の競争になる。

そこで出てきているのが「インターネットただ乗り論」である。GoogleやYahooは通信トラフィックの大きな部分を占めているし、VonageやSkypeは通信回線を使って割安のサービスをしているのだから、応分の負担をしてもらおう、という議論だ。ケーブルテレビは、自前のコンテンツを優遇して他のISPを差別しているのだから、通信業者にも同じ権利を与えろ、というわけである。

日本でも、同じような議論が出てきているが、これは話が逆だ。ケーブルのように「身内のインターネット」と外部からのアクセスを区別することが、インターネットの精神にもとる行為なのだ。インターネットは、サービスとインフラを切り離す中立なプラットフォームだったからこそ、ここまで発展してきたのであり、それを昔の電話時代のように「垂直統合」しようとするのは時代錯誤である。

米国では、FCCが今回のBellSouth買収を承認する条件として「インターネット中立性」を約束させたというが、法的拘束力はない。Vint Cerfなどが提唱して、米上院には「インターネット中立法案」が提出されたが、共和党が多数を占めている議会では、どうなるかわからない。

かといって、今のままでは設備投資の負担に耐えられないという通信会社の立場もわからないではない。日本でも「インターネットがパンクする」という議論が出たこともあった。インターネットに差別を持ち込むよりは、ISPの料金を従量制にするとか、一定以上の通信量のユーザーからは追加料金をとるなどの措置のほうがましだ。
2006年03月06日 17:55
経済

サンクコスト

経済学の初歩の練習問題に、サンクコスト(埋没費用)というのがある。たとえば、青森から函館まで総工費7000億円かけてトンネルを掘っているとする。工費を6000億円まで使ったところで、札幌までジェット機が就航し、航空運賃のほうが安くなった場合、トンネルは掘り進むべきだろうか?

正解は、開通させることによって上がる利益が、残りの工費1000億円に達しないならば、工事をやめることである。これまでにかかった工費は、回収できないサンクコストだから、今後のプロジェクト費用を計算するときは考えてはいけないのだ。まして青函トンネルや本四連絡橋のように大赤字になることがわかっているプロジェクトは、いつやめても遅くない。

ところが公共事業の類には、「ここまで作ったのだから」というだけの理由で続けられるプロジェクトが多い。さらに長良川の河口堰や諫早湾の干拓のように、完成しても運用しないほうがよいという、二重に迷惑なプロジェクトも少なくない。地上デジタル放送も、今からでも遅くないから、計画を見直したほうがよい。特に、これから工事の始まるローカル民放の中継局は、青函トンネルのような無用の長物になるおそれが強い。おまけに放送の中継局は、使われなくても電波を占有するから、これも二重の迷惑である。
2006年03月05日 18:32
IT

電波の市場

ソフトバンクがボーダフォンの日本法人を買収することで、合意に達したという。ボーダフォンの撤退は当ブログでも予想していたとおりだが、ソフトバンクがそれを丸ごと買うというのは驚きだ。買収価格が2兆円だとすれば、そのうち1兆円ぐらいは免許の価値だろう。つまり日本の制度では、最初に免許を取得するときは無償なのに、それを会社ごと転売するときには免許に巨額の価格がつくという非対称性があるわけだ。

しかも、この買収が成立すれば、ソフトバンクは携帯電話の「既存事業者」ということになる。「新規参入」の枠として予備免許の下りている1.7GHz帯はどうなるのだろうか(*)。周波数がオークションで割り当てられていれば、こういうややこしいことにはならない。ソフトバンクは、1.7GHzが不要なら、免許を第三者に売却するだろう。ところが日本では、会社を売ることはできても、電波を売ることはできない。

ドコモなども、ポケットベルの会社を買収するなどして帯域を広げており、日本でも事実上「電波の第二市場」が成立している。第二市場があるのに、第一市場(周波数オークション)がないのはおかしい。オークションにも問題はあるが、すでに携帯電話に使われている帯域は、無料で配給するのではなく市場原理で売却すべきだ。その売却代金は、既存業者を追い出す「逆オークション」にあてればよい。

(*)追記:やはりeアクセスが「ソフトバンクはボーダフォンを買収するなら、新規参入事業者に割り当てられた携帯電話用周波数帯を返上すべき」と総務省に申し入れるという(6日)。

追記2:総務省の林事務次官は、記者会見で「ソフトバンクに与えた免許の取り消しもありうる」と表明した(6日)。

2006年03月04日 16:43

原著なき訳書

ビル・エモットの『日はまた昇る』(草思社)がベストセラーだそうである。中身は、去年10月のEconomist誌の特集をほぼそのまま訳したもので、活字をスカスカに組んで160ページだ。原著は出ていないのに、日本語訳だけが出ている。

著者が「どうせ日本人は英語が読めないからわかるまい」と高をくくっているのか、あるいは版元が「中身は薄くても株価が上がっているうちに出したい」と出版を急いだのか、いずれにしても日本の読者はバカにされたものだ。こんな駄本が売れるようでは、本当に日が昇るのかどうか疑わしい。
2006年03月02日 01:09
メディア

国際放送

NHKの国際放送をめぐって、いろいろな情報が錯綜している。NHKの橋本会長が「広告を入れたい」と発言したら、すぐ民放連が反発し、首相も「海外に向けてもっと情報発信が必要」といってみたり「チャンネルは減らせ」といってみたり、どっち向いて改革するのか、よくわからない。

国際放送(テレビジャパン・ラジオジャパン)は、政府から補助金をもらう「半国営放送」という中途半端な経営形態で、慢性的に赤字だ。海外に向けて情報を発信するなら、BBCのようにウェブでストリーミングするのがもっとも効率的だ。これなら何ヶ国語でやっても、コストはほとんどかからない。ところが、NHKのIP放送には「過去1週間以内の番組」とか「予算は10億円以下」とか変な規制があって、使い物にならない。

NHKも、15年前に島会長(当時)が「世界に情報を発信する」という掛け声のもと、CNNの向こうを張ってGNN(Global News Network)という国際的な24時間ニュース構想をぶち上げたことがあるが、島の失脚で立ち消えになってしまった。実際には、日本のTV番組やニュースは、今でも大幅な「入超」で、情報発信は途上国向けばかりで商売にならない。政府の外交戦略としてやるなら、広告なんか取るよりも、国際放送は完全に切り離して国営化したほうがいいだろう。
2006年03月01日 14:51
IT

スパイウェア入りCD

先日、My Morning Jacketの"Z"というCD(輸入盤)を買った。なかなかポップでいいアルバムだが、「このCDをPCで再生する際にインストールされるソフトウェア"MediaMax Version 6"にセキュリティの脆弱性」があるので、ウェブサイトからセキュリティ・パッチをダウンロードせよ、という日本語の注意書きがついている。これが話題の「スパイウェア入りCCCD」らしい。

もともとは、ソニーBMGがCCCDに組み込んだXCPというコピープロテクト・ソフトウェアが、OSに入り込んでセキュリティ・ホールをつくることが去年の10月、ユーザーに発見されたのが騒ぎの発端だった。そこでソニーは、XCPを削除するアンインストーラを配布したが、それにも欠陥があることがわかった。

MediaMaxは、このXCPの代わりに使われたものだが、これもセキュリティ・ホールをつくることが明らかになり、そのアンインストーラをウェブで公開したところ、これにも欠陥が見つかるという泥沼状態になった。結局、XCP入りのCDはリコールされたが、MediaMaxは注意書きつきでまだ売っている(XCPおよびMediaMaxを含むCDのリスト)。当のウェブサイトを見ると、"SUPPORT"と書いてあるだけで、おわびの言葉はどこにもない。

私はDRM一般を否定するつもりはないが、OSを書き換えるような危険なソフトウェアを勝手にインストールするというのは言語道断である。しかも米国では集団訴訟まで起こされた(今年2月に和解)というのに、被害が世界でもっとも多いと推定される日本では、ほとんど問題の存在さえ知られていない。メーカーのモラルを疑う。

追記:この問題について、日経BPのサイトに津田大介氏のくわしい解説がある。


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